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第37話 1日を優雅に過ごす?

山波はこの日は太公望になり雲の動きを眺めながらゆったりとするつもりだった。

しかし、そんな事を許さない異世界は、海の中から信じがたいものが現れる。

果たして山波は昼食にありつけるのか!



 昨日は久しぶりに体を動かしたため、熟睡してしまったようだ。

 例の薬も飲まずにいるの間にか寝ていた、寝る前に何か考えていた気がするがなんだったか。


 ドアをノックする音が聞こえる。


「はいはい、今行きますよ」


 山波は寝ぼけ眼でドアを開ける。


「おはようございます。ゴロウさん。もう朝ですわ。朝食の時間ですわ」


 イリスの背後にはパルメとスイナが立っている。


「ああ、おはよう、もうそんな時間か。折角だし2人を起こしてくれないか?」


「もちろんそのつもりですわ。さっそく入らせていただきますわ」


 颯爽、いや、旋風のように中に入り2人に近づいていくイリス。


「スイナさんも、パルメさんもおはよう。昨日あれだけ遊んでいたのに、朝早いですね」


「ゴロウ様既に7時半近くになっています。お疲れなのではないですか?」


「流石に昨日は年甲斐もないことをしたからなぁ。筋肉痛になっていないのが幸いだよ」


 とパルメと話をしているうちにメンカとリナンを起こして、水にぬらしたタオルで2人の顔を拭いていくイリス。


「これだけメンカもリナンもイリスを慕っているからな。王都についてもなんとかできればいいんだが」


 ふと、山波は今まで思っていたことを口に出してしまった。寝起きであったからかもしれない。


「それは王都に付いてから考えてはいかがですか? メンカちゃんもリナンちゃんもゴロウ様を慕っております」


 はっとしてパルメの顔を見てしまった山波は


「今の事は胸の奥にしまっておいてくれ」


「はい」


 うっかり口に出してしまったが2人にとってどのようなことが幸せになるのか、改めて考える必要があるな。

 その間にイリスによって2人の着替えも終わり


「先に食堂にいってますわ」


 と言いながら2人を連れて下の食堂に向かっていった。

 山波も着替えなどを済ませてから、ライエとアストルを引き連れ食堂に向かった。




 食堂には既に一行が集まっていて、山波が入りてくるのを待っていた。


「ごめん、遅くなった」


「ゴロウさんは年ですから、昨日のような無茶な運動をしていると、明日あたり筋肉痛が全身に来ますよ」


 アークトゥルスに痛い所を突かれた山波は「こいつめ」と言いながら、アークトゥルスの頭を手荒く撫でた。

 「ぎゃぁ~」と言いながらもどこか嬉しそうなアークトゥルスであった。



 食事をしながら、山波は今日は予定が無いとみんなに言った。


「それならば今日は完全な自由時間にしてはどうですか?」


 スミレンがそのように提案してきた。


「完全な自由時間か、悪くないな。みんなはどうだい?」


「いいですわね。メンカちゃんとリナンちゃんの面倒はわたくしが見ますわ」


「ゴロウさんは何かやる予定でも?」


アークトゥルスが聞いてきたので、


「そうだな、1日中釣りというのも悪くはないかな」



 こちらの世界ではテトラポッドや防波堤は存在しない。但し、岩や大きめの石などを使い、それをモルタル?で固めて波消しブロックのような機能を持たせているところがある。そういうところからなら釣りは出来るはずと考えていた。


「釣りは暇なのよねぇ」


 確かに、道楽としてやる釣りは非常に暇だ。だが、その分色々と考え事をするには最高なのであろう。

 山波の世界の遥か昔の人は釣り針を伸ばして釣りをしていたなどと言う人もいたそうだ。


 兎にも角にも今日は1日自由時間とすることにして食事を終わらせた。




 食後、今日一日太公望になることを決めた山波は1人で車に向かい、載せていた釣竿を取り出しどんなものか確認した。

 リール付きで5000円出すと20円のおつりがくる一式セットの安物ではある。どうせキャンピングカーを買うならば使う使わないは別にして車に積んでおくべきだと思って買っておいたものだった。他にもそんな使うか使わないかわからないものが積まれている。

 子供の頃に釣りをやって以来の釣りになる山波であったが、何とか記憶の海底に沈んでいた記憶を呼び覚まし、釣り具の使い方を思いだし、準備していった。

 釣果を目的としていないので、餌はセットの中に入っている疑似餌(ワーム、魚、得体の知らない形のもの)を使うことにした。


 釣り道具一式に小さな椅子、バケツを持って釣り場になりそうなところに向かおうと車を降りたら、ライエがアストルを背中に乗せてドアの前で待っていた。


「お前らも着いてくるか? 何もつれないかもしれないぞ」

『がうう(いくっす)』

『ク~ン(いくマ)』

「そうか、それならちょっと待っていてくれ」


 山波は車に戻り、キャンプ用のクッキングセットに小型コンロ、CB缶などを用意し、クーラーボックスに詰め込んだ。


「それじゃ、ライエには申し訳ないがこれも背中に乗せてもっていってくれ。アストルはしっかり押えておいてくれ」


 そういって、ライエの背中、座っているアストルの前に乗せた。


 そして、1人と2匹で防波堤っぽいところの先の方に向かい陣取った。防波堤の高さは水面から1mもないだろう。満潮、干潮などあれば今が満潮だろうか?


「さあ、これで釣れなかったら昼ごはんはお預けになるからな」


『が~(ガ~ン)』

『ク、クーン(そ、そんなマ)』


 こうして山波の久しぶりになる釣りが始まった。



~~~~~



 山波は1時間、2時間と浮きを見ているが全く反応がない。


「やはり釣れないな」


 ライエとアストルは隣で寝ている。


 そんな調子で釣りをしていた山波であったが、3時間近くなりかけたとき、初めて浮きに反応があった。


 えいっ! と釣竿を引き上げた山波。当然のことながら素人並みの山波は当たりに合わせることなどできない。

 だが、釣竿は海面に出ている糸の分しか動かない。右に左に上に下にと釣竿を振ってみても。


「ああ、何かに引っかけてしまったかな」


 と山波ががっかりした体でいたとき、ふっと釣竿が軽くなった。

 山波はきっと針先が切れたか、針が伸びたのだろうと思って、リールを巻いた。


 すると海中からワカメのような物体が巻き上げとともに上がってきた。


「これ、貴方?」


 海面からいきなり声が聞こえたのである。


「うわぁっ」と山波は椅子から立ち上がった。椅子が後ろに倒れる。


 そう、ワカメだと思ったのは髪の毛であったのだ。さらに、その毛の奥から二つの双眸が、そして顔が現れたのである。

 ライエは山波の声とイスが倒れた音ですくっと立ち上がり、防波堤の縁まで歩き下を覗きこんでいた。


「ねえ、これは貴方が垂らしたものなんでしょ?」


 再び声が聞こえた山波は恐る恐る防波堤の縁から顔を覗かせた。


 そこにいたのは濃い緑色の髪をした綺麗な女の人だった。

 ただ、首の下に魚でいえば、えらのようなものがあり、海の下にある体に着衣はないように見えた。


「ねえってばぁ」


 山波は一つ深呼吸をしてから、


「はい、私のです」


 と緊張しながら答えた。


「変わったものを使っているのね。でもこれじゃここら辺では釣れないわよ?」


「えっ?」


 それは水面からジャンプして、防波堤に上がり、そのまま縁に座った。

 見た目は人に見えるが、胸を隠そうともしていない。足は2本なのだが足先は人で言う足首から下が足ひれのようになっていた。さらに足にはひれのような物もある。手のひらは良く見ると第一関節から下に膜のようなものがついていた。さらに腰の当たりと背中にも鰭と思われる物が付いている。山波の世界で言う伝説の人魚に属するのかもしれない。胸の下、人で言うところのからへそあたりから膝ぐらいに掛けては鱗に似た皮膚のようにも見えていた。


「えっと、貴方は? ああ、私はゴロウヤマナミと言います」

「わちきは水棲人のアーリアっていうの。へえ、貴方がゴロウヤマナミ? 女王から連絡が届いているけど。そうあなたなの」


 アーリアはライエの頭を撫でながらそういった。


「女王から? どんな連絡がいっているのでしょう」

「ん~。そうね。特Sとして扱ってほしいとか、私の物だから手を出すなとか。かな?」

「はあ?」

「ねえねえ、それよりもこれ面白いわね、もらっていい?」

「その疑似餌ですか? まあ、構いませんけど、何に使うんですか?」

「もちろん。装飾品として身に着けるのよ。なんかきれいだし。プニプニしているし」

「でも針が付いていて危ないですよ。それなら針を取り除きましょうか?」

「えっ。ほんとに。それってくれるって前提よね。うわあ、ありがとう」


 もともと釣果を気にしていたわけでもないのであげたとしても問題はない。

 山波は重り取付用に持ってきた小さなペンチで針の部分を取り除いてからアーリアに疑似餌を渡した。


「うわあ、本当にありがとう。あ、ちょっと待ってて」


 アーリアは海に飛び込み、海の底に消えていった。


~~~


 ライエとアストルと遊んでいたら、アーリアが戻ってきた。

 しかも、3人に増えて。


「アーリアが3人に増えてる?」


 アストルは驚いて山波にしがみついている。

 ライエは臭いを嗅いでいる、山波には海水の臭いしか分からない。それでも山波の世界の海のような生臭い嫌な臭いはしない。


「私たち同じ時に同時に生まれてきているから似ているのよ。でも性格はそれぞれよ」


 先ほど上げた疑似餌を首にかけている彼女がアーリアだろう。


「なるほど」


「はいこれ」


 アーリアが網を渡してくる。それを山波は受け取ったのだが。


「重いな、これは貝かぁ」


「これをくれたお礼に。あと2人も欲しがっているんだけど……」


 山波はワームではない疑似餌から針を取り除いて2人にそれぞれ渡した。それぞれ最初からセットに付いていたものだが。

 2人はそれぞれサーリア、ナーリアと言った。

 やはり見た目はほとんどアーリアと似ている。足首から先は同じようになっていた。胸も露わであるが、それについての羞恥心はないようである。山波も気にしないことにした。

 彼女らはアーリアと同じように防波堤に上がりその縁に座っていた。


「こんなに海産物をもらって構わなかったのかな」

「もちろん、これらはお礼だから」

「それなら遠慮なくいただいておくよ、ありがとう」


 アストルは山波の態度で水棲人に少し慣れてきたのか、3人をそれぞれ見比べながら近寄って行った。


「あらあら、リトルベアじゃない。かわいいわね」


 これはナーリアである。


 山波も先ほど渡した疑似餌で判別しているだけで、疑似餌が無ければ全てアーリアとしか区別できなかったであろう。


「そういえば、さっきこれじゃ釣れないって言っていたのはなぜなんだ」

「ああ、だってこれ匂いが無いもの。ここらの魚は寄り付きもしないわよ。しかも見れば偽物ってわかるしね」

「そういうことか」


 それから暫くいろいろと話をしていたら、海岸からこちらに歩いてくる団体がいた。

 山波一行のメンカ、リナンたちであった。


 皆に水棲人を、水棲人に皆を紹介した。

 一行は水棲人達と直ぐに打ち解けたようだ。水棲人の存在は周知の事実であるが、滅多に見る機会はないらしい。ここ港町や湖では珍しくないが内陸などで会うことは殆どない。


 山波は昼ご飯を食べていなかったので、海産物を網焼きする準備をする。

 気まぐれに魚が釣れたら、網焼きにしようと網も持ってきておいて正解である。遠赤外線を発する事を売りにしている網で、網の下には太めの鉄線があり網と鉄線の間に熱伝導率の高いセラミックが乗っている。

 山波も買ったものの今まで使ったことが無い為どんな風に焼けるのか楽しみであった。


 貰った海産物はホタテ、牡蠣、ハマグリのような二枚貝、サザエ、アワビのような巻貝、伊勢海老っぽいのもある、さらにはカニ。足が細くて長いので、山波の世界でズワイガニと言われているカニに近い。


 皿や箸がこのままでは足りないので、パルメに頼んで車から持ってきてもらう。飲み物も足りない。


 その間に山波は省スペースのガスコンロを用意し、点火しその上に網を置きその上にもらった貝類を置いていく。

 パルメが戻ってきたその頃、焼けてきて口を開いた貝に上から醤油をかける。醤油の焦げるにおいが漂うと唾を飲みこむ音が聞こえてきた。


 そこからは水棲人も含めての宴会になった。こちらの世界でも醤油に似たものは存在するが雑味のない醤油は山波の世界ならではであった。

 山波も美味しいと言われれば悪い気はしない。気が付けば山波はほとんど食べることができなかった。

 それでも、皆の笑顔で一杯になった。


 山波は水棲人たちに他にも美麗な疑似餌があればアクセサリーにしたいので持ってきてほしいと頼まれた。

 確約はできないが断れない種族の山波は玉虫色の返事をするだけであった。


 陽も落ちてきて後片付けをしてから車に戻った山波は宿に戻らず今夜は車で宿泊することにしている。

 もっとも宿は2泊しか確保していなかったので問題はない。


 夕食についてはメンカとリナンは要らないと言っていたが、山波は昼間は作ることに専念していたので昼食抜きに近い。前日パルメが買ってきた魚を捌いてバターでソテーにして遅い昼食兼夕食にした。



長くなってしまいました。

少しずつ進めているのですが間が空いて申し訳ありません。

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