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幸せを捨てる男

作者:

彼は、子供の頃から醒めていた。両親や親戚の愛情を決して受け入れなかった。物や金銭も受け入れなかった。程なく両親は彼を見限って、彼の妹に愛情を注いだ。


彼は自らの意志で施設に入った。両親は彼を既に居ないものとして扱い、今現在に至るまで連絡は一切無かった。施設でも彼は必要最低限の事以外は求めなかった。施設職員は最初は色々と世話を焼いたが、半年も経つとそれが望みと悟って最低限の事以外は干渉しなくなった。


そして冬が来て彼は18歳になり、施設を出て行く事を告げた。しかし職も無く住居も無い彼がどうして暮らして行くのかと施設職員は引き留めたが、彼はその厚意すら振り切って着の身着のままで寒空の下へ出て行った。


とある地方都市で彼は日雇い仕事でを始めて、あてがわれたバラック小屋で暮らす日々。仕事は人一倍こなすが報酬は半分以下しか受け取らない彼の暮らしに驚愕した雇い主は彼を呼び出して問い質した。


彼は醒めきった光の無い表情で告げた。「俺は幸せにはならない。辛い人生を歩みたい」と。雇い主が何故かと問うと、途端に彼は涙を流し嗚咽混じりにこう答えた。「俺が生まれてしまった事で両親の未来を壊してしまった」「俺はその責任を取らなければならない」


雇い主は彼にもっと人間らしい生き方をする事を促した。住む場所、もっと良い仕事を与えた。しかし彼はやはりその申し出を断った。雇い主はやはり引き留めたが、彼は夜遅くバラック小屋を抜け出して姿を消してしまった。


雇い主は人を使い彼を探した。彼は既に多くの幸せを犠牲にし、一身に不幸を背負って来た。もう充分だろう。今度は人並みの幸せや暖かみを知る事が彼の為すべき事だ。しかし彼は見つからなかった。探して探して探し続けて、既に8年が過ぎた。彼が去った冬の日、ある報せが雇い主の元に届いた。それを聞いた瞬間、雇い主は大声で泣き崩れた。


彼は…極北の凍てついた地で変わり果てた姿で見つかった。服はボロボロになり、全身は刺し傷や殴られた傷だらけで、僅かな金や日用品は全て奪われていた。刺し傷は深く、徹底的に殴られた後に刺し殺された様だった。抵抗した跡も無く、只殴られ刺されるままだったようだった。最後の最後まで幸せを捨て、拒絶し続けた彼は、安らかな死すら拒んで、その短い一生を終えた。

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