第27話 新たなトラブルそれは
トラブル。それは必ずしも自分たちに降りかかるものではない。
だが、トラブルに遭った人を見かけた場合、それが自分たちに絡んでくるものもあるのである。
さて、他人のトラブルに山波はどのように対応するのであろうか?
車は走るよどこまでも。毎回、目新しい出来事は起こらない。
しかし何かしらトラブルが発生するのもこれまた真理である。旅行記にはそう書かれていた。
トラブルに合うのは必ずしも山波一行というわけではないが…。
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村を出て2つほど小さな村を通り過ぎたところでそれと出遭った。
前にとまっている馬車から降りた人だろうか手を振っている。
「ゴロウさん、車を馬車の前方で止めてくれないか」
山波はジョルジュが言うように、馬車を通り過ぎたところで車を停止させた。
「なんだろう?」
「俺が行って様子を見てくる。悪いが待っていてほしい」
ジョルジュがそういって車から降り馬車の方面に走って行った。
スミレンとアークトゥルスも車から降り、その様子を見ている。
こういう場合、山賊が一般人に成りすましていることもあるという。
やがてジョルジュが戻ってきて、
「何やら病人が出たそうだ。薬かポーションが無いか言っているのだが」
「それなら私が見てみます。治癒魔法も使えますし」
「そうか、一応私も救急箱を持っていこう」
「スミレンは車にいてくれ」
「わかったわ」
こういう時のジョルジュの指示は的確だ。
「ライエもついてきてくれ」
『がう(了解っす)』
山波はライエにそういうと一緒に馬車まで向かった。
3人と1匹で馬車に着くと、馬車の中で1人の女性が苦しんでいる。
「いったいどうしたのです?」
「突然苦しみまして」
アークトゥルスが様子を見る。
「残念だけど私の魔法では対応できそうもないわね。ポーションがあれば苦しみも抑えられると思うけど」
「治癒魔法じゃ治らないのか?」
「ええ、私の魔法は治癒魔法でも外部の傷の治療に特化していて、切り傷や刺し傷専用と言っても過言じゃないの」
「なるほどね、治癒魔法も万能じゃないのか」
「病気治療はねぇ。病気の場合は薬草を使ったポーションの方が効率いいのよ」
「どれちょっと見せてみて」
山波はアークトゥルスの治癒魔法が外科的な能力に特化していることを理解した。
こちらはどちらかというと内科に分類される物だろう。
体温計を出して脇に挟んでもらう。次に指にパルス計を挟む。最後に手首に血圧計を装着する。
山波も50を過ぎているわけで、救急箱にこの程度は入っている。
血圧がやや低いものの、体温や脈拍、血中酸素飽和度などは普通だった。
血圧は計り方に問題がある可能性があるが、それ以外は異常な数値ではない。
「これだけ調べた限り、異常はないですね」
「そ、そんな、こんなに苦しんでいるのに」
「ちょっと触りますね」
山波は女性の腹部を肌蹴て、「どの辺が痛いですか?」と聞いた
すると、女性は腹部を手で指さした。
「何時ぐらいからですか?」
「今朝から、痛くなっていつもは我慢できるんですが」
「いつもは我慢できる?」
「はい」
「もしかして、生理痛?」
「ええ、たぶん」
流石に生理痛の薬は持っていないが、痛み止めであれば入っている。しかし。
「なあ、アーク」
「なんですか?」
「生理痛ってアークもなるだろ?」
「生理痛?ええ、でも痛みはほとんどないですよ?」
「そうか、ジョルジュさん済みませんがスミレンさんを呼んできてもらえますか?」
「おお、ちょっと待っていてくれ」
やがてスミレンさんがやってくる。
「申し訳ない、どうやら生理痛がひどいようなのだが、薬はありますか?」
「私は酷くならないので、でも、生理痛ですか?でここまでひどいのは初めてみました」
「本人はいつもよりひどいと言っているのだが」
「ん~」
スミレンはおもむろにお腹をおす。
「ん~~~~」
「生理痛ではないですね」
「?」
「腹痛でしょう?」
(腹痛でも原因は色々あるのではないだろうか? 痛み止めだけ渡しておくかな。盲腸や膀胱炎、尿管結石とかあるしな)
「そうですか、それじゃこの薬を飲んでもらって様子を見ましょうか?」
山波は定番の痛み止めを救急箱から取出す。ロキソニンではなく生理痛や頭痛で有名な薬だ。
ロキソニンは山波が以前尿管結石になった時に処方してもらったものだ。
手術の日程が決まるまで処方してもらっていた物の余りである。
手術は衝撃波破砕によって3日程度で退院している。入院まで1ヶ月以上あったが。
山波は薬を1錠取出し、水とともに女性にのませた。
「1時間ぐらい様子をみてください。ついでにこちらも食事にしようか?」
「そうですね少し早いですが問題ないでしょう」
山波は車に戻り、
「この辺で食事をしようと思う」
「ゴロウ様、先ほどの方はどうなされたのですか?」
「本人は生理痛と言っているのだが、ほかの女性がよくわかってなくて……。痛め止めの薬は飲ませたんですが。そうだパルメさんならわかるかもしれませんね、ちょっと見てもらえますか?」
パルメは山波に言われたように女性の様子を見た。
「ああ、これは」
パルメは女性に何かをいい、女性が指を数本折り曲げ数えるようにしてそれに応える。
「何かわかりましたか?」
「ええ、でも秘密ということで……。それより救急箱を見せていただけますか?」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
山波の救急箱は大きく、先ほどの血圧計、体温計など必要なものは入っている。入っていないのはAEDくらいだが、AEDは車に常設されている。何故か山波が買う時にAEDは付いていた。
そんな中から、とある薬を選んだパルメはそれを女性に処方していた。
今回はパルメさんに女性の様子を見てもらっているので、食事は山波が作ることになった。
「何にするかなぁ。ライエはおにぎりだろ、アストルはライエ用に買ってきた乾燥タイプの餌が好きみたいだし」
山波がアストルに何を食べさせようかと向こうの世界から買ってきた乾燥タイプの餌を与えたところ、『ンマ~クマ~』と喜んで食べていた。
「まあ、またパスタでいいかなぁ~、う~ん」
人数が少なければ凝ったものを作れるのだが、何しろ人数がおおい。そんなに凝った料理は作れない。
それでいて量がそれなりのもの。
「あるじゃん」
早速、玉葱を切り、ジャガイモを切り、肉をきる。肉は鶏肉にする。業務スーパーの冷凍物だが味がしみてしまえば問題ない。炒めて、水入れてなど手順は踏んでいく。あくまで山波の手順だ。
こうしてできたものはカレーである。カレーといえばラッキョだろう。漬物のラッキョを取り分ける。
いい匂いが辺りにというか、車の中にしてきた。
それ以外にも、キャベツを手でちぎって盛っていく。
スープは別に作る。インスタントの卵スープを数個、それに増加するわかめを鍋に入れていく。
デザートは冷蔵庫にあるこれまた業務用の桃缶だ。だがまだ出さない。
やがてご飯も炊きあがり準備完了である。
既に準備されているテーブルに出来立てのそれらを持っていく。
皆の分を取り分けて、スプーンを用意して完成である。
「なにか美味しそうな匂いがしますわね。なんですこの茶色いのは?」
「カレーだよ。うまいぞ」
「「おなかすいた」」
全員が席に着いた、もちろんパルメもである。
「それじゃ食べようか。いただきます」
「「「いただきます(ですわ)」」」
近頃はイリスも2人と同じようにいただきますをする。
食べ始めてわかる、出し忘れているもの。水が無い。
山波が立ち上がって水を出そうとしたところ、パルメが颯爽とコップと水をそれぞれの目の前に置いていく。
「パルメさん。申し訳ない。気が付かなくて」
「いえいえ、お気になさらないでください」
それから椅子に座って皆と一緒に食べ始めた。
ジョルジュやスミレン、アークトゥルスがおかわりをし、子供たちもおかわりをした。
結局、みんながおかわりをして満足そうにしていた。
それでもまだ残っている。
ラッキョは好き嫌いが分かれた。特に好んで食べていたのはジョルジュで「これは酒に合いそうだ」と言ってコリコリ食べていた。そしてアストルもこれが気に入ったようだ。『ンマクマ(おいしい)』と言いながら食べていた。
(熊にラッキョを食べさせていいのだろうか?)
アークトゥルスが言うには、アストルは魔物に属されるので問題ないようだ。魔物はほとんど人間と同じものを食べても問題は起きないらしい。ただ、人間の食べ物を魔物は作れない為、他の動物を食べたり、木の実や果実、茸などを食べたりするらしい。
一通り皆が食べ終わったところで、山波は車にもどり、冷蔵庫の中にある、桃缶からとりわけしていた桃が入った小皿をデザートとしてテーブルの上に並べていった。
昼食が終わり片付けが終わったころ、馬車の男女が近くまでやってきた。
「先ほどは身知らぬ私たちのために薬まで処方していただきありがとうございます。私はアヴィオール街で商店を開いていますユージンと申します。こちらは私の妻メルダです」
山波は椅子から立ち上がり、
「これはご丁寧に、私はゴロウといいます」
それぞれが個別に挨拶をして、最後に、
『がうう(ライエっす)』『ク~ンマ(アストルっま)』
2匹が挨拶すると、「ひっ」「あらかわいい」とそれぞれ反応があった。
もちろん言葉は通じない。
「メルダさんは良くなられたようで」
「はい、お恥ずかしいのですが」
「それで、お薬代として少ないのですがこれをお受け取りください」
ユージンは金貨1枚をゴロウに手渡してきた。
「いやいや困ったときはお互い様です」
「ゴロウ様こういう時、相応の対価を受け取らないと裏で何か企んでいると思われてしまいますよ」
「えっ、そんなことはこれっぽっちも」
「こちらの世界ではボランティア精神なんか称賛されませんよ」
(な、なんでパルメさんがそんなことまで)
「そうですかそれでは受け取っておきます」
ゴロウは金貨を受け取った。
「それにしてもよく効く薬を持っておられますね」
どの薬をパルメが処方したのかは知らない。救急箱を調べれは減っている薬で分かるだろう。
商人であればそんな薬を欲しがるものであろうか?
「いえ、たまたまです。パルメさんがどの薬を処方したのかわかりませんが、本当、良くなってよかったです」
「ありがとうございます。それと先ほどからいい匂いがしているのですが」
「ああ、ちょうど昼時でしたのでカレーを作って食べていたところです」
「カレーですか? 女王様がタケルという人から話だけ聞いていたというあの?」
「あの? それと同一であるかわかりませんが、たぶん間違いないかな。私はその話を知りませんので」
「なるほど、どうも商売になりそうな話には好奇心が勝ってしまって、失礼しました」
「どうです、2人分であれば残っているので、食べて行かれますか」
鍋を見ながら山波は2人にすすめる。
「え、よろしいのですか?」
「ええ」
山波は2人、但しメルダに対しては体調を聞いて少なめに盛りつけた。
「ん! これは。おいしい」
「ええ、牛乳とチーズで作ったシチューよりも美味しいわ」
「ゴロウさん、これのレシピを教えていただくことは出来ませんか?」
「教えたいのは吝かではないのですが、これはたくさんの香辛料を使用していて、私はそこまで知らないもので」
「そうですか、残念です」
「ただ、固形のルーであればひとかけら差し上げられますので、それを参考にするのであれば」
「ほんとうですか。いやありがとうございます」
山波はルーを一塊とりわけ、ユージンに渡した。
「この中に香辛料が詰まっているのですが、私はこの作り方を知らないので」
「そうですか、いや本当にありがとうございます」
「いえいえ」
「ところでゴロウさんたちはどちらに向かわれているのです?やはり王都ですか?」
「ええまあ、最終的な目的地としては王都を目指しています」
「なるほど、そうですか」
山波がユージンと話をしている間、メルダはパルメと一言、二言言葉を交わし、メンカとリナンと遊んでいるライエとアストルに近づいてモフり始めていた。
「この先、大きな街はありますか?」
「そうですね。アルナイル町、アヴィオール街、村としては大きいですがアルケナル村やアンタレス村などがありますね」
「アヴィオール街は海に面している街で、魚料理が美味しいですよ。港には様々な船が停泊しています。砂浜もありますので今の時期であれば海に入ることもできます」
「へえ、海ですか。魚料理も楽しみだ。ぜひとも行きたいな」
「是非、お立ち寄りください。あ、ちょっと待ってください」
ユージンは馬車に戻り何やら紙ではない巻物を持ってきて、
「もし、立ち寄りましたらこれを店の人に見せてください。ユージン商店といいますので街のひとに尋ねればすぐにわかりますよ」
「そうですか、ありがとうございます」
その後山波とユージンは取り留めもない話をして、山波達は出発することにした。
ユージンはメリダの体調を確認するためもうしばらくここにいるとのことだ。
ここからであれば次の村まで馬車でも2時間程なので問題はないらしい。
ユージンたちと別れて、山波は車を発進させた。
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「調子はどうだ?」
「ええ、良くなったわ、痛みもないし。薬飲んで30分ほどで出るものも出したし。この薬いいわね」
パルメが処方した薬はまだ手元に残っていた。12錠入りで6錠ごとにパックされている。
そのうち半分が手元に残されているが、1錠は使われているが残り5錠ある。
「まさか、本当に体調を悪くするとは思わなかったよ」
「ええ、私も。女王様に頼まれたとはいえまったく」
「で、あれはあったのか?」
「いえ、見つからなかったわ。パルメさんも知らないって」
「そっか。流石にあの車の中に入って調べるわけにもいかないしな」
「ええ。それにしてもあの熊かわいかったわ」
「不思議な人だよな。フレイムウルフやリトルベアを従魔にするなんて」
「ええ、最初にスレイプバッファローに遭ったんでしょ? しかも襲われずに」
「全くだ。だが、女王様にはどのように報告するかだな」
「素直に報告しましょう」
「そうだな。あとはパルメ様にお任せするとしよう」
2人はお互いに走り去った車を見ていた。
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病名は何だったのか。プライバシーになるのでここでは書かないでおきます。
旅行記には憶測ですが書かれています。女王の仕込みはまだまだありそうです。
長くなりました。2話に分けようと思ったのですが無理でした。




