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第35話 海のシーンで定番といえば……

青い海、白い雲、カラフルな水着、熱い砂浜、巨大な影。どれも海の定番であった。

浜辺でバーベキューを楽しんでいた山波達に迫る恐怖。どこの海でも出会う定番の生物。

迫りくる災害。果たして山波達は無事にバーベキューを終えることができるのだろうか?



 一行が買い物から戻ってきて、パルメが食材を買ってきてくれたが不要になりそうな量だった。

 山波がパルメにユージン商会から食材を提供してもらったことを話すと、旅の途中に使いましょう。ということになった。


 車に皆を乗せて、浜辺のよさそうな場所に車を停め、おなじみの天幕をじゃかじゃか言いながら広げ、その下にテーブと椅子を展開していった。

 今回はそれとは別に折り畳みのバーベキューグリルを準備し、そこに炭を置いていく。


 クーラーボックスから肉や魚を取り出し、野菜を切り分け肉とともに串に挿していく。もちろんメンカやリナンが率先して手伝ってくれた。

 山波はこちらの世界の野菜とは別に向こうの世界の野菜も持ってきていた。

 ピーマン、玉葱、かぼちゃ、パプリカ、茸もしいたけを筆頭にエリンギなども準備した。

 もちろん定番の玉蜀黍は言わずもがなである。

 パルメが買ってきたイカのような物、海老、タコ?、貝などの海産物も準備万端である。


 山波は用意された食材を見ただけで一瞬、胸焼けがするのを感じた。それほどの量であった。

 飲み物も用意してこれでバーベキューの準備は整った。


 皆は早速買ってきた水着|(とはいうものの山波の世界のような水着、水着していない)を着替えに車に向かった。

 山波は皆が着替える前に、100円ショップで売っていたサンダルとビーチサンダルをそれぞれに配った。

 サンダルは足裏に穴が複数開いている見かけ上健康サンダルぽいもの。ビーチサンダルは世間一般で使われる物そのものである。

 ジョルジュだけは足のサイズが合うものが無く、LLサイズでもかかとの部分がはみ出していた。

 こちらの世界は砂浜にガラスや金属片など危険な物は埋まっていないようなのでサンダルを履かなくても問題なさそうである。だが、直射日光に照らされている砂浜はそれなりに熱い。


 車から一番最初に出てきたのはメンカとリナンで短いスカートに見えるが腿の真ん中までの長さのパンツがあり、尻尾もうまい具合に出ている。上は丈の短いタンプトップのように見えた。


 その後に続いてアークトゥルスやイリス、スイナが着替えて出てきたが、ビキニのような物はなく、似たような水着であった。

 一番爆発力があったのはスミレンで、ホットパンツに胸の谷間を強調しているクロスホルダーに似た水着であった。

 その次がパルメで所謂モノニキという水着であるが下がホットパンツのように丈が腿まであった。しかもどこに隠していたのかと聞きたくなるような胸のボリュームであった。


 2人の例外を除けば、皆とてもかわいく、キュートな水着だ。


「メンカとリナン、水着似合っているな」

「ほんと? ゴロウ」

「ああ」


(でも、おかしいな。確か妻も水着を持っていたはずなのだが?)


「なあ、アーク。向こうの世界の服に水着はなかったか?」


 アークトゥルスはもとより、イリス、スイナの目が泳いでいる。


「あれ?どうした」

「ゴロウ様、ごにゅごにょごにょ」


 パルメが耳元でささやいた。


 なんでも下の水着のウエストはきつくて、上の水着はブカブカだったそうで、それで落ち込んでいるらしい。

 3人のプライバシーにかかわることなので、ここで具体的にこれ以上書いてはいけない。



※旅行記には【具体的なことを書くのは止めておこう。妻のスタイルの良さを異世界で再確認出来たことが満足である。】と書かれていました。リア充爆破しろですね。



 パルメとスミレンは下は丁度よかったが、上がきつかったそうだ。それも問題ではある。2人の場合はそのような形状の水着は初めてなので流石に着る勇気がなかったということのようだった。


 既にバーベキューの炭には火がつけられている。着替えている最中に山波が火をつけたのであった。


 取り敢えず乾杯をしようということでジョルジュやスミレンは山波の世界のビール。山波はノンアル。他はジュースなどが紙コップに注がれていった。


「みんな今日までお疲れ様、まだ旅は続くけど、それほど変わったことはもうないと思う。これからもよろしく。それじゃ、かんば~~い」


 山波の合図で乾杯が行われ、それがバーベキューの開始の合図でもあった。


~~~


 それから30分ほど、宴もたけなわという頃合いにそれは現れた。最も計ったようにフラグを立てた挨拶であったのだから至極当然である。


 海から何かが上がってきて山波達の方に砂を体にこすり付けながらアザラシのように這ってきた。

 それは見た目5m程の首長竜であった。首が長く足?は4つあるがそれらは完全に鰭のように平たかった。

 山波は図鑑で見た首長竜をまず思い浮かべた。こちらに近づきながら、クワー、クワーと何か言っている。


 ジョルジュとスミレンが近くに置いていた剣と弓を構える。

 緊張が走る。

 しかし山波は何やら落ち着いていた。


「よし、ライエ話してくるんだ。重大な任務だぞ」

『がうがう(りょうかいっす)』


『クワ~クワー』

『がうがう』

『クワックァ』

『がうがうがう』


 なんだか既視感デジャブがある山波である。小熊の時と同じである。まさか一緒についていきたいというのだろうか?


 ライエの翻訳が終わった。この首長竜はまだ生まれて2年程なのだそうだが、この子の母親は優に150年ほど生きているらしい。本当は母親が来て挨拶をしたかったが、もし、母親が陸地に上がろうとすれば、自分の体重を支えられず、内臓がつぶれて死んでしまうとのことで挨拶は海の上からしているらしい。つまり挨拶をしに来ただけのようだ。


 で、海の遠くを見ると、確かに首が出ている。良くわかるネス湖の怪獣のように。

 なぜ? 挨拶をしたかったかいうと、以前山波にお世話になったことがあるらしい。瀕死の状態であった自分を山波が助けてくれたというこである。

 山波は相手の挨拶に片手を振って返礼する。挨拶された内容については腑に落ちないのだが。

 すると、その巨大な生物は海の上に半身を持ち上げて喜びを表していた。坂の上で見えていたのはこの生物だったのだろう。

 遠くからみても半身だけでも巨大であるのがわかる。それが一旦海の上に出て波しぶきを上げたのだ。当然のように大きな波がこちらに向かってくる。間違いなくバーベキューを行っている場所まで到達するし飲みこまれるだろう。

 山波はまずい。と考え。


「アーク、あの波を凍らせられるか?」

「やってみる」


 山波はアークトゥルスに指示したのち、皆を砂浜から遠くに逃げるように指示を出す。ジョルジュがメンカとリナンを両脇に抱えて走り出す。イリスはアストルを抱えて、他のみんなもそれぞれ個別に走り出す。

 アークトゥルスは魔法を詠唱してから放つ。しかし、アークトゥルスの魔法では力不足だった。一部がわずかに凍っただけで波はこちらに来る。

 山波は魔法を放ったアークトゥルスを即座に御姫様だっこをして砂浜を走り出す。車やバーベキューセットは諦めるしかない。

 しかし、砂浜に波が到達する間際に凍り始めていき、砂浜がまるで防波堤のように盛り上がり、波が来るのを防いでいた。

 何事か起こったのか。アークトゥルスの隠れた真の力が開放されたのだろうか?


 山波はアークトゥルスを降ろしその現象を見ていた。やがて凍った波がその場で崩れると同時に盛り上がった砂浜も崩れていった。海の波間に凍った部分が陽に反射して漂っているのがわかる。


「危なかった。アークやるなぁ。助かった」

「いいえ、これは私じゃない。たぶんこれは……」

「まあ、いいじゃないか。それにしてもあの生物、喜ぶのはいいが勘弁してほしいな」



『がうがうがう』

『クワック』

『がうがう』

『クワ~~』


 ライエと小さな首長竜が話をしている。

 やがて、小さな首長竜が大きな声で、海にいる巨大な首長竜に


『クワ~~~クワクワクワ~~~~』


 と叫び声を上げた。

 すると、海上の巨大な首長竜はしょんぼりしたように、海上に出ていた長い首が徐々に海中に沈んでいった。


『クワクワ』

『がうがうが』


 小さな方が大きな方にダメ出しをして、こちらに謝ってきたようだ。


「まあ、大事に至らなくてよかった」


『がうがう』

『クワクワクワ』


「しかし、首長竜についてまったく記憶にないどころか、ガクルックスに来るのは初めてなのだがなぁ」

『がううがうがう』

『クワックワ?』


「まあ、人違いかもしれないけど、折角陸地に上がってきたんだ、君も食べていくか?」

『がううがうがうが』

『クワ?クワクワクワワ』


 山波は焼きあがっていた肉の串を取り除いて、紙皿に並べていき首長竜の目の前に置いた。

 首長竜は臭いを嗅いでいたが一切れ食べて咀嚼した後飲みこむと、あっという間に皿から肉が無くなった。


『クワクワククワ------』


 山波はそれを見て某漫画の食通が「うま~~~い」といって口が輝くシーンをふと思いだしてしまった。


 危険が無くなったと判断したのかジョルジュもスミレンも緊張を解いた。


「しかし、ゴロウさんらしい」


 ボソッとジョルジュが言った。


 すると、メンカとリナンも緊張を解いて、肉やトウモロコシを首長竜に持って行って、直接、食べさせていた。

 首長竜はトウモロコシが肉よりも好みらしく、芯ごとバリバリと食べていた。しかも焼いたものより生がいいらしい。

 暫くすると『クワーン』と海上から声が聞こえ、それを聞いた小さい首長竜は『クワークワ~』と鳴いてから海に戻って行った。小さい首長竜が戻るときにトウモロコシを5本ばかりお土産に渡した。


「しかし、あれは一体なんだったんだ?」


 今更である。


「あれは海の竜といわれるネックテイルドラゴンですね。滅多に陸には近づくことは無いのですが、あれが陸地に近づいた場合、漁の船は出港しません。温厚なので襲ってくることはありません。2~3日で遠洋に消えていきますので、その間は漁は休みにするらしいです」


 流石、博学パルメである。


「なるほどねぇ」


「それよりも、ゴロウさん! いったいいつお世話したんですか? しかも150年も生きているネックテイルドラゴンを。ま、まさか私より長生きしているとか?」


「落ちつけアーク。私は今回の旅行で初めてガクルックスに来たんだぞ。世話なんかできるわけないと思うが?」


「そ、そういわれれば」


 山波はなぜ一部の魔物がこのような行動に出るのか理解できなかった。



一体誰の魔法でしょうか?


では次回アップは、次の台風で。(嘘ですごめんなさい)


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