第三話②
「さっさと掛かってこい」
屋根から飛び降りる三つの影との距離を一歩二歩と後方に跳ぶ事で調整し、飛んできた矢を盾で弾き、天から落ちて来た炎の槍を雷の魔力を込めた剣で切り払う。
「こっちからもいくぞ!」
手の平に雷属性の魔力を集め地面に叩きつけ、雷鳴を周囲に解放する。
「『ラムズ・トニトルイ』!」
枝のように天に伸びる稲妻は降り注ぐ魔術の矢を打ち砕き刺客の一人を貫いた。
「まず一人っと」
こいつらはどっかの殺し屋集団かなんかだろうが、依頼される程に恨まれるような事したっけな。
まあ後でじっくりと聞かせてもらおう。
体内の魔力を雷属性に変換し、全身に行き渡らせ神経を強化する。
強く一歩を踏み出せば、遠く離れた剣士二人の傍へ瞬く間に到達する。
「消えた……っ!」
「!?」
かろうじて反応した方の短剣による突きを盾で弾き飛ばし、剣を宙に放り投げ、空いた右拳をがら空きの胸に打ち付け雷を流し込む。
「がああああっ!」
感電して吹き飛んだ一人を横目で見送りながら、落下する剣を掴もう一人の首に押し付け電流を浴びせる。
「アガガッ!」
意識を手放したことを確認して再び走りだす。
「詠唱の時間を稼げ!」
魔術師の一人が長杖を構え、巨大な魔法陣を宙に描き出す。
「町中で何使うつもりだよ……!」
「拡散せよ!『イリスフラム・プラヴィーア』!」
弓使いが天に向かって鮮やかに輝く矢を放つ、それは宙で弾けると炎矢の雨となり降り注いだ。
「『テネブリス・ネビュラ』!」
闇属性の魔術を起動し、闇の霧をばら撒いて周囲の光を閉ざす。
炎の矢は霧に触れたそばから闇に侵され、魔力を奪われその形を失う。
「バカな!」
昏い闇の中をさらに加速し、弓使いの目の前に躍り出る。
急いで次の矢を作り出そうとしているが、もう遅い。
『エンチャント・ダークネス』
剣と盾に闇属性の魔力強化を施し、弓を半分に切り割き無力化する。
『ダークボール』
闇属性の初級魔術を無詠唱で起動し、黒い球体を発生させ弓使いの顔を呑み込ませる。
闇は触れている部分の五感を奪い、対象となった者を狂わせ意識を奪い取る。
「我に仇名す者を焼き尽くせ!」
(火の上級魔術……!味方ごとやる気かよコイツ!)
「『シールド・フォース』!」
盾を放り投げ魔術を起動すると、空中で留まり黒く巨大な盾となった。
「『ゲヘナ・インフェルノ』!そんなもんで防げるかあ?」
巨大な炎の波がこちらを呑み込まんと迫りくる、このままでは街に被害も及びかねない。
「『シールド・ストライク』!」
新たに魔術を起動すると、五枚の魔法陣が盾の後方に現れ列を成す。
剣を左手に持ち替え、右拳の前に魔法陣を発生させ、大きく踏み込んで一番後方にある魔法陣を思い切り殴り付ける。
「ぶっとべ!」
衝突した魔法陣は眩い光を放ち、連鎖的に起動していく。
そして五枚目の魔法陣が輝きを放つと同時に、黒の盾が射出された。
高速で飛び出した盾は中央で炎と衝突すると、闇の魔力が溢れ出し一瞬の拮抗の後、街へ広がろうとする炎を全て呑み込んだ。
「バカな!俺の魔術が……っ!」
男が放つ悪あがきの魔術を悉く呑み込み、盾は闇を放ちながら突き進んでいく。
「うわあああああっ!」
そして、男に直撃する寸前、盾が消滅した。
「助かっ……」
「てないんだなこれが」
男の頭を掴んで壁に押し付け、剣を腕輪に戻し新たに腕輪からナイフを召喚して喉元に刃を押し当てる。
「お前達を雇ったのはユーステス家か?」
瞳の動き、呼吸、顔の筋肉の動きを隈なく観察する。
「まあいくらバカ息子のお願いでも、暗殺者を手配なんかするわけ無いわな」
一応聞いてはみたがユーステス家は無いだろう、幾らアレを育て上げた連中であっても、辞めさせた直後に殺し屋を送り込むなんて頭の悪いことをするとは思えない。
「嘘付いても分かるから、素直に吐いたほうが身のためだぞ」
こういった手合いは拷問で痛めつけたぐらいじゃ吐きはしない。
だが人間の微細な反応に関しては、訓練だけではどうしようも無い物があるとは同僚談だ。
「貴族様のご依頼ってのは間違いないよな?」
男の瞳孔が僅かに開き瞳が揺れ、目の周りの筋肉が強張る。
対立した別の貴族が俺を消す事で、ユーステス家の立場を揺るがす為の切り口を作ろうとした。
貴族でかなりの高さにいる奴には些細な事だろうが、他の手札があるなら対話を求める事は出来るかもしれない。
もっとも、俺にそんな価値があるかは知らないが。
「まったく貴族様ってのは、見た目が小綺麗でも中身がドロドロしていけねぇな」
「あぐっ……!」
「おっと」
つい頭を掴む手に力が入り過ぎてしまった。
「で、次に聞きたい事なんだけど」
だからと言って力を緩めたりはしない、そもそも殺しにやって来た連中なんかに気を使ってやる必要なんて無い。
「お前達何をしている!」
視線だけを向けると街の巡回警備中だったであろう二人組の騎士が、剣を片手に走って来ているのが見えた。
「もう時間切れか」
「っ……」
右手のナイフを腕輪にしまい頭から手を離し、胸倉を掴んで壁に押し付ける。
「ちょっと騎士さん手え貸してくんない?」
「コレは一体……!?」
騎士達は周囲に倒れる者達と、俺を見て困惑してる。
「こいつら殺し屋なんだよ」
「殺し屋!?」
「そうそう殺し屋、縄出すから縛っといて欲しいんだけど」
「あ、ああ……」
訳が分からないといった様子の騎士に縄を投げ渡し、今なお藻掻く男の頭巾を脱がす。
「見た事あんなコレ、お前裏ギルドか」
「……ッ」
露わになった男の額には、頭蓋骨に剣が突き刺さった様子を表した悪趣味な刺青が刻まれていた。
「裏ギルド?」
全員を縛り終えた騎士達が戻って来た。
「街で人に依頼を受けて仕事してるギルドって奴らいんだろ、それの殺しと強盗の依頼しか受けない版だよ」
正直俺からしたらどっちのギルドも大差無いと思っているが。
「なるほど、そういった組織が」
「前に座学でやってただろう……」
初めて聞いたという様子の騎士にもう一人が呆れている。
習うのは訓練生時代の話だが、そうそう忘れる物でも無いだろうに。
「お前らの根城どこだ?こっちから遊びに行ってやるから教えろよ」
「誰が教えっかよ!」
「ああそう……」
待っていれば向こうから会いに来るだろうし、こいつもこれ以上は何も話してくれなさそうだしもういいか。
実力からして下っ端だろうし、どうせ大した情報も持ってないんだろう。
「あがっ!」
男の顎をナイフの尾の部分で殴りつけ気絶させる。
「な、なにを……」
「こいつらの刺青、見たことあるか?」
暗殺者の男の顔を足でずらし上を向かせ、刺青を指で差す。
「いや」
「この刺青は手配書で見た事があるな……」
真面目そうな騎士が闇ギルドの男の刺青を確認すると、腰袋から紙の束を取り出し捲り始める。
「黒羽の戯れ、これだ……」
「裏ギルドには似合わない名前だな」
手配書には刺青の絵と、捕まえたら貰える報酬が書かれているだけで、他にはこれと言った情報も無い。
「それで、この者達に狙われたお前は一体何者なんだ」
正体を問われ何と返すか悩むが、今の状態を表すとすれば。
「単なる旅の武芸者だよ」
「……まあ良いだろう、裏ギルド一員の拘束協力により報酬を受け取る権利があるがどうする」
臨時収入が入るのはいいが、受け取るにはわざわざ騎士団に出向かなきゃならない。
「遠慮しとく、あそこにはあんまいい思い出が無いんだ」
正直な話、今はあまり騎士が多くいる場所に行きたい気分じゃない。
「そうか、ではこの者達は我々が連行する、恨みを買う行動は控える事だ」
「努力するよ」
裏ギルドの連中を連れて行く騎士達と別れ、宿へ戻り汗を流して眠りについた。




