崩れかける場
巨大想像体が消えたあと、闘技場には、静けさだけが残った。
……はずだった。
地面に、小さな光が落ちている。
拳ほどの大きさ。淡く脈打つ、卵のような形。
「……あれ?」
レンが気づいた瞬間だった。
「面白いものが残ったじゃないか」
軽く、鼻につく声。
振り向くと、豪華な制服に身を包んだ少年が立っていた。
青、白、そして金色の装飾。大きな魔石がはめられた高価そうな杖。余裕の笑み。
「第三試験で派手にやった割に、ずいぶん可愛い置き土産だな」
彼は、躊躇なくその卵を拾い上げた。
「おい!」
カイが一歩前に出る。
「それ、俺たちのだろ!」
「俺たち?笑わせるなよ!!」
少年は肩をすくめる。
「知ってるか?お前の剣は僕のパパの会社の剣だ。つまり想像体の置き土産は、僕の所有物になる」
「ふざけるな!」
カイの声が荒くなる。
剣に、うっすらと魔力が宿る。
「なんだそのへなちょこな魔力は!
笑わせるな」
カイの目が細くなってゆく
「カイ、待って……!」
レンが慌てて間に入る。
「争わなくても…… 話し合えばきっと、、
声が震え、言葉が続かない。
「君の名を聞いていなかったね。
ちなみに僕の名はセリウス!セリウス・グリッド」
「以後お見知り置きを」
金持ちの少年が、苛立ったように言う。
続けてカイも言い返す。
「お前に言う名なんてねーよ!」
空気が、一気に張り詰める。
観客席がざわつき、今にも喧嘩が始まりそうだった。
「――そこまでだ」
穏やかで、すき通る声。
次の瞬間、闘技場の上空から、ゆっくりと人影が降りてきた。
学園長だった。
白髪混じりの髪。優しい目。それでいて、場を完全に支配する存在感。
「入学試験の場で、 私闘は許可していないよ」
誰も動けなくなる。
学園長は、卵を見て、静かに微笑んだ。
「なるほど……想いの祝卵だね」
そして、はっきりと言った。
「それは、 レン・クロウのものだ」
「なっ……!」
セリウスが声を荒げる。
「なぜですか! 倒したのは――」
「いいや」
学園長は、穏やかに首を振る。
「想像体を“終わらせた”のは、 彼の言葉だ」
「卵が残ったのは、 その優しさが、 想像体に届いた証」
学園長はレンに視線を向ける。
「怖かっただろう?」
レンは、小さくうなずいた。
「でも、 逃げなかった」
学園長は、ゆっくりと卵をレンの手に戻した。




