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騎士をクビになった俺、やることを探す  作者: ふみぃ


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第一話

登場する人物、団体は実在するものとは一切関係ありません


緩やか更新です、ぜひ感想コメントブックマークお願いします

「いいぞー!」


「がんばってー!」


「やっちまえー!」


 闘技場の中で大きな歓声が響く。


 その声が向けられている中心では、二人の騎士が刃を激しく打ち付け合い火花を散らしていた。


 何度も剣戟(けんげき)()わすと、殆ど同時に後方へ大きく飛び距離を取る。


「『サンダー・ランス』!」

「『フレイム・ランス』!」


 双方の騎士が放った魔力の雷鳴と炎は空中でぶつかると爆発を撒き起こし、観客の声をかき消し場内に静寂(せいじゃく)を作り上げる。


「相変わらず手強いね、リュート!」


 全身を白い鎧で包んだ騎士は同じく純白の剣を天に(かか)げると、(まばゆ)白光(びゃっこう)を発生させるとそれを剣身に纏わせる。


「こっちの台詞だっての、ようやく追い抜いたと思ったらまたすぐに強くなりやがって」


 相対(あいたい)する光を鈍く反射する灰銀色の鎧を(まと)った騎士は、黒く透き通った刀身の剣を肩に担ぎ、呆れを含んだような声で返す。


「でも、君は必ず追い付いてくる」


 白の騎士は剣を黒の騎士に剣を向け、兜の下で笑う。


「そうしないと誰かさんが独りぼっちになっちまうからな」


 皮肉を返す灰銀騎士の開いた左手から闇が(あふ)(こぼ)れ落ちる。


 そして眼前に剣を傾けると、刀身をなぞり(くら)い闇を纏わせていく。


「いくよ?」


「ああ」


 同時に飛び出した二人の騎士は(またた)く間に加速していき、全てを照らす閃光(せんこう)と全てを呑み込む暗黒(あんこく)激突(げきとつ)するその瞬間。


 地面から二人を(へだ)てるように、巨大な金属の壁が現れた。


「「!」」


 二人の騎士は立ち止まると、その壁を産み出した元凶である物に目を向けた。


「双方そこまで」


 唐突な出来事で騒がしくなる闘技場内に、感情の読み取れない平坦な声が響いた。


「なんだよ良い所だったってのによー」


「あいつって団長の部隊のガーランドだよな、なんでここに……」


 観客席から聞こえる不満を無視し眼鏡を掛けた騎士は腕を振るう、すると闘技場の中央を二つに分けた鉄の壁が消滅した。


「騎士アルテア、騎士団長殿がお呼びだ」


「俺が?」


 アルテアと呼ばれた灰銀の騎士は剣を振るって刀身に纏った闇を消し去ると、ゆっくりと鞘に納め右手首の腕輪をなぞる。


 すると全身を覆っていた鎧が光の粒子へと姿を変え腕輪に吸い込まれ、灰と銀が混じった髪に、青い瞳の青年が表れた。


「ブライト、決着は次だ」


「みたいだね、僕はまた遠征任務があるからしばらく先になりそうだけど」


 ブライトと呼ばれた白の騎士は刃に宿した光を散らし、純白の剣を鞘に納め同様に鎧を腕輪に収納する。

 金の髪を風に靡かせ、金色の瞳でアルテアの方を見て苦笑する。


「んで、行く場所は団長室でいいんだよな?」


「……」


 行くべき場所を問われたガーランドだが、返事をせずアルテアのに視線を合わせる。


「なんだよ」


「……いや、円卓(えんたく)へ向かえ」


 ガーランドは何でもなかったように眼鏡を直すと、向かうべき場所を簡潔(かんけつ)に伝える。


「りょーかい」


 アルテアは首を傾げながらも闘技場の外へ歩いて行った。


 その背中を追いかけて闘技場を出ていく背丈(せたけ)の低い騎士を見送りながら、ガーランドは再び思案を始めるが背後から近づく足音で中断する。


「彼に一体何があったのですか」


「騎士ディアトリマ、私の口からは何も言う事は無い」


「そうですか……」


 ガーランドは用件が終わったと、(きびす)を返し闘技場から立ち去った。


 ブライトは心配そうな扉を見つめていたが、遠征の打ち合わせがあることを思い出し闘技場を後にしたのだった。


 ————


 闘技場から少し歩いたところには騎士団本部詰所があり、今回呼び出された円卓はそこの奥の部屋にある。


 円卓とは文字通り円い宅が中央に置かれている一室で、基本的には騎士団の幹部連中(かんぶれんちゅう)が会議をする為に使用される部屋であり、基本的に部隊長でも無い俺のような一騎士が呼ばれるような事は無い。


「つまりは相応の何かがあるってことなんだが……」


 呼ばれる理由になるよう心当たりは、あると言えばある。

 それがここまでの物だとは思ってなかったが。


 豪勢(ごうせい)に飾られた建物へ入り、一番奥へ真っすぐ歩いていけば円卓に辿り着ける。


 広間の中では数十人の騎士達が隊列を組み待機していた。


近衛(このえ)騎士だらけだなぁ、要人でも来てんのか?」


 『近衛騎士の』の鎧は、白を基調とした鎧に赤い十字の線が兜と胴に塗られ、肩からは赤いマントが下げられている。


 この特徴的な鎧を纏ったこいつらは王族が住む城の警備が主な任務であり、国内でも上位に位置する貴族達の護衛(ごえい)を任された精鋭(せいえい)集団だ。


 以前あった騎士団内での交流試合ではかなり目立っていたのを覚えている。


「そこのお前、止まれ」


 円卓の扉前で、門番騎士に制され足を止める。


「所属と名前を」


「アルバート隊所属、騎士アルテア」


「!、お前があの……」


「ん?」


「うおっほん!騎士アルテアが参りました!」


 もう一人の門番の騎士が一つ咳払(せきばら)いをして空気を切り替えると、扉を二回叩き向こうに知らせを送り、取っ手に指を掛けこちら(こっち)を見る。


「くれぐれも無礼を働くなよ」


「分かってるっての」


 自分に対してどんな噂が立っているのかは知らないが、誰彼構わず噛みつくような人間では無いつもりだ。


「通せ!」


 向こう側からの声を合図に扉を開けた門番に促され中へ入ると、なんとも豪華な面子(めんつ)にお出迎えされた。


 団長含めて十五名の騎士団幹部達、これは式典(しきてん)でも早々見られないぐらいの面子だ。


 興味が無さそうな者、逆に興味津々といった様子の者、そしてこちらを睨んでくる者。


 なんとも見事に個性豊かな反応だ。


(てかあいつは……)


 そして、それらに守られるように後ろに居るのは、凡そ(おおよ)そ今回呼ばれた原因でと考えてる騒動の関係者。


 というか親族。


侯爵(こうしゃく)のユーステス家現当主がわざわざここに居るってことは、やっぱりアレか……)


 国内有数の大貴族であり、騎士団の最大支援者であるアルケウス=ユーステスがそこにはいた。


 それはこんなに警備も厳重になるだろうと考えたが、騎士団内だしそんなに警戒しなくても良いだろうにとも思ってしまう。


「さて騎士アルテアよ、本日をもって貴様には騎士を辞めてもらう」


(まあ予想通りだな、まったく嬉しくないが)


 つまり円卓にこれだけ過剰とも言える戦力を集めているのは、俺が逆上してアルケウスに襲い掛かるとでも思われているからなんだろう。


 俺を止めるにはこれだけいると言われているようで、正直あまり悪い気はしないが。


「調査書を」


「はい」


 騎士団長が背後に控えていた若い騎士に声を掛ける。


 若い騎士は前に出てくると、手に持っていた書状を掲げながらそれを読み上げ始める。


「先日、これは騎士団内食堂で起きた件について纏めた物です」


「……では今回の事について一つづつ質問していきますので、それが正しいかどうかについて答えて下さい」


「りょーかい」


「貴様!その態度はなんだ!」


 名も知らない隊長の一人が騒ぎ出す、どうせクビになるのならこれぐらい別に構わないだろう。


「まあいいじゃないですか、結果は変わらないんですから」


 緑髪の優男が騒ぐ騎士を諫める、名前は確かゼクスだったか。


 隊の練度はかなりのもので、それを纏める隊長であるゼクスはかなりの使い手だとブライトが褒めていた。


「……では最初の質問です、騎士団の施設である食堂内で貴方は暴力を働いたのは事実ですか?」


「事実だ」


「その相手はユーステス伯爵の御子息である騎士ジラーンで間違いないですか?」


「ああ」


「その際貴方は彼が装備していた剣や防具を破壊した、間違いないですか?」


「間違いない」


「その時の状況を、詳しくお願いします」


「食堂内で偉そうにしていたあいつが気に入らなかったからぶん殴った、そん時あいつが武装を展開してきたからぶっ壊してやった」


 真面目そうなコイツのことだ、どうせ事の詳細についてきっちり調べてるんだろう。


 だが現状で俺がクビだと告げられている以上、詳細な事実なんてのはなんの意味の無い物だ。


 この場ははっきりと茶番だと言える。


「さっきから何なんだその態度は!いい加減にしろ!」


 先程怒っていた騎士体長が再び騒ぎ始める、別に侯爵に対してそんな態度を取っている訳では無いんだから別に良いだろうに。


「なんだその目は、貴様は今の自分の立場が分かっていないようだな……!」


 騎士顔を真っ赤にして立ち上がり腰の剣に手を掛け歩いてくる、何気なしに目線を送っていたら反抗的だと取られてしまったらしい。


 こちらとしては別にここで戦っても構わないが。


「そこまでにしておけ」


 いつも目を瞑っている黒髪の短髪騎士が低い声で制止する、あの騎士は確か特徴的な片刃剣を持ってると誰かが言っていた気がする。


「……ちっ」


 騎士は舌打ちをすると自らの席へ戻って行った。


 端の方の席では我らのアルバーン隊長がそれを見て安堵の溜息をついている、それほど心配しなくても返り討ちにしてやる自信があるから安心していて欲しい。


「…………」


 そういった意味の視線を彼に送ると、渋い表情をしてまた溜息を吐かれてしまった。


「……以上が調査書のまとめになります」


 若い騎士は役目が終わったと、騎士団長の後ろに控える。


「騎士アルテアよ、長生きをしたいのであればもう少し相手を選ぶことだ」


 騎士団長は忠告らしいことを語ると視線で合図を送る、すると騎士達が扉を開け退出を促してくる。


 どうやら話は終わりという事らしい、こんなあっさりしているならわざわざ呼び付ける必要など無かっただろうに。


「どうした、下がっていいぞ」


「アルケウス侯爵、アンタに言っておきたいことがある」


 余計なお世話だろうが、他の騎士の事を考えるならばこれだけは伝えておかなければならない。


「お前!なんて口の利き方を……!」


「構いませんよ、なんでしょう」


 近衛騎士達は掴みかかろうとして来たが、アルケウスの一言で行動を止める。


 貴族にしては案外話せる人間のなのかもしれない、まあそれはどうでもいい。


「アンタは国内の差別を無くすために動いているそうだが、それならまずは自分の息子の教育をしっかりした方が良い」


「……いい加減にしろ!お前達この者を早く連れていけ!」


 ついに騎士団長が声を荒げ始める、さすがに最大支援者へこの発言は我慢ならなかったらしい。


「んな事されなくても行くっての」


 アルケウスと騎士団長の指示で板挟みになり戸惑っている近衛騎士を横目に扉をくぐる。


 最後にアルケウスの顔を見ると、大分(だいぶ)苦い表情をしていた。


 ――


 騎士団本部を出て中庭を歩いていると、道端(みちばた)の椅子で膝を抱える見知った騎士の少女を見つけた。


 表情は隠れて分からないが纏っている雰囲気は重く、放って置いたら消えてしまいそうな危うさがある。


「どうしたシアン、そんな所で」


 声を掛けると、頭から生えた特徴的な二つの耳が反応して揺れる。


「先輩……!」


 膝から顔を上げた騎士の少女シアンの目には涙が溜まり、今にも零れ落ちそうだ。


「なんだ、またいじめられたのか?」


「先輩が……、私のせいで、ごめんなさい……!」


 嗚咽(おえつ)交じりの声で謝られると、流石に悪いことをした気になってしまう。


「お前は悪くないっての、だから泣くなって」


「だって私が……、うううっ」


 結局泣き出してしまったシアン、というか俺がクビになるという情報はすでに広まっているらしい。


 隣に座って腕輪から綺麗な布を取り出し、なるべく優しく涙を拭いてやる。


「ほら、そんなこすってると目が()れるぞ」


「う゛ぅ゛~~~~~!」


 泣き止ませようとしたつもりだったが、(むし)ろより涙を溢れ出させてしまった。


「まったく……」


 一先ずは胸に顔を押し付けてくるシアンの頭を撫で、泣き止むのを待つことにした。


「すみませんでした……」


 気分が落ち付いたのか、泣き止んだシアンが少し離れ謝罪を口にする。


「まあ、気にすんな」


 涙で湿った胸元はその内乾くだろう。


「私のせいで先輩が辞めさせられちゃう、なんて」


「シアンのせいじゃ無いっての」


「でも、でも……うぅ」


 またシアンが目に涙を溜め始める、こうなるとまたしばらく落ち込み続けてしまう。


「気にしなくても良いって言ってんのに、なっ」


「わひゃあああああ!」


 頭の上の両耳を指で触れて撫でてやると、シアンは顔を真っ赤にして跳びはね椅子の裏に隠れる。


「なっ、なっ、なななななな!」


「別に死ぬわけじゃないんだ、そこまで責任を感じる必要はないさ」


 ブライトだったらあの場面をもう少し穏やかに納める事だって出来ただろう、ここまで事が大きくなったのは単純に俺の力不足だ。


「さて、そろそろ出る準備しなきゃあいつらに突っつかれちまう」


 遠目から眺めている騎士団内の警備騎士達に手を振ると腕を組み視線を逸らされる、片付けを待ってやるからさっさと済ませろよって事だろう。


「私も、私も一緒に行きます!」


 何かを決心した表情をしたかと思えば、とんでもない事を言い始めるシアン。


「だめだ」


「でも……!」


「でもじゃない、騎士の隊長になる事が夢だったんだろ?だったらこんな事で辞めるなよ」


「うぅ……」


「不安か?」


 無言で頷くシアン。


 確かにシアンの立場を考えれば味方が減るというのは心細いか。


「シアン、手だしな」


「え?はい……」


 シアンは困惑しながらも、素直に両手の平を見せる。


「まあ大したもんじゃないけどな」


 首の上で繋げていた鎖を解き、首飾りをシアンの手の平に置く。


「これって、先輩がずっと着けてた……」


「特に魔術やまじないが掛けられてる訳じゃないんだが、まあ御守りみたいなもんだ」


 天使の片翼を模した銀製の首飾り。


 単純に見た目が気に入り、騎士団に入ってから最初の給金で買った物だ。


 買ってから今日まで一度も壊れた事が無く、それが縁起いいと思い御守りにしていた。


「いいんですか?」


「ああ、もし要らなかったら遠慮なく処分してくれていいぞ」


「そんなことしません!……ずっと大切にします」


 シアンは首飾りを両手で包み込むと胸に寄せ頭を下げる、地面に水滴が落ちた。


 また泣かしてしまったらしい。


「それじゃ、また会おうな」


「あ……」


 頭を数回撫でてから、荷物を回収するために寮へ向かった。


 自室の扉を開き明かりを点ける。


 部屋の中央で腕輪の石をなぞると、部屋の中の私物が次々と粒子状に崩れていき腕輪へ吸い込まれていく。


「まあ、こんなもんかな」


 すっかり綺麗になった自分の区域を眺める。


 この部屋に来たのは十八の頃だったか、四人部屋から二人部屋に移った時は一人前と認められたって喜んでいたもんだ。


「一応な」


 同室相手の机に置き土産をして部屋を後にする。


 通り掛かる騎士達に軽い別れの挨拶をしながら正門へと向かっていると、壁に背を預けるアルバーン隊長がそこにはいた。


「だれかと待ち合わせっすか隊長」


「ああ、お偉いさんに喧嘩を吹っ掛けなきゃ気が済まない馬鹿をな」


「そんな命知らずな奴がいるんすねぇ、一度でいいから顔を拝んでみたいくらいだ」


 隊長は呆れたよう笑うと、小さく溜息を吐く。


「あれで騎士団を止めさせるのは、(いささ)か処分が重すぎるんじゃないかとは進言はしてみたんだが、力及ばずだった」


「本当に首が斬られるよりはマシなんじゃないすかね」


 騒動を聞きつけた同僚は、下手すりゃ親族全員が処刑もあり得たぞと冷や汗をかいていた。


 まあ血縁者の居ない俺には関係ない話だが。


「……その様子だとあまり気にしていないみたいだな」


「まあ、隊長が歳で引退して俺が代わりに登用されるまでもう少しだったんで、それは少し惜しかったっすね」


「馬鹿野郎、俺はまだまだ現役だぞ」


「そりゃなによりで」


 日差しで短い白髪を輝かせるアルバーン隊長。


 歳は今年では五十五になったらしいが、未だに最前線で大剣を振り回している様は流石としか言いようがない。


「……お前、これからどうするつもりだ?」


「傭兵や用心棒でもしながら世界を回るってのもいいかもしんないっすね、元騎士ってのを活用すれば食うのには困らないだろうし」


 正直な話、貯まっている騎士団の給料があれば数十年は働かず生きていけるが、何もしないというのは性に合わない。


「そうか、仕事でも紹介してやろうかと思っていたが余計な世話だったみたいだな」


「そこまでしてもらう訳にはいかないっすよ」


「かわいくないやつめ、……たまには家に来い、娘も会いたがってる」


「気が向けばそのうち、それじゃあ俺行きます」


「ああ」


 アルバーン隊長は行き場を無くしていた幼い俺に住む場所を用意してくれたり、戦闘の指導を直接してもらったりとかなりの世話になった。


 俺が唯一尊敬している人だ。


「いつか恩を返さないとな」


 とはいえどうやって返せばいいのかは全く思いつかないんだが。


 本人に聞いてもそんなの要らんと言うだけで、全く答えてくれないのがどうしようもない。


 まあいずれ思いつくだろう。


 ――


 正門に着くと一台の馬車が止まっていた。


「もしかして出迎えの馬車でも用意してくれたのか?」


「残念ながら、それは僕の為に準備されたものなんだ」


 馬車を眺めていると、騎士寮の方面から歩いてくるブライトに声を掛けられた。


「なんだ、最近帰って来たばっかだってのにもう行くのか、それも一人で」


 周りを見渡しても遠回しにこっちを見ている騎士ぐらいしかいない、いくらブライトが優秀な騎士とはいえ何日もの休養日を挟まずに遠征任務とは。


「上の人も人使いが荒くて困っちゃうね」


「本当にな」


 そういえば新人騎士しかいない部隊で、魔物の大群の相手をさせられたこともあったか。


 その時は本隊が来るまでの時間稼ぎをしろと上の人間は言っていたが、幾ら貴族だらけで上品だった部隊でもどんな無茶だと愚痴や悪態の大合唱だった。


 あの時は人員こそ少なかったものの、物資自体は大量にあったからどうにか堪える事が出来たが。


 幾つも装備を駄目にしたことで幹部連中に怒られた時は、こいつらどうしてやろうかと思ったものだ。


「騎士を辞めさせられたと聞いたよ」


 まあ流石に耳に入ってるよな。


「ああ、ついさっきクビって言われた所だ」


「どうしてその話になったのか分からないけど、皆君は悪くないと言っていた」


「まあ相手が悪かったってやつだ、色んな意味でな」


 勿論自分に悪い所が無かったかと言えば、そうでは無い。


 別にその行動に対して後悔はしていないし、次同じ場面があればまた同じ事をするだろうが。


「僕の家の力なら、君の退団を止められる」


「よしてくれ、そこまでの事をお前にさせられないっての」


 確かに大貴族であるディアトリマ家の力であれば、何とか出来るのかもしれないが。


 だからと言って自分の不始末で手を焼かせたくは無い、この結果はひとつのケジメだ。


「……君はそれでいいのか?本当は全く納得なんかしてないんじゃないか」


「まあな、けどこれは自分で招いた結果だ、甘んじて受け入れるさ」


「そういう頑固な所は昔から変わらないね……、ならこれから君の活躍と幸福を願わせてもらうよ」


「ありがたく受け取っとく」


 軽く拳を打ち合わせる。


 馬車に乗り込むのを見送っていると、ブライトがこちらへ振り返る。


「良ければ一緒に乗せてあげようか?」


「野郎と二人きりの馬車旅なんて、ごめんだね」


「それは残念だな、なら精々徒歩の旅を楽しんでほしい」


 挨拶のようになんてことの無い皮肉を交わし合う。


「また会おう」


「ああ、またな」


 走り去る馬車を見送り、新たな世界へ歩き出した。

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