助けて!王子様!あれ?王子様?
流行の悪役令嬢転生物を書きたくて
書き始めたのですが、決めていたあらすじからドンドン離れていき、私自身、なんでこんな話になったのか。
かなり日を跨いで書いているので、口調や性格に少しブレがあるかもです。
乙女ゲームのヒロインちゃん=クソビッチと書いてます。
すみません。
やられた。最悪。
髪を切られたせいで首筋が寒い。
身体中痛いし、特に足が酷くて動かない。
ああ、最悪。
ああ、初めまして。
私は元公爵令嬢、ロイズ・スウィートと申します。
現在15歳。
前世も含めれば30代前半です。
そう、私は前世の記憶を持った人間なのです。
驚くのはまだ早いですよ?
実はこの世界、私の前世で流行った乙女ゲームの世界なんです。
タイトルは【君との出会いで人生薔薇色】
馬鹿みたいなタイトルですが、この乙女ゲーム、世の中の女性を虜にした前代未聞のゲームなのです。
スチルも美しく、声優も豪華。
フルボイスでスチルの数はキャラ1人で200枚越え!イベントも盛り沢山!
そして比較的簡単に設定されていた為に、誰でもクリア出来る《逆ハーレムEND》の存在が乙女たちの心を掴んで離しませんでした。
更に逆ハーレムENDには、とある条件をクリアすれば王妃になった上で周りの男達を侍らすなんていう夢物語のような凄い追加ENDが。
私はその追加ENDの攻略方法が分からず追加ENDをプレイする前に死んでしまいましたがね。
登場人物はお決まりの設定です。
第2王子はカリスマオーラ抜群の俺様系の美形。
宰相の息子はヒロインにだけ優しい腹黒敬語眼鏡。
騎士団長の息子は寡黙な男らしい美丈夫。
最年少宮廷魔法使いはほわわーんとしたショタッ子。
ヒロインは突然魔力が覚醒した平民。
ヒロインが貴族が通う魔法学校へ通い始め、その天真爛漫で何事にも全力で努力する姿に、キャラ達が惹かれていくというありきたりなストーリー。
そして、そんなヒロインに婚約者であった王子を取られ、嫉妬しプライドを傷つけられ、あらゆる手段でヒロインを虐めていく悪女がロイズ・スウィート。
そう。私です。
私は5歳の時にこの前世の記憶が戻ってから、ずっとストーリー通りに進まないように抵抗してきました。
でも、世界の強制力なのかどれも回避不可能でした。
間抜けを演じても王子様の婚約者になり、魔力が無いふりをしても王子様の婚約者だからと学園に入れられ、王子様をゴミを見るかの様に見つめても【照れている】なんて勘違いになりました。
それでも諦めず、私は常に友達数人との行動を心がけ、ヒロインには近づかないようにしました。
なのに。
私がヒロインを虐めたと王子様やその他大勢から断罪されている最中、
ヒロインが私の周りの友達に
【皆様、本当の事を教えていただけませんか?】
なんて綺麗に泣きながら問いかけた
私の考えも気持ちも知った上で、私と一緒にいたくせに
【1人で行動なさる事が多くて】
【私達に内緒で朝早く学園に来ていたみたいで】
【嫌がらせを手伝えと無理矢理巻き込まれたり】
【髪を切るだなんて計画を立てていたり】
なんて嘘の証言がどんどん出てくる。
そう。私は友達に売られたのです。
そして飛んでくる罵詈雑言。
騎士団長の息子に押さえつけられ、地面に頬がついている私を見てヒロインはニヤニヤ笑っているし。
やられた!嵌められた!
そう思っても、もう後の祭りです。
王子から告げられたのは
私は既に公爵家から絶縁された事。
これから私は魔の森に捨てられる事。
ヒロインの髪を切ろうとした私の髪を切るという事。
ヒロインの恩情によってナイフを一本持たせてもらえる事。
この国から永久追放される事。
そして
私は髪を切られ、周囲の人間から石を投げられ、罵られ、ヒロインに嘲笑われながら、王子様達が乗る馬の後ろをボロボロな荷台に乗せられて、魔の森まで連れていかれた。
魔の森に入って数十分。
私を置いて去っていく王子達を見て思う。
投げられた石で既にボロボロな私を荷台から引き摺り落とし、殴る蹴るの暴行を加えた挙げ句、魔法で足に重傷まで負わせるなんて、お前ら、本当に攻略キャラか?男か?正直、ヒーローではないよな?あのヒロインに合わせたキャラなのか?
しかも髪の毛もガッツリ切りやがって。
ショートカットじゃねぇか!
くそう。
私が何をしたんだよ。
必死に人生に抗ったじゃないか。
頑張ったじゃないか。
ヒロインに関わらない様に今までの人生の全てをかけたじゃないか。
くそう。
《ガサッ》
まずい。
ここは魔の森だから魔物がいる。
嘆いてる場合じゃない。
悔しがってる場合じゃない。
自分の身は自分で守らないと。
兎に角、結界を張ろう。
自分の体にぴったりと合わせて。
魔力の消費を最大限抑えて。
ピョコッと現れたのは兎さんでした。
一安心。
そして再び脳みそをフル回転させて考えます。
実はこの乙女ゲーム、私が死ぬ数日前に2作目が発売されていた。
私は前作さえ終わってなかったので、まだ購入はしてなかったのだが、
一部のユーザーの間ではこんな話が出ていた。
【魔の森に捨てられた筈のロイズが実は隣国の王子様に助けられていた】
そう。
お分かりでしょうか?
私は隣国の王子様に助けられる設定なんです!
こんな最悪な状態ではありますが、隣国の王子様が助けてくださるんです!
ということで、足も動かないほどの重傷を負っているのですから、このまま結界を張りつつ待機するのが得策でしょう。
お腹が空きましたが我慢です。
お花を摘みに行くのもしばらく我慢です。
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そして3時間後。
既に日が暮れてきました。
私を助けてくれる王子様はまだでしょうか?
お腹も冷えてきてるんですが。
まだでしょうか?
鼻水が垂れてきてるんですが。
まだでしょうか?
早く来てください。
私の王子様!
《ガサッガサガサッ》
来た!
私の王子様がやっと来てくれた!
やっとお花を摘みに行ける!
喜びを全身で表す私の前に現れたのは
【芋虫さんの魔物】
・・・・
「イィヤァァァァ~!!!!無理!無理!コイツだけはマジで無理!
コイツだけは、芋虫だけは、マジで無ぅぅぅぅ理ィィィィイィヤァァァァ!!
助けて!!助けて!!誰でも良いから助けてぇぇぇ!!!」
無理です!本当に無理!
涙も鼻水も止まらない!!
死ねる!!コイツが近くに来るなんて死ねる!!
誰でも良い!!
王子様じゃなくても良い!!助けて!!
そう思った瞬間、後ろから
《カサッ》
と音がした。
来た!来てくれた!
この一世一代のピンチに来てくれた!
私の王子様!!
「助けてください!私の王子・・さ・・ま・・?」
あれ?
王子様?
この人、私の王子様?
赤い顔。いや、赤い全身。
頭に2本の突起物。
鋭く尖った耳。
素晴らしい三白眼。
鋭く尖り、下から上に口から出ている、2本の牙。
私の倍はある大きな体。
人間には持てなそうな重そうな斧。
虎柄のコシミノ。
あれ?
これ、この人、王子様?
私の王子様?
どう見ても人間じゃなくね?
【オーガ】
じゃね?
あれぇ?
王子様は?
私を助けてくれるはずの王子様は?
ってか、これ、死亡フラグじゃね?
目の前には芋虫さんの魔物。
後ろには斧を構えたオーガさんがいらっしゃるんですが。
どっちでも死ぬとは思うけど、どうせなら。
最後の望みをかけてオーガさんに助けを求めてみよう。
言葉通じるかもだし。私、一応、女だし。
「助けてください!オーガ様!私、足が動かないのです!どうか、どうかお願いします!助けてください!」
全力で、必死にお願いする。
鼻水が垂れて、涙も流して、オーガさんもビックリな化け物みたいな顔をしているだろうが、なりふり構っていられない。
芋虫さんの魔物だけは、嫌だ。
アイツが私に触れるのだけは、嫌だ。
私の想いが通じたのか、オーガさんは手に持った斧で芋虫さんの魔物を真っ二つに切り裂いた。
そして私は目の前で裂かれた芋虫さんの魔物を見て吐いた。
助けてくれたのは嬉しい。
でも、もう少し離れた所でお願いしたかったです。オーガさん。
でも、助けてくれたのは事実だ。
アイツを倒してくれたのは、この目の前にいらっしゃるオーガ様だ。
きちんとお礼を言わねば。
そう、オーガさんは芋虫さんの魔物を切った後、斧の先端を地面に降ろしたのだ。
私に攻撃する気はないということだ。
多分。きっと。
「オーガ様。私はロイズと申します。危ない所を助けてくださり、本当にありがとうございました。貴方様は私の命の恩人です。本当にありがとうございました。」
心から感謝の気持ちを込めて、頭も地面に付くくらい下げる。
頭を下げた私にオーガさんが近寄ってくる足音が聞こえる。
ドスドスと、重そうな音がする。
私のすぐ近くで止まったかと思うと、オーガさんは私の前にしゃがみ込んだ。
「お前を助けたんじゃない。アイツが余所者だからだ。お前、何でここにいる?この森は俺達のテリトリーだ。入るやつは殺す。」
男性特有の低く掠れた鋭い声だった。
ああ、やっぱりそうだ。
助けてくれた訳じゃなかった。
私も余所者。侵入者だ。
殺される。
血の気が一気に引いた。
が、同時になんだか馬鹿らしくなってきた。
あんなクソビッチに嵌められて、芋虫さんの魔物の解体をあんなに近くで見せられて。
このオーガに睨まれて。
どうでもよくなってきた。
疲れた。
今までずっと人生に抗うばかりで、あのクソビッチに会わないように神経を尖らせて生きてきて、疲れた。
もう終わりでいい。
でも、その前にこの悔しさ、悲しさを誰かに聞いてほしい。
そう、誰でもいい。
もう死んでもいいから。
そう思ったら、顔を上げて自然と口が開いていた
「自分の意思で来たんじゃありません。男を侍らすクソビッチに好きでもない婚約者を取られて、冤罪をかけられて、友達だと思ってた女共に裏切られて、周囲の奴らから石を投げられて、両親には勘当されて、婚約者を筆頭にクソビッチに侍ってるクソ野郎共に髪を切られ、暴行を加えられた挙げ句、ここに捨てられました。」
なんか冷静になってきた。
あのクソ野郎共や周りの奴らに比べたら、このオーガさんはなんて良い人なんだろう。
芋虫さんの魔物を倒す前に、近くにいた私から殺せば良いのに。
ここにいる理由を、話を聞いてくれた。
今だって、すぐに殺せるのに話を最後まで聞いてくれた。
このオーガさんになら殺されても良い。
痛くないようにお願いしたいが。
「オーガ様に助ける気が無かったにしろ、芋虫に襲われている私を助けてくださったのは事実です。死んでもこのご恩は忘れません。魂になっても、貴方様の人生に沢山の幸せが降り注ぐ事を祈り続けます。思い残すことはもう何もありません。ただ、願うならば、痛みを感じないように、一瞬で殺していただければ幸いです。」
そしてまた頭を下げた。
もう良い。
もう充分だもの。
いつ斧が降り下ろされても大丈夫。
「グスン。」
は?
グスン?
何?
グスンって?
もしかして、また何か魔物が来たの!?
嫌だ!
もしかして、また昆虫系!?
あれ?
オーガさん、
なんで号泣してるの?
鼻水出てるよ?
どうしたの?
「グズッ お前、お前、苦労したんだな。大変だったな。スンッ友に裏切られて親に捨てられて、悲しかったろう。辛かっただろう。そんなにボロボロになって。綺麗な髪まで・・・・。
分かった。今からお前は、ロイズは俺の洞窟に住め。温泉もある。入ってゆっくり休め。
お前はもう、この森の一員だ。お前の恐怖や悲しみの全てから俺達森の仲間が守る。
ロイズが俺の幸せを願ってくれるのなら、この俺、リューイがロイズの幸せを願おう。」
え?
私の話で泣いてるの?
殺さないの?
私の幸せを願ってくれるの?
さっきは殺すって言ってたよね?
なにがどうなってるの?
「あの、人間の言うことを信じるんですか?殺さないのですか?」
オーガさんは鼻を啜りながら返事をしてくれた。
「ああ。お前は嘘をついてない。分かる。
それに、この森の魔物に手を出していない人間は殺さない。
【殺す】と言うのは森の外まで逃げさせるのが目的だ。自力で逃げられない奴らは隣の国に捨ててくる。
森に捨てられた子供や赤子は、少しの砂金を持たせて隣の国の孤児院の前に置いてくる。」
マジか。
山に赤子や子供を捨てる馬鹿がいるのか。
孤児院に連れていけば良いのに。
私がいた国はそんなに腐ってたのか。
それに比べて、オーガさんは良い人だ。
いや、人じゃない。
良いオーガさんだ。
勝手にテリトリーに置いていかれた子を砂金まで持たせて孤児院まで送るなんて。
素晴らしいオーガさんじゃないですか!
あれ?
なら、私も隣の国に捨てられるんじゃ?
「あの、私は隣の国に捨てられないのですか?なぜ、洞窟で暮らすのでしょう?」
オーガさんは目をこすって涙を拭いてから不思議そうに言った
「何故、俺がロイズを捨てるんだ?お前は 俺の幸せを願ってくれただろう?そして、俺もお前の幸せを願うと宣言した。だから、俺達は夫婦になった。夫婦は一緒に暮らす決まりだ。今からお前は俺と洞窟で暮らすんだ。」
おうっふ。
初耳でござる。
オーガさん、
それ、初耳でございますです。
お互いがお互いの幸せを願うと夫婦なの?
結婚式の宣誓みたいなものなの?
ちょっと待っていただきたい。
確かに、私はオーガさんの幸せを願った。
どうせ死ぬのならと、助けてくれたオーガさんに幸せが降り注ぐ事を願った。
だがしかし、夫婦になるつもりはなかった。
夫婦になるつもりはなかったのよ。
ちょっと待ってください。
ちょっと待ってください。
オーガさん。
何か誤解があるようで
え?
ちょ、
私を担ぎ上げたのは何故?
ちょ、
肩が腹に刺さる。
ちょ、待ってください。
え?
なに?
じじ様に足を治してもらわないと?
ああ、それは助かる。
は?
え?
俺もついに嫁さんゲット?
あの、だからね、
は?
森の皆に伝えないと?
だから話を
あ、速い。
速いです。
オーガさん。
これ。ダメなやつ。
喋れば舌噛んで死ぬわ、これ。
そして、あまりの速度に気を失った私はそのまま
オーガさんの洞窟へお持ち帰りされた。