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第41話 王都へ

ついに山波一行は王都に到着し、さらなるトラブルが山波を襲う?

山波はついに決断する。はたしてその決断とは!

メンカとリナンと別れてしまうのか!

 

 いつものように目覚めた山波。

 山波の両サイドにはメンカとリナンがに寝ている。昨夜、ベッドにもぐりこんだようだ。

 これまでも何度か同じようなことはあった。

 今日もスケジュールは未定であるものの、普通に車を走らせれば王都に午後には到着するであろう。

 もしかしたら最後の旅になることを2人はわかっていたのかもしれない。


 朝食を済ませいつもよりも時間的に早いが王都に向けて出発する。


 昼食を済ませた午後2時過ぎにそれは見えてきた。


 前方に大きな外壁が薄っすらとみえ、さらに走らせること10分、外壁は徐々に大きく見えてきたもののまだ到着しない。

 とても広大な街のようだ。


「あれが王都よ」


 アークトゥルスがやがて外壁が迫りくるくらい近くに見えてきたときに口を開いた。


 外門が見えてくる、近くに大勢の人がいる。車を停車させた山波が様子を見ると槍のようなものをもち、顔が出ている甲冑をきている。

 それが、左右に5人、それが列をなして門までの道を左右に分かれて立っている。


「なんだか仰々しいな。行くのやめるか」

「そうですね、何かあったのでしょうか?」

「どうするかな。変な事に巻き込まれるのも嫌だしなぁ。でもメンカとリナンの事もあるし」


 山波は旅が終われば元の世界に帰るかこちらに移住するかを選べるが、基本は帰ることを考えていた。そうするにはメンカとリナンとはお別れしなければならない。

 別るなら早い方が良いと山波は考えていた。


 車を停めて考えていると、門から5頭程の騎馬と思われる馬がこちらに向かってきた。

 なにやら旗のようなものも立てている。


「なんだか怖いな。一旦来た道を戻って分かれ道があったからそちらに向かうか」

「まって! そのままで」


 そういうとアークトゥルスが車を降り車の前に出る。


 やがて騎馬が近づいてきて車の前、アークトゥルスの前で止まり先頭の人物が馬を降りてアークトゥルスに向かって片膝をつき、(こうべ)を下げてた。


「おお~。なんか映画の1シーンみたいだ」


 山波はその知識にある範疇でそのシーンを表現した。


「アークトゥルス様でございますか? お迎えに上がりました」

「ご苦労様です。お母様の使いですか?」

「はい、遠目の魔法で今日こちらに到着するということでしたので御迎えに上がりました」

「それにしても仰々しいわね」

「申し訳ありません、それが女王様からの指示でありますので」

「そう」

「我々が先導しますので後ろからついてきていただけますでしょうか?」

「わかりました」


 やがてアークトゥルスが車に戻ってきて、


「ゴロウ、前を行く馬についてもらえる?」

「わかった。それにしてもすごいな。本当に王女だったのか」

「し、しつれいね。でも。私がすごいのわかったでしょ」

「まあ、たしかに」


 騎馬が進みだしたので、山波はその後ろでゆっくりと車を進める。三騎が先行し二騎が車の後ろから付いてきている。

 ゆっくりなのでほとんど山波はアクセルを踏まず、クリープ現象をのみ利用し走らせている。

 ブレーキランプのない馬の後ろを走らせるのに相当神経を使った山波である。

 ブレーキランプの重要性を再確認するとともに、馬のお尻にブレーキランプがついていることを想像して吹きだしそうになった山波であった。


 門は外門も中門もスルーでそのまま門を抜けた。


 どうやら首都は外門だけで入都チェックを行い、中門は何もせず出入り自由のようだ。

 アークトゥルスの話によると、始めは中門が外門であったが手狭になり、外門を構築したそうだ。


 そのまま中央通りと思われる道を騎馬についていくと城門と思われる場所に到着した。

 特に降りるようには言われず、さらに騎馬の後についていくと馬の厩舎と思われる場所に到着した。


 騎士の人に車の駐車位置を確認し車を停めた。


「ここで車から降りて、案内係の人の後についていってください」


 一行が車から降り、メイドに案内されるまま豪華な部屋に通され暫くここで寛ぐように言われた。

 各自自由にソファーに座ると別のメイドが入ってきてお茶とお菓子を用意してくれた。


「ここって、やっぱりお城だよな?」

「ええ」

「これからどうなるんだろうな。というかなんで俺らまでここにいるんだ? アークだけで充分なのだろ」

「そういわれればそうですわね。私たちはお(いとま)しましょうか」


 イリスがそういうとアークトゥルスが青ざめた顔をして


「おねがい、私をここに一人で置いて行かないで」


 といってきた。

 よく見るを小刻みに震えているようだ。


「どうした?自分の母親だろう?なぜそんなに怖がる?」

「だって……」


 ちょうとその時コンコンと扉を叩く音が聞こえ、アークトゥルスがびくと振り向いた。


「どうぞ」

「失礼します。女王様が皆様とお話をしたいそうですので、ご足労をおかけいたしますが執務室へ足を運んでいただけないでしょうか?」

「はい、わかりました。案内よろしく願します」

「どうぞこちらへ」


 どうやら謁見の間ではなく、内輪で執務室で話をしたいらしい。山波は王城に招かれたのはアークトゥルス関係だと考えていた。そのためにわざわざ謁見の間を使うはずもないのかと考えた。


 案内メイドの後を皆でぞろぞろとついていく。

 暫く歩くと、扉がこれまで見てきたものとは違う豪華な部屋の前にメイドは止まった。

 扉に彫られている彫り物も細かく、扉の大きさも3メートルはあろうかと言う大きさだ。


 メイドがその扉をノックする。


「お客様をお連れいたしました」


 メイドが扉を開けたわけでもないのに、自動的に扉が開いた。

 開いた扉の先には談話の為であろうかソファーとローテーブルが置かれていた。


「どうぞ」


 部屋の奥から声が聞こえた。


「さ、どうぞそのままお入りください」


 メイドに促されて部屋に入った。


 部屋の右奥に見慣れたもの、そう黒板が設置されており、その手前に黒板と同じ幅の大きな机が置かれ、そこにある椅子に一人の女性が座っていた。その女性が椅子からたちあがり、幅の広い机を迂回してこちらに歩きながら、


「お呼び立てして申し訳ないわね。ああ、その前にアーク!!こちらにおいでなさい」

「は、はい……」


 アークトゥルスが女性のもとに向かい歩いていく。すると。

 パシーンと乾いた音が響いた。


「えっ?」


 女性が持っていたのは昭和の漫才でよく使われた所謂ハリセンである。


「あなた、なに楽しそうにゴロウさんと同行しているのよ」

「ご、ごめんなさい、ママ」


「みなさん、アークがお世話になりました。あ、挨拶がまだでしたわね。私がアークの母で、この国の女王で、昔ゴロウさんと冒険をした、シャインローズです。ささそんなところに立っていないでソファーに座ってくださいな」


 皆がそれぞれソファーに腰かける。山波の両隣にはメンカとリナン、リナンの隣にイリス、その膝の上にはアストル、その隣にはスイナ、テーブルの向かいには涙目のアークトゥルス、ジョルジュ、スミレン。

 そしてテーブルの下、山波の足もとにはライエが伏せている。そしてパルメは山波側のソファーの後ろで立っていた。


「あら、パルメも後ろに立っていないでソファーに座りなさいな」


 パルメは言われるままにスミレンの横に座った。

 皆が座った後に、シャインローズが誕生日席の豪華な椅子に座った。


 専属のメイドが全員が座ったのを見計らって、テーブルにお菓子とともに紅茶を配膳する。

 もちろん、テーブルの下に鎮座したライエにも。尻尾を振って喜ぶ様子がわかる。

 配膳が終わってから再び女王が口を開く。


「もう一度自己紹介させてもらいますわね。私がアークの母で、この国の女王で、昔ゴロウさんと冒険をした、シャインローズです」


 それを合図に山波達がそれぞれ自己紹介をしていく。

 一通り挨拶が終わったあとに、


「シャインローズ女王。その~。私が昔、貴方と冒険をしたというのは?」

「ああ、そうね、ゴロウさんの魂と言えば良いかしら。つまり、あなたが私と冒険をした人の生まれ変わりなのよ」

「えっと?」

「私の旦那で、アークのお父さんの生まれ変わりってこと」


 山波は混乱した、身に覚えのないことに責任を取らされるのかと。


「ああ、でもねあくまで本人ではないので『責任取れ!!』 なんてことは言わないわよ」


「ただ、懐かしい魂だったので会いたくなってね」


 嘘だ、部下に散々探させたくせに、絶対嘘だ。


「な~に? パルメ。なにか言いたいことでもおあり?」


 紅茶のカップを優雅に手に取り、顔は笑っているものの目つきが怖い。


「い、いいえ」


「いろいろ話は聞いているわ、まず、その双子。本当に王都で預けてしまっていいの? ゴロウさん。いえ。山波さん。どのような出会いであっても既に『縁』が繋がっていますよ。それに2人の意思はどうするの?」


 痛い所を突かれた山波は頭を掻くだけで精一杯だった。しかし、旅行は1年限定。いずれは元の世界に戻ることになるだろう。1年一緒だと情が移ってしまい、なおさら離れるのは辛くなる。今ならまだ間に合うと考えていた。


「2人はどう? ゴロウさんと離れたい?」


 同時に山波を両隣から見上げ、フルフルと首をふり、ギュッと山波を抱きしめた。


 それに対して山波は2人の頭を撫でることしかできなかった。


「他にも、そのリトルベアは? 山波さんぬいぐるみとして元の世界に連れて行くなんてできませんよ」


 ギクッ


「こちらの世界の生物を迂闊に連れて行ったりしないでくださいね」


「いえいえ、そんなことは全く考えておりません」


「そうですか、それならいいのですが。ところで旅はまだ続けますか?」


「ええ、王都に寄ったのは2人の事を相談しようと思っただけで。私は子育てはしたことが無いので、何か良い方法があればと思っていたのですが。例えば教育とかについてこちらの世界はどうなっているのか」


 山波は自分自身で言い訳が下手だなと感じていた。


「そうですね、あちらの世界の様な学校というシステムはまだまだ広まっていません。初等教育、そちらの世界での小学校くらいは広めたいのですけど。貴族にはそれなりの教育システムはありますが、あくまで貴族同士の交友を深めたりする為で、期間も半年程度です。同じ年代の貴族はそれほど多くありませんし」


「そうですか」


 どうやら女王は山波の世界の事について相当詳しそうである。


「まだ旅も始まったばかりでしょうから、それが終わってからでも遅くないと思いますよ。その間に山波さんに勉強を教えてもらって、見聞を広げてもらってからもう一度相談をいたしませんか? うちの娘もそろそろ第一王女として仕事をしてもらえれば、私も自由な時間ができますから、一緒に旅に同行しますわ。それでいいわよね?アーク」


「えっ? 冗談でしょ。それってママが遊びたいだけじゃ」


「冗談もなにもありません。いいじゃない1年だけ私の代わりに仕事をしなさい。大体なんであなただけ楽しそうな旅に同行しているのよ。ずるいわよ」


「ママ……。絶対にいや。王城から出ることもほとんどなくて、会いたくもない人と会って、宰相に小言言われて、周りから行き遅れ……」


 スパーーン。

 再び部屋の中に響くハリセンの音。

 なんと誰も持っていないハリセンが宙を舞い、アークトゥルスを後ろから(はた)いたのである。


「誰が、行き遅れですって、大体、貴方を生んだのは私ですよ。行き遅れじゃない!!」


「うぅぅ、ひどい」



 作者注:ハリセンは音は大きいが、ダメージは少ないので、昭和時代ゴムパッチンとともに芸人の必須アイテムとなった。ゆーとぴあなどはゴムパッチン芸で一世を風靡した。ハリセンはチャンバラトリオが使用し、当時有名であったプロレス技の空手チョップとともにハリセンチョップと呼ばれ特に有名であった。



 あのハリセンを持ち込んだものタケル・ムドウなのだろうと考える山波であった。


「まあ、いいわ。今日は皆さん王城に泊まりなさい。一緒に食事をしましょう。アークあなたもね」


「王城で食事と言われても、フォーマルな服は持ってきていませんし」


「今のままで構わないわ、格式ばったものではないのでね。でも、お風呂にだけは入ってはもらいますから」


「わ、わかりました」


 こうして女王と夕食を一緒する約束が取り付けられた。



申し訳ありません。長く時間をいただいてしまいました。2話連続投稿になります。

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