黒き頭脳
三人の顔は非常に曇っていた。
三人の中で、何が今起きているかを理解しているし、意見も一致している。
帝国は罠にかかり、ダインドの師団に襲われている。
「もっと早く気づくべきだったわ。」とルビアは自分の能力を過信し慢心していた事を悔いた。
「仕方ねぇって、まさか帝国が今まで"その物"に手を出していなかっただなんて思わねぇって。」と励ましているつもりは本人にはないがエメラードは思った事を口にした。
「だが、やり口が気に食わねぇ。俺たちを雇わしといた上で、確実に帝国を潰しに来てやがる。」とトパーズは怒り口調で言った。
専門学校には、非戦闘員の育成にも力を注いでいる。ルビアが卒業した、参謀・諜報科以外に、心理・戦略科がある。全く戦場に出ることはなく、裏方のスペシャリストを育成する事を目的としている。
そして、その科を一期生として卒業した人物が一人だけいている。しかも、ダインドの幼なじみであり、右腕とも言われる人物だ。名は、オニキス・クロウザー。"二つ名"は「ハートブレイカーのオニキス」。
彼は黒い羽織を好んで着ていたのを、三人は覚えていた。そして、兵達の話しを聞いて、頭によぎったのは最悪のシナリオ。
「私の予想でしかないけど・・・。」と話し始めた。トパーズとエメラードは頷きながら話しを聞き始めた。
「・・・オニキスが陛下に逢っている事は間違えないと思うの。オニキスは人の心を動かすプロ。どう唆したかはわからないけど、"その物"を探させに行かせ、帝国から選りすぐりの兵を出兵させる。そしてガラ空きになった、帝国を潰し、実力を見せつけ、出兵した兵に裏切らせる。より強い者を片っ端から引っこ抜くつもりなんだと思うわ。」と休むことなく自分の推理を語った。
「だけどよ。俺たちを雇わした理由が見つかんねぇよ。」とエメラードの疑問に、「それは、俺たちを雇わせる事で、探す手間を減らしたんだろ。」とトパーズが答えた。
「それに、私達を殺すか生かすかを判断するためでしょ。」とルビアは補足した。
とにかく急いだ、ルビアの予想が当たっていた場合、今頃帝国は襲われている筈なのだから。行きはまる二日かかった道程を、最速で走り続けた甲斐があった。たった8時間で帝国が見えてきた。
すると、帝国まで後少しというところで、何かが見えてきた。
黒羽織の男。オニキスだ。やはり、オニキスが何かしらの糸を引いているのは間違えなさそうだ。
「やぁやぁやぁ。諸君。お初にお目にかかります。」と会釈しながら言った。
その様子が見えた瞬間、三人は馬を停めた。いきなり止まれの命令に馬は鳴き声をあげながら、急ブレーキをする羽目になった。
三人は馬からおり、黒羽織の男の元へと歩み寄った。もちろん、武器に手を掛けながら警戒心を抱き近寄った。
「それ程に警戒をなさらなくても、"今"は何も致しません。」と"今"を明らかに強調しながら言った。
「俺たちに何のようだ?」
「急いでるんだ、どいてくんない?」
「"今"は戦わないのでしょ?」とトパーズ達は立て続けに質問をぶつけた。
「トパーズ君、いや君たち、僕らの仲間にならないかと提案しに来たのさ。答えによっては、いずれあなた方と戦う事にはなるでしょね。」と要件をまとめてから言った。
「僕らっていうのは、ダインドの師団と捉えてイイんだよな?」とトパーズは一応の確認をした。
「もちろん、ただダインドの師団という言い方は気に入りませんね。」といい、少し間を空けて、
「"極東旅団"と我々は名乗らせて頂いております。」
「極東旅団!?」とトパーズ達は驚きを隠せなかった。
つづく