第13話 一度あれば二度ある
ゴブリンを討伐しハダル村に1泊した山波
ゴブリン討伐で興奮しているかと思ったら、村から歓待をうけ、討伐の興奮なんてどこ吹く風。
次の日ハダル村を出発した山波であったが……。
村で1泊したにも関わらず、体調がいい。多分泥酔して熟睡したからだ。
調子よくエールを飲んでしまった為か気が付いたらベッドの上だった。
誰が運んだのだろう?
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山波たちは朝食を食べた後、早速次のアルデバラン街に向かうことにした。
村人たちからお礼にいろいろな食材をもらいまた来てくれと言われた。
「それにしても、昨日は誰がベッドに運んでくれたんだ?」
「ああ、それならジョルジュが」
「そっか、ジョルジュさん申し訳ない。酒が弱いのを失念してた」
「気にしないでくれ」
「1日遅れてしまったが、まあ、日程はあってないようなもの、取り敢えず今日はアルデバランに向かうことにしよう」
「はい」
村の門で待っていた村人たちに見送られながら村を出て、アルデバランに向けて走り出した。
村を2つ過ぎるとアルデバラン街だ。
今回のような事件は偶然が偶然を呼んで偶然発生したのだろう。少なくとも山波はそう思った。
そうそう同じようなことはないはずである。
だが、日本では二度あることは三度ある。ということわざもある。2度なければ問題はない。と言う意味ではない。物事は繰り返し起こるものである。という意味である。
ハダル村から一つ目の村を越えると道はなだらかな上り坂になっている。アルデバラン街がこの国にしては珍しく高所にある為である。
なかなか高所にありながら街として発展するのは大変であろう。
「この辺は山賊がよく出るので注意して走らせて」
山波は頷いてその注意を聞いたが、アークトゥルスが促す注意は、向こうではフラグと言うものである。
案の定道の先で馬車が襲われていた。襲っているのは6人程の山賊のようだが、他に隠れていないとも限らない。
(さてどうしたものか?)
「ゴロウ!このまま車を進めてほしい」
アークトゥルスが言った言葉に山波は「わかった」とだけ答えた。
やがて車が馬車のところまで来ると襲っていた輩は馬車から離れ遠巻きに見ている。
ジョルジュとスミレン、アークトゥルス、ライエが車から飛び降り山賊と対峙した。
ライエを見た山賊は「フ、フレイムウルフ」と少しビビっていたが、勇気を振り絞って、
「お前ら何者だ!」
と聞いてきた。
(それにしてもいきなり聞かれて答えにくい質問をしてくるものだ。だいたいお前らこそ何者だ)
「冒険者ギルドの者よ」
アークトゥルスが即答する。すると馬車から助かったという声が聞こえてきた。
(まさかの即答か)
『がうう(やっちゃていいっすか?』
「ああ、でも相手は人間だできる限り生かしておいてくれ。それと隠れている人間がいないか注意を払ってくれ」
『がう(りょうかいっす)』
ある程度離れていてもライエと会話はできるようだ。
山波も車から降り、特殊警棒を伸ばして山賊に対峙した。
「冒険者ギルドがなんでこんなところにいやがる」
「アルデバランに向かう途中よ、それよりこんなことして覚悟はできているんでしょうね?」
「ふざけるな、やっちまえ」
と言った瞬間に既にライエは1人を倒し、2人目に襲い掛かろうとしている。
他のジョルジュやスミレンも同じく相手を倒していく。
「な、なんだこいつら強ええ」
リーダーらしき山賊はそういいながら、山波を襲おうとした。しかし、車の魔法障壁に遮られ近づけない。
その隙に山波が持っていた警棒で障壁の内側から殴ると、警棒に仕込まれたスタンガンによって気絶した。
「ゴロウさんロープってありますか?」
ジョルジュが聞いてきた。
「あるにはあるけど」
車に戻って持ってきたのは、荷づくり用のR-PP製の3本撚りの500円程度の物であった。ロープも持ってきてはいるがそちらは登山などで使う物であった。
「これでいいかな?」
「こ、これは」
ジョルジュはそれを受けとり引きちぎろうとしたができなかった。
「かるいし、切れにくい」
首をかしげながらそれを持って山賊たちの方の向かった。
山賊たちはスミレンとライエが見張っていたが全員が気絶していた。
「なあ、アーク。あの山賊はどうするんだ」
「本来なら次の村まで連れて行きたいのですが」
「ん~この車では無理かな」
「そうですね」
山賊の対応を考えていた山波に後ろから声を掛けてくる人物がいた。
「あの~、お助けくださいましてありがとうございます」
そこには15歳~17歳くらいの少女と、執事と思われる初老の男性、まさに地球上でしかありえない古典メイド服を着た女性。そして、腕に怪我をしているハーフアーマーの女性が立っていた。
「お助けくださいましてありがとうございます」
再度その少女は頭を下げた。しかし、山波は腕に怪我をしている女性を見た瞬間、挨拶もせずに車に戻り救急箱と折りたたみ椅子を持ってきた。
折りたたみ椅子を広げ、
「あなた、そこに座って」
とアーマー姿の女性の怪我していない方の手を取り、椅子に座らせた。
「この木の棒をわきに挟んで」
「はい」
怪我している部分を消毒液をつけた布でふき傷口を見る。その傷口の上を布で縛り出血を止める。
「そんなに傷は深くないようだ。よかったこれなら止血して傷をふさげば問題ないだろう」
「ゴロウさん、何やっているんです?」
「ああ、止血して傷口を」
「そのくらいであれば、私が治しますよ」
「えっ?」
アークトゥルスはそういうと両手を傷口にあてがい。
「ヒール」
と言うと傷口が徐々にふさがっていった。
「おお~~、これが回復魔法か?」
「いいえ、治癒魔法ですよ」
「お、そっか」
山波にしてみれば回復魔法も治癒魔法の違いが分かっていなかった。講習でも聞いたのだが同じイメージしか浮かんでいなかった。
「それにしても、すごいな。あ、もう木の棒を外してもらっていいです」
傷口の上の止血用の布も取り除いた。
「あ、ありがとうございます」
「よかったね。スイナ」
「私たちは王都までのんびり旅をしている。ゴロウ・ヤマナミです」
「私はアークトゥルス。元冒険者ギルドの受付」
「俺がジョルジュだ」「私がスミレンよ」
『がうふう(ライエっす)』
「あ、これはライエ。私の従魔です」
何時の間にかジョルジュたちが戻ってきた。山賊を縄で縛ってきたらしい。
「失礼しました。私がイリス・ローヘルス。こちらがスイナ。こっちが執事のセバン。そしてメイドのパルメ」
「「「このたびは助けていただきありがとうございます」」」
「いえいえ。偶然、通りがかっただけです」
「それでも、本当にありがとうございます」
「それよりも、貴方たちの馬車は使えますか?」
「あ、俺が見てこよう」
ジョルジュが執事のセバンとともに馬車の様子を見に行った。
「アークは他の人から状況の説明を聞いておいて。もしかしたら次の村のギルドに説明しないといけないだろ?」
「そうね、私が聞いておけば問題ないわね」
その間に山波は折りたたみの長椅子とテーブルを設置した。
ガラス製のカップにペットボトルの無糖の紅茶を準備した。
「立ち話もなんだから、ここに座ってもらって、飲みながら話を聞こう」
「わかったわ」
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「なるほどね、確かにここは坂になっているから速度も落ちるわね。でそこを狙われたと」
「はい、何とかスイナが頑張ってくれていたのですが、多勢に無勢で……」
「で、丁度その時私たちが現れたというわけね」
「はい」
「目的地はアルデバラン街って事よね」
「ええ」
とそんな話を紅茶を飲みながら聞いていた。
そこへジョルジュたちが戻ってきて
「馬車は問題ないだろう。次の村まではここからさほど遠くはないので30分もすれば馬車でも到着可能だ。問題があるとすれば山賊たちだろうな」
「う~ん」
「まあ、本来であれば首だけを持っていけば賞金を貰えるんだけどな」
「先に我々で、次の村まで行って、冒険者ギルドで人を募って、村からここまで連れてきて後は運んでもらうってことは出来るかな?」
「それは私が行けば問題ないわ」
アークトゥルスが言った。
「それじゃ、そうしようか。ジョルジュとスミレンはここにいてくれ」
「わかりました」
「それじゃ馬車も先に村に向かってしまおうか?」
「そうね、ここらか先はもう心配はいらないわね」
「ライエは馬車を守ってくれ。馬を脅かさないようにたのむ」
『がうう(わかったっす)』
こうして馬車と車は出発し、車は10分ほどで村に着き、カークトゥルスが冒険者ギルドで話をした。
ギルドが荷馬車を貸してくれるということで、冒険者を集める必要は無くなった。荷馬車を馬から外しキャンピングカーの後ろに取り付け元の場所に向かった。途中で馬車とすれ違いお互いに挨拶して元の場所に戻った。
山賊を荷馬車の荷台に乗せ村に戻った。
キャンピングカーが村に戻った時は馬車は既に到着しており、それぞれが馬車から降りキャンピングカーを待っていた。
山波も荷馬車でしかも人を乗せているので、来るときよりも抑えて走っていたため思ったより時間が掛かった。
山賊を冒険者キルドに引き渡し、山波達は少し早いが昼食を取ることにした。冒険者ギルドからほど近い食堂をみつけ、食事をし、その後、冒険者ギルドで受け取った賞金は全員で分けることになった。
校正
カークトゥルス -> アークトゥルス
「この辺は山賊がよく出るので注意して走らせてくれ」->「この辺は山賊がよく出るので注意して走らせて」 2018/09/10
アークトゥルスの言葉使いとしてふさわしくないので「くれ」を削除




