第一話 1
皆様お久しぶりです。
お待たせした……かどうかはわかりませんが、オリジナル作品第一弾です。
受け入れられるかどうか不安でいっぱいですが、とりあえずやってみよう精神で書いてみました。
プロローグということで短いですが、皆様に少しでも興味を持ってもらえたら幸いです。
なお、作者の旧作をご存知の方には、ニヤリとしていただける要素もご用意しております。
焼け付くようなスポットライト。
その光と観客が生み出す熱気。
それは広い会場の空気だけではなく、自分の体温を内側からも熱くさせる。
歓声。
周囲の全てが地鳴りのような振動を起こした。
熱狂。
観客の期待が自分を加速させる。今ならば、自分には何だって出来る。そんな感覚――――
そこで景色は急激に切り替わった。狭く薄暗い部屋の見慣れた天井。そこで一成は今まで見ていた光景が夢であった事に気付いた。
「……また、かよ」
苦笑いしながら一成は、今日もいつもと変わらない朝を迎えた。
起床した一成はまず台所でうがいをし、そのまま朝食の用意をしながらテレビの電源を入れた。今日の仕事は比較的近い現場なのでゆっくりできそうだ、なんてことを思いながら今日の天気予報を確認する。
味噌汁を温め、ご飯に納豆をかけるだけという質素な朝食。さほど時間もかからずに準備を終え、それを食べながらニュース番組を流し見る。一成の興味の湧くような話題もないが、すっかり習慣づいている行動でこれといって不具合も感じていない。
朝食を食べ終えたら食器を洗い、低脂肪乳をパックのまま飲む。ここまでが一成の定番の朝の行動だ。
今日の仕事に間に合う頃合いを見て一成は家を出た。
外は学校や会社に向かう人間たちで朝らしい賑わいを見せていた。ヘッドホンで音楽を聞き、眠そうにあくびをしながら歩く高校生。コンビニのパンをかじり、それを栄養ドリンクで流し込むサラリーマン。電車の時刻を気にしながらハイヒールを鳴らして危なっかしく走るOL。見慣れた光景の中を一成も駅に向かって歩いていく。
途中の自販機で買った野菜ジュースを飲みながら歩いている一成を追い抜いて、どうやら高校生らしい制服を着た男女が、手を繋ぎながら走って裏路地に入っていく。
「おーおー、仲がよろしいこって……」
ほんの少しだけ嫉妬しながら呟く。しかし、呟いたあとで僅かな違和感を一成は抱いた。
――――あの二人、何をあんなに急いでるんだ?――――
いや、急いでいるというよりはまるで何かから逃げているように見えた。
そして、その違和感は確信に変わる。
一成の後ろから、スーツに身を固めた男たちが走ってきて、二人を追って路地に入っていった。今目の前で起こった事は、決していつも通りの平穏な朝ではありえない。
「なんだよ……マンガかこりゃあ?」
一成の足は二人を、そしてスーツの男達を追っていた。考えるよりも先に、逃げているであろう高校生二人を逃がそうと感情が突き動かしていた。
いつもの朝とはまるで異質なその喧騒の元を追うのはさして難しいことではない。そして、一成はこのまま進んでしまうと路地の先が袋小路になっていて、二人の高校生がこれ以上逃げることは出来ないことに気が付いた。では、このまま追いついてあの二人を助けるのか? そこで一瞬躊躇したが、自分の体はすでに動いてしまっている。ここまで追って何を今更。一成は考えるのを止めて彼らを追った。
やや膨らむ形に広くなった袋小路に突き当たると、やはりスーツの男たちに高校生二人が囲まれていた。眼鏡をかけた端正な顔立ちの少年が、やはり美人と断言していい少女を庇うように5人のスーツの男たちの前に立っている。
追い付いた一成の気配に気付いたスーツの男たちは明らかに嫌そうな表情を浮かべた。この状況を第三者が見れば、誰に聞いてもスーツの男たちを不審者だと断言するだろう。もちろんスーツの男たちもそれを自覚している上でこのような行動をしているはずで、目撃者は増やしたくないはずだ。
スーツの男たちが突然現れた一成への対応に一瞬戸惑う。その一瞬を狙い――――
「ッせぇ!!」
一成は飲みかけの野菜ジュースの缶をスーツの男に向かって投げつけた。




