たった3℃の温かさ
将来に対する不安があった。
あれが不安、これが不安、という感じではなくて、漠然とした不安。
どうしたらこの不安を消せるだろう、と考えて、ある程度お金があれば解決するんじゃないか、と思い、私は節約を始めた。
仕事はしている。
でも、昇給は見込めない。
上がったとしても、社会保険料で持っていかれてしまう。
副業も禁止。
だから、節約をするしかなかった。
まずは食費を削った。
それに合わせて食べる量も減らした。
欲しい物も極力我慢した。
電気もガスも水道も、なるべく使わないようにした。
貯金は少しずつ増えていった。
それが嬉しくて、私は節約を継続していった。
ある日、職場の人に顔色が悪いと心配された。
別に体調が悪いということはなかったから、大丈夫です元気ですよ、と答えた。
もっともっと貯金額を増やしたい。
だから、もっともっと節約をしよう。
もっともっと。
もっともっと。
もっともっともっと──
季節は移ろい、いつしか何度目かの冬が来た。
あまりにも寒かった。
いくら着込んでも、体が全然温まらなかった。
どうしても我慢できなくて、シャワーの温度を40℃にした。
いつもは給湯器の1番低い温度、37℃を年中キープしていた。
40℃のシャワーを浴びた瞬間、
「────」
何故だか分からないけれど、涙が溢れた。
温かい。なんて温かい。
涙は留まることなく溢れ続け、すぐシャワーで流されていく。
鏡に映った自分を見た。
げっそりと痩せ細り、まるで骸骨のよう。
なんて酷い顔。
なんて酷い体。
私は漠然とした不安に押し潰されて、自分自身を追い詰めていたんだと気付いた。
いったいどうすればいいのか。
この大きな不安をどう対処すればいいのか。
わからない。
わからなくて、怖い。
冷えきった体が温まっていく。
その代わりに、ガス代と水道代が増えていく。
「どうしたらいいの……」
なんとか溢した呟きは、シャワーの音でかき消された。
節約もほどほどに。




