第28話 被害者の会?
アルナイル町で出会ったコック。女王の過酷なミッション達成が結婚の条件
山波の行動が第三者に与える影響の大きさ
山波がミッション達成のためにできることとは?
ユージンたちと別れて車を走らせていた山波は、山波の世界にいた吉田氏や兼松氏ならばカレーをこちらに持ってくることが可能ではないのか? そうすればもっと広がっているはずだと考えた。だが、お酒の件もあり、むやみやたらと此方の世界に持ってこないようにしているのかもしれない。果たしてルーを分けてしまうのは良かったのだろうか? まあ、こちらで試行錯誤しながら作っていく分には問題ないだろう。
車を走らせながらそんなどうでもいいことを考える山波であった。
2時間程走らせ、一旦休憩を行った。残り1つの村を超えると、ユージンから聞いていたアルナイル町に到着する。
車の移動中は暇であろうと、山波は山波の世界でタブレットサイズのボードを買っていた。
何の役に立つか分からなかったが、それをメンカとリナンに休憩の際渡してみたところ食いついてきたのは、イリスとアークトゥルスであった。
「ゴロウさんこれはなんですの?」
「これはここに文字を書いて、このボタンを押すと消えるおもちゃだよ」
「これがおもちゃ? ですの」
「車の移動中に暇そうだったから、これで絵をかいたり文字を書いたりして遊べないかなって思って。あっそうだ、もし良ければイリスさん。メンカとリナンにこれを使って文字とか教えて貰えますか? もちろん本格的ではなくていいのですが2人が楽しく覚えられるように、文字以外でも算数あ、足し算や引き算などでいいので。暇な時間を使ってもらえれば」
「私が2人に? も、もちろん喜んでお受けしますわ」
「ありがとうございます。やっぱり読み書きソロバンっていうのは基本ですから」
「ソロバン?なんですのそれは」
「ああ、計算に使用する機械かな。要は計算が大切っていう意味になるかな」
「わかりましたわ2人の事はおまかせください」
「もし他に教材が必要であれば、何か考えますから」
「あ、わたしも、わたしも教える」
「これは私がゴロウさんに任されたのですわ。あなたの出る幕はないのです」
「う~そんなぁ。ゴロウさんわたしも、わたしもなにか」
「う~ん、アークは……。そうだ」
山波は以前ギルドでもらった初心者ガイド本を取り出し、
「2人は冒険者ではないとわかっているのですが、薬草の種類や動物の種類などをこれを使って教えてあげることはできますか? 冒険者でなければ無理というのであれば仕方がないのですが……」
「やります、教えます。今は元冒険者ギルド職員です。冒険者ギルドの掟など無視です」
(大丈夫だろうか?)
「それじゃお願いしますね。時間はイリスさんと相談してもらえます? それと30分やったら5分以上の休憩を入れてください。イリスさんもそれでお願いしますね」
「「わかりました(わ)」」
山波はアークトゥルスに任せるのは一抹の不安があった。だがイリスは冒険者ではないので薬草や魔物の事には疎い。いまはそれぞれ得意なことに任せるしかなかった。といっても楽しんでもらえればそれでいい。
こちらの世界ではいつごろから勉強をするのか分からないが7歳といえば既に小学校に入っている歳である。
2人にも説明して、学んでもらうことにした。
休憩を終え再び車を先に進める。
アルナイル町に到着したのはさらに1回休憩した16時頃だ。昼食が早かったので休憩を2回取った割には早くに付いた。
車が町に近づくと蔓性の植物が左右に多く見えた。蔓性とはいっても5cm位の蔓で太いものは10cm位だった、もちろんその位になると蔓と言っていいものか疑問は残る。
そして町に着いて驚いたのは植物の蔓を使った村の壁である。まるで編み物のように縦横に蔓を編みこんで壁にしている。
山波達は早速個別に宿を取り、18時頃冒険者ギルドに集まりそこから一緒に食事をすることにした。
宿を取った山波はメンカとリナン、ライエ、アストルを引き連れ町に繰り出した。
町と言う位なのでそれなりの大きさがあり人も多く歩いていた。
食事までさほど時間が無いので買い食いは控えながら歩いている。
ちなみに、ライエの上にはアストルが鎮座し、山波の左右にはメンカとリナンが手をつないで歩いている。
「なんだかやたらと視線を感じるんだが」
山波達は街の人から何気なく見られていた。
山波にとってメンカとリナンの服は見慣れたものである。しかしこちらの世界ではとんでもない代物であった。
ジーンズを足首付近まで捲って、ニットのシャツをメンカは薄いカーキ色、リナンは薄いグレーをそれぞれ着ている。
(やっぱりその格好は目立つのかな?)
勘違いである。抑々山波のズボンは迷彩柄のチノパン。上はビールの絵柄が書かれたTシャツ。ちなみに日本語で『この一杯のために』と書かれている。その上に黒のジャージジャケットをひっかけている。
そのような格好をして入れば山波の世界でもチラ見の的であろう。
そのように痛い目で見られているのだが山波本人は気が付いていなかった。
その時後ろから声を掛けられた。
「おい、お前」
すたすた。
「おい!!」
スタスタ
「きさま、無視するんじゃねえ」
「ライエ」
『がうう(めんどうっすね)』
ライエが振り向き唸った。
後ろにいた体つきのいい男は尻から倒れこんでしまった。
(ライエが振り向いただけで、尻から倒れるなんて一体何をしたかったんだ?)
「何か用でですか?」
「てめえふざけるなよ」
相手が立ち上がろうとしたところライエが再び『がるる』と唸った。男は「ひぃっ」といって後ずさった。
「一体何の用です?」
「女王様が、……いや。お前はすぐに眠ることができるいい薬を持っているそうじゃねえか」
(また女王様の仕込みですかね)
「女王様から頼まれたのですか?」
「ああ、……。いや違うぞ、女王様からゴロウという特Sの旅行者からよく眠れる薬を手に入れてこいなんて頼まれてねえ」
(なんだこいつは)
(それなら王女が直接頼めばいいのに、寝不足なら薬位売ってあげるのに)
「手に入れてこいですか。売ってあげてもいいですけど高いですよ?そうだなぁ~~。金貨1枚で1錠お譲りしますよどうですか?」
「た、たけえ」
「でも女王なら支払えるでしょう?」
「そうだな、女王様に頼まれたんだから払えるよな? 後で請求してもいいよな」
「やはり女王絡みか。なんだかあんたらも大変だな」
「わかるか? 俺だってよ、こんな仕事嫌だって断ったんだよ。そしたら愛しのメリーちゃんとの結婚は認めねえとか言いやがってよ。親でもなんでないのによ、女王様付きのメイドで結婚して仕事辞められると困るとか言ってさ。結婚を認める代わりにゴロウって言う人から睡眠薬を取って来いって言われてよ。早馬飛ばしてこの町に来たんだけどさ、まさかフレイムウルフが護衛でいるなんて聞いちゃいねえよ。俺は普通のコックなんだぜ。結婚したら一緒に店やろうって約束しているのに」
「なんだかな。女王も酷いな。よし、それなら一箱あげるよ。それで女王に金貨10枚で売って店の資金にしたらどうだ?」
「ほんとうか? 本当に? ありがとう。お前いいやつだな」
(そのうち女王被害者の会でも設立されるんじゃないのだろうか?)
「気にするな。困ったときはお互い様だろう。その店ができたら食事をさせてもらいたいな」
「おう、任せておけ」
山波は男を立ち上がらせて、男同士の握手をし、小さな布製の鞄から薬を取り出し1箱未使用の薬を男に渡した。
「あ、挨拶がまだだったな。俺はグレフォースって言うんだ。あんたはゴロウさんで間違いないんだよな?」
「ええ、ゴロウです。お店の開店楽しみにしてますよ」
「ありがとう、本当にありがとう」
こうして山波とグレフォースに友情が芽生えた。
グレフォースの愚痴を聞いていたら18時近くになっていたので冒険者ギルドに向かうことにした。
ギルドで一同が集まってから、イリスが良いお店があるということでそこで夕食を食べることにした。
食後にはそれぞれの宿に向かった。
部屋に入って山波は2人に聞いた。
「そういえば今日車の中で勉強したんだって?楽しかったか?」
「うん、わたしにイリスおねえちゃんが字の書き方と計算の仕方を教えてもらった」
「わたしも」
「そか、アークトゥルスはどうだった?」
「薬草とか魔物の種類を教えてもらった」
「そっか、字の書き方は難しくなかったか?」
「ん~少し」
「でも、計算の仕方は楽しかった」
「そっか、メンカもリナンもこれからも覚えることは多いからな。がんばれ」
「「うん、がんばる」」
山波はいつものように薬を取り出しそれを飲んで眠りについた。
なにも一箱しか買ってこない訳ではなかったのである。
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???「薬まだ残っているじゃない。2人とも失敗したのね」
???「グレフォースは失敗しても結婚を認めないわけじゃないし、鞭打つために言ってみただけなのに……。なによ、あの言い方……。まるで私が悪者じゃない」
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またまた、台風が来ています。避難は早めに




