第31話 MirrorMirror
雨の為に出発できないのは山波達だけではなかった。
グレフォースもその一人である。そこでグレフォースから山波達に提案があった。
断る必要性を感じない提案を受け入れる。その結果……。
宿に行くと食堂にグレフォースがいた。
「グレフォースさん、おはようございます。王都には……。この雨では戻れないですね」
「おお、ゴロウ。おはよう。ああ、雨が止むのを待って王都に戻る予定にしてる。そうだ、ゴロウもこの雨では今日は移動は難しいと思うんだ、そこで今日の昼食を私が作ろう。あ、でも、厨房を借りることができるかな」
「それは願ってもない、今から車にみんなで戻りますので後で声をおかけします。まだここにいらっしゃいますか?」
「おお、それなら待ってるよ」
山波は部屋に戻り、みんなに車に移動してほしいと伝えた。
部屋にいたのはジョルジュとスミレン以外の全員だった。
食堂に降りて、グレフォースの事を皆に紹介した。
「まさか、女王専属のコックのグレフォースさんですか?こんなところにいるとは驚きましたわ」
「専属のコックは辞めることにして、自分の店を開くことにしているんだ。結婚してな」
「まあ、それはおめでたいですわ。でも、よく女王様が許可をしてくださいましたわね」
「困難な道のりだった。本当に」
グレフォースは遠い目をして天井を見上げている。
「後輩のコックも育ってきたし、ゴロウのおかげで何とか許可も得られそうになった。あとはあいつらに任せることにしたんだ」
「そうですの」
「それでグレフォースさんに今日の昼ご飯を作ってもらおうかなってさっき話をしていたんだ」
「それは素敵ですわ」
「そういうことでこれからグレフォースさんにも車に来てもらって調理できるか見てもらおうかとおもっている」
山波はそういって、メンカとリナンにキャラクターの描かれたポンチョをそれぞれ着せた。
それを見たイリスの行動はここでは省かせてもらおう。とにかく狂喜乱舞という言葉が当てはまる。
「ライエはこれを着てくれ、足は汚れるのは仕方がないが濡れるのは嫌だろ?」
『がうう(わかったっす)』
困ったことにメンカとリナン以外に、アークトゥルスとイリスがポンチョを欲しがった。
だが予備として持ってきていたものはいずれもサイズが小さいので着れないと言ったのだが他の事に使いたいらしい。ここで揉めていても仕方がないので、山波はイリスとアークトゥルスにそれぞれ渡した。
ところが山波が傘を差した途端にイリスとアークトゥルスが傘を使いたがった。こちらの人は基本、雨の日は雨用の皮ポンチョを使っている。傘自体が無い為そのため傘に興味を持ったようだ。
傘2本をポンチョを着たメンカとリナンに使わせる予定だったが、イリスとアークトゥルスに渡して、メンカがイリス、リナンがアークトゥルスと手をつないで一緒に車に向かった。
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車に到着してからてんやわんやと大変だった。
まず、メンカとリナンが着ているキャラクターのポンチョを、イリスが脱がせたがらなかった。
ついで、濡れて汚れたライエがシャワー室直行を嫌がった。足元だけと洗うからということで納得してもらった。 他にもイリスとアークトゥルスがポンチョの柄で張りあったり、何気にスイナが助手席にいたアストルを抱きかかえてそのまま助手席を占領していた。
一先ず落ち着いたところで、グレフォースにIHのキッチンを見てもらったのだが火加減が分からないということで、簡単に使ってもらった。火もないのに熱くなることに驚いていた。IH一口だけでは不足ということで、カセットコンロを取り出し使って見せた。
「火力の調整ができるのか、便利だな。俺の店用に欲しいくらいだ」
「カセットボンベのガスが無くなると使えなくなるから無理だとおもう」
「そうなのか」
その後、食材を冷蔵庫で見てみたり、調味料を手で舐めてみたりした結果、一部の食材を町に買いに行くことになった。
これにはパルメが付いていくとのことで任せることにした。
車に残ったみんなには映画鑑賞をしてもらう事にした。
上からスクリーンをおろすことでキッチンと間仕切りになり、そこに後部屋根にあるLEDプロジェクターから画像を流す。
流す映画は7人の小人のとともに眉毛の特徴的な姫様は……。題名はMIRROR MIRROR。
映画が後半に差し掛かるとともに、良い匂いが漂い始め、映画はラストシーンに。
そして、皆が一息ついたときに、「できたぜ」というグレフォースの声。
山波も一瞬一連のエンターテインメントかと思ったぐらいである。
間仕切りのスクリーンを上に収納し、テーブルを設置する。
用意された料理はどれも上品であり、繊細でありながらボリュームがあり、流石王宮で料理人をしていたことをうかがわせる。
本人によると、山波の車の中にあった調味料がほとんと完成されたものであるので、その調味料を組み合わせてのに苦労したが、おかげでより味を繊細なものにすることができたという。
調味料も欲しがったが、補充できなければ店で使えないだろうという説得により諦めてもらった。しかし、いくつかの調味料は味の研究に使いたいということで、昼食のお礼ということでグレフォースに渡した。
それらの調味料が作れるようになれば、ガクルックスの料理の世界も広がって行くことだろう。
車の外は、まだ雨が降り続いているが、雷鳴も遠のき徐々に小降りになってきている。
食休みをした後は、勉強がてらにトランプを用意し、ガクルックスの数字と記号――ハート、スペード、クローバー、ダイヤ――をパルメに書きいれてもらいいくつかのカードゲームを楽しんだ。
7並べではメンカが、神経衰弱ではリナンがそれぞれ優勝した。
メンカは7並べのような作戦のあるもの得意で、リナンは記憶力を必要とするゲームが得意なようだ。
ババ抜きではイリスとアークトゥルスが常に最下位を争っていた。
3時のおやつには、それぞれにアイスを渡した。
山波は途中からやってきたジョルジュに将棋を教え、それを楽しんでいた。こちらの世界にも将棋に似たボードゲームはあるらしいのだが、ゲーム板が無い為遊べなかった。
夕方になると雨もすっかり止み、青空が出てきた。夕日が出ている反対側では虹の橋が2重にでき、皆の目を楽しませてくれた。
この様子なら明日は出発しても問題ないだろうと考えた山波であった。
みんなで明るいうちに町の食事処で食事を済ませ町を歩いている。
やがて消えゆくことを許されなかった雲を赤く染めた陽の光も沈み、静かに夜の帳が下りてきた。
夜の空をゆっくりと見上げることをしなかった山波は広がっていく夜の空に併せるかのように徐々に増えていく星の明かりを堪能した。
「で?なんでアークトゥルスとイリスがここにいるんだ?」
「そそれは、パ、パルメに許可を得ましたわ」
「私は宿が満杯で、泊まるところを確保できなかったので」
「アークトゥルスさん、それであれば私の宿であればもう一人泊まれますわ。どうぞそちらにお行きなさいな」
「なによ、あなたこそ泊まれる場所があるのに、なんでここにいるのよ」
「「い゛~~」」
「こらこら、いがみ合うなら出て行ってもらうぞ」
「「ごめんなさい(ですわ)」」
「まったく、仕方がないか。じゃ私は上で寝るけど喧嘩するなよ」
山波はバンクベッドを引出し寝る場を確保する。バンクベッドは全体に50cmくらい電動で立ち上がるので圧迫感はなくなる。もちろん立ち上げなくても使用は可能だ。難点をいうと上がったり降りたりするのに簡易的な階段を使うのでそれが使いにくい。
ライエは助手席と運転席のベンチシートを確保し、アストルは山波と一緒にバンクベッド。身長の低いメンカとリナンは車の向きに対して横に後方に設置できる簡易2段ベッドの上段を設置し――流石に通常ベッドで4人はキツイ――そこに寝ることになった。今まで寝ていたベッドはイリスとアークトゥルスが使うこととなる。
「「こんなはずでは(わ)」」と2人は嘆いた。
しかし、山波も1人での旅行なのでここまでの車は必要ないはずであるのだが、そこは50代、そういう物に憧れるのである。大抵は1人の場合そこまでは必要ないのであるが。
やがて昇ってくる陽が山波達を起こすまで、イリスとアークトゥルスは静かに眠っていた。
評価、ブックマークありがとうございます。
小心者の為、見ないようにしていたのですが、PVも10,000を超えるとうれしいものです。
もうそろそろ第三章も終了になります。




