それはあくまで”低級”召喚術
【訓練場】それは前世で言う所の「コロッセオ」に似た造りをしている。
違うのは魔法により周囲に被害が及ばない様、障壁が張られている事だろう。
この障壁により、観覧席へは塵1つ通り抜けられない。流石ファンタジー。
「ん?」
訓練場の中に入り、周囲を見渡すと、何故か観覧席に人影が有った。
良く見れば・・・あ~小太りオッサン所の馬鹿息子とその取り巻きだわ。
全く、何考えてんだかな。
「何処を見ているのである!」
「お前ん所の馬鹿息子だよ!」・・・と言いそうになったのをグッと堪えた。エライぞ俺。
「で?何をすりゃ良いんですか?召喚を見せれば?」
「そんなもので実力は測れないのである!模擬戦・・これである!!」
「なっ!?」
セルシュバル候の言葉に息を呑む所長。
無理も無い、低級召喚術士が出来る召喚なぞ高が知れているものな。
「相手はワシの秘蔵っ子、宮廷召喚術士期待の新星!「エルザ・マルフォン」であーる!!」
小太りオッサンの紹介が終わると、俺の対面からフードを目深に被りローブで全身を隠した人物が歩いて来る。
(成る程なぁ・・・俺を痛めつけつつ、自分の息の掛かった奴を売り込めるってか)
その手際に半ば呆れつつも感心してしまう。こういうのが成り上がって・・・後々無様に散るんだろうな。
ある程度の距離まで来たその人物は歩みを止め、俺の方へと向いた。
その隠れた眼差しから、何故か明らかな敵意を感じる。
俺・・何かやったっけ?やってねぇよなぁ。
「メイ・ヒーロウだな」
「ん?ん」
「何だその返事は!!」
何を怒ってるんだコイツは!?ってか・・声高ぇな、女・・か?
「貴様の様な適当な奴に召喚術士など務まるか!今直ぐ除名届けを提出しろ!」
フードを脱げばそこに現れたのは・・・かなりの美女だった。ストーレートな長い青髪に射抜くような切れ長の目をしている。
身長は・・・俺と同じ170前後って所か。
「え~・・紙もペンもねぇぞ?今直ぐは無理だろ?」
「きっさっまぁぁーーー!!言葉のあやと言うものがあるだろう!!」
ふっふっふ、心理戦はもう始まっているのだよエルザくん。何てな。
「待つのである!奴を叩き潰すのは模擬戦が始まってからである!」
「クッ!」
踵を返し、スタンバイに向かうエルザと小太り。
あ、俺もう名前じゃなくて「小太り」としか言ってねぇや。まぁいいか。
此方もまぁ、準備する事は無いが一応軽くストレッチをしておく。
召喚術には意味無いけどな。ホント。
ふと視線を感じ、そちらの方を向けば、所長が立っていた。
「メイ」
「大丈夫ッスよ~。それよか、何で俺にそこまで?」
「・・・なぁに、昔の友人に似ているんだよ。君が」
「へ~。因みにその人は?」
「さぁな。まぁどこかで楽しくやってるだろうよ」
少し憂いの篭った瞳を天へと向け、そんな事を言う。・・思わせ振りなの辞めてくれませんかね?
「では時間なのである!両者前へ来るである!!」
小太りの声と共に、俺とエルザがバトルフィールドへと立つ。
「・・直にカタを付ける!!」
「へぇへぇ・・・ま、俺も負ける訳にゃ行かねぇんでなぁ・・全力で行くぜ?」
「フッ・・低級召喚術士如きに何が出来る!!」
「では始めるであーーーる!!」
掛け声と共に、防御障壁が小太りを包み込む。
先ず先に動いたのは・・エルザだった。
「速攻で行く!!《上級召喚術士「エルザ」が名の下に!出でよ!!『ダークナイト』!!》」
そう唱えた瞬間、彼女の前方に光と共に魔法陣が即座に描かれ、その中心から黒光りするゴツイ鎧が出現した。
「な!?『ダークナイト』だと!?」
それを見た所長が叫んだ。無理も無い。
《上級召喚・ダークナイト》その巨体からは想像できない程の早さを持ち、両手で持つ大剣は岩をも砕く。
しかし制御も容易ではなく、短時間の召喚すら困難と言われている。
「・・逃げてりゃ俺の勝ちかな?」
「フッ、馬鹿め!私はこの『ダークナイト』を10分は使役出来るのだ」
「あ~・・成る程ね。そりゃ無理だわ」
流石に分が悪い。まぁそれ以前に、そんな勝ち方では小太りもその取り巻きも納得しないだろうが。
「んじゃ、ま、俺も呼びますかね」
「無駄無駄ぁ!どんなに足掻いても『上級召喚』と『低級召喚』では格が違い過ぎて相手にもなんないだろ!!あっはっはっはっは!」
おいおい、観覧席から良く此処まで声届かせられたな馬鹿息子。それユニークスキルじゃねえのか?
だが奴の言ってる事は正しい。『召喚術』に置ける階級の差はデカイ。
簡単に言えば、『門』だ。低級の召喚術が一軒屋の玄関だとすりゃ、上級の召喚術は城の城門だろう。
デカければデカイ程強力な召喚が出来る訳だ。
・・・・『普通に考えれば』な。
2年前のあの時、前世の記憶が蘇ったあの後。
1つの疑問が生まれた。
召喚出来る世界は本当に『幻獣界』だけなのだろうか?と。
今この世界「アルテナ」では1つの定説が根付いている。
それは、「召喚術士の召喚に応じるのは『幻獣界』の生き物のみ」と言うものだった。
実際、召喚されるモノの特徴は何処か似ていたりするのもが多く、誰も、何も疑問にすら思わない。思わなかった。
だがあの時、「さぶかるちゃぁ」に触れ、俺の中に一つの仮説が生まれたのだ。
『幻獣界』意外の・・・もっと別な世界の『モノ』を召喚出来ないか?
と。それからはひたすら研究の日々だった。現状の召喚魔法の解読から、魔法陣の再構築から・・・寝る間も惜しんで研究しまくった。
前世の記憶も様々に役に立った。
「・・そんでやっと完成したって訳だ」
キツくも充実していた2年を思い出し思わず笑みが零れた。
「さぁてお披露目だ!!行くぜ!?優等生!!《「41番世界ゲート・コネクト!!」低級召喚士が「メイ」の名の下!来い!!『デスニードルヘッジホッグ』》
その瞬間、俺の前方に複数の魔法陣が立体的に現れ複雑に回転を始める!
「「「「「なっ!?」」」」」
それは余りにも異質な光景。唯でさえ魔方陣が重複展開される事など有り得無いのは常識だった。
だが・・・その常識が、今此処、この場所で覆された。
その魔法陣はまるで最初からそうであったかの様に1つに重なり、構築される。
その魔法陣の中から出現したのは・・・針鼠だった。
その光景を見た、俺以外の全員が息を飲んだのが解る。無理も無い。何せ『始めて見る』召喚術だからな。
『デスニードルヘッジホッグ』は、虎や熊並みの大きさが有り、その棘は禍々しい程に歪でありながら鋭い。
《宜しくな》
《OK~任せときな!》
何とも軽い会話を交わす俺達を他所に、他の奴等は固まったままだ。
「おい・・・何だ・・その召喚獣は・・・」
その沈黙を破ったのはエルザだった。目を白黒させ、震える声を必死に抑えながら。
「え?《低級召喚獣》の『デスニードルヘッジホッグ』だけど?」
軽く返す俺。そうとしか言いようが無いからな。
「「「「そんな低級召喚獣が居るか!!」」」」
まさかの総突っ込み!?けれど俺はこれしか言えない。
「実際居るじゃん」