第29話 風雨休を告げる
コックのグレフォースと男同士の約束を行なった山波
そして次の街がアヴィオール街である。
魚料理にワクワクを隠し知れない山波であったが、風雨休を告げる……。
山波は二度と呪に悩むことはなくなった。
しかし、あの呪いもいわばガクルックスという異世界の範疇になるのではないか?
だが、呪は呪。気分のいいものではない。
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目覚めた山波はメンカとリナン、ライエにアストル達が山波のベッドで寝ているのに気が付いた。
「どうしたんだ? こんなこと今まで……。あったな。向こうに行ったとき」
その時、外からゴロゴロゴロという音が聞こえてきた。
山波がベッドを抜け窓を開くと雨が降っていた。しかも土砂降りといえるような雨であった。
「雷か。今日はもう一泊するかな?」
今日一日車を走らせれば魚料理にありつけると考えていた山波であったが、無理をしてまで移動をする必要はない。魚料理は逃げないのだ。
「ゴロウおはよう」
「ああ、おはようメンカ」
ゴロゴロゴロと再び音がした。
するとメンカがベッドを抜け出しゴロウに抱き着いてきた。
(なるほど、私のベッドにいたのは雷が原因か)
山波はメンカの頭を優しくなでてあげた。
いつもはお姉さんっぽいが、そこはまだ7歳の子供である。雷が怖いのも同然である。
ドシャ~~ン
メンカはさらに山波に強く抱き着いた。
時計を見ると6時を過ぎたところだがこのまま寝かせておいても仕方がないが、せめて雷が通り過ぎるのを待とうかと思った矢先、ドアをノックする音が聞こえた。
ドアを開けるとアークトゥルスが涙目で、
「ゴロウさん入ってもいいですか?」
と、枕を持ちながら廊下に立っていた。
「ああ、まあどうぞ」
山波はアークトゥルスのベタな格好を見て一瞬笑いそうになったが部屋に招き入れた。
「なんだ、雷が怖いのか?」
「こわぅくなんてないです。おへそを隠しておげばだいじょうぶです」
(誰だ、そんなことを教え込んだのは)
山波はまた女王がらみなのだろうかと考え、そこにつながるムドウタケルという存在に思い至った。
「ほら、アークはみんなが寝ているベッドにいきな。メンカはどうする?」
山波をがっちり掴まえているメンカはフルフルと頭を振った。
グラガッシャ~~~ン
山波も吃驚する音が近くで聞こえ一瞬体が強張った。
なおさら強く締まるメンカの腕。
山波はメンカを抱きかかえみんながいるところに運んだ。
「ほら、ここにいてあげるからメンカはライエに掴まってな」
メンカをライエに任せその場で頭を撫でてあげる。
するとリナンも起きだして山波の体をつかんできた。
「まったく、2人ともまだまだ子供だな」
当然であろう、なんといってもまだ7歳である。
山波は2人の頭をそれぞれ撫でながら、雷の音と雨が降り注ぐ音を聞いていた。
するともう一つ頭が現れて物欲しそうな涙目がこちらを見ていた。
「はいはい、アークもか」
(まったく、アークは111歳だというのに)
『ク~ン(すごい音マ)』
アストルが山波が座っているところに近づいてきて背中に抱き着いてきた。
「アストルもかぁ。ライエだけだな我慢しているのは」
ライエを能々見ると、尻尾は垂れ下がり、耳を前足で押えるようしていた。
(なんだ、ライエもか)
それらの様子を見ていると、モソモソとメンカがライエのお腹の下に頭を入れ、リナンもそれに合わせて反対側からライエのお腹の下に頭を入れていた。
これはチャンスとカメラを取り出し山波はそれを写真に撮った。
暫くその様子を見ていると再びドアがノックされた。
背中にアストルを乗せたまま、山波はドアを開けた。
「おはようございます。ゴロウさん。朝食に行かないのですか?」
そこには「ですわ」口調ではなく、やけに緊張したというか、硬い感じのイリスが立っていた。もちろんその後ろにはスイナとパルメもいた。
「ああ、ちょっと待っていて、なんだか雷を怖がっていて、あんな状態なんだ」
山波はイリスたちに部屋の中、ベッドの上の様相を見せた。
「は、はいってもよろしいでしょうか?」
「まあ、別にかまわないけど」
「し、失礼いたします」
イリスは山波の世界の某遊園地にある急加速するジェットコースターの如くベッドに向かって行った。
漫画で言うと「ピュー」という擬音がふさわしい。その間に他の2人も招き入れドアを閉めた。
「メンカちゃんも、リナンちゃんも。こわかったの? なんであなたが、この世界の楽園にいるのですか?」
2人に声を掛ける最中に、アークトゥルスを見つけてとんでもないことを言っていた。
涙目のアークトゥルスは、
「いいじゃない、どこにいようが」
「いいわけないですわ、ここは私の楽園ですわ」
アークトゥルスを見たからなのか緊張がほどけたようだ。
「なんであなたの楽園なのよ」
「2人は私の妹のようなものですわ。だからここは私の楽園ですわ」
「なによ、意味のわからないことを」
部屋の中に新たな雷雲が発生したようなものである。
そこに再び、雷が落ちたような音が響いた。
「ひっ」
その落雷の音でイリスまでがライエに飛びついていた。
『がうう(お、おもいっす)』
「まあ、暫くの辛抱だ」
山波はパルメとスイナの方を向き直り、
「パルメさん、今日はもう一泊ここでしていこうかと思います。ジョルジュさんとスミレンさんに伝えていただけますか?」
「わかりました」
「ありがとうございます」
パルメはそのまま部屋から出て行った。
スイナは雷位どうということはないようだ。
もう片方の誰も寝ていないベッドに腰掛けて微動だにしない。
「流石、スイナさんは騎士だけのことはありますね。雷に動じないとは」
「……」
「スイナさん?」
ベッドに座っていたスイナはそのままゆっくりと横に倒れていった。
「スイナさん?大丈夫ですか?」
どうやら先ほどの雷の音で気絶してしまったようである。
毛布を上からかけてそのままにしておくことにする。
「ほら、アストル背中から降りて」
『ク~ン(わかったマ)』
いまだにゴロゴロと雷は鳴っており、時折ゴロガシャ~ン、バリバリバリという音が聞こえている。
「まだまだ雷は続いているなぁ」
『ク~ン(こわいマ)』
「ねえ、なんでゴロウは雷恐くないの?」
アークトゥルスが山波に聞いてくる。
「怖くないってことはないかな。雷についての知識があるから、怖がる必要もないし。まあ、基本外にいなければ安全だから」
「雷についての知識?」
「なんていうかな。雷って電気というか静電気なんだよね。それが溜まりに溜まって空気を無理やり切り裂いて通ろうとするから」
「電気?静電気?わかんない」
「ん~ちょっと体験してみる?」
「えっ」
「確か持ってきていたような」
山波は以前見せた警棒を再び取り出す。
「以前にも、アークに見せたよね。この警棒」
「ええ」
いつの間にかすべての目がこちらを見ている。
「この警棒を、こうやって伸ばして」
警棒が伸びる。
「そして、このスイッチを押すと」
山波が警棒の電流スイッチを押すと、バリバリバリという音がして光りだした。
「通常は何かに触れたら電流が流れるんだけど、こうやってスイッチを押すと見た目で光りだすんだ。この光っているところは、静電気がスパークしているんだ。これが雷みたいなものかな」
「よくわかんない」
「ん~それなら、この発泡スチロールをこうゴシゴシして……」
山波はアークトゥルスに近寄って、
「そりゃ」
その手に触れる。
その瞬間バチッという音と光がして、山波とアークトゥルスがお互いに「ひやっ」と声を上げる。
「これが静電気というもので、今の場合は私の体に貯まった電気というものが、アークの体に触れることでアークの体に流れて行った。雷はこれをもっと大規模にしたものだよ」
「やっぱり、分からないかな」
「そうか、今度わかりやすい教材を使って説明するかなぁ。でも時間かかるんだよな」
実際にまともに電気から説明すると膨大な時間を費やすことになる。
何しろ豆電球を光らせる基本的な知識を持っていないのだ。
「でも、このバチッっていう音を大きくすると雷の音なのね」
「ま、そういうことになるかな」
「ほら、みんな、目が覚めたのならいつまでも布団に入っていないで、起きて食事にしよう」
山波は、みんなの目が見開いてこちらを見ていることに気付きそういった。
雷はまだ鳴っていて、雨も降っているがぞろぞろとそれぞれベッドから起きだした。
「ほら、アークは泣きながら持ってきた枕を部屋に持って帰りなよ」
「な、ないてなんかないもん」
そういって枕を山波から奪い取ると自分の部屋に戻って行った。
「ほら、スイナさん」
山波はスイナを起こそうと顔をパチパチと叩いて目覚めさせた。
それから少ししてパルメも戻ってきた、着替えの終わったアークトゥルスと一緒にみんなで1階の食堂に向かった。
雷を知っているようでもいざ説明するとなるとなかなか難しいですね。
特に電気について知識が無い人にどのように説明するのがいいのか。
雷様が太鼓をたたいて空を光らせ稲光を発生させているという方が簡単でいいですね。
不定期更新で申し訳ありません。もう1話続けてアップします。その後暫く間が空きます。お許しを。




