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第一章

「なあ、本当にそのECって硬貨を百枚、お前に渡せば赤い実と交換してくれるのか?」

 その子供は訝しそうにミノルに尋ねた。ミノルは上っ面で、微笑みかけるように言う。

「本当だよ。君がECを百枚、ちゃんと持って来てくれれば、赤い実、一個と交換してあげるよ」

 その子供は何か考えるように黙り込んだ。多分、自分の力で赤い実を採るのと、ECを百枚を集めるのはどっちが楽にできるか考えているのだろう。赤い実を採るには、まず朝早く、もしくは昨日から開く門の前にいなければ難しい。しかも、そんな事ができるのは生まれて一日目の子供じゃないと普通は無理だ。ましてや、目の前にいる子供は生まれて二日目の子供だ。ECを持っているだろうと訊いた時、何それ、と返されたので間違いない。

「そのECは、他の子供が持っているんだよな」

 その子供が話した時、ミノルは決まったなと確信した。これで少なくとも十枚は手に入る。

「但し、生後一日目の子供一人につき、一枚だけね。君は生後二日目だから持っていないでしょ?」

「どうして、生後一日目の子供だけECを持ってんだ?」

 子供はミノルに尋ねる。

「さあ、僕にはわからない」

 ミノルは当然のように嘘つく。

 当たり前だ。どうして、生後一日目の子供が一枚だけECを持っている意味、理由を、すぐに『世界』に生まれたがっている子供に教えなければいけないのだろうか。そんな意味もなく、下手すればこの取引すら駄目になる事をする訳がないだろう。

「僕がECを集めているのは、ただの趣味、娯楽って所かな。ECは見ていても飽きないからね」

 また嘘。まあ、死ぬよりましだ。

 それを聞いた子供はどこか疑っている用に睨む、そして決心したようだ。

「本当に赤い実と交換してくれるなら、そんな事どうでもいい。本当にくれるんだろうな?」

「本当だよ。君がちゃんとECを百枚を持ってきてくれるなら」

「わかった。必ず持ってくる」

 取り合えずは交渉成立だ。ミノルは安堵する。ここでやめると言われたら、また比較的死に対して落ち着いている子供を探すのが面倒で仕方がないからだ。

「じゃあ、僕の部屋、えーと、町から南門の方に向かって、右側、西門から二十八番目の長屋の二百六十四の部屋の郵便受けに入れてね。ああ、そうだ忘れてた。入れるときは十枚貯まったら、そのたびに入れてね」

 その子供は激昂した。

「何で十枚ずつなんだよ! そうか! そうやってオレを騙すんだな!?」

 ミノルは落ち着いてといいながら宥め、説明する。

「いや、君の為を思って言っているんだよ。百枚のECを一人で持ち歩ける分けないでしょ? それに僕以外にもECを集めている子供がいるかもしれない、その子供に盗られる可能性だって否めないじゃないか」

「…………確かにそうだな。疑って悪かったよ」

「いやいや、こっちだってちゃんと説明しなかったのが悪い」

「よし、西の門から二十八番目の二百六十四の部屋、だな?」

「うん、あってる。それと、何故だか知らないけど殺されそうになったら、ミノルの使いをやっているって言ってみて。たぶん助かるから」

「…………分かった」

 その子供は再びそう言ってミノルに尋ねた。

「もう一度、確認していいか?」

「何?」

 ミノルは何の事だろうかと思った。その子供の口が開く。

「子供からECを奪う方法って、」

「なんだそんな事か、簡単だよ。それは――――――」

 ミノルはそれは屈託のない笑顔で言った。


「殺して、身ぐるみ剥がせば楽勝だよ」


               



 ミノルは自分の部屋に戻る途中だった。歩く道は雑草も何も生えてない。別に誰かが除草しているという訳でもない。ただこの道が『ここ』に生きている子供たちがよく通る道だという事を、知らぬ間に暗示しているようだった。

「どけ邪魔だっ!」

 子供たちを押し退け、誰よりも早く赤い実を採ろうとしている子供。

「生まれたいよ…………、死にたくないよ…………」

 生後二日目で赤い実を採れずに死を待つ子供。

「痛いっ! 血がっ、血がぁぁ!」

 他の子供に襲われて傷を負い、なけなしのECを採られる子供。

「えへへへへ、今日も採れなかった…………、明日、死ぬのかな」

 死を前に狂う子供。

「さっさとEC寄こせっ!」

 取引をしてECを集める子供。

 色々、様々、十人十色、荒唐無稽な子供たちがこの道を歩く。ミノルはその横をまるで傍観者、見下すような目線で子供たち見て、自分にぶつからないようにその間を抜け、自分の部屋へと向かう。

 はあ、とくだらない光景にため息をついた。

 ミノルは『ここ』で『世界』でいう一年は生きている長寿であり、ここでの生き延び方を知っている数少ない子供でもあった。

 『ここ』に生まれ、生きていくことはできない。

 『ここ』の規則というよりは、現実をそのまま表したものだ。

 何故ミノルは、『ここ』で一年、三百六十日以上、生きているのか。

 『ここ』に生まれてくる子供たちは、とある共通の目的をもって生まれてくる。その目的というのが『世界』に生まれるということだ。『世界』に生まれる為には赤い実という、ここに三本しか生えてないと言われている木に成る実を採って、食べなければならない。一見、簡単そうに聞こえるが全く違う。競争率は赤い実一個に対して、子供たち二百人以上。一日成る実の数は数十個。五十個あれば多い方だ。つまり、毎日、数十人しか目的を果たせないのだ。逆を言うと数千人の子供たちが目的を果たせない事になる。

 その目的を果たせなかった子供たちはどうなるか。生後一日目だったら、ECを持っていればもう一日その機会がある。生後二日目で、ECを持っていなかった場合はそこで、もうおしまい。

 死ぬしかない。目的を果たせず、ECを一枚も持ってない子供は死ぬしかないのだ。

 ミノル場合は『世界』に生まれる目的は果たさず、ECだけを大量に持っている為に『ここ』で長生きできるのだ。

 EC一枚につき、一日寿命を延長できる。

 その事実を知ったミノルは狂ったようにECを集めた。

 確かに『世界』に生まれれば『ここ』より長生きできるかもしれない。

 だが、『世界』に生まれても、必ず死がやってくる。しかし、『ここ』ならECさえ持っていれば、百年、千年、一万年、一億年、永久に生きることができる。ミノルは死ぬのが怖かった。『世界』には永遠は悲しいという概念があるらしいがそれは、死が必ずあり、逃げる事が不可能だから、自分に言い聞かせるために言うのだろう。でも『ここ』は違う。不可能ではなく可能なのだ。ひどい外傷を負わなければ死にはしない。病気や怪我、骨折だって、一日寝ればすべて治る。『世界』に生まれなくとも、『世界』と同等、いや、それ以上のものが手に入るのだ。

 ミノルはそう考えた時点で目的なんて果たすものではないと結論づけた。そして、『ここ』に生き残る為にECを集めている。

 赤い実一個とEC百枚を交換して。

 目的と百日の命を交換して。 

 だからミノルは思うのだ。赤い実を手に入れるよりは、生後一日目の子供を殺してECを奪い、生きる方がよっぽどいいと。実際そうしている友達をミノルは知っている。そいつは子供を殺すのが好きで意味なく子供を殺してはECを奪っている。ミノルは他人の生き方に口は出さないが、時たま、自分が契約した子供を殺してしまうのは止めてほしいと思うのだが。

 そんなの普通の子供には無理かと早々に片づけた。ECを集めるのに子供を殺すのも精神的に参る。だからミノルはこうやって、誰かに任せてECを集めているのだ。それならさっきの取引を提示すればいいと思うが、赤い実が確実に採れなければミノルのような商売はできない。生まれて間もない時に赤い実を採れればそんなことを考えずにすぐ食べるだろう。

 それと赤い実を採りたいなら、一番良い方法は、ECを奪いつつ、赤い実を採りに行くことだな。それなら、何度も挑戦できるし。とミノルは思う。

 ミノルは笑った。何で自分はこんなくだらない事を考えているのかと。

「どうせ、僕には関係ないことなのにね」

 自嘲気味にぼやいて、再び笑った。周りの子供たちはそんなミノルに関係なく、騒がしく生きようともがいていく。

 このあと、ミノルが一番良い方法する厄介な子供と出会うとは微塵にも思っていなかったのだった。





 ミノルはソンやジョージと会う約束もしていなかったので、どこにも立ち寄らずに自分の部屋がある長屋に着いた。最初は部屋が多くて迷ったりしていた頃もあったなと感慨に耽りながら、自分の部屋に迷うことなく向かう。ややあって自分の部屋に着いた。

 『ここ』では、子供一人につき部屋が一つ割り振られているが、部屋を使う子供はほとんどいない。『世界』に生まれようとしている子供たちは部屋で一夜を過ごすのではなく、徹夜で次の日に開く門の前で待っているからだ。たった二日しか赤い実を取れる機会がないのに、わざわざ部屋に行って体を休めるよりは、徹夜して赤い実を採れる確率が高い方を選ぶだろう。ミノルもその方を選ぶだろう。ミノルだって一様、赤い実は欲しいのだ。その理由は赤い実とEC百枚と交換する取引の為で、『世界』に生まれる為ではないのなのだが。

 ミノルがこの部屋に住む理由は三つある。

 一つ目は夜、野外で寝ると追い剥ぎあう可能性があり、鍵も掛けられ安全に寝ることが出来るからで、赤い実を徹夜してまで採ることは滅多にしないミノルは、いつもこの部屋で眠っている。

 二つ目は、ECの保管場所として使っている。一日生きるために持っているECが一枚消えてなくなる。しかし、この部屋にいくら備蓄したとしても、自分の手元になければいけない。例え、百枚くらい部屋に備蓄しても、手元に一枚も持っていない場合、そのまま明日になった瞬間死んでしまう。ミノルはそんな失敗を防ぐために、常に十枚は持つことにしている。

 三つ目は、先ほどの取引の時に十枚ずつ郵便受けに入れろと指示し、ECを回収するために使っている。この方法を本当に使えるとミノルは自画自賛していた。

 自分の部屋の戸の取っ手を掴み、引いて開けようとする。鍵は自分自身で、自分の部屋だと開き、他人の部屋だと開かない、不思議な構造になっている。

 ぎぃ、軋んだ音が立てて戸が開く。

 この時ミノルは迂闊だった。後ろから、尾行されるわけがないと高を括っていた。その迂闊さが、あの子供と取引を交わした時から、自分の部屋の前まで、ずっと尾行されている事にミノルは全く気付かなかったのだ

 ミノルは尾行していた何者かに背中を押され、前のめりになったが、再び押されてついに倒れた。ガチャッ、と部屋の戸が閉まる音がする。ミノルは誰がこんな事をしたのか。もしかして、ソンとジョージのどちらかががからかってやっているのではないかと二人を疑ったが後ろを振り返って見ると違った。

 そこにはX型の子供が右手に金属光沢を持つ破片を持ち、倒れているミノルを見下ろすように立っていた。

 ミノルは尋ねる。

「君は誰かな?」

 そのX型はミノルにゆっくりと近づいて腰を下ろし、ミノルの首に右手に持った鈍く輝く武器を当てながら言った。

「私の名前はスズラン」

 それを聞きミノルは少し驚く。『ここ』で自分の名前を決めるのは長い間生きている証拠とも取れるからだ。

「スズランか名前があるって珍しいね。で、何しに来たの?」

 ミノルがそう訊くとスズランは笑った。嘲笑に近い、嫌な笑い方だった。

「何しにって、殺されそうなのにそんな流暢な台詞を言えるね。それもそうか、ここであんたを殺しても私は部屋の外に出れないから、殺されないって高括ってんでしょ?」

「違うよ。ただ混乱して頭がついてこないだけ。あー、因みに僕はミノルね」

 スズランはミノルの言葉を聞いた途端、嫌そうな顔をする。

「その如何にも落ち着いていますよって雰囲気がなんかムカつく」

「それは仕方ないね。実際落ち着いているから。それから、スズランは生後何日?」

「今日で丁度五日目よ。…………て、何で私は、あんたの質問を答えているのよ?」

 二日以上生きているということは、ECを持っていれば何日でも生きられるのを知っているということになる。

「まあいいわ、次は私の番。あんた、赤い実を持ってる?」

 スズランはあんな取引をしていたのだから赤い実を持っているはずだろうと憶測で着けて来たに違いない。ミノルは今度、人目に付かないところでやろうと思った。

「生憎、今品切れで、明日取りに行く予定だったんだ」

「嘘じゃないでしょうね? そんなに冷静だとますます嘘っぽい」

「慌てふためく方が信憑性があるかもしれないけど、無いものは無いし、あったらすぐに渡しているよ」

「それ、本当?」

 どれだけ信用されてないんだよ、と内心愚痴る。

「無いなら無いでいいや、代わりに持っているEC寄越しなさい」 

「何日分かな?」

「全部だ!!」

 スズランが怒鳴り、立ち上がって、近くにあった椅子を威嚇するように蹴飛ばした。ついに痺れを切らしてしまったようだ。

「今、手持ちは十枚しかないんだ」

「嘘だ。あんな取引してるくらいだから、何百枚も持っているはずだ」

 スズランは再びにミノルに近づき、また首に金属片を当てる。

「早く出さないと殺すぞ」

 凄みを利いた声で脅してきた。ミノルはどうせ殺されることはないと思っているので、いつまでも、怯えたりする事は無かったのだが、さすがにこの声に恐怖心がちらっと出てくる。

 恐怖心を隠すようにミノルは疑問に思った事を訊いた。

「スズランは世界に生まれたい?」

 ECの役割について知り、分かっているなら『世界』に生まれなくともいいじゃないかと考えていたミノルにとって、そこが疑問点だった。スズランは聞くやいなやすぐに返す。

「はぁ? 何言ってるの? 馬っ鹿じゃないの? 『ここ』に生まれたからには『世界』に生まれたいって思うでしょ? そうか。あんたは『世界』に生まれなくても死なずにのうのうと生きれるもんね? 他の子供たち嗾けてECを沢山騙し取って生きてるのだから、私たちが必死に『世界』に生まれようと赤い実を採ろうとしているのなんて馬鹿馬鹿しくて、笑えもしないでしょ? 見下してるんでしょ? 蔑んでるんでしょ?」

 スズランは途中から涙声になり、ミノルの首に当てていた金属片を持った右手を途中から降ろしていた。その時にミノルは逃げるべきだったのかもしれない。しかし、ミノルは言った。

「騙してはないよ。ちゃんとした取引に則って赤い実とECを交換しているし、謀った事もない」

「どっちだって同じよ! 誰かを嗾けて、誰かの命を奪っているのと全く同じじゃない!」

「それなら、スズランだって奪ったんじゃないか?、他の誰かの命を」

「…………確かにそうかもしれない、けど、あんたとは違う。あんたは他の子供の命なんて考えていない。でも、私はちゃんと考えている。生きたいけど、そのために殺したくない。だから私は早く『世界』に生まれたいの。私が生まれるために犠牲は少なくしたいの」

 スズランはミノルを睨んだ。その双眸には強い意志が見えているようにミノルは感じた。ミノルは悟すように言う。

「世界に生まれることは沢山の犠牲なしにはできないんだよ。赤い実一個に対して二百人くらい集まるんだからね。その子供たちを蹴落として採らなきゃいけない。つまり、必ず二百人近くは犠牲にするんだ」

 ミノルは長い間、『ここ』に生きているので、こんな事を思う時もあった。何故、『世界』に生まれなければいけないのかと。確かに長生きする為というのは子供たちにとっての有益であるが、それ以外の利益というものをミノルは考えられなかった。どうして、赤い実を採り、食べた子供だけが『世界』に生まれることができるのか、単に『世界』に生まれさせたいならこんな赤い実だのECだの作らなくとも、『ここ』を経由せず、『世界』に直接生まれさせればよいのではないかと思った。それなら、誰も悩まず、悲しまず済むのにと耽った事もあった。

 でも、すべてが杞憂で、簡単な話なのだ。

 世界に生まれたとしても、生き続けるなら、何か生きていたモノを食べなければいけない。それと同様に『世界』に生まれる為だって、赤い実一つ採るだけで二百人以上の子供の命を奪う事に等しい。

 簡単な話だ。生きるためには命を必要とする。憂うだけ無駄なのだということなのだ。

「じゃあどうすればいいの? 生まれちゃいけないの?」

 許しを乞うようにスズランは訊く。

「違うよ。想うだけ無駄なんだ、という事さ。ところで話は変わるけど、僕は脅されているんだよね?」

 ミノルは急に話題を変えた。『世界』に生まれたくない子供が『世界』に生まれたいと願っている子供の為になる事を言えるわけがない。それとこれ以上続けても面倒臭いだけだなと思ったからである。

「じゃあ、取引をしよう。まず僕を殺さないでくれ。その代わり僕が赤い実を採ったら真っ先にスズランにあげるよ。それからもし明日赤い実が採れなくても、採れるまでスズランの生き続ける分のECを肩代わりする。これでいいかな?」

 スズランは一瞬きょとんと呆けた表情になったが、すぐに脅してきたときと同じ顔に戻り、袖で涙拭いて承諾した。

「本当ね? 嘘だったら殺すからね」

「殺したら、赤い実もECもここから出ることもできなくなるよ」

 スズランはふんっと顔をミノルからそらした。すぐに立ち上がってミノルがいつも寝ている寝床の上に腰掛ける。

「…………ミノルはどうして『ここ』で生きようって決めたの?」

 スズランが尋ね、ミノルが質問で返す。

「じゃあスズランが『ここ』にいる意味は何?」

「さっきも似たようなこと言ったじゃない。『ここ』で死なないで『世界』に生まれる為にいるの」

「確認だよ。僕は単に死ぬのが怖いだけさ。『ここ』で生きるなら永遠に死ぬこともないからね」

 それから二人の会話が続いた。他愛もない話であった。

 窓の外には夕焼けの茜色に染まっていく地面と同じように夕焼けに照らされて染まる隣の長屋が見える。

 ミノルは外の景色を見て、もうそんな時間なのかと思った。床から立ち上がり背伸びをする。スズランに倒されてから成り行きでそのまま床にずっと座ったままだったので、腰が痛い。

 今から何かすると察したスズランが訊く。

「何しに行くの?」

「これから同業者に会いに行こうと思うんだけどが一緒に来ない?」

 ミノルが提案するとスズランは素っ気なく答える。

「あっそ、一人で行けば」

「…………もしかしたら、赤い実を持っている奴がいるかもしれないよ。それと同業者だから、普通の子供より赤い実の取引が楽にできるし、知り合いだから融通も利くし。あと、部屋の中、荒らされるのが嫌だから一緒に来て―――」

「嫌」

「………………………………………」

 色々とスズランを懐柔し、ミノルはスズランを部屋の外に連れ出すことに成功した。

「大量のECで物言わせるなんて最低ね」

「その金属片で物言わせるスズランも最低になるじゃないかなあ」

 ミノルは足を蹴られた。





 ミノルとスズランは部屋を出て、町と言われる場所に行くため北へと向かう。そこは沢山の建物が並び、世界にある一種の商店街(辛うじて記憶にある単語を引っ張りだした)みたいなのだが、短命な子供たちはそこに向かうことはまずない。そんなところで時間を潰している暇など無いからと、売っている物など無いからだ。だが、そこの一角にある変哲もない小屋にここでの唯一の飲料がある。小屋に置いてある大きな樽は備え付けてある蛇口をひねると紫色の甘い水が出てくるのだ。なぜか樽の中の飲料は減らない。前にジョージが偶然見つけて以来、そこを待ち合わせ場所としている。いわば秘密基地みたいな所だ。

 ぶらぶらと歩いてその小屋に着いた。着く頃には周りは暗くなり月明かりのみが道を照らしている。周りは狂った悲鳴以外は聞こえない静かな場所だった。

「ここだよ。ここに飲み物がある」

「ふーん。以外にちっちゃいのね」

 スズランか小屋を見てそういった。確かに他の建物よりは小さい。

「……中に入るよ」

 ミノルは小屋の戸を開け中に入り、戸が自動的に閉まる前にスズランも中に入った。

「オース、ミノル。今日は疲れたから来ないじゃなかったか?」

 入ってすぐ、ミノルの目に丸い机を囲むように椅子に座っているジョージが映った。その隣にはソンも座っている。

「ミノル。その後ろにいるX型の子は誰かい?」

 ソンがミノルに訊いた。ミノルはスズランを指差しながら紹介した。

「スズランっていう僕の取引相手だ」

「ふふ、てっきりこれかと思ったよ」

 ソンが右手の小指だけ上げて見せてくる。ミノルはそんなんじゃないってと軽く笑いながらあしらった。隣にあるスズランは初めて会う子供にドギマギして固まっていたようだった。僕の時はそんなんじゃなかったくせにと、ミノルは複雑な気持ちになる。

 石像みたいに固まっているスズランにジョージが自己紹した。

「俺はジョージっていうんだ。よろしくな」

「私はスズラン。よろしく」

 スズランは最低限度会話で済ませようとしているに違いないとミノルは勝手に思った。

「僕はソン。ミノルと同じような取引をしているY型だよ」

 とソンは微笑みながらいい、握手しようと手を差し伸べるが、その行動にスズランは固まっていた。それを見たソンは笑った。

「大丈夫だよ〜、何にもしないって」

 スズランも、うっ、とかうめき声らしき言葉を発し、頬を真っ赤にさせながらよろしくと言うだっけだった。右隣にいるミノルはなんだこの違いはと衝撃を受けて一言も喋らずに落ち込んでいる。

「そっ、それで、あなたたちは今、赤い実を持っているの?」

 スズランが二人に尋ねる。この頃になってミノルはスズランが部屋から外に出たくないと駄々捏ねるのが単に面倒臭いではなくて、人見知りだったことを知った。それに比べ僕の扱いは何なんだとミノルは遣る瀬無い思いが胸に紫煙のように充満し始めた。

 ソンが答える。

「生憎、今日採った赤い実は全部、交換しちゃって手元には一つもないんだ。もう少し早く来れば有ったのにねぇ」

 スズランはミノルを睨んだ。その目に浮かぶ、何で早く連れて来なかったという怒気。いや、スズランが駄々捏ねた所為でしょとは言えず、ミノルはその視線から目を逸らし遠くの天井を見ていた。ソンに続き、ジョージが言う。

「俺は赤い実は採りに行かないからなぁ。今すぐ必要なら赤い実を採った奴、殺して奪ってこようか?」

 ジョージが物騒な提案をし、ミノルがすぐ却下する。

「いいや、そんな事しなくてもいいよ。それに普通は赤い実を採ったら、すぐに食べるでしょ?」

「そうだな。考えず口走った。スズランごめんな」

 ジョージがスズランに謝った。ミノルは二人が持っていないなら、明日採りに行かなければならないのかと思うと気が滅入る。それに明日開く門は東門だ。西門だったら確実に採れるのにとミノルは内心嘆いていた。

 流石に慣れてきて、緊張がやっと解けたスズランがジョージとソンに訊いた。

「あなたたち二人はどうやってここで生きてるの?」

 世界に生まれたいと思っているスズランにとってジョージ、ソン、そしてミノルは不可解な存在であり、理解しようにもできないのだろう。だから、直接聞いて理解しようと試みているのだとミノルは思った。先に話すねとソンが言った。

「僕は足が速くて、一番のりであの木まで行けるから、三個くらい採って戻っては、ミノルと同じように取引してECと交換しているんだよ」

 ここにいる子供たちの全員の中で一番、ソンが足が速い。門が開くと同時にソンは森の中を駆け抜け、一番先に赤い実を採り、手に持てる分だけ採っては町まで降り、取引をしてECを稼いでいる。このミノル、ソン、ジョージの面子の中で毎日確実に取れるのがソンだった。だからミノルはソンが赤い実を持っていることを期待し、小屋に来たのだが、その期待はすぐに絶たれたが。

「俺はECを沢山持っていそう奴を殺して奪って生きている」

 ジョージが言うとスズランは眉を潜めた。きっと殺して奪うというのが気に食わなかったのだろう。

「じゃあ、沢山持っているこの二人を殺さないのはどうして?」

 指で差されたミノルとソンは苦笑する。

「それはな、初めは二人が殺さないでくれって頼んでECを俺に渡したりしてたが、だんだんと俺も二人に愛着というか、好意を持つようになってな。それ以来、友達として思うようになった。だから、殺さない。友達を裏切るようなことはしないとそう決めた」

 ジョージが言い、スズランはまた質問。

「ミノルとソンが手を組んでジョージを殺そうとしたらどうするの?」

「二人係りでも俺を殺せるわけがない。それはその二人もよーく知っていることだ」

 ジョージがミノルとソンを一瞥する。

 ソンが足が速い。その代わりなのかどうだかわからないが、ジョージは強いのだ。子供たちの中で最強と言っても過言ではない。ジョージに勝てるのは子供ではないがメンフェゴールくらいだろうとミノルとソンはそう思っている。

 そしてジョージはその強さを殺しに使っている。自分でも殺すのが好きだと公言した事もあるが、快楽殺害をする以外は友人思いの良い奴だと思っている。時々ミノルとソンの取引相手をECを集めに回っている最中を襲われ、二人の収入が減る事もあるので何とかしてほしいと切に願っている。

「それにしても明日、採りに行くのかぁ」

 ミノルは愚痴をこぼした。正直、かったるいのだ。そろそろ見切りをつけて、部屋に戻ろうかと考えていた。明日、赤い実を採りに行くなら早めに起きなくてはならない。ミノルはあまり朝は強くはないのだ。

「手伝おうか? その代わりECはがっぽり貰うけど」

 ソンがそう尋ねてきた。ミノルは苦笑しながら良心的な値段でと言い、席を立つ。それを見たスズランも立ち上がった。

「じゃあ、明日早いから先に帰るね」「おう、また明な日」「明日、門の前で待ってるよ」「わかった」

 短い会話を交わし、ミノルとスズランは小屋から出た。

「赤い実は明日でもいい?」

 ミノルが尋ねるとスズランは、

「別にくれるなら、いつでもいい。それまで生かしてくれるなら」

 と言い、ミノルは、はいはいと答えた。





 ミノルとスズランが戻り、部屋の戸に備え付けられている郵便受けの中を確認するとECが六十枚入っていた。ミノルはそれらを回収、その内の五枚をスズランに渡し、残りを部屋の角に置いてある随分前に拾ってきた大きめの麻袋の中に入れる。その袋には数えたことは無いが、ECがざっと千枚以上は入っているだろう。

「どうして、郵便受けにECが入っているの?」

 スズランが訊いてきた。

「取引のしてたときに盗み聞きしてたんじゃないの?」

「詳しいところは聞いてなかった。というよりは、途中から腹が立って何にも聞こえなくなった」

「そうですか…………。これは僕の取引方法で、ECを百枚を持って来て、一気に僕に渡すよりは、十枚ずつ郵便受けに入れて、百枚になったら赤い実を渡すようにしているんだ。その方が持ち歩くのに苦にならないし、途中襲われても、全部は奪われることないから、一石二鳥なわけ」

「……………………うわっ、必ず儲かるじゃん。ミノルは卑怯者ね」

「それは気づかない方が悪いし、別に相手には損はないよ」

「この方法のタネ、言い触らそうかな〜」

「このタネに気づいた子供が周りに言い触らしていたら、ジョージに殺されたって事があったよ」

「けっ、証拠隠滅するのね。ますます卑怯者だ」

「返す言葉もありません」

 ミノルはスズランに明日は早いからもう寝ようと提案した。スズランは徹夜して門の前で待ってようとしたが、ミノルは今ジョージが門の前で待っている子供たちを殺しているから、行かない方がいい。暗いからとばっちりを食らうかもしれないと言ってスズランを静める。

 椅子に座っていたスズランはミノルの寝床に急に飛び込む。この部屋には一つしか椅子がないのでミノルはずっと壁に寄り掛かって立っていた。

「それ、僕の寝床なんだけど。それから何で自分の部屋に戻らないの?」

「戻るのがめんどーくさいから。ミノル知ってた? X型の子には優しくした方が良いって」

「それは『世界』に生まれた後に重要になってくることでしょ?」

 ミノルが言うとスズランは急に黙ってしまった。ミノルの角度からは寝床の上にいるスズランの顔が見えないのでどんな表情なのか伺えない。

 ミノルがまずいこと言ったかなと自分が発言した台詞を思い出そうしていた時、スズランが言った。

「私たちは何のために『ここ』で生きているのかな?」

 ミノルは返した。

「ジョージの場合は子供を殺し続ける為に生きてるって言ってた。ソンは『ここ』の景色をずっと見ていたいからって言ってた。まあ裏を返せば死にたくないって事なのかな」

「それじゃあ、ミノルは?」

「前にも言ったよ。僕も死にたくないから。死ぬのが怖いから。だから『ここ』で生きているんだ。『世界』に生まれれば長生きはできるけど、必ず死んでしまう。それが嫌なんだ。『ここ』ならECさえ集めていれば寿命で死ぬことはないからね。でも、そう考えると僕の願いってもう叶ったのかな」

 『世界』に生まれる為の理由も今を生かす願いもすべて叶っている僕は何を望んで生きればいいのか。だからミノルはそんな漠然とした事は考えないように努力してきたつもりだった。なぜなら、その答えは知らないがその先の結果は分かっていたから。

 空しい、と。

「ミノルはそれで満足しているの?」

「満足なんかしてないよ。ただ怖いだけなのさ。死ぬのが。それなら、こうして下らないと思いながら、ずっと生きていようって思ったんだ」

「…………確かに、死ぬのって怖いもんね」

 死んだ後はどうなるのだろう。その先が見えない恐怖がミノルを雁字搦めにする。何にもなくなる。その未知の恐怖が嫌だった。誰かの死は何回も見たから見るのは慣れているが、自分がそうなると思うと怖くて仕方がないのだ。絶叫をあげ、無惨に絶命する。その苦しみのあとには誰も知らないものが待っている。必ず、そこに行くのだ。

「でもさ、『世界』に生まれる意味が死なないためだったら、わざわざ赤い実を採る意味がなくなるじゃない?」

「うん。確かにそうだね」

「だからさ、きっとすごい事が待っているんだよ。『世界』に生まれなきゃ、体験でないすごいこ……と……が……」

 スズランが会話の途中でうつらうつらになって何も言わなくなり、ミノルが近くに寄って様子を見ると、微かな寝息を立ててスズランは寝ていた。

 ミノルはやれやれと小さく溜息をついた。

 スズランが言っていたように『世界』に生まれなければ体験できない事があるのだろう。しかしミノルにとってその体験は想像のつかないものであり、死と同等に恐怖の対象になるのだ。

 分からない。だから、怖い。

 もしかしたら、もうとっくの昔に分かっているのかもしれない。『ここ』に生まれてからすぐに『世界』の知識はあった。その中にも忘れていることだって有るかもしれない。ましてや、その中に潜在している知識が恐怖を物語っているから、怖いと感じるのではないだろうか。

 ミノルは窓に近づき、そこから空を見上げた。月がミノルを照らす。星も数えられる程度は見える。

 きっと、その恐怖も星の様なものなんだろう。

 そうミノルは想い、ずっと遠くにある月明かりよって見えにくくなった星たちを見つめていた。





「眠い」

 ミノルがぼやき、欠伸を噛みしめる。

 寝床をスズランに取られたミノルは仕方がなく床で寝いた。床は一様、木製で地面よりわりかしよいのだが、やっぱり堅く寝心地が悪い。しかも、早朝にスズランに蹴り起こされ、急かされ、東門の前まで走らされたのだ。

「張り切って今日も頑張るぞ!」

 寝床で熟睡して、完全に疲れが取れているスズランが元気に拳をあげた。ミノルには嫌みにしか聞こえなかった。

 スズランは居ても立っても居られなかったのか門の方に行き偵察らしきことをしている。

 ミノルは辺りを見渡す。ミノルの目の前にある、途轍もなく大きい門――――――通称、東門だ。この門は『ここ』には町を大きくコの字に囲むように東、南、西に三つあり、一日一回その門の一つが順番に開き赤い実が成る木まで行けるようになっている。森には怪物がいるのでそこを通り抜けるのは一苦労するだが、通らなければ赤い実を採ることはできない。だから地味に走って採りに行くしかないのだ。

 余談だが、門を登ることは不可能に等しい。そびえ立つ門の高さは町にある二階建ての建設物の二、三倍はあり、登るにしても、まっ平らで光沢すらある壁を登ることなど誰もできるわけない。

 今日も数千にも及ぶ子供たちが門の前に集まり、開かない門の先頭に立とうと犇めき合っていた。ここで何人か踏まれたりして死ぬんだよねとミノルは遠くから傍観者のように見つめていた。

「やあ、ミノル。おはよう」

 ミノルの背後からソンがやって来た。

「おはよう。今、ソンを探していたところなんだ」

「分かっているよ。赤い実が採れたらちゃんと渡すから」

「本当にありがとう。恩に着るよ」

「値段はそれなり弾むけどねぇ」

「はは…………なるべく安くして」

 ミノルが苦笑してソンの話していた時、門の方から子供たち怒号が聞こえる。


 ゴォォォォォォォォォォォ!!


 門の開く音だ。地響き近い低い轟音を鳴らし、門はじわりじわりと内側に開いていく。

 そして完全に開ききった。

「それじゃあ、お先に」

 ソンは、門付近で犇めき合っている子供たちに一瞬で近づき、跳躍。その子供たちの上に着地、俊足でその上を駆け抜け、門の中の森に走って行ってしまった。

「今更だけど、ソンって、すごく足が速いのね」

 いつの間にか戻って隣にいるスズランが言った。

「それじゃあ、行こう!!」

 スズランは走りだそうと準備をしていたのでミノルはその手を掴み制止させた。

「まだ行かない方がいい。ほら見てみなよ」

 門の前には我先にと、犇めき押し倒し、子供たちの上に乗ってソンの様に走ろうとする子供がいたり、そうはさせまいと足を掴み、引きずり下ろしたり、前にいる子供を殴って道を造ったり。

 皆、生まれるために必死だった。

「ここで結構な数が死ぬんだ。スズランは来たことなかったの?」

「来るときにはもう門が完全に開いてて、赤い実が採られた後だったの」

「ふーん」

 ミノルは混雑が解消される待って、ある程度、子供が少なくなってから行こうとしていた。そこから行っても十分間に合うからだ。途中、待ちきれないスズランが金属片を出し、これで道を作ると口走ったりしたが、ミノルが取られたらおしまいだからと言い聞かせて止めさせた。

 だんだんと門の中に子供たちが入っていくが、まだ大勢の子供たち門の前にいる。

「もう、早く行こうっ!」

 ついに痺れを切らしたスズランがミノルの手を振りきって行ってしまった。ミノルは仕方がないなと後を追う。

 すると急に門に向かって一本の道が出来た。

 スズランが怪しんで立ち止まった。倣ってミノルも止まる。

 

 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


 その道の脇にいた子供がジュワァァァという効果音と悲鳴と共にいとも簡単に溶けていった。

 辺りが凍り付くように静まり返った。

「…………メンフェゴールだ」

 ミノルの顔からサーっと血の気がなくなっていく。

 その道の先にいたのはミノルの身長の頭二つ分くらい軽く越す、ずんぐりとした体躯に二足歩行で立っている動物。

 装甲のような堅そうな茶色い皮膚で覆われ、頭部までその装甲に覆われている。頭部は『世界』にいる爬虫類を連想させるもので、ぱっくりと子供を一飲みしてしまいそうな大きい口の端から涎が垂れている。そして、その口から吐き出される消化液に当たると服も皮膚も骨も、すべて溶かされる。

 怪物。悪魔。死神。化物。暴君。邪神。

 どれでも当てはまる最悪の動物。

 それがメンフェゴール。

 再びもう一人、メンフェゴールの近くにいた子供が溶かされた。悲鳴が上がり、一気に騒がしくなっていく。

「な、なに? あれ? 昨日はあんなのいなかったのに…………」

 スズランはメンフェゴールの攻撃を見て体が震えていた。

「あれが門付近にいるとは考えてなかった。今日は赤い実を採りに行くのはやめよう。危険すぎる。ジョージだって逃げ出すんだよ。それにソンが採りに行ってくれてるし」

 ミノルはスズランを説得する。ミノルは一刻も早くここから逃げ出したかったがスズランの視線はメンフェゴールとそれに溶かされる子供たちを凝視していた。

 門付近にいた子供たちは赤い実を採りに行くという使命を忘れ、恐怖に戸惑い、逃げまどい、ぶつかり合い、転び、メンフェゴールの餌食になる。

 恐怖。

 確かにそれしかなかった。

 スズランがメンフェゴールを見ながら言った。

「あいつ、動きが遅いから、背中側から通れば攻撃されずに通ることができる!」

 有限実行。スズランは走り出していた。

 メンフェゴールは動作が遅い。走って逃げればいとも簡単に逃げきれる程だ。スズランは観察して、すぐさま行動に出たのだ。

 ミノルはバカ、死ぬ気か!? と声に出そうとしたが大きな声だしたら気づかれると、寸前で止め、スズランが心配で後を追って走った。

 徐々にメンフェゴールに近づいて行く。

 まだ、メンフェゴールは接近する二人に気づかず、前方にいる子供を溶かそうと消化液を吐いている。

 吐き終わったメンフェゴールが接近する二人に気づいた。

 向かって来る二人に頭を方向を合わせては、躊躇いもなく機械的に消化液を吐き出した。

 

 ベチャッ。

 

 二人が走り抜けた場所にメンフェゴールの消化液の水溜りが出来た。

「やった!!」

 スズランは首を後ろに向けながら叫んだ。ミノルも通り過ぎたメンフェゴールを見ながら走る。どんどんとメンフェゴールから離れていく。ミノルは前を見ようと首を正面に向けようとした。

 

 ドンッ。


「ん?」

 先頭を走るスズランが何かにぶつかった。あまり痛がってないところから木ではなく、他の子供にぶつかったんだろう。ミノルは止まってスズランがぶつかったモノを見た。

「っ!?」

 声がでない。近すぎる。スズランも異変に気付き、見上げてぶつかったモノの正体を恐る恐る確認する。

「あっ、あぁ、あっ」

 メンフェゴールが、もう一匹、メンフェゴールがスズランの目の前に居た。

 つまり、門の奥にメンフェゴールがもう一匹、居たのだ。

 その生きているものとは思えない濁っている双眸がスズランの姿を捕らえた。首をスズランに向けて標準を緩慢に合わせ始め、

「死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。」

 涙声で譫言を言いながら後ずさりして逃げようとするスズラン。恐怖で体震え思うように動かないのかその場から早く逃げる事が出来ずにいる。ミノルはスズランの元に駆けつけたら、良くてスズランだけ。悪くて二人とも犠牲になってしまう。それくらい危ない。ミノルはどうすればいいのか混乱した思考で考えたが思いつかない。だが、ミノルは走り出していた。

 無情にもメンフェゴールは口をぱっくりと開いた。スズランはひぃっ、と小さな悲鳴を上げる。

  

 バシャッ。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 悲鳴が上がり、その体が溶け始めた。




「……………………、あれ? 私、溶けてない?」 

 ミノルの近くを走っていた子供の体が溶け始めたのだ。

 

 メンフェゴールが吐き出す前に、ミノルは隣を抜けようとしていた子供の腕を掴み、強引にスズランに向かって押したのだ。急に押された子供は止まることが出来ず、スズランにぶつかり押し退けることでその場に止まり、メンフェゴールの消化液をスズランの代わりに顔面から浴びた。

 スズランは前に押されたのでメンフェゴールに再びにぶつかったが今度はすぐに右横に逃げる。

「そのまま前を見て走れっ!!」

 ミノルが走りながら叫び、スズランも脱兎の勢いで逃げる。

 門から遠ざかりさっきのメンフェゴールが見えなくなって、周りにもう一匹いないか確認したところで、二人は一旦、立ち止まる。

「取り敢えず、ここまで来れば大丈夫だろう」

 ミノルは赤い実がなる木の方角を確認する。見失ったら辿り着けないどころか、このまま門が閉まり、閉じこめられ、のたれ死ぬ可能性だってある。

 荒い呼吸を整え、スズランが言う。

「何なの? あのメンフェゴールって怪物は?」

「子供たちを見るや否や溶かす、狂った生き物さ。なんで子供たちを溶かすのかは分からないけど、何か理由があってやっているじゃない?」

「きっと、ECを餌としてるんじゃないの?」

「それも考えたけどECを持ってない子供でも見境なく襲うし、ECを投げても反応しなかったよ。単に気づいてなかっただけかもしれないけど。時間もないから走りながら話そう。こっちだよ」

 今度は先頭をミノルが走り、すぐ後ろをスズランが着いて来る。

「それにしても、何で門付近にメンフェゴールがいたんだろう」

 ミノルは不思議に思った。メンフェゴールが門付近いるなんて事はミノルの『ここ』に生きている間、一回もなかった。普段、メンフェゴールは赤い実が成る木付近に生息しているのだが、それは確実に子供たちが集まるからであろう。だから時にメンフェゴールはこう呼ばれたりもする。『最後の番人』と。赤い実を守るかのように木の回りに蔓延っている姿はまさにそれだった。

 嫌な予感がする。そうミノルは感じる。だがすぐに、門付近でも子供が集まるし、単にはぐれたメンフェゴールが流れ着いただけかもしれない。二匹だけだったから偶然か、と結論を出し悪い予感は消え、気にも留めなくなった。


 その悪い予感が的中することを知らずに。


 スズランが疑問に思ったのか訊く。

「ところで、メンフェゴールってこの東門の木にしか生息してないの?」

「残念ながら全部の門の中にいるよ。今まで会わなかったなんて、運が本当にいいね。僕ですら生後一日目で出会って溶かされそうになったのに」

「ごめんね。運が良くて」

 二人は森を駆け抜け、急に開けた場所に出た。

 そこは草原で木々が一本もない。目指す赤い実が生る木が丘の上に悠然に立っており、その周りを再び森が囲っている。視界の両端には門から続いている高い壁があり、少しだけ圧迫感がある様に感じる。実際は両端の壁から壁まではかなりの距離があるので、決して狭くはないのだが、見た目で圧迫感を感じる。

「うぇえ、まだまだ先じゃん」

 スズランは遠く向こうの赤い実が成る木を見て弱音を吐いた。

「まだ森の中よりは走り易いからいいでしょ」

 ミノルは走る速度を上げた。スズランも置いて行かれないように後を着いて来る。

 森の中だと木の根や蔓、背丈の高い草、石などの障害物が多く速度を上げようにも上げられない、止まらなければいけない場合もある。ここである程度早めに走っておくことで次の森の中を走る時に少しだけだが時間がかけられる。

 ――――――と皆、同じように考えているので、実質、差ほど変わらない。

 それなら相手を出し抜くにはどうしたらいいか? その裏手を取ればいいのだが裏を表もない競争みたいなものだ。取りようがない。

 じゃあどうするか。それは簡単だ。規則なんて無いのだから、やることは一つ。

 森の中では木々が邪魔して避けるので精一杯だったため、攻撃が出来なかった。でも今は違う。広く、障害物もない、ただの草原だ。

 ミノルは隣を走っていた子供の足を器用に蹴った。蹴られた子供は転倒する。それを見て、悪巧みを思いついたスズランは金属片を取り出して隣を走る子供を腕を切りつけた。切りつけられた子供は何が起こったか分からず、減速して立ち止まり、切られた腕ををわざわざ確認する。

 二人はそうやって近くを走る子供たちを減らしていった。

 草原を抜け最後の森に入る。二人の周りには蹴られる、切られると思い子供たちは抜かすことも近づくことも躊躇っていた所為なのか子供が近寄ってこなかった。

 最後の森にはメンフェゴールが頻繁に出てくるため、慎重に走らなければならない。ここまで来ると走っている子供たちも減ってきているのか分からないが、前を走る子供をあまり見かけなくなった。

「あれ見て!!」

 ある程度最後の森を走しったところで、スズランが叫んだ。木々の間から遠くに見える背丈の低い草。それが意味するのは赤い実が成る木の近くだと言うこと。

 周りの子供たち、あともう少しだという気迫で速度を上げていく。

 スズランも負けじと速度を上げようとした。

「待って」

 先頭を走っていたミノルは急に止まって、後ろから走ってきたスズランの手を握って制止させようとした。しかし、スズランは勢い余り止まることが出来ずに、右手は掴まれていた所為で、うまく受け身が取ることが出来ずに前のめりに転んだ。そして滑って最後の一本の前で止まる。スズランが転んで地面に接触した瞬間にミノルが手を離したのは言うまでもない。ミノルは危険なことはあまりしたくないのだ。

「何すんのよっ!?」

 スズランがミノルの方を振り返り激昂した。丁度そのとき何人かの子供に抜かれていく。

「後ろ」

 ミノルが簡潔に言った。スズランは視線を自分の背中側、つまり赤い実が成る木の方向に移した。そこには、子供たちが次々と見えない何かにくっ付いて離れられずにもがき、身動きがとれていない姿だった。

 スズランはポカンとその奇妙な光景を見つめていた。

 ミノルがスズランに近づき、手を取って立たせながら説明した。

「これはメンフェゴールが作る罠で、見えない糸が何重にも絡んでいるのか、大きな透明な膜が張ってあるのか、分からないけど何かしらそこにあって、こうやって子供たちを捕まえるんだよ」

「触ったら溶ける? これ?」

 スズランが訊いてきたが、ミノルは喋らずに近くにある登れそうな木を探して、登る。

 木の上に登ったミノルはスズランに再び手を差し伸べて言う。

「飛び越えるんだ。早くしないとメンフェゴールがやって来るから」

 言われた通りにスズランはその手を握る。ミノルはその体を持ち上げようと上に引っ張る。スズランは合わせて足で、幹を歩くように太い枝の上に登った。

 入れ替わるかの如く、すぐに下には小型のメンフェゴールがぞろぞろとが現れる。

 木の上にいると気づかれて消化液を飛ばされたら一貫の終わりだ。ミノルはそそくさと草原、赤い実が成る木の方向へと飛び降りた。そして、スズランもそうするように促す。スズランもすぐに飛び降りる。

 見計らうかのように小型のメンフェゴールの群は罠に掛かっている子供たちに次々と消化液をかけて溶かし始めた。子供たちの悲鳴と許しを乞う叫びが響く。

 ミノルとスズランは外から傍観者のようにその光景を見ていた。

「こんな感じになるから今度、来るときは気をつけて」

「ん~。可哀想だね」

「僕らが言える立場じゃないけど」

「思うだけなら、何でもいいでしょ」

 他愛も無い会話を終わらせて、スズランとミノルは赤い実が成る木を見る。聳え立つ、高い高い高木。丘の上に立っているからなのか分からないが、いつ見ても途轍もなく、高く、大きく見える。

 ミノルたちがいる場所から木までかなりの距離があるのだが、遠近感が狂いそうなくらい大きく、その木の枝に生い茂る青々とした葉がまだまだ成長し大きくなる生命力を醸し出していた。

 ミノルは久しぶりこの木を間近に見て、やっぱり圧倒されるなと感じる。

「あの点が赤い実なの!? それなら、まだまだあるじゃん!!」

 所々、赤い点々が散らばっている。その点が赤い実。

 スズランが目を輝かせながら尋ねてくる。

「残念だけど、あれは採れないよ。僕たちの背丈じゃあ、背伸びしても肩車してもとどかないから、採るのは落ちている実だけ」

「……………………石とか投げて、落とせないの?」

「余程上手ないと当たらないね。それにここら辺に落ちている小石とか無いし、森の中に取りに行くにもメンフェゴールがいるし。前もって石を集めて、数打てば当たる作戦をやった子供いるけど、メンフェゴールが木の下に集まって来て、すぐにやられたらしいよ」

「……………………。どうせ、木にも登れもしないんでしょ? 本当に残念ね」

 スズランが心底がっかりしたようで、項垂れて先ほどの元気も無くなってしまったようだ。

 ある程度、罠に掛かった生きている子供たちがいなくなったのか悲鳴が止んだ時。

「おーーーーい」

 赤い実が成る木の方から聞き覚えがある声が響いた。ミノルが声の方向に振り向く。

「あれは――――――ソンだな」

 ソンがミノルとスズランの方に走って近づいて来た。ミノルはもう着いていたのかと驚いた。

「赤い実はどうしたの?」

 スズランがソンに訊く。見る限りではソンは赤い実を持っているように見えない。

「今日は駄目だったよ」

 俊足のソンが採れなかったという事は少なくない。時々、木の周りにメンフェゴールが屯っていたりすると流石のソンも危険すぎるので近寄らずに諦めていたりする。前にジョージがスズランが先程やったように隙を見て取り行けばよかったじゃないか、と悪ふざけで言ったのだが、ソンはそれは怖すぎるし、メンフェゴールの数も多かったから隙も何も無かったからねぇと言っていた。

「今回もメンフェゴールがいたのか?」

 ミノルが気軽にソンに尋ねた。スズランにはまた明日があるさといい、今日は諦めてもらうつもりだった。しかし、

「一番乗りに着いたんだけど、先客が沢山いてねぇ」

 ソンが申し訳なさそうな顔で右手の人差し指で頬をかきながら言った。

「それ本当なのか? よくこの中で三日間生きていられたなあ」

 ミノルはその先客に苦行に讃えた。このメンフェゴールが犇めく門の中に三日間いるのはもう考えたくもなかった。

 まあ、ミノルも一回やって相当懲りたのでもうやらないと心から誓ったのだが。

「しかもその先客が、メンフェゴール従えて、僕の後に来た子供を片っ端から溶かしていってねぇ、流石にその光景が凄まじくて近くじゃとても見られなかったよ」

「………………メンフェゴールを操るなんてすごいな」

 それを聞いたミノルは厄介だなと思った。このまま居座り続けられたら赤い実を採ることができなくなってしまう。それどころか、メンフェゴールを使って子供たちを脅し、ECを略奪する事も可能だ。

「赤い実は落ちていなかったから、僕が着く前に全部回収したんだろうね。それに――――――」

 ソンが急に口ごもり、続きは小さな声で言った。

「先に着いたX型の子供だけ溶かさないで、メンフェゴール操っていた子供たちの仲間、全員Y型だったけど、その子供たちがX型を無理矢理犯していた」

 スズランが怒りを露わにし、罵倒する。

「サイテーね。ゴミクズよ。そんな奴ら」

「ああ、僕もそう思うよ。それから失礼な疑問なんだけど、ここでそんなことしても快楽なんてないはずじゃなかったっけ?」

 ミノルはスズランの同情に悪いと思いながら、何でそんなことをするのか疑問に思った。ソンが答えるように言う。

「恐怖を植え付ける為、じゃないかな? 見ている子供に逆らったらこうなるだぞっ! みたいな事をしているのかなぁ? 見続けられるものじゃなかったから、よく見ていなかったから分からないけど」

「それはたぶん違うと思うよ。それはX型にしか効果ないし。ましては、Y型には逆効果になりかねない」

 ミノルは隣いるスズランを見た。ミノルとソンの会話には一言も反応せずにサイテー、サイテーと壊れたように呟いている。嫌悪しているのだろう。

「仕方が無い。今日は諦めて戻ろう」

 ミノルは壊れたスズランの気を正常値に戻して説得し、ミノルたちは町に帰ることにした。

「僕らにはまだ明日があるから慌てなくてもいいさ」

 ミノルはスズランに向かって言う。

 ミノルやソン、スズランは気にも留めていなかった。

 メンフェゴールを操れることは、ジョージを倒せるのを意味することを。

 

 ジョージというミノルたちを守る、唯一の戦力を倒せることを。





 ミノルとスズラン、ソンの赤い実を採れなかった三人組は、東門から出たその足で何時もの小屋に向かった。その途中にジョージが何時ものように子供を殺してECを奪っていた所に出くわし、四人で向かうことになった。

 すこしして一行は小屋に着き、ミノルはジョージに東門のことについて話した。

「そりゃあ災難だったな。メンフェは俺も相手したくない」

 ジョージがそう言い、ソンも続けざま、愚痴を吐く様に言う。

「僕も最初見たとき驚いたよ。あのメンフェゴールの従えているのだからねぇ。すぐさま逃げて遠くの木の上から何しているか観察していたよ。まあ、見るに耐えないことやり始めたから、すぐにその場初夏から逃げたけどねぇ」

 ミノルは独り言の様に呟く。

「それにしても三日間、門の中の森にいるなんて狂気の沙汰じゃない。メンフェゴール従えてもそんなことは二度とやりたくない」

「経験者は、語る。ってやつか?」

「そんなところだねぇ」

 そう三人はワイワイ雑談しながら飲んでいた。会話に参加せず、木の容器を口に傾けて中の飲み物を飲みながら、ミノルを約束は忘れていないでしょうねと言わんばかりにずっと睨んでいる不機嫌なX型がいたが。

 その視線にずっと前から気づいていたのに無視していたミノルはついに耐えられなくなり、宥めるように言う。

「また明日があるから大丈夫だって」

「ふんっ」

 顔を背けられた。もっと早くしろってことなのか。

「まあいいや。それとジョージ。そのメンフェゴールを操っている子供を殺そうだなんて考えないでよ。逆に返り討ちにされかねないんだから」

 ミノルはジョージにそう言うと、ジョージは笑う。

「ははっ。心配ありがとうな、ミノル。言われた通りにするから安心しろ」

 ジョージが自分の木の容器を手に取りガバッと入っていた飲み物を全部飲み干してから再び言った。

「そう言うお前らの方が危ないんだからな。俺はメンフェには何もしないで逃げているだけで、ひょっとしたら勝てるかもしれない。試したこと無いからな。だがお前らは絶対に勝てない」

「確かにそうだね」

 ソンがそう相づちを入れる。ジョージが続ける。

「しかも、そのまま赤い実を採り続けられたら、お前らも大変だろう? でもそこは安心しろ。ECくらいだったら、俺が肩代わりしてやる。でもスズランはそうはいかないだろう? 世界に生まれたいって思っているんだから、赤い実が採れないなら困るよな?」

 スズランは急に自分の名前がでたので体をビクッとさせて驚いた。

「……え? 私?」

 会話に参加してなかったとは言え、一応、聞いていたのか内容がわかるようだ。スズランは確認するように訊く。

「私もなの?」

 ジョージは歯を見せながら笑ってスズランに言った。

「ミノル、ソン、そしてスズランは俺の大切な仲間だと思っている。スズランは出会って二日しか経ってないがそんなのは関係ない。こうして一緒にいてくれるだけでいいんだ。そして俺は仲間にはどんなことがあろうと大切にしようと自分に誓っているからな。もし、ECが無くなっても大船に乗ったつもりで頼っていいぞ」

「泥船じゃないといいけど」「同感だねぇ」

 そう言った二人はジョージの鉄槌をくらい痛みに悶え転げ回る。

「ありがと」

 スズランが嬉しそうにジョージにいった。

「ああ任せろ」

 ジョージも笑って返した。

 痛みが引いたのか転げ回っていた二人はそれぞれ自分の席に戻った。見ていたスズランはあははと笑っていた。ジョージが言った。

「仲間といると楽しいだろ?」

 スズランは笑顔で言う。

「うん」

 その後、四人は夜遅くなるまで雑談をして笑いあった。明日もスズランの為に赤い実を採りに行かないといけないので名残惜しくも解散となった。

 ミノルとスズラン、ソンは部屋に戻ろうと各部屋に向かったが、ジョージはお前等の為に頑張らなければと言い、明日開く南門の前で徹夜して開くのを待っている子供を狩りに行った。ミノルがECを持ってない二日目の子供だから意味ないだろと言うが、お前ら為であるんだ。競争する相手が減って走りやすくなるだろうと言われた。ミノルはありがとう無理しないでと言うと、ジョージはああっと言って南門の方へと走って行った。

 

 もうこの小屋で、この四人で楽しく雑談する事はないとは知らずに、それぞれの目的のため、ミノル、スズラン、ソン、ジョージは去って行く。





「ジョージさん、もう一度訊きます。ボクの仲間、国民になってくれますか?」

「だから何度も言っただろ? 誰がお前なんかの仲間になるか」

 ジョージは二十匹近いメンフェゴールに囲まれながらも、臆することなくはっきりと宣言した。

「そうですか。それは残念です」

 短髪で、首から小さな木製の笛を紐で括り下げ、他の子供よりも背が小さいX型が悲しそうに言った。

 

 一匹のメンフェゴールに跨りながら。


 そのX型は下げていた木製の笛を掴んで口に近づけて吹いた。


 フィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!


 空気を劈くような甲高い音が鳴り響く。

 それを聞いたメンフェゴールが一斉に動きだし、ジョージの方へ顔を向け、カパッと口を開いた。

「本当に残念です」

 X型は言った。


「それではサヨウナラ。ジョージさん」

 

 メンフェゴールが無慈悲に消化液を一斉に放った。


 ビチャッ。


続きは一週間後に公開する予定です。お楽しみに。

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