第26話 アリオト村で有名種族と
遂に、小熊まで従魔にしてしまった山波。
このまま移動式動物園になってしまうのであろうか?
そして風雲急を告げる出来事が。
山波は目覚めてガッツポーズをしたかった。
薬を飲んで寝たことで熟睡できたのだ。ゆえに気怠さもない。
疲れもすっかり取れている。こんなにうれしいことはない。さらば呪い。である。
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この世界の宿に泊まって、何やら呪めいた眠りをしていた山波であったのだが、山波の世界で買ってきた薬が功を奏した。熟睡できた上に疲れも残っていない。
隣のベッドを見ると、ライエがメンカに捕まり、アストルがリナンに捕まっていた。
山波は隣のベッドで寝ている2人を起こさないようにベッドから起き上がったが、ライエが起き、アストルが起きたことでこの作戦は失敗に終わった。
「ゴロウ、おはよう」「はう」
「おはよう。ふたりとも」
2人は双子のはずなのだが、明らかにリナンは朝が弱いようだ。今も再び眠りに入りそうだった。しかし、アストルがその顔を舐めたことで二度寝は許されなかった。
山波は朝食を食べてから町の散策をし、10時ごろに村を出ようと考えていた。
宿の食堂に2人を伴って降りたとき既にイリス一行が席についていた。
「おはようございますですわ、ゴロウさん、メンカちゃん、リナンちゃん」
「ああ、おはよう。早いね」
「「おはようございます、イリスおねえちゃん」」
同じ宿ではなかったはずだが、既に出かける準備は出来ているようだ。
そうしていると、アークトゥルスとスミレンが降りてきて、そのごジョルジュが降りてきた。
朝食を摂りながら、今日の予定を話す。
「イリスには言わなかったけど、今日は10時位にここを出ようと思うんだがそれで問題はないかな?」
「ええ、問題はありませんわ」
「私は村を散策するけど、メンカとリナンはどうする?」
「ん~」
「ほら、向こうでお土産持ってきただろう? それを渡したらどうだい」
「!! そうする」
「よし、それで決まりだな」
「ジョルジュどうする?」
「私ですか? そうですね一度ギルドに顔を出しておきます」
「そうか、ならいいかな」
「一体どういう」
「一度、車に戻ればわかると思う」
こうして食事を終えた一行は車に戻った。
そこでの様子を見たジョルジュは、「こんな恐ろしい事に巻き込まれるのは勘弁だ。ギルドに行ってくる」と言葉を残してギルドに向かった。
「ライエとアストルはどうする?」
『がううがう(これに参加はできないっす)』
『ク~~ンクン(御主人に付いていくマ)』
「だよねぇ。それじゃ10時ごろに。って誰も聞いてないか」
山波はライエとその背中に乗ったアストルとともに村の中に消えていった。
さて、どうしてこうなったかと言うと。お土産として持ってきた服で車の中が大変なことになってしまったのである。
そこには男の入り込む隙間が1mmもない。
山波はとても文章に書き記すことは出来なかったようである。
原文ママ
そこは女の世界が広がっていた。恐怖である。この世界では手に入れることのできない服でバトルと化していた。
正に暴風雨が車の中で発生した様相であった。だが、自分が女であったとしたら暴風雨と感じなかったのかもしれない。だが、私は男であった。
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村を散策していた山波は、この村に木彫りの物が多いことに気が付いた。
店先で売っているものも多くは木彫りである。もちろん、生活品である肉やパン野菜、果物、服、生地なども売っている。だが木製の食器などが多く。さらに、明らかに木彫りの土産品なのか像が多いのである。
あるものは宗教の像のようなのであったり、人物像であったり、動物であったり、トーテムポールのようであったりした。動物などは明らかにドラゴンやスレイプバッファローはもとより、兎の頭に角が生えたもの、鹿に似ているが尾が2つに分かれていて長いキツネのようなもの、角の生えた人間、兎の耳の獣人等々。
山波の世界ではフィギュアと言われるような物が多かった。
その中で山波の目を引いたのは熊の木彫り像であった。北海道の土産品として有名なあの魚をくわえた熊の彫り物である。
「なんで、こんなものまであるんだ?」
『く~んくん(私がいるくマ)』
『がうがう(自分のはないっすか)』
店に置かれていた木の像を山波が見ていると、
「おい、あんた。その動物はあんたの従魔か?」
店の中から出てきた人物に声を掛けられた。
「ええまあそうですが」
店の外に出てきた人物を見た山波は驚いた。
髭を生やし、皮の前掛けをした、体が筋肉そのもので出来ているような人物が現れた。
だが、身長はメンカやリナンよりも少し高いだけだ。150cm位だろうか?
「おれはこの店の店主で、かつ、彫像を彫っているガレンというものだ」
「私はゴロウといいます。旅をしてます」
「そうか、道理で見たことの無い顔だ」
お互いに挨拶しつつ手を握った。ガレンの手は肉刺が固くなり山波より指も太かった。
「あなたはもしかして、ドワーフなのですか?」
「ああ、この村はドワーフが多いぞ」
「それよりもだ」
ガレンは一呼吸置くと、
「その熊とフレイムウルフか? を彫刻の題材にしたいのだが、時間はあいているか?」
「そうですね、1時間くらいであればよろしいですけど」
「そうか、それじゃ銀貨1枚でその1時間を俺にくれないか?」
「どうする?」
『がうがう(ゴロウが良ければいいっすよ)』
『クーンクン(いいくマ)』
「2匹ともいいみたいですよ、私も村をぶらぶら散歩していただけですから」
「それは良かった。早速で悪いが店の裏側に来てくれ」
山波たちは店の横にある細い道を案内され店の裏側に回った。
ガレンは山波に椅子をだして座って待っているようにいい、ライエとアストルにポーズを指示していた。
それからきっかり1時間ガレンは集中して木を彫っていった。
見る見るうちに木が削られ像が出てくる。だが1時間で像を完成させることは出来なかった。それでも、ガレンは「よし、これで分かった」といい、山波に声を掛けてきた。
「完成には及ばなかったが、完全に把握した。これが約束の金だ。それとこれも持って行ってくれ」
「え? 銀貨は約束したので受け取れますが、その像はまだ途中ではないのですか?」
「ああ、だが感触はいいものをつかんだ。後は頭の中で覚えた姿形と俺の感性で完成の形が完全に出来た。だからこれはもういらない。逆に残っていると迷いが生じてしまう」
「そうなのですか? それではありがたくいただいておきます」
「今度いつ来るのか知らんが、次に来ることには、2匹の彫像がこの店に並んでいるともうぞ。期待してくれ」
「それは是非見てみたいものですね」
像を手にした山波は店を後にした。
山波は丁度いい頃合いになったので車に戻ることにした。
歩きながら途中まで出来ていた像を見たが、それでも2匹のかわいらしさが十分に出てる事でガレンが相当な腕前の持ち主である事が理解できた。
車に戻ると暴風雨は過ぎ去っており、車の中は静かになっていた。
「ただいまぁ」
「ゴロウおかえり~」
「おう、これお土産だ」
山波は木彫りの像をメンカに渡した。
「あ~ライエとアストルだ」
2人は像を大切そうに抱えて、像とライエ達を見比べていた。
「ゴロウさん。あの像は?」
アークトゥルスの問いかけに山波は、
「ああ、なんか彫刻を作って売っているガレンという人がライエとアストルを題材にしたいって言われてな。試しに彫ったものだよ」
「そうですか、やはりドワーフの目に留まってしまいましたか」
「やはり有名なのか?」
「ええ。珍しいものを見ると彫像を作りたがるんですよ。この村はそういう像で有名なんですよ」
「なるほどね。でもドワーフは鍛冶や採掘で有名だったと思うが、実際は違うんだな」
「あくまでこの村ではっていうことです。他の村や街によっては鍛冶であったり採掘が有名だったりします」
「それってさ、もしかして熊が魚をくわえている像に関係あるのかい?」
「さあ、どうでしょうか」
山波はもしかしてあの北海道の土産に影響されたドワーフがいたのかと思って問いかけたがその辺の事情をアークトゥルスは知らないようだった。
「ゴロウさんあれの完成品はないのでしょうか?」
「ガレンさんが言うには今度立ち寄るころにはできてるって言ってたけど、そういえば今度って何時だろうね」
「分かりましたわ。今度ですわね」
イリスは山波の言葉を反芻しながら「今度」「今度」と言っていた。
その後、ジョルジュが戻ってきて、車の中が落ち着いているのを見てほっとしていた。
そうして車はアリオト村を出発した。
あれ?ドワーフに酒は?




