第12話 異世界定番のあの魔物
スレイプバッファローと別れの挨拶をした山波
そんな山波が初めてみる定番の魔物。おかしい、魔物の出現報告なとなかったのに。
背が低くて、片手に棍棒、心には飢え、唇によだれ、背中に何もない。ああ~緑のあいつら。
まただ、なんだかだるい。
どうやらこっちの宿屋に寝泊まりすると、疲れが抜けないようだ。
これはこの先考えないといけない。
しかし、ライエはよく眠っているな。
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4人と1匹は朝食を済ませた後、この村のギルドに立ち寄った。
山波を除く3人はこの先の旅路で新しい情報を仕入れるためと、ここまでの報告をするためだ。
山波はライエとともにそれを待っていた。
「お待たせしました。この先も特に山賊や追剥、魔物出現の報告はありません」
アークトゥルスはそうい言って席に座った。それに続くように残りの2人も座った。
「そっかぁ。この村はポルックス村から2つ目になるよな。この地図を参考にするとこの辺かぁ」
「この地図は途中の村が省略されていますね。200kmとすると4つの村を越えてアルデバラン街になります。ここは牛が飼育しやすいので乳製品が名物です」
アークトゥルスはギルドの受付を行っていただけあって、それぞれの村について詳しい。口調も受付嬢のようだ。
「なるほど、それじゃ今日はアルデバラン街まで行くとしようか」
こうして山波達一行はアルデバランを目指すことになった。
「あっと、その前にいろいろ準備するので10時まで自由行動で」
そうなのだ。流石は異世界まだ9時前なのである。
山波とライエは車に行き、ご飯を人数分炊く準備と、おかずの下ごしらえをすることにした。
とはいっても、ライエは見ているだけだが。
一通り下準備をし終えると、時刻は10時10分前だった。
こうして一行はアルデバラン街に向かって出発した。
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出発して2時間程走らせ、丁度炊飯器のタイマーで白米が炊けたころ車の前にそいつらが現れた。
緑色の体をして、身長は120cmぐらい。5人それぞれに手には棍棒や剣を持っている。キャンピングカーには気が付いていない。
「ありゃ、なんだ?」
「あれはゴブリンですね。こんなところに出てくるなんて珍しい」
「どうすればいい?」
「馬車を止めてください。私とジョルジュ、スミレンの3人で倒してきます」
「確か、報告では魔物出現の情報とかなかったはずだよな。一体何があったんだ?」
「それは後で考えるとして、ゴブリン数体ですから、そのまま討伐してしまいましょう」
「わかった」
山波が車を停めると、後ろにいた2人の冒険者がそれぞれ武器を取り扉を開けて駆けていった。ライエも飛び出していき、アークトゥルスも弓を持ち飛び出した。
「危なくなったら車に戻ってこいよ」
そのまま運転席で見ていた山波であったが、窓から皆に声を掛けた。
アークトゥルスがまだ150mはありそうな距離で弓を引いた。
流石に当たらないであろうと思っていた山波であったが緑色の影が倒れるのを見て驚いた。
伊達に30年近く冒険者をしていたわけではなかったと言うことである。
1体倒れるのをみたゴブリンと思われる影が振り返り此方に走ってきた。
山波は車をゆっくりと走らせ、いざとなれば全員を回収できるようにした。
しかしそんな心配は不要であった、ライエがすさまじいスピードで走っていくと、あっという間に2体がたおれ、その後に続いて冒険者2人も短距離走でオリンピック選手も顔負けと言う速度で走り残りの2体を切り裂いていった。
ジョルジュは走ってきたゴブリンを胴体から真っ二つにして、スミレンはその首を切断した。
「すげえ。あれが冒険者かぁ。それにしてもアークの弓も相当な腕だな。ライエもすげえな。ポルックス村で襲われていたら確実に死んでたな」
3人はゴブリンを1か所に集め何やらやっていたが、やがて火の手が上がりゴブリンが燃やされていった。
ライエは戻ってきてドヤ顔をしていた。
『がう~(どうっすか)』
「すげえなお前」
山波はライエの頭をなでながら体を見たが、どこにも血のようなものは付いていなかった。
「がううん(ふふん)』
ライエの足を拭いたのち、山波は皆を慰労するためにジュースを用意し、後ろの席で待っていた。
そうこうしていると火も消え皆が戻ってきた。
「お疲れさん。みんなすごいな流石だ。アークも矢をあんな遠くから当てるなんて」
「あのくらいエルフなら当然よ。魔法で矢の調整もしていたしね」
「へえ。すごいんだな。ジョルジュもスミレンも一太刀で終わらせるなんて」
「ゴブリンだしあんなものさ」
「ところで、ゴブリンになにかやっていたけどあれは?」
「ああ、討伐部位である耳を採取して、死体は火で燃やしてきたんだ。燃やすか穴に埋めないと、その場所が魔物の餌場になってしまうからな」
「なるほど、とりあえず討伐おつかれ、飲み物出しておいたので喉を潤してくれ」
「ありがとう」
「しかし、こんな街道に魔物って出るんだな」
山波が改めてそんな疑問を口にすると、
「そ、そうねちょっとおかしいわね」
とアークトゥルスが言った。
「もしかすると……。ゴロウさん馬車をもう少し先に走らせてもらえませんか?」
スミレンの指示に従って車を発進させた山波はそのさらに先にもっと多数のゴブリンがいた。
「あれは、結構沢山いるぞ」
「あれは、村を襲おうとしているんだわ」
「どうする?」
「村まではまだ距離はあるわ。あの速度だと、ん~そうね30分ってところかしら、それにしても数が多いわ」
「車には魔法障壁があるっていってた。ヘラトリックスさんも弾かれていたら車をぶつけようと思う。ライエは降りて弾かれたゴブリンを適当に数を減らしてくれないか? 危なそうなら逃げていいから」
『がううがう(わかったっす)』
「車をぶつけながら村の入り口まで向かわせます。皆さんはその後、村の人たちに連絡を」
「わかった」
車を停めてライエを降ろす。その間ジョルジュたちは完全装備で闘うための準備をしている。
「ライエは車の後から付いて来い」
『がうう(了解っす)』
山波はゴブリンの集団に車を向けて走らせた。集団でまとまりながら歩いていたのでその多くを車の魔法障壁にぶつけることができた。
障壁にぶつかるたびにバチッ! バチッ!という音を立てながらゴブリンが吹っ飛び、倒れていった。
その後の生き残っているゴブリンにライエが襲い掛かる。
車はそのままゴブリンを弾きながら村の前まで進んだ。村では既にゴブリンが襲ってくるのを知っていて幾人かの冒険者たちが待ち構えていた。
車をその前に停めると、ジョルジュたちが降りた。ジョルジュは山波に村の入り口をふさぐように車を進めるようお願いした。
「おまらは?」
「私たちは王都に向かっている冒険者です。ゴブリンが集団でこちらに向かってきているのを見つけたので、ゴブリンを蹴散らして来たところです。でもまだ50体くらい残ってます」
アークトゥルスが説明する。
「本当か?おまえらこの人たちがゴブリンを蹴散らしてくれたおかげで残りは50体くらいだそうだ。随分減ったぞ」
「「「お~~」」」
「俺たちも助っ人で参加するぞ」
無口なジョルジュが珍しく声をかけた。
「助かる」
流石のライエも残っていたゴブリンすべてを倒すことはかなわず、こちらに戻ってきた。
「なっ。あ、あれはフレイムウルフこんな時に……」
「大丈夫です。あれは味方です。従魔契約をしているのでこちらは襲われません」
アークトゥルスが村を守るリーダーと思われる人に声を掛けた。
「ほ、本当か。フレイムウルフが?」
「ええ。それよりも残りのゴブリンがやってきます」
そういいながら、アークトゥルスが矢を5本同時に放つ。それぞれ外れることなく5本の矢が5体のゴブリンを仕留める。
それを合図に村の守りを固めていた冒険者達は各々がゴブリンをしとめていった。
時間にして10分くらいだろう。最後のゴブリンが倒されて無事に村は守られた。
ジョルジュもスミレンもライエも無事だ。もちろんアークトゥルスもである。
10人程いた冒険者も多少の怪我をしているもののほとんどが軽傷であった。
「いや~助かった。あんたたちが先にゴブリンを減らしてくれていなかったらどうなっていたことか。」
「いえいえ、それよりもゴブリンの死体の片づけをしてしまいましょう」
アークトゥルスが言うと、他の冒険者も「そうだな」と穴を掘る人とゴブリンを集めてくる人に分担して作業を始めるのだった。
2時間程でゴブリンを燃やして穴を埋め一通りの作業が終わった。
山波は車を村に入れ、スコップで穴を掘る手伝いをしたが、途中で疲れてしまいスコップだけ冒険者に貸して車に戻り飲み物を用意していた。
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「本当に助かった。俺はこの村で冒険者をしているゴルダってもんだけど。ところであんたはポルックス村のギルドのアークトゥルス様じゃねえのか?」
「様なんてつけないで、そうよ今は王都に向かって旅をしているの」
「やっぱり。王城に戻るのですかい?」
「そういうわけでもないけど、特Sの人が現れたので連れて行くのよ」
「えっ!まさか」
「ああ、全然違う人よ」
「そうですか。違う人ですか」
「まあ、王城に戻ったら何かわかるかもしれないけど」
「ところで後ろの2人は?」
「ポルックス村で冒険者をしていたスミレンです。こっちがジョルジュ。一応特Sの人の護衛で一緒に王都まで向かっています」
「ゴルダです。なるほどそういうわけですかい」
「ゴロウヤマナミと言うのが今回の特Sの人物だけど。彼には内緒で」
「ええ、わかってやす」
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暫くして紙コップとお酒を持って山波が車から降りてきた。
「みんなお疲れ様。そこの冒険者の人もお疲れ様、みんなのために美味しい酒を用意したよ」
「「「おお~~」」」
紙コップにお酒を入れ、それぞれに配っていく。
「本当にお疲れさん。みんな無事でよかった」
山波は自分で車をゴブリンにぶつけておきながら、まるで他人事のように言った。
「ゴロウが最初に車の魔法障壁を使わなかったら数で負けていたかもね」
アークトゥルスに言われ頭を掻く山波。
「あなたがゴロウさん?おれはゴルダってもんだ。今回は手助けしてくれて助かった」
「いえいえ、私は何も。他のみんなが頑張ってくれたから」
「そうかい?ところでこれは?」
「ああ、私の地方のお酒です。皆さんの健闘を讃えて」
「おお、ありがとうな」
「ところでアーク、そろそろ昼時なのだが昼飯はどうする?この村で食べるか?」
「そうね。ギルドの職員として今回の件について知りたいし、この村で食べましょう。その後でギルドに顔出ししてくるわ」
「なんじゃこれは。うめえな。おかわりが欲しいくらいだ」
「ああ、すいません。これは少ししかなくて、みんなに配ったらなくなってしまいました」
「そっか、いや、いい物が飲めた」
それから4人は村の食事処で食事を済ませ、アークトゥルスがキルドに向かい情報収集した。
ライエはおにぎりが所望であったので、山波は昼ごはん用に炊いていた5合を全ておにぎりにしてあげた。
中の具は缶詰の鯖、鮭、焼き鳥などをごちゃまぜにして具とした。
ツナ缶は食べなかったのに鯖や鮭は普通に食べていた。どうやらツナもおにぎりに入れたら食べれたようだ。
暫く待つとアークトゥルスがキルドから戻ってきた。
そして皆にゴブリン討伐の臨時報酬を渡し、
「今回のゴブリン襲撃は突然だったので対応できる冒険者も少なく、いきなり現れた私たちにも報酬をくれたわ」
山波が車をぶつけて数を減らしていなければ、実際のところ怪我人や死者が出ていたかもしれない。
「ところで、この先もこういうことってあるのだろうか?」
「魔物が湧き出るってことですか?」
「街道に魔物ってめったやたら出ないのだろう?」
「ええ、今回は偶々でしょう。通常ゴブリンは常時討伐依頼が出ているので数は増えないのですが、今回は別々の部族のゴブリン同士の争いで、負けた方が村を襲おうとしたようです」
100体近くが負ける争うというのはいったいどんな争いなのだろと思った山波はさらに。
「でも、あの数のゴブリンの集団に勝った、ゴブリンが再び襲ってくるとかないの? 我々も手助けしたほうが良いのではないだろうか?」
「それについては問題ないでしょう。この村の存在を知らなければこちらまで来れませんし、今回のゴブリンは偶然にもこの街道を見つけて村までやってきたということだろうとギルドの関係者は言ってました。再び現れても数は少ないはずだと」
「なるほどな。それで、我々は先に進んで構わないのかな?」
「ええ、ちょっと足止めされましたが進めるのであれば進んで問題ないでしょう。ですが、村の人たちからは1泊してほしいと言われてます」
「う~ん。急ぐ旅ではないのでジョルジュやスミレンが良ければそれでもいいけど」
「俺は構わんよ」
「私もいいですよ」
「ライエも構わないか?」
『がうう(もちろんっす)』
と言うことでハダル村に1泊することにした。
一応宿代は無料となり、夕食は村から歓待を受けることになった。
あまり酒に強くない山波であったのと、生温いエールであったことで飲むことよりも食べることに夢中になった。それでもエールで気が大きくなってしまい気が付いたら宿屋のベッドの上であった。
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???「ちょっと、なに完全に寝てるのよ、酔っぱらって寝てんじゃないわよ」
???「少しだけでいいから覚醒しなさいよ。起きろ~~」
???「だめだわ。これじゃ夢を見せることもできない」
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