それから2年
1つの可能性を見出し、それを実現させる為に俺は2年間を注ぎ込んだ。
それこそ死に物狂いで・・だ。
そうこうしている内に、もう卒業の時期である。
殆どの者は『中級召喚術士』以上になり、俺の様に才能の無い者はとっくに別の道へと進んでいる事だろう。
俺の様に拘る者の方がマイノリティーなんだろうな。
「・・・うぐぐ・・・」
目が覚める。どうやら机に向かったまま寝てたらしい。
俺に割り当てられた部屋の中は既に足の踏み場も無い程の本やメモで埋め尽くされている。
2年間の研究の成果であり、失敗の歴史でもあるそれらともそろそろお別れだ。
この2年で変わった事と言えば、俺の容姿だろう。
流石に研究だけに没頭する訳にも行かず、体力を付けたり1人で生きて行く為のアレコレも覚えなくては行けなかった。
ま、死ぬ気でやりゃ何とかなるモンさ。
そのお蔭か、モヤシにはならずに済んでいる。
最低限の身だしなみを整える為に鏡を見ると、そこに映るのは「ニホンジン」で在った事の名残なのか青黒い色の髪をショートに切った、緑目をした男が映る。
お世辞にもイケメン・・・とは行かないにしろ、容姿は「ニホンジン」だった頃よりは良くなってる・・・筈。
よれよれの部屋着を脱ぐと、壁に掛けておいたブレザータイプの制服に着替える。
胸には「召喚術士育成所」を示す紋章が縫い付けられたソレを着るのもあと僅か。そう、卒業の時期が近付いている訳だ。
「召喚術士育成所」の寮はだだっ広い王都の少し端に位置している。
金を持ってる奴なんかは馬車を使って移動するんだろうが、俺なぞは徒歩だ。
ま、2年前の『気付き』からはほぼ登校しちゃいないがね。
王都と言うだけあり、町並みは綺麗だ。
何より隅々まで行き届いたライフラインには、前世を知ってる俺ですら感嘆を漏らす程だった。
共同とは言えトイレが水洗なのが素晴らしい。
冒険を始めりゃんな事言ってる暇も無くなるんだろうが。
歩き続ける事十数分、徐々に町並みが豪華に成って来る。
王都中心に位置する「ニヴァール城」へ近付いているのだから当然か。
そんな事を考えながら歩いていると、不意に声を掛けられた。
「メイ・・・アンタまだ拘ってんの?バッカじゃない?」
2年前に別れた・・別れた?コレットだった。
2年前と比べ随分大人びたその容姿に少し驚く。金髪の髪を首の辺りで纏め、動き易そうな革で出来た軽鎧を身に付けている。
多分育成所で指定されている装いなのだろう。
胸の紋章を見れば、『上級騎士』を示す模様だ。
この歳でソコまで行けるのなら、そのまま行けば更に上の職『聖騎士』にすらなれるだろう。
「ま、私には関係無いけどさ。アンタはそのまま底辺でウジウジやってれば?ウフフ」
何とも満足気でありつつ此方を見下したかのような笑みを浮かべ、去って行く後姿を見送る。
はぁ、アイツ・・あんな性格だったけか?
環境は人を変えると言うが・・・王都、コワイねぇ。
俺はコレットの事を特に気にする事も無く、育成所へと向かう。
2年前のあの日以来、特に思い入れが無くなったわが学び舎は何時見ても豪華だ。
・・・俺、良くもまあ此処に入れたもんだな。
ゆっくりと内部へ進むと、回りがまるで珍獣でも見るかの様な視線を向けて来た。
・・いや、まぁ間違いでは無いけどさぁ・・・妙に落ち着かん。
「おやおや珍しい・・「低級召喚術士」のメイセンパイではないですかぁ」
妙にムカつく声色で近付くのは1年後輩であり、お貴族様の「レギー・アム・セルシュバル」とその取り巻き達。
「そうそう、「低級召喚術士」のメイセンパイ、卒業おめでとうございまぁ~す」
「クククク」
「ギャハハハ」
小馬鹿にしたような言い回しに続いて、取り巻き達らの笑い声が上がる。
「おう、ありがとよ。「低級召喚術士」でも卒業出来るんだから、お前等落第すんなよ?」
呆気羅漢と返す俺。そのまま奴等の脇を通り過ぎようとすると、肩を掴まれた。
「・・・やせ我慢かよ!?」
取り巻き内のボス、ゴツイ体をした「ギャリル」だ。
「そんなんじゃねぇよ。至極真っ当な意見だから甘んじて受けるさ」
その手を払うと、構わず廊下を進む。
(やせ我慢・・・か。確かに2年前のままだったら・・・そうだったろうな)
思わずにやけてしまいそうになるのを堪える。それほど今の俺には余裕が有る。
・・そう、俺の研究は半年前に完成し実用に漕ぎ着けられた。
だからもう回りを気にしないし、卑屈になる事も無い。
【鑑定球】の有る部屋へと入れば、そこには教師の面々が既に待機をしていた。
良く見れば見慣れない顔もちらほら・・多分、宮廷お抱えの召喚術士だろう。こんな低級の為にご苦労なこって。
「来たか、メイ」
一等上等なローブを着た初老の男、所長の「マクヴェル」。蓄えた髭が似合うダンディな男の敵だ。
「ご無沙汰です。所長」
「本当に辞めなかったな」
「ええ、腐っても夢にまでみた「召喚術士」ですからね」
「・・そうか。では「メイ・ヒーロウ」!卒業前のチェックを行う。【鑑定球】に手を」
ゆっくりと【鑑定球】に近付き、手を添える。
数秒もしない内に、俺の評価が映し出された。
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メイ・ヒーロウ
男 14歳
生命力 A
魔力 AAA+
筋力 A+
持久力 AA+
『低級召喚術士』⇒『MAX』
技能
低級召喚術 S
スカウト A
武術 A
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「ほう」
回りから声が漏れる。そりゃそうだろう。ステータス自体は悪く無いんだからな。
「全く・・・何故これで『召喚術士』を目指すのだ。お前なら他に幾らでもやりようが有っただろう」
「良いじゃないですか。別に『召喚術士』で在っても他の事が出来ない訳じゃ無いですし」
「うむ・・・確かにな。お前は出席率は悪かったが、その真摯な態度は気に入ってたんだぞ?」
「所長・・素が出始めてますよ?」
「おっと、イカン。・・・では「メイ・ヒーロウ」の卒業に異議は無いな?」
「異議有り!である!!」
マクヴェル所長の言葉へ喰い気味に異議が申し出される。
声のした方を見れば、いかにも偉そうな風貌をした小太りなオッサンが居た。
「・・・セルシュバル殿、何故かね?」
セルシュバル・・・あぁ、さっきの馬鹿の親なのね。成る程召喚術士育成所のお偉いさんか何かか。
「当り前である。このような落ちこぼれ「低級召喚術士」なぞを世へ送り出せば、我等『召喚術士育成所』の威厳に関わるのである!」
「だが卒業に必要な資格は満たしておるぞ?」
「しからばである、実技試験を要求するである」
そう言って俺の方を向きいやらしい笑みを浮かべる。
あぁ、コイツ俺をどうしても『召喚術士』にさせたく無いいらしい。
「しかし・・」
「俺は良いですよ?」
「メイ!?」
驚愕の表情を浮かべる所長、無理も無い。
普通であればこんな落とされて(・・・・・)当然な出来レースを受けるメリットが無いからな。
「言質は取ったである!皆も聞いたであるな!?」
その言葉を受け何人かが同じ様な嫌な笑みを浮かべ頷く。ったく、コイツ等もグルかよ・・
「では早速訓練場へと行くのである!」
意気込む小太りオッサンを先頭にゾロゾロと人が部屋から流れ・・後に残ったのは俺とマクヴェル所長だけになった。
「・・・メイ」
「あ~・・んな顔しないで下さいよ」
「しかし」
「俺は落ちる心算なんざ微塵も無いんですって。それよりも・・」
変わらず怪訝そうな顔の所長へ真っ直ぐ向かい合う。
「面白いモン見せますよ?」
自信満々に言い放つ。こうなる可能性も視野に入れてたからな。
さぁて、メインイベントだ。