第22話 アルデバラン街での出発の朝
アルデバランで最後の1泊。目覚めてそこに現れる人物。
そして、増えていく同行者。
王都まで果たして無事に到着できるのか?
翌日、車の中で目が覚めるとメンカとリナンがライエを抱き枕にしていた。
昨日のうちに2人の耳と尻尾は見えるようになり、ライエも元のサイズに戻っていた。
やはり、耳と尻尾があるのとないのとでは、ある方が断然にいい。
コンコンとドアを叩く音がする。
「こんなに早い時間にいったい誰が?」
「おはようございます、ゴロウ様。来ましたわ」
「え? イリスさん? なんでこんな早くに?」
「それはもちろん、メンカとリナンに会うためですわ」
「そうですか。でもまだ寝ていますよ。どうぞ中へ」
「失礼いたしますわ」
イリスは寝ている2人を見て固まっている。
どうやら2人の寝顔に当てられてしまったようである。
その様子を見て山波は、
「ところで、なんでこんなに早く。朝食は食べてきたのですか?」
「そ、それはまだですわ」
「まさか、お屋敷を抜け出してきたのですか?」
「あ、え、そそうですあわ」
声が小さくくなり、しかも噛んでいる。
「では皆と一緒に食べますか? 大したものはありませんが。スイナさんもいかがです?」
「いただかせていただきますわ」
一瞬イリスを見たスイナであったが、「はい」とだけいった。
イリスとスイナをソファーに座らせ、2人を起こさないようにしてもらう。
山波の作戦はいい匂いで2人を目覚めさせるというものであった。
いい年してやることはまるで子供である。しかも、それにノリノリで参加するイリスがいた。
2人には飲み物を出しておく。2Lのペットボトルの「あんにゅいな気分のミルクティー」である。
いや、そういう商品名なのである。
「なにこれ」「甘いですわ」などと小声で話している。
ベッドを見ると、ライエは既に起きているようだ。だが抱き枕らしくじっと我慢していた。
既に炊飯器でご飯は炊けている。
後は、おかずだが、朝といえばやっぱり鮭だろうか。海苔、納豆はあるが納豆は自分用だ。
鮭の切り身をパックからだしフライパンで焼いていく。
味噌汁は大根を具材に使ったものにする。なにしろ、簡単だ。
おかしいな、そろそろ。匂いで目が覚めてもいいと思うのだが、やはり疲れが取れないのだろうか?
「ライエ、もう起こしていいぞ」
『がう(りょかいっす)』
「まって、私が起こして差し上げますわ」
「そっか、それじゃ頼みます」
山波はスイナとともにテーブルに朝食を並べていく。
山波とライエを除いてスプーンとフォークを並べる。
山波はもちろん箸で、ライエ用は納得の丸かじりのおにぎりが皿に並んでいる。
「ほら2人とも、朝ですわ」
「ん? ん~~~?」
「食事の準備も出来ていますわよ」
「おはよう、イリスおねえちゃん」
「うはようます。いりすおねえちゃ」
「おはよう、ございますですわ。ほらリナンちゃん起きなさいな」
「う゛~~ん」
寝ぼけ眼で返事をしている。メンカはしっかり言葉を返したが、リナンは再び寝に入りそうだった。
2人が目覚め、ライエもようやく自由の身になれた。イリスはおねえちゃんと言われたからか、悶えている。
「「おはようゴロウ」」
「おはよう。よく寝られたようだな」
「「うん」」
「それじゃ、顔だけ洗ってきな。歯磨きは食事が終わってからね」
「「は~い」」
2人はキッチンで顔だけを洗う。既に朝食は出来ているので問題はない。
「それじゃ、みんな席に着いたな。いただきます」
「「「「いただきます」」」」
「ゴロウのそれはなに?」
「これか?これは納豆だ。2人は食べられれないと思うから出していないよ」
「食べたい」
「そっか?大丈夫かな?」
「だいじょうぶ」
「メンカはチャレンジャーだな。それじゃ少しだけな。茶碗出してみな」
そこに出されたのは2つの茶碗であった。メンカとリナンがそれぞれ出したのだ。
山波は納豆を一掬い乗せてあげた。
「どうだ」
「む~~」
「ん~~」
2人が唸っている。
「ほら味噌汁飲んで」
「ゴロウはなんでそれ食べられるの?」
「そうだな。これは我が家の朝ごはんで必ず出ていたからなぁ」
「う~、それ食べられないとゴロウの世界に行けないの?」
「!!」
「行っただろう? 食べられなくても平気だよ」
「ゴ、ゴロウさん? い、いまの話は一体なんですの」
「いや、なんでもないさ。子供の戯言だよ」
「いいえ! 行ったという言葉をいいました。一体どういうことですの?」
「まあ、あれだ、あ、窓の外に宇宙人が!!」
「うちゅうじん?なんですのそれ」
(しまった、話をごまかそうとして宇宙人と言ったものの、ここではその概念がないのか)
「ほら、みんな早く食べて、デザートはプリンだぞ」
「ぷ、ぷりん」
それから、ごちそうさまを言うまでみんな黙々と食事をしていた。
全員の食事が終わったところでプリンをそれぞれに出してあげた。
山波は洗い物を済ませて、メンカとリナンに歯を磨くようにいった。
「ライエはこれを噛んでおけ」
山波の世界から買ってきたデンタルボーンを与える。
『がうう(わかったっす)』
山波はイリスの前の席に座り、
「今日でアルデバランの街を出発しようと思いますので、お2人とはここでお別れになりますね」
「そのことについてなのですが、私たちも付いて行ってはダメでしょうか?」
「あ~、それは」
「村での宿はこちらで手配しますわ。この馬車に便乗させてもらいたいのですわ?」
「いや、流石に今は私をのぞいて5人。この車は5人乗りだから無理ですよ」
「寝るときは宿に泊まります。見たところ前の席に2人、後ろのソファーに6人は座れるのでは?」
「ん~確かにそうだけど」
「イリスおねえちゃんも王都にいくの?」
「ええ、いまゴロウさんと交渉している最中ですわ」
「やった~」
じー。ジー。G~。
(これはっ! 4つの幼い目が私を見ている。しかも耳をピクピクさせながら)
「わかりました。その代り相応の運賃はもらいますよ」
はなから負け試合である。メンカとリナンの訴えるような目。贖いきれるわけもなかろう。
「やりましたわ!!」
「おねえちゃんよかったね」
「これも2人のおかげですわ」
さりげなく2人を抱きしめるイリス。その向こうで小さくガッツポーズをしたスイナが見えた。
「でも、ですね。まず、一緒に行くことをメイドのパルメさんに許可を得るべきですよね」
「な、な、なんでパルメに」
「なにかこの街に来た理由はお仕事のようですので、黙って連れて行ったら何を言われるか」
そのとき、コンコンとドアが叩かれた。
「パ、パルメ!」
「おはようございます。ゴロウさん。話は聞いていました」
「おはようございます」
「旦那様にも許可を得てきました。ゴロウさんよろしくお願いしますとのことです」
「え? 私会ったことないのに?」
「それはさておき、私も同行いたします」
「え?もう人乗れないですよ」
「後部のベッドを畳めばこうして後3名くらいは何とかなります」
「なんでパルメさんがそんなことを……」
「メイドですから」
納得いかないかった。
山波はメイドとはいえ車の持ち主ですら知らない使い方を知っていたメイドに納得がいかなかった。さらに、話は聞いていたといったのに既に旦那様つまりお父さんに許可を得てきたとも言った。いくらメイドだからと言ってそんなこと。
これはもう、いつも通り。理解不能な問題は先送りにしておく。
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食事を終え、暫くするとジョルジュとスミレン、アークトゥルスがやってきた。
イリスを見たアークトゥルスが「なぜあなたがここにいるのよ」という言葉を発した途端、イリスVsアークトゥルスの戦いが勃発しかけたのだが、パルメが「旦那様の許可を得て、さらにゴロウさんの許可も得ています。アークトゥルス様、王都までよろしくお願いします」と言ったところで、アークトゥルスは「はい、よろしく」と言って休戦になってしまった。何でもありのメイドである。
「みんなが揃ったのだが、出発までちょっと待っていてほしい」
山波はヘラトリックスから受け取った石に念じた。
この行為によってアルデバラン街が大騒ぎになる。
またまた台風が来ています。お気をつけて。




