第80話:その魔王は交錯する謀略を俯瞰する。~一筋の光明たる頭脳破壊作戦~
【前回までのあらすじ】
白竜シャヴォンヌから「今回が三回目の世界線(0周目が存在する)」であるという衝撃の事実を告げられたマクマリス。
未来を変える最大の不確定要素であるロイをオウカの剣聖・源流のもとへ修行に向かわせ、自身はガスピ湖で採掘した耐圧素材と共に、飛行艇『アルゴス』での帰還準備を進める。
一方、新兵器の開発に協力するヘギルやララノアに対し、マクマリスは魔界の反乱分子を黙らせるための恐るべき計画を明かす。それは、死霊術師アルフィリオンの『完全なるコア』の技術を用いて、三百年前の厄災である「先代魔王ガングダード」を最強の戦力として復活させるというものだった――!
「それこそ末恐ろしいわね。……でも、気になったのはそこじゃないの。『強制的』な進化って何?」
ララノアが核心を突く。
「ヘギルが仮説を立てたのだ」マクマリスが言った。「奴らは前回、エスペル島で完勝だったにも関わらず、大陸上陸の際に自らを進化させてきた」
ヘギルが続く。
「勝率を上げるために一切の手を抜かない。そんな用心深い奴らが、今回の俺たちの作戦によって『絶滅の危機』に晒されてみろ。火事場の馬鹿力で強制進化して、一気に戦況を覆してくるのが妥当だと思ったわけよ」
「そんな……」
ララノアの顔から血の気が引いた。
「お先真っ暗だろ?」
ヘギルが嘆息し、マクマリスを見た。
「しかし、どうやってその仮説の確認をとったんだよ?」
「シャヴォンヌが言っていた」
「なんであの白竜がそんなこと知ってんだ?」
「あの古竜は、神のような存在に等しい。私がいた前の世界だけでなく、これから起こる未来の記憶まで持ち合わせている」
「はっ……? 何を言っているんだ?」
ヘギルの思考が停止する。
「では、今回の戦いの『結末』も知っているということ?」
ララノアが震える声で尋ねた。
「そうなるな」
マクマリスは淡々と答えた。
「ただ、未来の行く末は絶えず変化しているらしい。我々がしっかりと準備すれば、好転する」
「好転したら、あいつらは進化して対抗してくるんだろ? 勝ち目ないじゃないかよ……」
ヘギルが頭を抱えた。
「そうでもない」
マクマリスの瞳に、鋭い光が宿る。
「プログラムをアップデートし、全個体に送信するとしたら……敵は『どのように』行うと思う?」
ララノアがハッとして顔を上げた。
「例えば……海の底にある母船の中に、頭脳となる『高度な処理システム』を用意する」
「戦いの記録は、全てそのシステム、マザーコンピューターのようなものに集約されるってか」ヘギルも続く。
「そうよ。集めたデータを元に処理システムがプログラムをアップデートして、各個体に再配信する……中央集権型のネットワークね」
「てことは……その『頭脳』を破壊してしまえば……」
ヘギルの顔に、希望の光が差した。
「アップデートはできなくなる、というわけだ」
マクマリスが力強く頷く。
「なるほどな!」
「あくまで仮説だが、少しは光が見えたのではないか?」
「そうね。少なくとも、絶望的ではなくなったわ」
ララノアが小さく微笑んだ。
「よし、ララノア! さっさと魔導鎧についての研究を始めようぜ。時間が惜しい!」
ヘギルが気合を入れ直した。
その時、軍靴の音を響かせて、覇王アンドレアがカーラとアルフィリオンを伴って現れた。
マクマリスは、明るい笑顔を見せて覇王の後ろを歩くカーラを見て、内心で目を細めた。
(……カーラか。良い目だ。人懐っこい作り笑いで誤魔化してはいるが、私には分かる。あれは私の同類、闇に生きる者の目だ。……大方、覇王の命でアルフィリオンを背後から見張っているのだろう)
「待たせたな。アルフィリオンのご到着だ」
アンドレアが鷹揚に告げる。
「ん? なぜ、ララノアとヘギルがここにいる?」
アルフィリオンが、不機嫌そうに二人を見下ろした。
「俺たちも一緒に行くんだよ」
ヘギルが腕を組んで凄む。
「というより、先に謝れないのか? お前待ちだったんだぞ。みんな忙しいんだよ」
「なぜ謝る必要がある」
アルフィリオンは冷たく鼻を鳴らした。
「私は魔王のために、わざわざ行ってあげる立場だ。むしろ来てくれたことに感謝すべきだ」
「これだよ。こいつは本当に謝ることを知らねえんだ」ヘギルが天を仰ぐ。「お前、友達いないだろ?」
「友達? フン、そんなもの不要だ。死体だけが私を裏切らない」
二人はそんな不毛な言い争いをしながら、タラップを登ってアルゴスへと乗船していった。
ララノアが二人の後に続く時、ふと立ち止まり、マクマリスに声をかけた。
「……貴方にもらったコーヒーを淹れるから、後で客室に顔を出しなさい」
「ああ、楽しみにしておく」
マクマリスが微かに口角を上げると、ララノアは少しだけ頬を染め、足早に船内へと消えた。
マクマリスは、見送りに来た覇王とカーラに向き直った。
「それでは潜水艇開発のため、エスペル島に帰還する。何か進捗があれば通信機で連絡する。そっちもしっかりと軍の再編と準備を進めてくれ」
「こっちのことは任せておけ。……気をつけてな」
アンドレアが力強く頷く。
最後に、マクマリスはカーラに向かって言った。
「シャヴォンヌの話では、ロイは特別な存在であることは間違いない。……源流の修行がいつ終わるのか分からないが、終わった後はよろしく頼むぞ」
「はいっ! ドラゴンライダーの心得ですよね。お任せください!」
カーラが元気よく敬礼する。
汽笛が鳴り響き、アルゴスの巨大なプロペラが回転を始めた。
黒煙を噴き上げながら、希望と謀略を乗せた鋼の船が、空高くへと上昇していく。
【次回の予告】
「天才二人が導き出す希望の兵器! 夜の飛行艇で交わされる『勝利の約束』!」
エスペル島へ向けて空を飛ぶ『アルゴス』の船内では、ドワーフのヘギルと連邦のララノアによる「魔導鎧」の開発会議が白熱していた!
未来の設計図と二人の天才的な頭脳が合わさり、『魔力カートリッジシステム』という対機械生命体への新たな希望が形作られていく。
そこへ、約束のコーヒーを求めて客室を訪れたマクマリス。前の世界でララノアが死の直前に淹れてくれたコーヒーの記憶を胸に秘めつつ、彼はヘギルと「この戦いに完全に勝利したら、葉巻を試してみる」という静かな約束を交わす。
過酷な運命に立ち向かう大人たちの、嵐の前の穏やかで胸熱な夜――!
魔導鎧の設計と、夜の船室のコーヒー。
第81話は、明日の21時40分更新です!
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