第36話 さらなる乱入者
無事に危機を脱した山波一行。
ほっとしたのもつかの間、あの災厄が再びやってきて、バーベキューに強行参加
さらに混迷を増すバーベキュー会場、どうする山波
首長竜ことネックテイルドラゴンが海上に去って行った。
バーベキュー会場も車も無事であった。
山波は車に魔法防壁が展開されていることをすっかり失念していた。
だがそれは後から思えばのことで、突然あのようなことが起こればやはり逃げたことは正解であっただろう。
自然災害でも、豪雨で避難したが実際は大したことが無かったとしても、避難したことは無駄にはならない。「避難したが大したことが無くてよかった」と言えるのは幸せなのだ。
さて、山波は一旦水を差されたが(言葉通りである)ふたたびバーベキューを継続しようとした。
「バーベキュー会場が無事でよかった。さあ、続きをし よ う か?」
山波が最後まで言う前にあの青い物体が上空から舞い降りてきた。
『心の友である山波。来てやったぞ』
山波はつい「呼んでいないが?」と言いそうになってしまったがその言葉を飲みこみ、
「どうやって知りました?」
とそれでも、つい軽口をたたいてしまった。
『いやあ、なに女おぅいや、何となくここで飲み会をしていそうだったのでな。感だ。感』
「いま、何か言いかけなかったかな?」
『細かいことは気にするな、心の友よ』
「まあ、構わないか。それよりその姿は目立つから、参加するなら人の姿で参加してほしいのだが」
『おお、それもそうだな』
ヘラトリックスが人間の姿に変わる。メンカとリナンが近寄っていき。
「「ヘラトリックスのおじちゃんこんにちわ」」
『おお、メンカとリナンずいぶん大きくなったものじゃ』
山波は頭を抱えて、突っ込んでいいものか迷っていた。
「ヘラトリックス様。いくら獣人でも数日で大きくなることはありませんわ」
『わははは。それもそうだな。わはは』
突っ込みは無事にイリスが果たしてくれた。そしてヘラトリックスがメンカとリナンにそれぞれ片手ずつ引っ張られながらこちらにやってきた。
山波はライエが言っていた言葉を思い出していた。
(すくないっす)
まさかヘラトリックスが来ることを知っていたわけでもあるまい。
ネックテイルドラゴンの子供が上陸し、遠くに巨大なネックテイルドラゴンが現れ、さらには青ドラゴンが上空から舞い降りてきて、これで目立っていないと言うのは無理があろう。
遠めに街の人たちがこちらを伺っている。
山波にしてみれば、今回は守備兵団が来ないのが不幸中の幸いである。
山波は「なるようになれ」と車からブロック肉1つと日本酒を持ってきて、ブロック肉はパルメに切り分けてもらうためにパルメに渡し、日本酒と紙コップを持ってヘラトリックスに注ぎにいった。
「きょうは、赤ドラゴンのリケルさんは誘わなかったのですか?」
『ああ、あいつは闘えないと分かっているから誘わんかった。女王から連絡があったのもわしだけだしのう』
やっぱり女王から連絡があったのか。ヘラトリックスに口止め話は難しそうだ。
「そうですか、お酒はありますし、肉も新たに持ってきましたからゆっくり楽しんでいってください」
『おう。楽しませてもらおう。この酒もうまいのう」
「そういえば、先ほど海を凍らせたり、砂浜を防波堤のようにしたのはヘラトリックスさんですか?」
『ん? わしはそんな器用に魔法は使えんぞ。ブレスとして辺り一面を薙ぎ払うくらいじゃな。2つの強力な魔法を同時に放てるのは女王位だろう。あ奴が様子を見て……』
人の姿のヘラトリックスが何かを思い出したかのように渋い顔をして、
『のう、心の友よ。今聞いたことは忘れてほしいのだが』
「ええ、わかってますよ」
ヘラトリックスの乱入は女王によるものだった。そしてあの魔法も。女王は王宮から動けないからヘラトリックスに様子を見てくるのも頼んだのだろう。しかし、王宮にいながらピンポイントで魔法を放てるとは……。
山波は女王が国を統治しているのは伊達でないと理解した。
ただ、常にこちらの様子を見ることはできないはずだ。どんなカラクリがあるのだろうとも考えていた。
しかし、魔法の事を熟知しているわけではない山波は、考えても無駄だと感じ、先送りすることにした。
それとは別に今回、助けてもらったことは事実なので、それについて王都に付いてから礼を言おう。
昼から始めたバーベキューであったが、一部の魔物を除き皆もそろそろお腹がいっぱいになってきている。
締めとして西瓜があればよかったのであるが残念ながら持ってきてはいない。
そこで山波は西瓜と瓜二つのあれを車から持ってきて、膨らませた。
そう西瓜のビーチボールである。それをメンカに渡し、リナンがその後を追いかけ、さらにイリスとスイナもそれに混ざって行った。
西瓜のビーチボールについては教えるまでもなくみんなが輪になってそれぞれバレーのように遊んでいる。
ライエはヘラトリックスと話をしながらまだ食べている。
普通ならこれにアークトゥルスが混ざるはずなのであるが、エアベッドの上でお腹を押さえてぐったりしている。
山波が後で寝そべろうと思って膨らませていた物で、ダブルベッドくらいの大きなエアベッドである。
時間が経てばやがて起きだすだろうと見ていたが、ライエがそのベッドの上で飛び始めたのである。
それの反動でアークトゥルスも浮き上がりやがて砂に転がり落ちて行った。
山波としてはほんの少しアークトゥルスがかわいそうになったので、アストルにちょっと待つように言ってから、車に向かい、しぼんでいるシャチボートを持ってきて、それを膨らませてからアストルに座るように言った。
「破けやすいから、爪は立てちゃだめだぞ」
『くーん(わかっマ)』
口の部分にひもを通す穴があるのでそこにひもを通してから、海岸を走りまくる予定だったが、流石に食事の後でその上年も年、1分ほど全力で走っただけで気分が悪くなってきた山波である。
そこでジョルジュにバトンタッチし、シャチボートの紐を手渡した。
海岸は山波の世界のように木の枝やガラス片などもなく破けることもなくジョルジュが引きずりまわしていた。
暫くすると西瓜ビーチボールからメンカとリナンがシャチボードに参加し、それを引きまわす役がイリスとスイナに変わっていた。
暫くするとアークトゥルスも体調が戻り、皆の遊びに参加していた。
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やがて陽も傾き始め、ヘラトリックスがこのような楽しい催しがあればぜひ呼んでくれといって去っていった。
ヘラトリックスが去ったのを合図のように撤収するために荷物を片付けてから、体に付いた砂を一人ずつ落としてはそれぞれ車に乗せていく。
不思議なことにアストルは手足に砂が付いていたが、体には一切砂が付いていなかった。
一番大変だったのはライエで毛の奥まで砂が付いていたにも関わらず、シャワーを嫌がった。
やがて陽の力も弱まり、数多の星たちがその勢力を広げたところで、解散となった。
流石にバーベキューでたくさん食べたので夕食は軽めに自分たちで作って、それから宿に向かった。
メンカとリナンはたっぷり遊んだので遊び疲れたようで、直に眠ってしまい、山波もほとんど立っていたので流石に腰が疲れていた。風呂があれば腰をほぐせるのだが。山波は明日ここらへんに温泉が無いか確かめようと思いながらもいつの間にか眠ってしまっていた。
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???「ヘラトリックスは口が軽いわね」
???「それにしても楽しそうだったわ」
???「……いきたい」
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更新が遅くなり申し訳ありません。
校正をしていないので誤字が多いかも




