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第38話 その新たな種族との出会いに

アヴィオール街での楽しい時間を過ごした山波達は、次の村に向けて出発する。

草原で昼食にしようという時に樹の下に倒れている人物を発見する。

新たな種族との出会いに山波は乱舞する?しかしそこにはムドウの影が……。



 いよいよ、アヴィオール街を出発する朝を迎えた山波である。

 朝食は昨日のうちに準備をしていたご飯と切り身に分けておいた産地アヴィオールの魚で焼き魚・大根おろし添え、山波の世界の海苔、大根の味噌汁ワカメ入りにみんな大好きのりたま、ごましお、たらこのふりかけ三種の神器ならぬ三色の神器である。必ずと言っていいほどごましおが残ってしまう宿命を持った物。

 それらをテーブルに配膳すると、待っていたメンカとリナンの目が野性を取戻し、輝きだす。


「よし、ご飯はおかわりあるからな。それじゃ、いただきます」

「「いただきま~す」」

『がうがう』

『ク~ン』


 メンカとリナンはまだ箸をうまく使えないのだが、それでも山波のまねをしたがり箸を使いたがった。

 だが、途中で断念してスプーンに持ち替えることもあるのだが、今朝に限っては頑張って箸を使っていた。

 最初に教えたころに比べ格段と上手になってはいるのだが、ご飯に海苔に巻くようなことはまだうまくできない。


 山波はトングで食材をつかむのが苦手なので菜箸のようなものをよく使う。

 バーベキューの時、ステンレス製の菜箸で食材を華麗に操っていた山波の手際に感動したメンカとリナンが自分たちも箸を華麗に扱いと思うのもやむなしと言えるだろう。



 朝食も終わり、残ったご飯はおにぎりにして食器をアルコールティッシュでふき終わったころ、他のメンバーが集まってきた。


 出発までまだ時間があったのだが、皆が集まってきたので早いが街を出ることにした。

 全員が乗車したのを確認し山波は次の村に向けて車を発進させた。パルメ知識によると次の村は巨大な川の手前にあるアルケナル村である。川の名前はエリヌス川と言うことだった。


 途中途中に小さな村は点在するが特に特徴のある村はないということである。


 結局ユージンと再び会うことは叶わなかったが、商会の人がユージンが戻ってきたら山波が商会に寄ったということを伝えてくれるということだったので問題はないでだろう。


 2時間程走ると左側に見えていた海がやがて見えなくなっていき、両側が巨木のトンネルとなった道を走っている。


 山波は一部の道が日光の杉並の街道のようだったと記している。しかし木の太さはその比ではない。とも。


 巨木の街道がある境で一気に草原になる。

 山波は車を停め、車から降りてその様子をカメラに収めている。

 まるで本当に透明な壁で区切られているかのように、草原と巨木エリアが分かれているのは壮大であった。

 それが何キロも先まで続いているのだ。これが異世界の自然なのかと思った山波である。


 他のみんなも山波が車を停めて降りていたので何事かと車から降りてくる。

 昼時まではまだ時間があるが丁度よいタイミングでもあったので、ここで昼ご飯にする。

 パルメがてきぱきと準備をしていく。料理も任せる。


 山波はというと、まだ、巨木の森と草原の境が気になってそれをカメラに収めていた。

 その両脇にはメンカとリナンが「ほわわ」と首が痛く無いのかと言うくらい巨木を見上げていた。

 ライエの上にアストルが仰向けになるくらい体を反らして上を見上げている。



「ゴロウ、あれ」


 メンカが何かを見つけたようだ。

 腕を曳かれて山波が見える場所まで寄ると、どうやら人が倒れているようだ。

 さらに近寄ると人、ではなく獣と言われる方が分かりやすいかもしれない。だが、明らかに二足歩行する体つきである。


「おい、しっかりしろ」


 山波はそれを揺するが気が付く様子はない。

 山波は大声でアークトゥルス達を呼ぶ。パルメ以外が寄ってくる。パルメは料理中なのでその場を離れることができなかった。


「これは、ウェアウルフ族だな」


 ジョルジュがそういった。


「ウェアウルフ? もしかして気が付いたら襲われるのか?」

 山波が確認すると、

「いや、大丈夫だ。彼らは見た目は狼の身なりをしているが、温厚だし他の種族と一緒に生活しているからな」

「そうか、でアーク。彼の状態はどうだろうか?」

「頭にたんこぶと腕に擦り傷がある程度で、命に別状はないかな。気絶しているだけ」

「そっか。よかった。車の近くまで運んでも問題はないか?」

「たぶんだいじょうぶ」

「それならおれが運びますよ」

「1人だと無理じゃないか?」

「それなら私が足を持つわ」


 スミレンが足ジョルジュが上半身、アストルにライエから降りてもらい。ライエが腰付近を背中に乗せるようにして車まで運ぶ。

 ライエから降りたアストルはイリスが抱きかかえている。

 山波は走って車まで戻り、車の下部収納に入れていたアウトドア用ベッドを取出し、適当な場所に展開していった。

 そこに運ばれてきたウェアウルフ族を横に寝かせた。




 パルメの料理も出来上がり、さて食べようかと言う時に、彼が目覚めた。


「あ~ここは? 確か木の枝を剪定していて上から落ちたはずだが」

「お~、目覚めたか?」

「あんたは?」

「私はゴロウというんだが、木の下に倒れているのを偶然見つけてここまで運んできたんだが、どこか体調が悪いところはあるかな? いちおう魔法をかけてもらったんだけど?」


 ウェアウルフは自分の体を調べて、


「大丈夫だ、どこも悪くはない。助けてくれてありがとう。あ、私の名前はレグレスという」

「そっか、何事もなくてよかった。もしよかったら私らはこれから食事なんだが、一緒にどうだい? レグレス」

「え? 助けてもらった上に?」

「ああ、遠慮しないでいいさ、ここで出会ったのも何かの縁というし。でも、もし食べられないものとか、禁忌の物が入っていたりすると申し訳ないのだが」

「いや、だいじょうぶだ」


 山波はコップに水を注いて体を起こしたレグレスの元に持っていく。


「とりあえず水を」

「あ、ありがとう」


それからレグレスは新たに設置された椅子に座り山波一同と自己紹介をしあった。


『がうう(ライエっす)』


 ライエが挨拶すると、レグレスも同じように、

『がううう』

 と答えた。


 どうやら狼同士、意思の疎通は出来るようだ。


『ク~ン(アストルっマ)』


「よろしく」


 どうやら、熊語?は分からないようだった。


 レグレスが一通り皆とあいさつし終わってから食事が始まった。


 食事の内容は、山波の世界のパン。クリームシチュー。肉の竜田揚げ盛り、サラダ盛り合わせであった。


「ところで、なぜあんなところで倒れていたんだ?」

「ああ、枝の剪定をしていたら、紐が切れてしまって、バランスを崩し落ちてしまったんだ」

「どのくらいの高さから落下したんだ?」

「あの木の半分くらいの高さかな。まあいつもの事さ」


 レグレスが指さした木の半分から下は枝が少しの長さを残して、落とされており、見た目で30mは優にあろうかという高さだった。


「よくあの高さから落ちで無事だな?」

「ウェアウルフ族は体が丈夫だからな」


 山波は普通は死ぬだろと思っていた。


「しかし、ウェアウルフ族ってきこりとかやるの?」

「まあ、俺らは体が丈夫と言うのもあるが、ここいらの巨木は枝もかたくて他の種族じゃなかなか伐採や剪定は無理なんだ。だからここらの巨木の管理は俺ら仕事になってるな。王都などでは憲兵などの仕事が多いらしいけどな」

「そうなのか」


 山波は巨木の下まで歩いていき、落ちている細い枝を一本持ってきて、その場で折ろうとしたが全く折れる様子が無かった。太さが3cm位であろう細い枝が、である。


「かしてみな」


 山波がレグレスに枝を渡すと、簡単に折ってしまった。


「すげえな。なるほどな。でもあの高さから落ちで打ち所が悪いと死んでしまうんじゃないか?」

「もっと上から落ちた奴がいるけど、まったくの無傷で着地するからな。落ちて死んだ奴はいないさ。今回俺はちょっと調子に乗ってな、素直に2回転で着地すればよかったんだか、にゃんと三回転という秘儀をやろうとして失敗したんだ。」


 山波は、まさかとは思うがそのにゃんと3回転とはもしかしてムドウ絡みなのではないのか? と考えてしまった。


「そ、そうか」


 その後もウェアウルフと楽しい話をしながら食べたことで昼食は大いに盛り上がった。

 ここの巨木の枝を剪定して切り落とした枝はその固さから良い燃料になるそうだ。

 種族は違うようだが、メンカとリナンも直ぐに打ち解けていた。


「そうだ、折角食事まで食べさせてもらったんだ、急ぐ旅路でもないということなので、村によってもらえないか?」

「まあ、構わないけど、ちなみに村はここから近いのかな?」

「そうだな、徒歩で1時間ほどになるかな。セイファート村っていうんだ」


「セイファートの薪と言えば最高品質の薪で有名なところですわ」

「知っていてくれてくれしいな」


 イリスが村の名前を知っていたことでレグレスはうれしそうだった。


「よし、それじゃ今日はその村で一泊しようか。レグレスの仕事は?」

「ああ、まだあるから、暫く待っていてほしい。2時間ぐらいで今日の分は終わるから」

「わかった」


 食事が終わってから草原で遊ぶ者と寛ぐ者に分かれた。

 山波はというと、


「そういえば、レグレスはロープが切れたとか言ってなかったか?」

「ああ、だが予備があるから問題ない」

「そっか、でもまあ、もしよければこのロープを使ってみてくれ」


 山波はいざという時用に買っておいたロープのうち20mほどの登山用ザイルを渡した。耐荷重1000kgとなっているもので車がスタックしたりしたときに使おうかと思っていたものだ。牽引ロープも入れているが、長さが足りないときはこれを使おうと考えていたものだ。


「なんだか細いな、だが」


 レグレスは「ふん!」と言いながら引っ張ったがいくらレグレスでも1tまでの力はなく、当然切れることはなかった。


「なかなか丈夫だな。助かる、予備が切れたら終わりだがこれがあれば次に切れても問題ないだろう」


 山波はレグレスの仕事の様子をカメラに収めていった、剪定してわずかに残った枝を足場にしてひょいひょいと登って行く。ロープはまだ使わず肩にかけ腰に鉈のようなものを携えている。


 上まで行くと剪定しない枝にロープをかけ体を支えて枝を切っている。もちろん次回そこを足場にするので、足場分の長さは残して。


「よくまあ、あの高さで恐くないものだな」


 ズームを使って漸く体全体がアップになるくらいの距離だ。動画を撮影している山波自身思わず手に汗がにじんでしまう。

剪定した枝はそのまま落下させるので真下に入らないように言われている。すると大きな枝がドシャっと地面に落ちてくる。

 3本ほど剪定したら、上からジャンプして飛んで落下してくる。両手、両足を大きく広げ落下し、地面に近くなったところで2回転し、落とした枝の隙間に着地してきた。


 これがウェアウルフの能力かと山波は本当に驚いていた。


 それから落とした巨大な枝を適度な長さに切り分けていく。それを積み重ねて2~3日してから運ぶのだそうだ。

 前回、剪定して乾かした分は村の仲間たちが既に村まで運んでいるそうだ。

 レグレスの作業が終わった時には16時を過ぎており、一行の一部は草原にライエを枕に寝いっていた。

 皆を起こして、レグレスには道案内をしてもらうので助手席に座ってもらうが、当然、自動車に初めて乗るので興奮していたものの、無事に村まで案内してもらえた。



更新が遅くなりまして申し訳ありません。

11月も何かと忙しく、トホホな状態です。

最低でも毎週UPしたいのですができそうにありません。

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