婚姻の儀
「ロイズ!ロイズ!」
あ、戻った。
気を失ってから目覚めることに慣れつつある私、ロイズです。
「すまん。ロイズ。また気を失わせてしまった。じじ様に認められて、早く早くと気が急いて。すまん。ロイズ。次は気をつける。すまん。」
あれ?
なんだかさっきより落ち込んでる。
ん?
ああ、後ろにいるサバリさんに怒られたのね?
「大丈夫だよ。確かに速度が速くて気絶しちゃったけど、怖くはなかったもの。それより、私を抱えて走るのは大変だったでしょう?ありがとね。リューイ」
「そうか?怖くなかったのなら、良かった。次は気を付ける。ロイズを抱えて走るくらい、なんともない。お前は軽いからな。余裕だ。」
そう言いながら、お腹の辺りを触るのはやめてください。
サバリさんが怖いよ。
あ、サバリさんがリューイの手を叩いた。
「いつまで触ってんだい!みんな待ってるんだからね!さっさと花嫁衣装に着替えさせるよ!男は出てけ、出てけ!」
と簡単にリューイを追い出すサバリさん。
実は、このお方が一番強いのではないかと考えております。
「サバリさん。この衣装、手直ししてくださって本当にありがとうございます。会ったばかりの私のような人間の為に、何時間もかけて縫ってくださって。本当にありがとうございます。」
そう、サバリさんは私が到着する直前まで手直しをしてくれていたのだ。
目を覚ましてからの私とリューイのやり取りの後ろで、針と鋏を置いたのを見たのだから。
本当に有難い。
感謝の気持ちでいっぱいだった。
頭を下げた私に
「なに言ってんだい!長の嫁で、しかもこんなに別嬪さんのあんたの花嫁衣装を縫えるなんて、光栄だよ!ああ、ほら!泣くんじゃないよ!あんたは、ロイズは今から世界で一番幸せな花嫁になるんだからね!」
と抱き締めてくれた。
まるで、お母さんみたいだ。
この世界での母親は私の世話なんかしてくれた事はない。侍女に任せっきりだった。
常に 誇り高く、貴族としての なんたらかんたらと
私をスウィート家の人間としてしか見てくれなかった。
私をロイズとして見てくれたことなんて一度もない。
抱き締められたことも。触れたことさえない。
「おか、あ、さん・・・」
思わず口からこぼれていた
サバリさんの抱き締める力が強くなった。
「ぐすっ いいよ。私があんたの、ロイズのお母さんになってあげる!だから、お母さんって呼びな!私の息子も娘も既に独り立ちしたからね!今から、私はあんただけのお母さんだよ!」
そう言って更に抱き締めてくれた。
嬉しかった。
凄く嬉しくて、涙が止まらなかった。
「おかあさん?お母さんって、呼んでも良いの?お母さん。お母さん。ありがとう。お母さん。私、幸せになる。ありがとう。」
「ああ、ああ、ロイズ!泣いちゃダメだよ!目が腫れちまう!それに、みんな待ってるんだ!早く着替えないと!」
そうだった!
着替えないと!
涙を拭いて、サバリさん、いや、お母さんに手伝って貰って花嫁衣装に着替えた。
花嫁衣装はホワイトタイガーの毛皮を贅沢に使ったドレス。
上はコルセットの様な形になっていて、胸のフォルムが綺麗に見える。
下の方は、後ろは長く、ヒップから足首に向けてふんわりと大きなカーブを描いていて、前は脚が大胆に出ている。
凄く可愛い。
可愛くて少しセクシーで。
髪型もお母さんが整えてくれた。
これならリューイも大喜びだ!とお母さんからの太鼓判。
お母さんに連れられて、洞窟の外へと向かう。
ああ、私、結婚するんだ。
リューイと夫婦になって、幸せになるんだ。
ドキドキでふわふわで、ワクワクしてる。
言葉では表せられないくらい。
幸せな気持ちが溢れてる。
洞窟のすぐ外でリューイが待っていた。
リューイも普段の虎柄のコシミノからホワイトタイガーのコシミノに着替えている。
カッコイイ。
すごく似合ってる。
赤く逞しい体も、キリッとした顔付きもイケメンで、すごくすごく格好いい!!
更にドキドキする!
リューイが私に気づいて走ってくる。
すごい近くでじっくりと見られて、恥ずかしくて顔をうつむけていたら、顎を持ち上げられた。
恥ずかしくて、自分でも分かるぐらい、真っ赤になった。
「綺麗だ。ロイズ、俺の花嫁。俺の、俺だけの花嫁。可愛い可愛い俺のロイズ。綺麗だ。
俺は世界で一番可愛くて綺麗な花嫁と婚姻出来る、世界で一番幸せな男だ。」
そんな甘い言葉を私にくれた。
「リューイもすごく格好いい。私、リューイのお嫁さんになれて嬉しい。私、世界で一番幸せな花嫁だよ。大好き。リューイ」
そう。私は世界で一番幸せな花嫁だ。
二人で手を繋いでニコニコとお互いを褒めていると
「みんな待ってるんだからね!さっさと行きな!」
お母さんに怒られた。
その後、私達はみんなの前で大きな声で挨拶をした。リューイが私を嫁に迎えたと。
宜しくお願いします。
と伝え、沢山の拍手を貰った。
その後、来てくれた森の魔物さん達に挨拶をして回った。
ゴブリンさん達やオークさん達、ワイバーンさん達にコボルトさん達やグールさん達。
人型になったじじ様とウーリーさんも居た。
最初、誰か分からなくて焦ったけれど、ウーリーさんが
【皆と食べるなら小さくならないと食った気しねぇ】
との言葉に納得した。
様々な森の仲間達に挨拶をして、祝福をして貰って。
見たこともない果実やらお肉やらをいただいて、皆で楽しくワイワイと盛り上がり、
無事に婚姻の儀が終わりました。
まだ宴会をする皆に、リューイが突然お礼の挨拶をして、私を抱き抱え洞窟へと走り出した。
混乱している私の耳へ
「頑張れよ~!!」
「ほどほどになー!」
「最初が肝心だかんな!」
「主導権握っとけよー!」
「壊さねーよーになー!」
「ロイズに無茶させんじゃないわよ!!」
との声が聞こえた。
私を心配してくれたお母さん。ありがとう。
私は既に鼻血が出そうな位、真っ赤です。
洞窟の入り口でリューイに降ろされた。
そして、リューイは膝をつき
「俺はロイズを世界で一番幸せにする。約束する。ロイズ、俺と共に生きてくれ。」
オーガにはこんな風習は無いだろうに。
私のために、こんな風に全力で想いを伝えてくれるリューイが好きだ。愛しい。嬉しい。
リューイに言ってもらえた言葉の全てが嬉しい。
だから答えは
「はい。もちろん。私はリューイと一緒に居られることが一番の幸せだから。私からもお願い。私はリューイが好き。大好き。私と一緒に生きてください。」
リューイは私を抱き締めてくれた。
そして、そのまま二人で洞窟へと入っていった。
その後、私とリューイは周囲から
【種族を越えた相思相愛ラブラブ夫婦】
と呼ばれている。