押入れの中に誰かいる
愛美は今年の春から大学生になる。行きたかった念願の大学に合格した時は、家族とともに大いに喜んだものだ。
しかし問題は大学と実家の距離が通学するには遠すぎる事だ。もともと一人暮らしする予定だった愛美は不動産屋に行き、大学に一番近く、安いアパートを選んだ。
家族にはもっとセキュリティのいいアパートを探せと言われたが、これよりも条件を厳しくすると、資金がオーバーしてしまう。ただでさえ大学進学で家計に負担をかけてしまっているのだ。これ以上金銭的に迷惑はかけられなかった。
「ただいまーっと…」
大学で授業を受け、バイトから帰ってくると時間はもう夜の11時だ。愛美は疲れた体でお風呂に入り、部屋で大学のレポートを書く。
この部屋に引っ越してきてもうすぐ1年が過ぎようとしていた。最初は家賃が安いだけあって、建築年数が古く、二階の振動がダイレクトに伝わってきて辟易したものだが、今ではすっかり慣れてしまった。
大学にも慣れ、友人や好きな人もできた。バイトも人間関係のいい所で働く事ができ、愛美は今の生活に満足していたが、ある一点だけ気になる事があった。
「そろそろ寝ようかな……」
そう言って部屋の電気を消し、ベッドに横たわる。疲れているのですぐに眠気はやってきた。その時、
ああ……まただ。……誰なの? そこにいるの?
ベッドのむかい側にある押入れから最近視線を感じるのだ。すき間など開いているはずがない。眠る前にきちんと閉めたはずである。
だがその目線は愛美の体をつま先から太もも、腰から胸のあたりをいやらしく舐めるように見つめている。そしてその視線は顔に移動し、しばらく愛美の顔を見つめたと思ったら、すぅっと、波が引くようにその気配を消した。
はぁ、はぁ、はぁ……
愛美は体中からどっと汗をかく。視線を感じてる間うまく呼吸ができないでいた。押入れに誰か入っているか確認しようか。でも本当にいたらどうしよう。しばらくベッドの中で迷っていたが、意を決してベットから体を起こし、押入れの前まで歩く。
押入れの取っ手に手をかけ、深呼吸をした後、一気に押入れのふすまを横にひいた。
そこには誰もいなかった。
「なにそれ怖~……幽霊でもいるんじゃないの~?」
次の日大学の昼休みに食堂で、友人の春香に昨夜の事を相談してみた。春香は学食のうどんをすすりながら、愛美の話を聞いていた。
「いや、でもこれ入学して最初の半年は何ともなかったんだよ? それがここ最近急に……疲れでそう感じるのかな、て思ったんだけど、充分体力がある時も視線感じるからさ……」
そう春香に言った時、後ろから女子の黄色い声が食堂に響いた。
「愛美ちゃん、春香ちゃんこんにちは。俺も一緒にご飯食べていいかな?」
「とっ透先輩! その、私達でよければ喜んで!」
愛美は急いで隣の席に置いていた荷物をどかし、透に勧めた。ありがとうと透はお礼を言い、その席に腰掛ける。
桜井透はこの大学の三年生で、愛美が入っているテニスサークルの先輩である。この大学のイケメンコンテストに毎年優勝し続け、家族は政治関係者でお金持ちだ。その上運動神経もよく、誰にも分け隔てなく優しいとまさに四拍子そろっている。
女子学生はもちろん、男子学生にも人気があるこの人が愛美は大好きだった。
「何の話をしていたの二人とも? なんだか真剣そうな表情をしてたけど……」
「あ~はいはい私が説明しますよ先輩。実はですね~……」
春香が手をあげ、先程二人で話していた内容を透に話す。透はしばらく考えるように腕を組んでいたが、ふと何かを思いついたように話し始めた。
「ねぇ……それって君のストーカーなんじゃないの?」
「わ、私のストーカーですか?」
意外な言葉に愛美は目をまるくした。
「そうだよ。……君は押入れから視線を感じたと言っていたが、押入れの近くに窓はない? もしかしたらその窓ごしに君を見ていたかもしれないよ?」
確かに部屋の押入れの横はすぐ窓になっていて、その窓の向こうにはアパートの庭が広がっている。思いもよらなかった指摘に愛美は震えあがった。
「ど、どうしよう……ストーカーだなんて! 私もうあの部屋に帰れないよ……」
「視線を感じ始めたのは最近で、それが頻繁に続くんだよね?」
「は、はい。ここ毎日そうです……だいたい夜中の12時ぐらいに……」
透はまた考えるように腕を組み直し、しばらくして愛美にある提案を持ちかけた。
「ねぇ……もし愛美ちゃんさえよければ俺、今日愛美ちゃんの部屋に行こうか?」
「え゛えっ!!??」
大学の授業が終わり、愛美は大学のエントランスで透と待ち合わせをしていた。透が愛美の部屋に行くと提案した後、愛美は顔を赤くしながら先輩にお手数をおかけする訳にはと必死で断った。しかし
「これでもし本当にストーカーだったら本当に危険なんだよ? 君に危害を加えるかもしれない。最近変質者がでたって噂もあるし、それに問題の時間がすぎたら俺はすぐに帰るから……頼むよ愛美ちゃん、俺を安心させると思って……ね?」
愛美の手を取りながら、哀願するように言われてしまっては、愛美は頷くしかできなかった。
「はぁあああ~どうしよう緊張してドキドキするよ~! 春香はとんでもない事言うし……」
愛美は盛大にため息をつきながら、食堂で透と別れた後の春香の発言を思い出していた。
『ラッキーじゃん! 愛美、透先輩の事好きだったよね? そのまま押し倒してヤッチマイナー!』
愛美は顔を赤くし、自分に言い聞かせる。
先輩がこんな事をしてくれるのは先輩が優しいからだ。きっと自分でなくても彼はこうするだろう。それに確かに先輩の事は好きだが、別に付き合いたいと思っている訳ではない。ただ見てるだけで幸せなのだ。それにあんなに素敵な人が自分に釣り合うはずもない。下手に告白して気まずくなるのだけは避けたかった。
そんな事を考えているうちに、透が姿を現した。愛美は頭をふって、先程までの考えを追い払うと、透のもとへ駆け寄った。
すぐに愛美の住んでいるアパートに着いた。愛美は自分の部屋のカギを開け、透を中に通す。
「お邪魔します。へぇ、女の子らしい可愛い部屋だね? きれいに片づけてある。」
「あ、いえ、すみません、狭い部屋ですが……」
この時ほど、愛美は自分のきれい好きを感謝した事はなかった。透と二人きりという状況に耐えきれず、部屋のあちこちを歩いてしまう。そんな愛美の姿を見て、透は微笑みながら愛美の手をとる。
「ふふ、そんなうろうろしてないで座ろうか? ほら、愛美ちゃんこっち座って……」
そう言って、透は愛美を自分のあぐらの上に座らせる。そして愛美の腰に両腕をまわした。
「せっせんぱひっ!なっ何をなさっておられるのでしょうかっ!?」
愛美はトマトやりんごなど比べものにならないぐらい顔を赤くした。立ち上がろうと足に力をいれるが、透の腕は力強くびくともしない。
「そんなに緊張しないでよ。いきなり押し倒したりなんてしないから。まぁ俺も緊張してるんだけどね? だって好きな女の子の部屋にいるんだし……」
「へっ!!??」
愛美は思わず変な声で叫んだ。透は熱のこもった目で愛美を見つめる。
「ねぇ……愛美ちゃん返事は? 俺今告白してるんだけど……」
「~~~~~あー! 先輩のど乾きましたよね!? 私ちょっとコンビニ行ってきます!!」
愛美は渾身の力を込めて、透の腕の中から立ち上がり、そしてそのまま勢いよく部屋を飛び出した。
「はぁ、はぁ……せ、先輩ったら冗談きつすぎるよ……いつも私をからかって楽しいのかな?」
部屋を出て100メートルぐらい走ったところで愛美は息を整えた。透は時々あんなふうに、からかってくるから困る。今の走りは自己新記録だなと思っていたら、愛美は自分が手ぶらで外に出てきてしまった事に気がついた。
「マジですか……。し、しょうがない、お財布取りに戻らなきゃ」
愛美はそのまま踵をかえし、自分のアパートへ戻った。
愛美は自分の家のカギを開け、透先輩のいる部屋に入ろうとした時、信じられないものを目にした。
透が愛美の本棚をあさっている。あさっているだけならまだいいだろう。しかし透は手に盗聴器のような物を手にしていた。
「……っひい!?」
愛美は思わず声を上げた。すると次の瞬間、透がこちらに気付き、振り向いた。
目があった瞬間、まるで見られてはいけない物を見られてしまったかのように、透は顔を歪めた。
「っっっいやあああああああああああああ!!!!!」
愛美はのどが張り裂けるくらいの悲鳴をあげた。そして次の瞬間家から逃げ出した。
外に出るとすぐに、後ろから追いかけてきた透に腕をつかまれる。
「いやー! いやー! 離してよこのストーカー!」
「愛美落ち着け! 静かにしろ!」
透は叫び声をあげている愛美を黙らせようと、口に手をあてるが愛美はその手を思い切り噛んだ。
「くっ!?」
愛美は透が怯んだスキを狙い、急いで自分の家に戻りカギをかけた。愛美は扉から逃げるように部屋に行き、ベッドに上半身を預けてガタガタと震えだした。
「ど、どうしよう……! なんで先輩がこんな事っ……!」
透はまるで打ち壊すかのように、拳で扉を叩き続けている。そして大声で叫んだ。
「開けてくれ愛美! 違うんだ、盗聴器は俺が仕掛けようとしたんじゃない! 既 に 仕 掛 け ら れ て あ っ た ん だ ! 中は危険だ! すぐにこっちに来い!」
「 押 入 れ の 中 に 誰 か い る ! ! 」
そう透が叫んだ瞬間、愛美の後ろの押入れがスーっと開いた。
愛美が気配に気づき恐る恐る後ろを振り向くと、包丁を持った汚らしい男がにやにや笑いながらこっちを見ていた。
「――――――っ!!!」
愛美は声にならない叫び声を上げた。逃げ出そうとするが腰が抜けたのか足に力が入らない。
「愛美!? どうした愛美返事しろっ!!」
透はのどが焼き切れるような叫び声をあげて扉を叩いている。しかし愛美にとってはひどく遠くから叫んでいるように感じた。すべての感覚がおかしくなったみたいだった。
男はナマケモノみたいにゆっくりと、しかし目線は愛美からけして離さず、愛美のもとへ歩いてくる。
やめて……来ないで……お願い来ないで……やめて……っ
愛美はそう男に言いたかったが、のどがまるで張り付いてしまったかのように声が出せない。
男は遂に愛美のもとへたどりついた。
にやけた口からはよだれがとめどなくあふれている。
そして手にしていた包丁を愛美に振りかざした
次の瞬間、鼓膜を破るような窓ガラスの割れる音が部屋中に鳴り響いた。そして一瞬のうちに、男の体が床に叩きつけられ、男はそのまま動かなくなった。
「ハァ……ハァ……愛美、無事か!?」
透は庭石を使って窓ガラスを割り、男をそのまま背負い投げをしたようだった。
男が動かない事を確認すると、透はぼうぜんとしている愛美を激しく自分の胸にかき抱いた。
「よかった……愛美! 無事でよかった……本当に! お前に何かあったら俺はもう生きていけない……好きだ愛美! 愛してる!」
「と、とおるせんぱい…」
愛美の顔に透の涙がこぼれ落ちる。愛美はその姿を見て、やっと自分が生きているんだと実感した。
みるみるうちに目から涙がこぼれ落ちた。そして心の底から透に対して愛しいという感情がとめどなくあふれてきた。
「私も好き……! 大好き先輩……愛してます!!」
そう言って愛美は透を抱きしめかえす。遠くからパトカーのサイレンが響いてくる。近所の誰かが通報したのだろう。しかしそんな事はどうでもよかった。
二人はそのサイレンの音を聞きながら、深く深く唇を合わせ続けていた――――
「そんな事があったんだね~……」
次の日大学のベンチで、愛美は春香に昨日の事件の話をした。警察の話によると、男は愛美の部屋の合カギを作り、ずっと押入れの下段に隠れていたらしい。
「私押入れの確認はずっと上段だけしていたから……まさか下段にいたなんて……」
「いや~でもそのほうがよかったよ。もしあんたが夜中一人で下段のほうも確認していたら……」
確実に殺されてしまっていただろう。愛美はそう思い、顔から血の気が引くのを感じた。そんな愛美を心配したのだろう。 春香は愛美の肩に手を置いて、励ますように笑った。
「でもさ、これで透先輩と付き合うようになったんでしょ? それに透先輩のマンションで一緒に二人で暮らせるようになったんだからよかったじゃん」
「うん……」
愛美は頬に手をあてて、火照った顔を冷まそうとした。
あの事件があった後、警察の事情聴衆が終わった時に透から俺のマンションでいっしょに暮らそうと提案された。愛美は最初恥ずかしがったが、さすがにもうあのアパートで暮らそうとは思えなかった。昨日から愛美は透と一緒に暮らしている。
「まだアパートに荷物もあるし、色々手続きがあるからまだゆっくりはできないけどね……今日もまたアパートに行かなきゃ」
「じゃあ早く二人でゆっくりするために、さっさと色々な事終わらせに行こうか?」
「せ、先輩!?」
気がつくといつのまにか二人が座っているベンチの後ろに透が立っていた。透はいたずらが成功した子供みたいに笑っている。
「い、いつからいたんですか?」
「結構前からいたのに二人とも気がつかないんだもん。じゃあ春香ちゃん。愛美はもらっていくから」
そう言って透は愛美の腕をとり、歩き出した。愛美は後ろを振り返ると、春香がお幸せに~と言った表情で手を振っていた。愛美はなんだか嬉しくなって透の腕に抱きついた。
「先輩……ずっと仲良くしましょうね。大好きです」
「ああ……俺がずっと愛美を守るよ。絶対に離さないからな……」
透は自分の腕を抱きしめている愛美の手を強く握り返した。
愛美はこれ以上ないぐらいの幸福を噛みしめていた――――――
愛美は俺と腕を組みながら微笑んでいる。愛美の可愛い表情を見ながら俺はそっと、ほくそ笑んだ。愛美が知らない事がある。愛美はは今まで感じていた押入れの視線は捕まったあの男のものだと思っている。しかしそれは違う。なぜならその視線の正体は俺だからだ。
愛美を一目見た時から俺は愛美に夢中になった。俺は何度も愛美に告白したが、愛美はどんなに顔を赤くしても冗談だと言って本気にしてくれなかった。そのうち俺は愛美に対して、どんどんどす黒い感情が心の中に湧いてくるのを感じた。
愛美にキスをしたい。愛美を抱きしめたい。愛美をずっと見ていたい。愛美を押し倒したい。どんなに嫌がられても。涙を流し、抵抗する愛美を妄想すると興奮する。
そんな考えが頭を支配するようになって一年が経とうとした時、愛美の友達の春香がこんな事を言った。
「愛美は大学の近くの●●アパートに一人暮らししてるんですよ~愛美の隣の部屋が空き部屋になっているので先輩そこに引っ越しません? ほら女子の一人暮らしって危ないし~」
おそらく春香は冗談で言ったのだろう。しかし、俺は本当にいい事を聞いたと思わず声を上げて笑い出しそうになった。
すぐに俺は愛美の住んでいるアパートの住所を調べだし、愛美の隣の部屋を契約した。古いアパートは押入れの天井裏が開くようになっている。そして天井裏には隣の部屋との仕切りはない。俺は夜になるとその部屋に行き、押入れの天井板を外し、天井裏から愛美の部屋の押し入れへと移動し、そこから毎晩愛美を見つめ続けていた。
どんな愛美も可愛いが、特にベッドに横たわって眠っている姿が色っぽくて一番いい。俺は何度押入れから出て、愛美を犯してしまいたいと思ったことか。しかしここで襲ってしまっては毎晩の楽しみがなくなってしまう。俺はいつも我慢をしながら天井裏から自分の部屋に戻り、本当に住んでいる自分のマンションへ帰って行った。
しかし愛美は押入れの視線に気づいてしまったようだ。残念だがもう押入れから愛美を見るのは諦めたほうがいいかもしれない。そう思った俺は今度は盗聴器を購入し、愛美にストーカーがいるかもしれないと恐怖心を煽り、愛美の部屋へ招いてもらった。
やはり愛美の部屋は居心地がいい。そして俺は愛美に迫った。こうすると大抵愛美は顔を赤くして逃げだすからだ。今回もいつもと同じで、慌てながらコンビニに行くと部屋を出て行ってしまった。俺は苦笑しつつ、盗聴器を仕込む場所を探した。
本棚がいいだろうと思い、本をどかして盗聴器を仕掛けようとした瞬間、あろうことか愛美が帰ってきてしまった。愛美は俺の行動を見て驚愕している。俺はなんとか愛美を落ち着かせようとした時、俺は気付いてしまった。
押入れの隙間から
男 の 目 玉 が こ ち ら を 見 て い る 事 を
俺は思わず顔を歪めた。しかしその瞬間愛美は悲鳴を上げながら部屋を出て行ってしまった。いや、むしろこれは好都合だろう。こんな危ない場所に愛美を入らせるわけにはいかない。
俺も愛美の後を追いかけ、叫ぶ愛美をなんとか落ち着かせようとした。しかし愛美は俺の腕を振り払いあの男がいる自分の部屋に戻ってしまった。
俺はドアを叩きながら部屋の中に不審者がいる事を叫んだが、愛美の返事がない。このままでは愛美が危険だと判断した俺は庭にまわり、愛美の部屋の窓ガラスを石で叩き割って部屋に侵入し、男を床に叩きつけた。
まさに危機一髪だった。俺は思わず愛美を抱きしめ、想いのすべてを告白した。すると愛美は自分も好きだと言ってくれた。夢みたいだと思った。俺は愛美の唇を貪ると、愛美もそれに懸命に応えてくれる。
俺はそんな彼女のいじらしさに、深い喜びともう二度と離さないという暗い独占欲が体中を支配した。
その後の処理は簡単だ。俺は親父に頼んでこの男に俺のした事をなすりつけ、罪をねつ造した。こんな時政治家は便利だ。愛美の部屋にいた男は、覚せい剤の常習者だった。愛美の部屋に強盗に入った時に俺達が部屋に入ってきたので押入れに隠れたらしい。
まぁそんな事はどうでもいい。真実を知る人間は数人だけだ。俺はこの幸せを守り抜く。もし邪魔をしようとする人間がいるなら、俺はためわらずにその人間を消す。それぐらい俺は愛美を愛してしまっていた。
「先輩、どうかしましたか?」
愛美が心配そうに俺の顔を覗き込む。どうやら長い時間考え込んでしまっていたようだ。
「何でもないよ。愛美は何も心配しなくていいから」
俺はそう言って愛美の額にキスをする。愛美は顔を赤くし、もう! と少しふてくされたが、すぐに真剣な表情をして言った。
「……何か悩んでる事があったらあったら教えてくださいね。私にできる事があるなら何でもしますから!」
「……大丈夫だよ。愛美が傍にいてくれれば俺は幸せだから。だからずっといっしょに俺と暮らそうね? いつまでもずっと……」
俺がそう言って愛美を見つめると、愛美は嬉しそうに微笑んで、しっかりと頷いた。
まったく俺の恋人は可愛すぎる。しかも何でもするとまで言ってくれた。言質はとったし、愛美のアパートの処理が終わったら、俺の部屋で二人で楽しい事をしようと思う。もし愛美が恥ずかしがって抵抗しても、それはそれで仕込みがいがある。さて、善は急げだ。早く面倒な事は済ませてしまおう。
俺はもう絶対に愛美を離さない。彼女が嫌がろうと絶対に。
そう心に誓い、俺と愛美はそのまま大学をあとにした。
ここまで読んで頂きありがとうございました。この小説を書いている時やたらと押入れのすき間が気になりました。(笑)皆様に少しでもゾクッと思われたなら幸いです。
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