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たった3℃の温かさ

掲載日:2026/10/29

 将来に対する不安があった。

 あれが不安、これが不安、という感じではなくて、漠然とした不安。

 どうしたらこの不安を消せるだろう、と考えて、ある程度お金があれば解決するんじゃないか、と思い、私は節約を始めた。


 仕事はしている。

 でも、昇給は見込めない。

 上がったとしても、社会保険料で持っていかれてしまう。

 副業も禁止。

 だから、節約をするしかなかった。


 まずは食費を削った。

 それに合わせて食べる量も減らした。

 欲しい物も極力我慢した。

 電気もガスも水道も、なるべく使わないようにした。

 貯金は少しずつ増えていった。

 それが嬉しくて、私は節約を継続していった。


 ある日、職場の人に顔色が悪いと心配された。

 別に体調が悪いということはなかったから、大丈夫です元気ですよ、と答えた。


 もっともっと貯金額を増やしたい。

 だから、もっともっと節約をしよう。

 もっともっと。

 もっともっと。

 もっともっともっと──


 季節は移ろい、いつしか何度目かの冬が来た。

 あまりにも寒かった。

 いくら着込んでも、体が全然温まらなかった。

 どうしても我慢できなくて、シャワーの温度を40℃にした。

 いつもは給湯器の1番低い温度、37℃を年中キープしていた。


 40℃のシャワーを浴びた瞬間、


「────」


 何故だか分からないけれど、涙が溢れた。

 温かい。なんて温かい。

 涙は留まることなく溢れ続け、すぐシャワーで流されていく。


 鏡に映った自分を見た。

 げっそりと痩せ細り、まるで骸骨のよう。

 なんて酷い顔。

 なんて酷い体。

 私は漠然とした不安に押し潰されて、自分自身を追い詰めていたんだと気付いた。


 いったいどうすればいいのか。

 この大きな不安をどう対処すればいいのか。

 わからない。

 わからなくて、怖い。


 冷えきった体が温まっていく。

 その代わりに、ガス代と水道代が増えていく。


「どうしたらいいの……」


 なんとか溢した呟きは、シャワーの音でかき消された。

節約もほどほどに。

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