第二話
「とは言ったもの、これからどうすっかな……」
街への道を歩きながらこれからどうするかを考えてみるが、これと言ったことは特に思い浮かばない。
やりたい事と言えば、今迄は部隊を率いる騎士隊長になる事を目指していた。
十五で入団してこの目標一本で努力をしてきたが、それが無くなった今これから何をどうするべきなのか分からないというのが正直な所だ。
「まずは次の仕事を探すのが先か」
今迄の給料と渡された退職金を合わせれば暫く遊んで暮らせるだけの金はあるが、何もしないでいるってのは性に合わない。
「お前、止まれ」
「俺か?」
街へ入ろうとしたら騎士に止められた。
「ここはソラリス騎士団専用の通用口だ、民間人は向こうの門を通れ」
そう言って騎士は人通りが多い正門を指差す。
「あー、そういやそうだった、悪いな」
騎士団時代の癖でつい通ろうとしてしまった。
「次から気を付けろ」
正門へ向かい人々に合流し街へ入る。
「そういや鎧も着ずに来るのも久々だな」
街の警備や要人の護衛で訪れる機会が多かったが、最近では長期の遠征任務を任されることも増えて、すっかり足を運ぶ機会も無くなっていた。
「取り敢えず今日は宿とって休むとして、諸々買い込むか」
ここの街へ来るようになってまだ十年も経っていないが、それでも馴染みになった店はある。
今日は恩返しの意味も込めて盛大に金を使わせてもらおう。
――
「こんなとこか」
水や食料、装備を手入れするための道具、旅に必要な荷物を腕輪に収納していく。
「あいつにも挨拶しとくか」
裏路地に入り最初の三叉路を右、二つ目を左、三つ目を右に進む。
最後の五叉路を左から二番目の道を通れば目的地である、魔法道具屋にたどり着くことが出来る。
「入るぞ」
扉を二回叩き、返事も聞かずに入っていくと小さな黒龍に出迎えられた。
「よ、店主様は裏でお休みか?」
『主は新たな魔導具の開発をしている最中だ』
相変わらず小さな体躯に似合わない迫力のある声だ、本当の姿はかなりの大きさらしいが今は能力で小さい姿に変えているらしい。
「なんだ忙しいのか」
『何やら大事な取引があるとのことだ、用件があるならば我が聞いてやろう』
ここを離れる前に直接話しておきたかったが、まあ忙しいなら仕方ない。
大事な取引先というなら相応の物を作っているのだろうし、機密性の高い物なら面倒だ。
彼女も外へ出向いている事が多い、各地を回っていればまたどこかで会う事もあるだろう。
「まあ大した用じゃないけどな、挨拶と買い物に来ただけだよ」
棚に置かれた商品を選び台に置いていく。
ひとつひとつが結構な値を張るが、性能はどれも信頼できる。
いつもは必要な分しか買わないが、暫く店に来ることは無いだろうし余分に買っておくとしよう。
『なんだ、どこかへ行くのか』
「まあな、そういやお前って金の計算って出来んのか?」
『人間如きに出来て我に出来ない道理などない、さっさと金を出せ二十万五千ガリアだ』
「はいはい丁度な」
腕輪から金を出して置き、商品を腕輪に納めていく。
『随分と大量に買っているようだが』
「まあ長い旅になるだろうしな」
今迄とは違い目的地の無い旅路だ、いつ終わるかもどこまで行くかも決めていない。
二度とこの街へ帰ってこないという可能性もあるだろう。
「ついでに伝言も頼めるか」
『いいだろう』
「今迄世話になった、またどこかで会おうって言っといてくれ」
『……伝えておこう』
「助かる、これはお礼だ」
『!』
腕輪から脂の乗った極上肉を取り出し放り投げる。
知り合いの貴族から貰ったもので、一部を切り取って食べたらかなりの美味しさだった。
『肉!』
黒龍は空中で肉を掴むと飛んだまま貪り始める。
「あんまり食い散らかすなよ?」
『ガブガブ!』
「聞こえちゃいねえ」
返事もせず肉を無心に喰らい続ける所を見るに、食通らしいこいつもお気に召したらしい。
「それじゃあよろしくな」
店を出て道を真っ直ぐ進むと、店が立ち並ぶ大通りへ戻る事が出来る。
「もう日も落ち始めてるな」
人見知りらしい彼女は裏路地に迷いの魔術を仕掛け、特定の相手とだけ取引をしている。
あの店を見つけたのは街の警備任務の時だったか、近隣住民に不思議な道があるから調べて欲しいと言われ、適当に歩いていたら店へ辿り着くことが出来た。
最初の内は店主に怯えられ、まともな会話が一つも出来なかったが。
有用な道具を買う為に何度も通っている内に、どうにか日常会話程度の物はする仲にまで発展させられた。
そうして迷いの魔術の始点の位置を変えさせる事で、問題をどうにか解決させた。
「酒場行って明日の足でも探すかな」
一応次の目的地にしている場所はあるのだが、この街からはとても歩いて行きたくない程の距離がある。
出来るなら誰かの馬車に乗り合わせたい所だ。
腕には多少の自信があるし、適当な行商人に用心棒として雇ってもらうのが一番だろう。
「いらっしゃい、好きな所へ座んな」
街の中心地に近い酒場へやって来た、人の多いここであれば仕事の一つ二つ見つかるだろう。
「麦酒と適当なつまみを」
注文をしながらカウンターの席に座る。
「あいよ」
この店を選んだのは正解だった。
軽く店を見渡せば行商人のようなのが何人かいる事が分かる、これなら無事に足を手に入れられそうだ。
ただ一つ面倒なのが。
「ギャハハハハ!」
「おいそれマジかよ!」
「がっはっは!」
「まあ、『ギルド』の連中もいるわな」
ギルド、人から依頼を受けてそれを遂行し報酬を得る所謂何でも屋といった感じの集団だ。
俺からするといつも突っ掛かってくる、面倒な荒くれ者集団という印象しか無いが。
騎士団時代は街警備や周辺地域の魔物討伐でかち合うと、毎回喧嘩を売って来て面倒な事この上なかった。
その度ぶっ飛ばしてたら、同僚にお前は騎士よりギルドの方が合ってるんじゃないかと言われて微妙に腹が立った。
「何か探しものでも?」
店主が酒と塩を振りかけた木の実を置き、問いかけてくる。
流石に視線が露骨過ぎたらしい。
「良い足でもあればと思ってたんだが」
「あんた旅人か、どこかに行きたい場所でも」
「デュオールにな」
デュオール、ここ程では無いがかなりの大都市の街だ。
遠征任務へ向かった際に何度か寄った事があるが、人も多ければ娯楽も多い賑やかな場所だった。
「あそこならここで足なんざ探さなくても、冒険者用の送迎馬車が出てるからそれを利用したらいい」
「そんなものがあったのか」
そんな物が出来ていたとは初耳だ、街へよく行く同僚の騎士は誰もそんな事を言っていなかった。
「最近開通したんだよ、何でも長く山の方に潜んでた盗賊共が討たれたらしくてな」
「アレか……」
山の方と言えば、少し前に騎士団で賊の征伐任務へ向かった場所だ。
そして例の如くそこでもギルドの連中に絡まれ、取り敢えずぶっ倒して何故そこに居たのかを問い詰めると。
ギルドと賊が繋がり依頼人を手に掛けている事が発覚し、纏めて牢屋にぶち込んでやった。
「それは流石に知ってるか、なんにせよ酒場で仕事を探すのはやめときな」
「どういうことだ?」
「ギルドの連中ってのは縄張り意識が高い奴らばかりだからだよ、それでよく喧嘩が起きたりしてるんだが」
通りで街警備の時にあちこちから喧嘩やらなんやらの通報があった訳だ、いくら縄張り意識が強くても騎士にまで喧嘩を売って来るなとしか思えないが。
「それが起きる要因で最も多いのが仕事の取り合いなんだよ、食い扶持を繋ぐのに必死だってのは分かるがこちらとしては迷惑なもんだ」
これだけ大きな街だ、人も多くそれに応じてギルドの数も多いだろう。
人から依頼を受けるという仕事の形式上まずは依頼主を探さなければならない、だが仕事の数には限りがある。
でかい所が依頼を独占することもあるんだろう。
「お客さんも妙な事に巻き込まれたくないならもう少し場所を選ぶといい」
今迄も散々絡まれてはいるが、自分から回避できるならそうしたい所だ。
「忠告ありがとよ、金はここに置いとくな」
「またこいよ」
賑やかな酒場を後にし、宿へと歩きながら適当な屋台で買った魔鳥の串を齧る。
「塩が効いてうまいな、もっと買っときゃよかった」
当初の狙いとは少し形が変わったものの、目当ての馬車があることを知れたのは収穫だった。
「今日はさっさと寝て明日に備えるか」
何でも馬車の出発は相当早く、日が登り切らない内にさっさと定員を締め切ってしまうらしい。
宿に入り身体を洗い流してから寝床に着く、安めの宿だったが布団はしっかりとしている。
「こりゃ当たりだな」
目を閉じて深く深呼吸をする。
騎士団に居た経験から質が悪くても眠ることが出来るようになったが、やはり眠るならちゃんとした所がいい。
程なくしてやって来た睡魔に身を任せた。




