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第40話 二日酔いには迎え酒よりも魔法

二日酔いで目覚めた山波は魔法のすごさを実体験する。

タケルの傍若無人ぶりがここでも判明。

次の村に向かう車の中にレグレスの姿が。またか?


「……ロウ」


「……ゴロウ」


 山波は体を揺すられてたことで、眠りから目覚めた。


「ああ、メンカとリナンか。おはよう」


 良い目覚めとは言えなかった。2人が起こしてくれたのはうれしいのだが、昨夜飲み過ぎたせいか頭がいたい。


「「ゴロウおはよう」」


 腕時計で時間を確認すると既に9時を過ぎていた。

 山波は布団をめくり上半身を起こしたが、


「うぅ、頭がいてぇ」

「ゴロウ頭が痛いの?病気?」

「飲み過ぎたせいだとおもう。うぅガンガンする」


「解毒の魔法を掛けますよ」


 顔を上げて、横を見るとアークトゥルスとイリス、スイナがいた。


「解毒の魔法? 二日酔いに聞くのかい?」

「ええ、タケルの教えで二日酔いは、あ、あ、あるとあせひど? が悪さをしているって言われているわ。それを分解すればいいって」

「もしかしてアセトアルデヒドの事かな。タケルってそんなことまで広めているのか?」

「そうそう! それそれ。それを分解すれば……。とりあえず掛けるわ」


『~~dekompozim~~』


作者注:山波氏は実際に理解できる言葉ではなかったと旅行記に記しています。


 一瞬、体が光に包まれ、3分ほどで頭痛が軽くなったことを自覚した山波は、


「ありがとうな、アーク。頭痛が和らいだよ。魔法はすごいな」

「えへへ」


「ところでゴロウさん、皆は既に朝食を終えていますが、どうなさいますか? 必要なら直ぐに作りますとのことですわ」


 イリスが既に朝食を終えていることをゴロウに伝えてきた。多分起こすのは悪いと寝坊させてくれたのだろう。


「ああそうだな、後で車にあるものを軽く食べるから朝食はいらないよ。今は作ってもらっても食べられそうにない。そうだ、今日の出発は昼ご飯を食べてからにするとみんなに伝えてくれないか?」


「わかりましたわ、それならそれまでは自由時間でいいかしら?」

「ああ、そうしてもらって構わないよ」


「それでは、みなさん。村を探検しますわよ」


「「おーー」」


 メンカとリナンがノリノリだ。


 皆が部屋から出てから、ようやくベッドの脇に腰かけて、一息つく山波であった。

 たとえ魔法で二日酔いを治してもらっても、体のだるさはすぐには回復しなかった。


 山波が着替えを済ませて部屋から出てきたのはそれから30分が経過してからであった。



 1階の食堂に降りると、レグレスが声を掛けてきた。


「おお、ゴロウ。昨日は夜遅くまですまなかったな。そしてうまい酒ありがとうな」

「おはようレグレス。気にしないでくれ。それにしても皆酒が強いな。二日酔いにならないのか?」

「まあな。ドワーフと比べられると困るが、あの程度はまだ序の口だな。ほら水だ」

「ああ、ありがとう」

「出発は午後からだって? まあそれまでゆっくりしていってくれよ。なんなら村を案内するけど?」

「それなら30分後に乗ってきた車に来てくれ。シャワー浴びたい」

「それなら、風呂に入って行けよ、1日中いつでも入れるから。ほらあっちだ」

「そうなのか? じゃ一風呂いただくかな」


 レグレスに宿屋に併設されている風呂まで案内され、山波はゆったりと風呂に入り、精神的にも肉体的にも二日酔いから解放された。




「おまたせ、レグレス。いや~やっぱり風呂はいいな」

「だろ。それじゃいこうか」

「たのむわ」


 レグレスに村を案内してもらいながら


「そういや、ゴロウは王都に行くんだよな?」

「ああ、ここからだともう少しだよな」

「もう少しっていっても普通の馬車だとそうだな。10日前後ってとこだ」

「まあ、今日は午後出発予定だからのんびりいくさ」

「そっか」



 村はすべての家が木造であるものの、日本の古民家の風貌に近いものがある。屋根は藁ぶきではないが。

 レグレスに聞くと、メガスギー --レグレスたちが剪定していた巨木-- が質の良い木材となり家つくりにもうってつけとのこと。難点は堅いというくらいで撥水作用が高く腐りにくく、虫なども寄り付きにくいので長持ちする家になるとのことだった。



 そんな調子で村を歩いていると、


「「ゴロ~~!!」」


「メンカとリナンか」


 正面から山波に2人が体当たりを仕掛けてきたので、山波は踏ん張って2人を受け止めた。


「元気になったー?」

「なったー?」


「ああ、もう大丈夫だぞ」


「「やった~」」


 2人に引っ張られていく山波。それをにこやかに見守っているレグレス。


「お~い。あんまりひっぱらないでくれ」


 メンカとリナンは山波の体調が戻ったことが相当うれしかったらしい。


 時間は11時を過ぎていたので、そろそろ昼ごはんにしてもおかしくはない時間である。

 山波は結局朝食を取らなかった。


「2人ともお腹減ってないか? 早めに昼ごはんにするかい」


「「する~~」」


「それならちょっと待っててくれ」



「レグレス、ここらで食事できるところはあるかい?」


「それなら、ファニーの食事処がいいな。うまいもの食わしてくれるぞ」


「それじゃそこに案内頼んでいいかな? ほら2人とも食事処に行くよ。他のみんなはどこかな」


 暫く歩いてファニーの食事処に到着した。


「それじゃ、ここで食事をするから、他のみんなを連れてきてくれるかい?」


 山波はメンカとリナンに他の一行を連れてくるようにお願いした。


「「わかった~~」」



「なんか、忙しなくて申し訳ない」

「問題ないさ、我々は先に店に入ってよう」


ドアを開けるとチリリリ~ンとドアベルの音が鳴り、ウェアウルフの女性が出てきた。


「いらっしゃ~い。あら、昨日の? たしかゴロウさんだよね。美味しいお酒ありがとね。それに、美味しい飲み物も」


「いえいえ、もう食事できますか?」


「ああ、大丈夫だよ。レグレスと2人だけかい?」


「いえ、全部でえ~と私とレグレスを入れて10人と2匹になりますね」


「それじゃ、テーブル2つじゃ狭いから、奥のテーブルを3つ使っとくれ」


「わかりました」


 山波とレグレスがテーブルの準備をしていたら、チリリリ~ンとドアベルの音がし山波を除く、山波一行が入ってきた。



 それから1時間程、レグレスと山波達は楽しい食事を行った。


「食事を終えたら30分休憩して出発しよう。それでいいかな?」

「「「は~~い」」」


 メンカとリナン、アークトゥルスが元気に答えた。



 それから30分程してから、村人たちに見送られながら村を出発した。

 そして、助手席にはレグレスが座っていた。




 丁度、レグレス自身も次の村に用事があったために、次の村までと言うことで同行を許可した。

 車で40分ほどで村に到着した。歩くと3~4時間かかる距離になる。往復歩くと1日がかりだ。


「ゴロウありがとうな。助かった」

「これじゃここでお別れだけど元気でな」

「ゴロウ達もな」


「「さようなら~」」


 レグレスと別れ、車はさらに先に行く。


 車を走らせること3時間、目の前に巨大な川が見えてきた。

 

「ここがアルケナル村です。川向うに上村、こちらが下村になります」


 パルメがいつも通り説明してくれた。


 川の手前にアルケナル下村があり、川向うがアルケナル上村とっていて、川の名前はエリダヌス川。

 川幅が広く水が流れている部分だけで200m近くある。それなのに流れる水は透明でとてもきれいだ。川原を含めた全体の川幅は400mに達すると思われる。

 これまでにいくつか川を越えてきた山波は、これほど川幅がある川は初めてであった。また、全てにおいて石橋が両岸までかかっていた。

 この川にかかっている橋は中間付近までは石橋で、真ん中30mが木造になっていた。

 真ん中が木造なのは、敵に攻め込まれても橋全体を破壊せず、真ん中の木造部分のみ落とし敵を渡れなくするためである。その木造部分には、セイファート村のメガスギーが使われている。

 川を直接泳いで渡るには日頃から水量がありすぎるし川幅もあるし深さもある。小舟を用意するのは難しい。ゴムボードなら簡単に持ち運びができるだろうが、木造の小舟をたとえ分解して持ち運んでも荷物になる。当然川向うで迎撃隊が待ち構えているわけで戦争時に川を渡河するのも難しい。


 そんな川に架かる橋を車は進んでいく。真ん中の木造部分も容易く渡ることができた。流石メガスギーであるしなりもせず、運転していた山波は渡り切れたことにほっとした。


 そのまま、アルケナル上村で1泊する事にする。


 明日中には王都へ到着することが可能な距離だ。ただし、車でならはの話ではある。

 馬車であれば、まだ、最短日数でも2泊は必要で、通常ならば4日は必要な距離である。


 アルケナル上村・下村はともに宿屋は充実している。何しろ川の水量が増している時は橋が通行止めになるからである。増水している時は中央部分が流されないように上に持ち上げられるような仕組みになっている。戦争時に橋を落とすような使い方をするといっても、増水時流されてしまう様な無駄なことはしない。


 そのため橋が通行止めの時は、上村・下村の宿でじっとしているしかないのである。そのため宿が多くなる。


「今日はここで1泊します。もしかしたら最後の宿泊になるかもしれません。ゆっくりと休みましょう」


「「は~い」」


 山波にとって今日がもしかしたら、メンカとリナンと過ごす最後の夜になるかもしれない。

 ただ、全ては王都に到着してからの事になるだろう。



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 ???「漸く、漸く王都まで来てくれる」

 ???「会ったら何言おうかしら。ウフフたのしみ」


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山もなく、谷もなく、ドキドキワクワクもないまま、終了に向かってまっしぐらです。

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