暇なやつら、白昼の悪夢に散る
「メイ・・すまない。結局巻き込んでしまった」
馬鹿が去り、再び学食のテーブルを挟んでエルザと向かい合う。
今度はエルザがションボリとしているのが前回とは違う点だろう。
「構わねぇよ。結局自己満足の粋を超えてねぇのさ。俺の勝手でやったこった」
「しかし・・・」
「悪いと思うんなら、あの馬鹿の決闘遊びに俺と一緒に付き合ってくれや」
「・・・判った。実を言うとな?私もあの馬鹿者には思う所が有ったのだ」
「そうか。なら丁度良い。ボッコボコにしてやろうぜ」
「フッ、そうだな」
エルザが柔らかく微笑む。元が良いだけに破壊力が抜群だわ。
・・っと、見惚れてる場合じゃないか。
あの馬鹿がトチ狂って決闘なぞしなくてはならなくなった。
日時は明後日。場所は訓練場だ。
参加人数は任意・・・任意ねぇ。
「誰か他に、此方側に参加してくれそうな者の当ては有るのか?」
「無駄だな。奴等のこった、既に根回しを始めてるさ。「俺達に手を貸すな」・・ってな」
「クッ!何処までも汚い手を使う!」
「ま、なる様になんだろ。それよかそろそろ行こうか」
「ん?何処へだ?」
「オイオイ、所長の所だろ?借金の話忘れたのか?」
「・・・本当にすまない。メイには最早頭が上がらないな」
「ほいほいっと」
そして所長室へ行き、事の次第を説明した訳だ。
「・・・ハァ・・・全くあの親子には・・本当に呆れてモノが言えん・・」
額を押さえ項垂れる所長。全くもって同感だな。
「所長のお力で何とか出来ませんか?」
「・・・はっきり言えば無理だろうな。曲りなりにも、トップの一角を担う位置に居る者の息子だ・・俺の地位ではな・・」
「そりゃそうだ。第一俺の所為で所長の立ち位置が危うくなったら申し訳がねぇよ」
「メイ・・」
「んな複雑な表情せんで下さいよ。それよかエルザの借金の件、宜しく」
「・・・・本来なら、「そんな無茶な件は飲めん!」・・と、一喝する所だが・・まぁメイの頼みなら良いだろう」
え?俺ってそんなに評価高いの?何時の間に?
「・・・オイメイ、お前・・一体何者なんだ?」
「何者・・・唯の低級召喚術士なんだが?」
「そんな訳なかろう!」
「いや、だったら【鑑定球】見るか?」
「・・・いや、いい。もういい」
何故そんな複雑な表情してるんですかねぇエルザさん?
次に向かったのは【鑑定球】のある部屋だ。
無論俺の評価・・ではなく、エルザの評価を見る為だ。
別に見なくても良かったんだが、エルザに「組むのであれば見せた方が良いだろう」と、押し切られた。
「ではメイ、見てくれ」
「ああ、判った」
エルザが【鑑定球】に手を触れる。
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エルザ・マルフォン
女 14歳
生命力 B
魔力 A
筋力 AAA+
持久力 AAA+
『上級召喚術士』⇒『MAX』
技能
上級召喚術 D
中級召喚 C
低級召喚 B
体術 AAA+
武術 S
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「うぇ!?エルザ!?おま!武術Sじゃね~か!?」
「フフン、元はそちらがメインだったからな」
武術Sで召喚も使える・・・畜生、勝ち組め。
「そう言うメイこそ相当のステータスではないか」
「まぁな、元々1人でも旅が出来る様に考えて鍛えてたからな」
「そうか・・・メイはちゃんと自分で考え、実行していたのだな・・・」
「ん~・・そうだな、切っ掛けが有ったからなぁ」
実際前世の記憶が戻らなけりゃ未だに右往左往してただろうし。
「と言うか・・性格すら変わってないか?」
「んん?そうか??」
「いや、滅茶苦茶変わってるぞ?少し前までのメイは・・何と言うか、鬱屈としていて全体的に暗かったな」
「あ~・・そうかもな」
前世の俺って・・結構放漫だった気がする。
だから少し前の俺と足して割った今の俺位が丁度良いのかもしれない。
「でだ、明後日の作戦は如何する?」
「成る様に成るだろ」
「おい・・」
「実際そうとしか言いようが無いわな。コッチは2人だ」
「・・・むぅ」
「まぁあいつ等がやりそうな事の予想は大体付く。そこら辺を詰めりゃ何とかなるだろ」
「・・・・本当に変わったなお前」
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
時は進み決闘の当日。
俺の予想通り、あいつ等は神経質な程根回しをしたらしく声を掛けて来る奴も居なかった。
そして俺の隣では怒りを顕わにしているエルザが居る。
「・・・レギーふざけるなよ!?」
「ククク、何の話かな?」
「貴・・様ぁ!」
「エルザ、良い。予想通りだろ?」
「クッ・・」
俺達の対面にはレギーとその取り巻き。
・・・・と、しっかりとした防具やローブを身に付けた奴等が、20人程後方に控えて居た。
「一応聞くが、後ろの奴等も参戦するのか?」
「当り前だろ?なんせ参加人数は「任意」なのだからな。クックック」
「ギャハハハハ!おめ~ら死んだわ!」「アハハハハハ!」「ククククク」
取り巻き共が笑う。
だがその後ろに控える奴等は苦笑いをしていた。多分冒険者を雇ったんだろう。
彼等からは端々に「やり過ぎだろ・・」と言う感情が零れている。全くもって同感だな。けれどこれなら手加減の必要は無さそうだ。
観覧席には、一応所長や救護の為の救護班も控えているが・・一応に表情が厳しい。
まぁレギーのやり方に賛同出来かねてるが口出しが出来ないって所だな。
馬鹿が権力って奴を握るとどの世界でも厄介だねぇ。
「しかもソレを私怨絡みに使用とか・・・本当に馬鹿だろ」
「テメェ!何て口を利きやがる!」
「うるせー「テメェ野朗」。わざとに決まってんだろお前も馬鹿だ」
「な!?」
「ぶふぅ・・決め・・・付け。ぅくくく」
「笑ってやるなよエルザ。奴等は自分が馬鹿だと気が付いてないんだ」
「ふ・・・フフフ。良いだろう。今の内に好きなだけ吼えれば良いさ。勝つのは僕達で決まりなんだからな」
レギーは平静を装いつつそう言うが、顔は真っ赤で口角が引き攣る。
第一そいつはフラグと言う物だぞ?自ら建てて行くスタイルとは流石だ。教えてやらんがな。クックック。
あ、所長。下向いて震えてますね。何してるんすか?
「んん!・・ではそろそろ始めよう。双方の『魔法契約書』を提出してくれ」
所長の言葉で周囲の空気が変わる。
俺とレギーは互いに『スクロール』を天に掲げると、それは光を放ち手元から消えた。
次の瞬間、2つのスクロールは所長の手元に収まる。
この『魔法契約書』ってのは、所謂『誓約書』の強化版だ。
呪い(ギアス)にも似た効力が有り、一般でも使用は控えられている代物。
・・・ハイ、あの馬鹿息子が用意しましたよ。
そりゃそうだろうな。あんだけ人数揃えて来たんだからな。
しかも卑怯な事に契約の内容に強弱を付けられる代物を用意し、俺の方には弱い方を寄越しやがった。
「では、「レギー・アム・セルシュバル」の契約内容だ。「メイ・ヒーロウは今後一切エルザ・マルフォンへの接触禁止。並びに今後5年の隷属を強制」・・・何だこれは!?」
「フッ、所長。もう契約書の効力は発揮しています。取り消しは出来ませんよ?」
「・・・レギー君、事前に聞いていた内容とかけ離れているのだが?」
「何の事でしょうか?」
所長が静かに怒りを込めるが、等の馬鹿息子はそ知らぬ顔だ。
「常々思って居たが、やはり貴様はクズだな、レギー」
「フン!そんな事を言っていられるのも今の内だよエルザ?早々にその態度は改めた方が身の為だと思うけどなぁ」
「貴様ぁ!!」
「抑えとけエルザ」
「・・・クッ!」
「あ~・・所長。こっちの方の内容を」
「・・・・・判った。ではメイ・ヒーロウの契約内容だ・・・「レギー・アム・セルシュバル並びに、今回の決闘にレギー側で関わった者達が含まれるパーティー並びに部署の登録名を、今後5年間・・・」ぶぶっ!?」
「所長?」
所長が急に吹き出し回りに居た救護の人が声を掛ける。まぁそうだろうな。
レギー・・『ダメージを与えるやり方』なんざ幾らでも有るんだぜ?フフフ、馬鹿め。
「す・・スマン・・・くくっ・・「今後5年間・・・『ゲスの極み・乙男with 愉快な腰巾着ども』に固定する事」・・全く。此方も事前に聞いていた内容と違うぞ?クックック」
「「「「「「「な゛っ!!??」」」」」」」
レギー達が固まる。当然だ。こんなこっ恥ずかしい名前で学園でも社会でも活動しなきゃならなくなるんだからな。
召喚術士として活動するにしろ討伐任務や研究室に所属するにしても、その名前を『ゲスの極み・乙男with 愉快な腰巾着ども』にしなくてはならないのだ。
そんな契約を持った新人を入れる所が有るかねぇ?レギー様?
「・・・・・ぶっふぅ!!アハハハハハハハハ!!全く・・・ククク・・・メイ、お前と言う男は」
「はっはっは~中々だろ?」
「ああ!中々の返しだ!ククク」
エルザにも上々にウケた様だ。
「な・・・な、ななな何を言ってるんだ!!こんなモノは無効だ!!!」
「ふむ・・・ではレギー君の契約も無効・・・という事になるのだが?」
「ムぐっ!?」
所長もご満悦の様子で切り返す。
「・・・判った!それで良いさ!!僕達が負ける訳が無いんだからな!!」
「・・・そうか。メイ、其方も・・」
「ああ。構わね~よ。それで良い」
「・・・・判った。では双方の同意が得られた!契約は有効と見なす!!」
そう宣言し、所長が両手に持ったスクロールを掲げる。
スクロールはその手からフワリと浮かび離れると、まばゆい光を発し空中に消えた。
これで後戻りは出来ない。負けりゃ破滅だろう。負ける気なんざ無いけどな。
さて、事前準備だ。
「エルザ、今の内から召喚の準備をして置いてくれ」
「何故だ?まだ開始の合図が無いぞ?」
「予防線だよ。あいつ等反則スレスレの開始早々ぶちかましをしそうだからな」
「・・・成る程。判った」
俺はエルザの前に回り、相手からエルザが見えない様にする。
勿論奴等も同様に壁を作ってる訳だ。
「では・・・双方準備は良いな!始め!!」
「出ろ『シルフ』!!『ウィンドカッター』!!」
合図が終わるか否かの瞬間、間髪居れずに召喚がされ、風の刃が飛んで来る。
「出でよ『ダークナイト』!メイの言った通りだったな!全く!何処までも下らん連中だ!!」
ガギィィィン!!
だが此方もそいつは予測済みだ。
エルザの『ダークナイト』が即座に呼び出され、ウィンドカッターを大きな盾で防ぐ。
「チッ!まぁ良い。作戦通りだ!魔術士と召喚術士はダークナイトを集中攻撃!残りは本体だ!!」
レギーの言葉で一斉に動き出す。
奴等の編成は取り巻きズ5人の内2人が中級召喚術士、魔術士が8人、残りが戦士系って所だ。
「エルザ!1分で良い。暴れ回ってくれ!」
「判った」
俺の声と共にエルザが腰に備えたソードを抜き、ダークナイトと共に相手側へ突っ込んで行く。
「悪いが仕事なんでなぁ!」
「フッ!!」
ガキィン!ドゴッ!!
「ぐひゅっ!」
斬り掛かった1人の剣を、エルザは瞬間的に懐へ潜り込みながら受け流す。
同時にガラ空きになった顎へソードの腹をフルスイング!
エルザより1.3倍は有りそうな体格持ちが、軽く浮きながらぶっ倒れる。
「「「「「「な!?」」」」」」
「悪いが手加減は出来んぞ!!」
そう言いつつ数人相手に一歩も引かない・・処か圧してる。
エルザの事を多少舐めていた・・ってのも有るんだろうが、流石『武術 S』伊達じゃない。
お蔭で召喚がやり易いぜ。
「さぁて!んじゃまぁ行きましょうかね!!」
頭の中で『異世界遠見』を使い、これから召喚をする世界の現状と場所を確認する。
このビジョンを使用出来る様になったお蔭で、召喚効率が格段に良くなった。
対象の姿を確認出来ると、すぐさま召喚術の構築だ。
まぁある程度自動では有るが、肝心な所は自分で構築する様にしてる。
「《「28番世界ゲート・コネクト!!」低級召喚士が「メイ」の名の下!来い!!『オーク』》」
召喚の魔法陣が展開されて行く。
と、その様子を余裕を崩さず眺めていた馬鹿息子が不意に叫んだ。
「ククク・・・ははは!ハァッハッハッハ!!!何の召喚かと思えば!たかが『オーク』だと!?流石は低級召喚術士だなぁ!!無様だぞ!メイ・ヒーロウ!!!」
「本当だなぁメイ!」「何だよあれ!馬鹿じゃね?」「言ってやるなよ?ぎゃはははは」
取り巻きズもそれに続いて何か言ってるが・・・まぁそのリアクションは想定内だ。
『オーク』・・・この世界にも存在する、外見は豚人間のそれ。
豚7・人3位の割合の見た目をしており、でっぷりと肥えた体格に知能は高くなく雑食。
『国家統合冒険者協会』と言われる所が定める【脅威度】レベルE~Sの内のDに位する。
そう、この世界での『オーク』はな!
次第に魔法陣の光が強くなり、そこから気配が感じられる。
どうやら上手く行った様だ。
徐々に収まる光の中から現れたのは・・・
豚の顔を持つ
「ちきゅうのどいつ」軍が着ていそうな軍服を着た・・
更にその上からでも筋肉が判る程バッキバキに鍛え上げられ、その顔付きは「あめこみ」に出て来そうな程堀が深いナイズガイが6体、各々が「ぼでぃびるだーのぽーじんぐ」をしながら立って居た。
「ハッハッハァ!!同士の声に応えぇぇ!!!我等オーク隊只今参上ぉぉぉ!!!」
「「「「「「・・・・・は?」」」」」」
俺意外のその場に居た全員がその手を止め、視線がオークに集中する。無論エルザも。そして何故かダークナイトすらも見ている・・・のか!?
「おお!同士よぉぉ!久しいなぁぁ!!鍛練は続けている様で何よりぃぃ!!」
「ああ、まぁな。ってか相変わらず暑苦しい喋りだな」
「ハッハッハァ!!仕方が無かろうぅぅ!!生まれながらだからなぁぁ!!」
そう言いながらオーク隊の中で少し違う軍服を着た隊長が葉巻を咥え、火を付けた。
う~ん、流石「あめこみ」風・・オークでも様になるわ。
「エルザ!もう良いぞ、引いてくれ!」
「あ・・・ああ、判った・・」
唖然としながらも俺の声に反応し、すぐさま引いて来るエルザ。その視線は相変わらずオークに向けられている。
「おおぉ!このお嬢さんはぁぁ!!同士の仲間かぁぁ!!」
「ヒッ!・・ゴホン、ああ。縁あって一緒に行動している。エルザ・マルフォンだ。宜しく」
「ふははははあぁぁ!中々に肝が据わっているじゃないかぁぁ!!気に入ったぞぉぉ!!」
「・・・そ、それはどうも・・」
「あ~・・隊長。話も良いがまずは敵を片付けて来てくれないか?」
「おおぉ!そうだったなぁぁ!!では始めるかぁぁ!!」
此方のオーク6体が一斉にレギー達を見る。
ソレと同時に向こう側も我に返った様だ。
「ふ・・・ふざけるなぁぁ!!!!何だその『召喚獣』はぁぁ!!!」
「隊長の真似か?レギー?」
「黙れぇ!!!不正だ!不正召喚術だ!!!」
親子揃って言う事は同じかよ・・・
「だからその『不正召喚術』ってのは何なんだよ?詳しく教えてくれ」
「五月蝿い!!黙れ!!もう良い!!今此処で貴様らを叩き潰せば良いだけの話だからなぁぁ!!!お前等いけぇぇ!!!」
「ファイアーランス!」「アイスエッジ!」「ライトニングバレット!」「行け!サラマンダー!」「シルフ!ウィンドストームだ!」
「おおっとぉぉ!!同士は下がっていろぉぉ!!」
ズドドドドドド!!!
瞬時にオーク達が俺とエルザの前に割り込みその魔法攻撃を受ける。
凄まじい土煙と爆煙がオーク達を飲み込んだ。
「メイ!彼等は大丈夫なのか!?」
「問題ねぇよ。寧ろアレが彼等の戦闘スタイルなんだわ」
「・・・如何言う事なんだ?」
「「「「「全部真正面から受け止めぇぇ!!真正面から打ち砕くぅぅ!!それが我等オーク軍の戦闘形態ぅぅぅ!!!!」」」」」
煙が晴れる。そこには・・何故か「ぽーじんぐ」を決めたオークの皆様が、素晴らしい笑顔を携えながら無傷で立っていた。
「・・あ・・・はい・・・」
ソレを見たエルザが若干引いて居る。うん、判るわ。俺も最初はそうだった。
「何故だ!たかがオークの筈だろ!!お前等ぁ!高い金払ってるんだ!!役に立て!!」
「益々もってヤラレ役っぽく成って来たなぁレギーの奴・・」
「ん?何の話だ?」
「いや、コッチの話。それよかまだ勝負は終わってねぇ、気を抜かずに行こうぜ」
「判っている」
此方は此方でしっかり自衛をしないとな。
・・・まぁ多分必要は無いと思うケド。
「ハッハッハァァ!!温いぃ!!!ヌルイぞぉぉ!!貴様らの力はそんなものかぁぁ!!」
「何なんだよ!!コイツは!!!」「剣が効かねぇぞ!?」「畜生!『トリプルスラッシュ』・・・駄目だ!!こんなのどうしろってんだ!!!」
「どうしたぁ!そんなものかぁ!」「その程度ではぁ!我々の体毛1本すら削げんぞぉ!!」「さぁぁ!どんどんこぉいぃ!!」
向こうではなんと言うか・・・精神的な地獄絵図が繰り広げられているな。
彼等は多分、この国の冒険者ギルドに所属するどこそこのクラン員なんだろう。
動きも良いし、それなりの技や魔法も使っている。
・・・ただそれらが一様に通用しない。真正面から受け止められて行くのだ。
「どけぇ!!無能共!!《上級召喚術士「レギー・アム・セルシュバル」が命ずる!!!さっさと来い!!『イフリート』》!!」
レギーの召喚術により展開した魔法陣が赤く光り、燃え上がり始める。
その中心から徐々に姿を現す炎を纏った『イフリート』。
髪や服が炎で形成された外見は、前世の「あにめ」や「まんが」で良く見た姿に似ていた。
「さっさとヤレぇ!!イフリーーートォォォ!!!」
《御意》
レギーの怒号と共にイフリートが豪火を纏いながら隊長へ突っ込んで行く!
《恨みは無いが、マスターの命令だ。『暴炎煉獄』!!》
「おおぉぉ!!中々の魔力を感じるぞぉぉ!!良いだろうぅ!こぉぉぉぉいぃぃぃぃ!!!」
隊長の方は・・全く動じる事も無く、その場でポージングを決める!
・・どうやら真正面から受け止める様だ。
「・・・・・なぁメイ、隊長は何故あんなに良い笑顔をしているんだ?」
「さぁな。あっちの世界のオーク事情なんざ俺も知りえねぇからなぁ。・・そう言うモンだって割り切った方が良いんじゃね?」
「・・・そうだな」
そう言って何かを悟った様な顔をするエルザ。
判るわ。俺もかつてそうだった。
《うおぉぉぉぉぉ!!》
「せえぇぇぇいぃぃぃぃぃ!!!」
ゴアァァァァアァァァ!!!!
ガシィィィィィィッッ!!!
《な・・何ぃぃ!?》
イフリートの声色に動揺が走る。
それはそうだろう・・・
何せ隊長が左手で突進して来たイフリートの頭を鷲掴みにし、『暴炎煉獄』を完全に止めていたからな。
「ふぅぅむ・・この程度かぁぁ。まぁ仕方が無いぃぃ」
イフリートは今この瞬間、鷲掴み中でも燃え上がって居る。
しかし隊長は熱さを感じている素振りすら見せず、悠々と自身の軍服に備え付けられた内ポケットから葉巻を取り出し、有ろう事かイフリートの炎で火を着けた。
《クッ!!何故だ!?何故振り払えん!!!》
暴れるイフリートを物ともせず、隊長はそのままの体勢で葉巻の煙を楽しんでいる。
傍から見てる分には滅茶苦茶ダンディー・・・オークだけど。
「さぁぁてぇぇ!!十分に楽しんだぞぉぉ!!そろそろぉぉ!!俺達の番だぁぁ!!」
ギチギチギチ・・・
《ヒッ!?グ・・ガァ!?》
隊長の腕に血管が浮き出始めると同時に、万力が物を圧迫しているような音がイフリートから鳴る。
そのままイフリートを天高く持ち上げる。と、次の瞬間。
「ヌゥゥゥンッッ!!!」
ドボォォォッッ!!
《ゲバァォォ!!》
鷲掴みにしていた左手を放し、自由落下するイフリートの顎に隊長の右アッパーが炸裂する。
アッパーを喰らったイフリートは5~6m程上空へ打ち上げられた。
「まだまだ鍛練が足りないぞぉぉ!!でぇなおせぇぇ!!!!」
ズパァァァン!!!
《ブベェェェェ!!》
そして打ち上げられた体勢のまま落下して来るイフリートの腹部へ、渾身の右ストレートを見舞う。
イフリートはその体をくの字に曲げながら吹っ飛び・・・炎を撒き散らしながら光の粒子となり消えた。
「・・・・ば・・・かな・・僕の・・・・・上級召喚獣の・・・イフリートが・・・」
その様子を眺めていたレギーが両膝を付き呆然と呟く。
その脇ではレギー側の者達が次々とオークにのされ、地面に転がって行く。
「フンッ!!」「ムゥゥンン!!」「セエェイィィ!!」
「ぐぎゃっ!!」「がっ!?」「何故だぁ!!防御魔法を掛けているのに!!ながふっ!」
あっと言う間に死屍累々の山が築かれ・・・残すはレギー1人となる。
「オ~イ、レギー様ぁ?戻って来~い」
「・・・・・はっ!?・・・これは・・・これは一体何なんだ!?お前等!!!何故そんな所で寝ている!!!僕を守れぇ!!!」
「無茶言うなぁ・・お前が現実逃避してる間に隊長達にやられてんだよ」
「クソ!クソォ!!これだから無能者はぁ!!!召喚術士が居なければ何も出来ないクズ共がぁぁぁ!!!」
そう言いながら倒れている仲間を蹴る。
「・・・コイツ何言ってんだ?」
「この国に居る召喚術士の一部・・・と言うか大半は『召喚術士至上主義』を抱えてるんだよ・・」
「ハァ・・・もう駄目かもしれんねこの国」
召喚術士だけで如何こう出来る訳無いだろうに・・
やっぱこの国に留まりたく無いわ。
「・・・ってかまだ続けるのか?レギー?」
「・・・フン!こうなってはどうしようもない!終わりだ!所長!!試合を終えるぞ!!!」
「・・・・ふ~ん『終わり』ねぇ?」
「負け」とは言わない心算か?それで押し通す心算か?
しかもあの馬鹿、そのまま訓練場を去ろうとしてやがる。
そんなレギーを見るエルザが最早ゴミを見る目すらしなくなった・・勿論俺もだが。
はぁ・・・そっちがその心算なら、まぁ良いさ。
「隊長、皆」
「OKぃぃ!!判って居るぞぉぉ!!物共ぉぉ!!!」
「「「「「イェッサァァ!!」」」」」
ガシィ!!
「な!?貴様ら!!何の心算だ!?」
足早に去ろうとするレギーを隊長達が拘束し、無理矢理俺の方を向かせる。
「いやぁ・・レギー様に至っては、「負けを認めて無いのだからこの試合は無効だ」などどのたまう事は無いとは思われますが・・」
「な!?何を言っている!?「終わり」と言っただろ!!」
「・・・ですよね~・・・なので念には念を入れさせて頂こうかと」
そう言ってエルザの方を向き目配せをする。
エルザは最初こそキョトンとして居たが、直に俺の意図に気が付きその顔を綻ばせた。
「ふむ、そうだな・・・此処で「無効」などと言われては困る・・・きっちり意識を刈らなければな」
「な・・・貴様ら!!この僕を誰だと思っている!!」
「いやぁ「試合」ですからぁ、きっちり終わらせて頂こうかと」
「そうだな、「し・あ・い」だからハッキリ勝敗が判る形で終わらせるべきだ」
エルザが満面の笑みを浮かべつつ、拳に布を巻き付けながらレギーに歩み寄って行く。
・・・コワ。そしてレギーざまぁ。
数刻後、顔の原形が判らなくなる程殴られ、意識を失ったレギーが担架で医務室へ運ばれて行くのであった。