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閑話2


SideA


 草を食べているところに人間が現れた。

 今まで見たことのない雰囲気を持っている人間だ。

 こちらを見たようだがあわてる様子もない。

 こちらに手を出さないのであれば無視してもよさそうだ。


 やはりここら辺の草は美味しい。

 しばらく草を食べていたら、先ほどの人間が見えなくなった。


 頭を持ち上げてみると、草の上に寝転んでいる。

 ありえない、少なくとも人間がなんの対策もしないで寝ころぶなんて。

 私だっている。さらにここら辺には狼だって出るのだ。

 ほら早速出た。

 毛が薄赤の狼だ。しかもまだ完全な大人になってはいないこの辺では見たことが無い狼だ。

 体の大きな私が狙われることはまずない。

 襲ってきても返り討ちにしてしまうが。


 人間の方に歩いている。これはまずい。

 この草原で人間が襲われたりすると、美味しい草が食べられなくなる。

 仕方がない。


『ばみゅん(おいそこの狼、人間を襲うならやめて置け)』

『がうう(なんだ牛か。文句があるのか食ってしまうぞ)』

『ばみゅん(ここの草は美味しいのだ、お前が人間を襲うとここで食事ができなくなる)』

『がううう(ほざけ、そんなことはしったことではない)』

『ばみゅん(ならば体に教え込むしかあるまい)』

『がうう(牛のくせにならばお前から食ってやる)』


 狼が私に向かって走り出し、とびかかろうと空中を飛んだ。

 なんというあほな狼だ。空中に腹をさらけ出すとは。

 足が6本あるのは伊達じゃないんだよ。

 私はさっと移動して狼が空中の頂点に差し掛かったその腹に頭をぶつけ狼を森に弾き飛ばした。

 それも、角を当てないように気を使ってだ。

 狼は大きく弧を描いて森の中に落ちていった。暫くはこれで動けないだろう。


『ばみゅん(なんだい、口ほどにもない)』


 このまま人間を放置するわけにもいかない。

 私は戦いの時とは違うのっそりした足取りで人間のそばに行き、横に体を降ろした。

 人間が起きるまで、先ほど食べた草を反芻しながら目を閉じた。

 目を閉じていても耳で周りの音を聞き警戒は出来るからな。


 しばらくすると人間が目を覚ました。

 私に驚いたようだが、逃げようとはせず話しかけてきた。


「ちょっと撫でていいかな?」


 この人間もあほだ。スレイプバッファローである私に話しかけた上に触らせろと?


『ばみゅん(触れるものなら触ってみろ)』


 なんだやっぱり触らないのか?


『ばみゅ~ん(ほれほれどうせ怖いんだろ、触ってみろ)』


 その人間は触ってきた。あり得ない。


「それにしても人のそばによって来たり、人に触らせたりする野生の牛がいるとは思わなかったよ。それにしても気持ちいいなお前」


「ばみゅ~~ん(まさか触ってくるとは、変な人間だな)』


 するとその人間は笑だし、先ほどより激しく触り始めた。


 暫く触るのを許していたら、向こうから他の人間の足音が聞こえてきた。

 私はゆっくり立ち上がり


『ばみゅ~ん(誰か来たようだ、それじゃまたな)』


 と草原の奥に向かって歩き、その場を後にした。

 その場のその後のことは知らない。


 森の中に入ると、先ほどの狼が横になって気絶していた。

 死んではいないようだ。

 本当に口ほどにもない。


 仕方がない、そのままには出来ないから起きるまで見ていてやるとしよう。


 結局、その日、狼は起き上がってこなかった。



============================


SideB


 生意気な牛を食ってやろうと、とびかかったはずなのだが……。

 牛に腹を突かれると同時に投げ出された。突かれたときに体の中の空気を全て吐き出してしまった。

 空中を投げ飛ばされている間に気を失ってしまった。


 気が付いたら誰かが水を口に入れているのでそれを無意識に飲んでいた。


 薄目を開けると自分が食べようとした人間がいて手を伸ばしてきた。


『がうう(触るな人間)』


 と唸った瞬間、あの牛が私のお腹を押してにらんできたので唸ることができなくなった。

 狼が牛にビビるわけないのだ。ちょっと疲れて、お腹が空いていただけだ。


 すると人間が白い塊を葉の上に置き、自分の鼻先に持ってきた。いい匂いがした。

 迂闊にもそれを食べてしまった。しばらくすると、いままでの気怠さがなくなり、体力が回復してきたのが分かった。


 そのとき既に人間はその場を立ち去ろうとして歩きだしていた。

 直ぐに立ち上がり、人間の後を付いていくことにした。

 が牛が目の前に立ちふさがったので


『がうう(もうあの人間は襲わない、許してもらうだけだ)』

『ばみゅん(もし襲ったら、今度は容赦しないからな)』

『がう(わかった、すまなかった)』


 牛が横に下がったので、ゆっくり人間のあとをついて行った。



 結局、人間の従魔になり、名前ももらった。

 しかし屈辱だったのは体も洗われてしまったことだ。人間如きに。

 だが、あの暖かい風は気持ちよかった。喉辺りにくるとほわんとした。

 しかも、全てが終わると体が軽くなったような気がする。なぜだろうか?


 その後に訪れた試練。それは恐怖の時間だった。

 まさかあんなことになるとは。


 私よりも小さな人間の子供が3人私に襲い掛かってきたのだ。

 逃げるに逃げられず、ゴロウは助けてくれなかった。主のくせに。


 まあいい、あの白い塊のためだそのためなら、この程度の事は。

 なんなら3回まわってワンって鳴いてもいいぞ。


 今は、主の隣の座席の上で丸くなって寝ている。馬のいない馬車の足もとからくる振動が心地よい。

 人間と一緒に移動する日がくるとは夢にも思わなかった。


ライエの口調が本文と違いますが、魔道具の言語変換が理由とお考えください。


校正

馬車のいない馬車の足もと->馬のいない馬車の足もと

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