第39話 ウェアウルフの村
ウェアウルフという種族を助けた山波はその村に招待される。
山波によって引き起こされることは尋常一様になってしまっている。
ウェアウルフが新たな同行者となってしまうのだろうか?
無事にセイファート村の村に到着した山波であったが、実は運転中になぜウェアウルフがにゃんと三回転をするのだということを思いだし、吹き出しそうになるのをこらえながら運転してしまっていた。
レグレスの興奮を抑えるどころではなかった山波である。
村に着くと門番にはウェアウルフの女性が立っているようで、レグレスと一言二言話をしてから、
「通ってもいいぞ」
といってきた。山波はありがとうと答えてからレグレスに話しかけた。
「門番はウェアウルフの女性がやっているのだな」
「ああ、彼女らは『手加減』と言う言葉を地平線の先に置いてきているからな、戦いになると容赦しない。特に家族や一族を守ることについては本当に手加減をしないからなぁ」
何故か遠くを見ている。
「どうした?風邪か?」
「風邪がどういうものか知らないが、寒気がだな」
「ああ、皆まで言うな。なるほどな」
山波は何かを悟ったようである。それを口にしないというのは大人の対応だろう。いや、自分の経験を思い出し、一瞬寒気がしたのかもしれない。
車を指示された場所に止めると、レグレスがついてくるように言った。
連れて行かれたのは、食堂兼酒場で宿もやっている場所だった。ここまでは普通なのであったが、宿は3階まであり、2階と3階が宿のようでコの字になっており、コの字の左右のでっぱりは正面から見て右が共同浴場、左が自衛団の詰所と言うことだった。浴場は平屋、詰所は2階があり、武器や仮眠の設備があるそうだ。
今までの村や街では見たことの無い形式である。
食堂に入った一行は、大勢のウェアウルフ族で既に埋め尽くされておりながら一切の喧騒がなく静寂が覆っており、そこには中央のテーブルのみ空いていた。
だがその静寂も全員が食堂の中に入った途端、ウェアウルフ族(一部は違う種族もいた)から歓迎の様相で迎えられた。
空席のテーブルに案内されると、エールが置かれた。当然メンカとリナン、イリスなどはエールではない。
「今日、彼らは私を助けてくれた。そこで私は彼らを客品として歓迎するためにこの席を設けてもらった」
--「飲みたいだけだろーーー」
--「話が長いぞぉーー」
--「さっさと飲ませろーー」
「今ヤジを飛ばしたお前ら、後で覚えておけよ!! それじゃ客人に乾杯!!」
「「「「「かんぱ~~~い」」」」」
何事かと山波達一行は混乱している。
「なぁレグレス。これは一体」
山波がレグレスに問いかける。
「ああ、すまんな。助けてもらった上にあんなに旨いものを食わせてもらったんだ。俺の歓迎を受けてくれ」
「そうか? 折角の歓迎を無下にすることもないし、なんか、逆にありがとうな」
「いやいや」
ポリポリと顔を指で掻きながら照れた様子をするレグレスだった。
山波の世界の映画などの設定ではウェアウルフ族は人間と敵対している様子で描かれることもあったが、どうやらこの世界ガクルックスでは異なるようだ。
ウェアウルフ族も男性はやや狼の顔つきを残しているが、女性は人間に近いように思える。子供も大人もいて人数は全部で50人くらいだろうか?
山波は折角歓迎してくれたのだからこちら側からも何かだすかと、酔う前にジョルジュとスミレンを連れて車に戻り。焼酎で大容量の4リットルの麦、そば、イモ、サトウキビなどの各焼酎を車のどこにしまっていたのだ?と突っ込みたくなるものを2本ずつ計8本を台車で食堂に持ち込んだ。
「みんな~、ゴロウさん達から酒の差し入れをもらったぞ~~」
「「「「おおおおお」」」」
見ると度数25度の焼酎を水割にせず木製のコップに注ぎ飲んでいる。
メンカとリナン用にソフトドリンクとして100%ジュースも10本ほど持ってきた。こちらは1リットルの紙製の物だ。リンゴ、ミカン、ブドウ、トマト、グレープフルーツ、ピーチ、パイナップルなどである。
山波は自身用に烏龍茶のペットボトルをこっそり持ってきていた。
メンカとリナンはウェアウルフ族の子供たちと仲良くなっており、イリスもその輪に入り込み、口からよだれをたらしかねない程の顔つきで混ざっていた。ソフトドリンクをそれぞれの子供のコップに分け入れながら頭を撫でている。一口飲んだ子供たちの目がキラキラ輝くたびに悶絶している。
(イリスよ警察に捕まるような真似はやめてくれよ)
この時、山波はここが異世界で警察など存在していないことを失念していたらしい。
パルメとスミレン、アークトゥルスはウェアウルフ族の女性たちと混ざって話をしている。
そしてパルメの手元には山波が隠し持ってきたはずの烏龍茶がしっかりと握られていた。
(なぜだ)
ジョルジュはウェアウルフ族の男たちと何か話をしていたが、いつの間にが腕相撲を始めていた。
ウェアウルフ族に負けたり勝ったりしていた。
(ジョルジュすげえな)
「ゴロウさん、楽しんでるかい」
「ああ、もちろんだ。それにしてもウェアウルフ族って人間族とも仲がいいんだな」
「それはタケルと女王のおかげだな。あの2人が邪神を倒し、その時タケルは死んでしまったが、その意思を女王が引き継ぎ統治を始めてからだよ。それ以前はお互いに良い関係とはいえなかったけどな」
「邪神を倒した?」
「あれ? ゴロウさんは知らないのかい」
山波がレグレスから聞いた話では、タケル・ムドウという人物がシュラハクという魔術師に異世界召喚され、その道中で現女王を--当時は女王ではなかった--助け、2人でさまざまな街や村を放浪し、やがては邪神を倒すという話であった。
邪神を倒す際、タケルと邪神が相打ちになり、邪神は消滅し、タケル・ムドウもその遺体はこの世から消滅した。
放浪先でタケル・ムドウは各地で亜人と人の橋渡しを行い、亜人と人の生物学的共通点を纏め1冊の本としていた。その本には生物の分類学の詳細が記載されており、それにより、亜人と人の垣根がなくなっていったとのことだ。もちろん浸透するまでには50年以上の歳月を要してはいるが。
「まあ、その後の学習システムつうか、学びシステムによって今じゃこの国にいる7割の亜人、人は読み書きができるようになり、それにより生活環境もガラッと変わったんだ。それでも、地方の村ではまだまだだが。しかし、そうなると亜人や人というくくりで争うことがいかに無益なことか理解されるようになってな。過去に縛られるのではなく未来志向の行動を取るようになったってわけだ。もちろん隣の国や帝国などでは未だもって亜人に対して迫害をする国もある。過去に縛られた哀れな国さ。いくつかあったそんな国は減ってな、今は本当にその2国だけだな。亜人を敵視しているのは。しかも識字率も低い、差別もある。それじゃ亜人や人は逃げ出すわな。今じゃ国の維持も難しいときく。治安も悪く犯罪は多発。さらに人口減という負のスパイラルに陥っているわけさ」
「そんなことが」
ふと山波の脳裏に引っかかるものがあることに気が付いたが、それが何か思い出せなかった。
喉元まで出ているのに、出てこない。丁度そんな不安になる感覚であった。
ただ、以前出遭った山賊は確か隣の国から来たということは思い出していた。
「そんなわけでよ、今の女王は亜人も人も区別はしないんだ。だが怒らせるとドラゴンですらボコボコにするからな。たしか、青ドラゴンが数分で立ち上がれなかったっていう話もあるくらいさ。まあ理不尽な要求をして怒らせるとだから、普通にしていると美しい女ひとなんだけどな」
(青ドラゴン?もしかしてヘラトリックスだろうか?)
「さあ、まだまだ夜は長いんだ、飲もうぜ」
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さらに宴は盛り上がり、山波達が開放されたのは日をまたぐ時間になるときであった。
短いです。
顔を指で書きながら->顔を指で掻きながら




