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神様の日記帳-支配していたのは僕の方だと思ってた-  作者: 鳳雛みかん


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第2話 壊れた人形

 栞の元彼という目障りな障害物を街から排除することに成功したご褒美として、僕は結衣にこれ以上ないほど甘い言葉を与え、優しく抱きしめてやった。


 あんな汚らしい男と対峙した後だ。結衣の心はひどく傷つき、僕への依存をかつてないほどに深めていた。


 薄暗い僕の部屋。僕の胸にすがりついてくる結衣の細い身体は、小刻みに震えていた。


「……先生、私、頑張ったよ。全部、先生のためにやったんだよ」


 結衣は焦点の合わない虚ろな瞳で僕を見上げ、ボロボロと涙をこぼした。僕の背中に回された彼女の腕は、血が滲むほどギリギリと爪を立てている。


「私、他の男の人に触られちゃった。汚い、汚いよ。でも、先生は捨てないよね? 私にはもう、先生しかいないんだから。先生だけなの、先生だけ……」


 耳元で繰り返される、執着の言葉。僕を神様として見上げるその視線には、かつての純粋な恋心はもう微塵もなく、ただ自分を救済しろという重苦しい強迫観念だけが渦巻いていた。純粋だった無垢なおもちゃは、いつしか僕へ執着する、ただの鬱陶しい何かへと成り下がっていたのだ。


 用済みのゴミは、速やかに処分しなければならない。


 だが、せっかくここまで見事に壊れたのだ。ただ捨てるだけでは惜しい。完全に壊れきったこの惨めな人形を、最後に骨の髄まで楽しんでやるのも悪くない。


 僕は冷え切った嫌悪感を精巧な仮面の下に隠し、すがりついてくる彼女を強く抱きしめた。


「痛っ……、先生?」


「結衣、ありがとう。愛してるよ」


 甘い毒のような囁きに、彼女は痛みを喜びに変換し、狂ったように僕の背中にしがみついてくる。僕を神と信じて疑わない哀れなその身体は、以前の無垢な頃とは違う、ひどく退廃的な様子だった。


 彼女の涙も、懇願するような叫び声も、僕の自尊心を満たし、肥大化させるための道具でしかない。もはや人間としてではなく、ただの人形として彼女を消費する。そこには一滴の愛情も、罪悪感も存在しなかった。


 やがて、すっかり精気を吸い取られ、抜け殻のようになった結衣を見下ろしながら、僕は極めて冷徹に、彼女を完全に捨てるための最後の計画の準備を始めた。


「実は、栞っていう女に付きまとわれて困ってるんだ」


 僕は怯えたふりをして結衣に嘘を吹き込んだ。その言葉は、結衣の壊れかけた心に火を放つには十分すぎた。愛する男を脅かす泥棒猫、結衣の瞳に、明確な殺意が宿ったのを見逃さなかった。


 そして数日後の夜、事件は僕の書いたシナリオ通りに起きた。


 僕が栞を家まで送り届ける途中、暗がりから結衣が飛び出してきたのだ。その手には、カッターナイフが握られていた。


「先生から離れて!!」


 狂ったように叫び、栞へと刃を振り下ろそうとする結衣。栞が悲鳴を上げてしゃがみ込んだその瞬間、僕は計算し尽くされた完璧なタイミングで二人の間に割って入り、結衣の腕を強く捻り上げた。カランと音を立ててナイフが落ちる。


「……っ、先生! なんで!離して!その女は私が……!!」


 泣き叫び暴れる結衣をアスファルトに押さえつけながら、僕は冷たい声で言い放った。


「僕が愛しているのは栞だ。もう付きまとわないでくれ」


 見開かれた絶望の瞳が、僕を射抜く。身を挺してまで尽くした神様から、自分が異常なストーカーとして扱われていることに気づいたのだ。彼女の口から漏れた悲鳴は、僕の耳にはもう響かない。これで彼女はもう立ち上がれないだろう。


 間もなく駆けつけた警察によって結衣は連行され、もろもろの聴取が終わった後、僕は栞を、力強く抱きしめた。


「もう大丈夫だ。何があっても僕が君を守るから」


 栞の肩は、小さく震えていた。突然殺されそうになったのだ、無理もない。


 こうして僕は、目障りな元彼と、用済みになった教え子を同時に処分し、さらにこの可哀想なヒロインの命の恩人にまでのし上がったのだ。


 僕は足の震えが止まらない彼女を抱きかかえるようにして、マンションの部屋へと連れ帰った。重い扉が閉まったその瞬間、外界は完全に遮断された。ここは僕と彼女だけの、誰にも不可侵な空間だ。


 僕は彼女の前にひざまずき、涙に濡れたその白い頬を両手で包み込む。


「何も心配しなくていい。君の過去も、その傷跡も、すべて僕が受け止める」


 誓いのように彼女の唇を塞ぐと、栞はやがて自ら僕の首に細い腕を絡ませてきた。それは僕という救世主に対する、完全な服従の証だ。


 シーツの海へと彼女をゆっくりと押し倒し、薄暗い闇の中に晒されたその白い肌に触れる。他人の運命を思い通りに動かし、不要な駒を排除した先に辿り着いた、誰にも邪魔されない夜。僕は膨れ上がる優越感に身を任せながら、熱に浮かされる哀れで美しい生贄を、夜が明けるまでじっくりと味わい続けた。


 ――そして、静かな朝が訪れる。

読んでいただきありがとうございました。

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