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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第72話:その剣豪は無敵を切り落とす。~世紀の異種格闘技戦~

【前回までのあらすじ】

 白竜シャヴォンヌが待つガスピ湖へ降り立ったロイ。死の試練が待ち受けていると思いきや、高位の古竜である彼女は「前の世界線」の記憶を引き継いでいた!


 前世から変わらぬロイの真っ直ぐな魂を認め、まさかの試練免除で『真の竜契約』が成立。カーラの物騒な密命も、ロイの天然っぷりの前に空振りに終わる。


 一方、帝都の合同演習場では、筋肉至上主義の四天王ウルスヌスのしごきを見かねたオウカの長・源流が苦言を呈して衝突。覇王の鶴の一声により、急遽「剛腕vs剣聖」の異種格闘技戦の幕が切って落とされた――!

 訓練を止めた大勢の兵隊だけでなく、報道陣も固唾を呑んで見守っている。


 ウルスヌスが首の骨をポキポキと鳴らしながら前に出た。

「源流さんよ。あんた、熊人(ウェアベア)と戦ったことはあるかい?」


「いや、今回が初めてだ」

 源流が静かに答える。


「だったら、俺を殺す気で来な。人間のあんたとウェアベアの俺とじゃ、根本的に筋力が違う。手加減したら死ぬぜ?」

「殺す気でやれば、本当に殺しかねん。休戦協定が解除されるまではできぬ話だ」

「ハッ! 俺は警告したぜ。どうなっても知らねーからな」


 審判を買って出たアンドレアが、二人の間に立って告げた。

「いいか、怪我は治療できる程度なら構わんが、殺すのはなしだ。二人とも正々堂々とやれ」


 源流が愛刀『桜花』を抜き、腰を落として静眼に構える。

 ウルスヌスも自身の身長ほどもある巨大な二つの戦鎚『双撃鎚(そうげきつい)』を、まるで小枝のように軽々と構えた。


「あの鎚を見ろよ……。俺の戦斧の比じゃない大きさだぞ」

 観衆として見守るガガンが息を呑む。


「あんなので叩かれたら即死ですね……」

 アレフ兵の顔が引き攣っていた。


「始めッ!」


 アンドレアの合図と共に、先に仕掛けたのは源流だった。

 地を這うような低い姿勢で、一気に間合いを詰める。


「遅えッ!」

 ウルスヌスはそれを見越し、右腕の巨大な鎚を容赦なく振り下ろした。

 源流は瞬時に右側へとステップを踏んで回避する。


 ズドォォォォンッ!!


 空を切った鎚が地面を叩き割った。

 その規格外の衝撃で局地的な地震が発生し、グラウンドが大きく波打ち、観衆から悲鳴に似たざわめきが起こる。


「あいつ、魔法でもないのに、純粋な筋力だけで地震を起こしやがった……!」

 ガガンが体勢を崩しながら驚愕する。


 ウルスヌスの左側に回り込んでいた源流も、足元の激しい揺れによって一瞬足を取られた。


「今度はこっちから行くぜッ!」

 そこにウルスヌスが、左腕の鎚を時計回りに水平に薙ぎ払う。


 まともに受ければ胴体が吹き飛ぶ一撃。足を取られている源流は、とっさに地面に伏せてその風圧をかわし、そのまま転がって距離を取った。


「逃がすかよォッ!」

 ウルスヌスが跳躍し、両方の鎚を頭上から同時に振り下ろす。

 源流は再び地震が来ることを警戒し、横っ飛びで大きく回避した。


 ズガアアァァンッ!!


 先ほどよりも巨大なクレーターが穿(うが)たれ、激しい揺れが襲う。

 しかし、源流は横っ飛びから着地した瞬間、既に体勢を立て直していた。


 無防備なウルスヌスの胴体に向けて、目にも止まらぬ速さで桜花を振り抜く。

「神速・燕返し!」


 必殺の刃が届く直前。

 ウルスヌスは避けるでもなく、胸を大きく反らし、この世のものとは思えない大音量で叫んだ。


「ガアアアァァァァァァァッッ!!!」

 その咆哮は、物理的な衝撃波となって放射状に爆発した。


「くっ……!」

 源流は強烈な暴風に吹き飛ばされ、後方に十メートルほど後退してなんとか足を踏ん張った。

 しかし、周囲の観客の多くが白目を剥いて次々と倒れていく。


「ぐおっ……き、気を失いそうだ……」

 ガガンも膝をつき、必死に意識を保っていた。


 ウルスヌスの奥義・獣王咆哮。

 強靭な肺活量の全てを使う雄叫びは、物理的な破壊力だけでなく、精神力の低い者の意識を刈り取り、萎縮させる効果を持っていた。


「ほう。至近距離で食らって気を失わねーとは、さすがは剣聖・源流様だ」

 ウルスヌスが肩で鎚を担ぎながら感心する。


「今のはお主の奥義か?」

「まあ、そんなところだ。大抵のやつはこれで戦意喪失するんだけどな」

「礼には礼をもって尽くす。義には義をもって尽くす」


 源流は桜花を正眼に構え直し、静かに目を閉じた。

「奥義には――奥義をもって返すべし」


「おもしれー。やってみな」

 ウルスヌスがニヤリと笑う。


 しばしの沈黙。風の音だけが演習場を吹き抜ける。


 カッ! と源流が目を見開いた。

「奥義! 無想(むそう)九頭龍(くずりゅう)!」


 精神統一を極限まで高め、不可避の九つの斬撃を同時に見舞う、オウカに伝わる最強の剣技。

 閃光のような九本の太刀筋が、全方位からウルスヌスを襲う。

 ウルスヌスは鎚を振るう間もなく、その巨体を九つの刃に包み込まれた。


 ピタリ。

 全ての切先が、ウルスヌスの喉元や急所のすんでのところで停止していた。


「……なぜ、止めた?」

 ウルスヌスが不満げに鼻を鳴らす。


「完璧に首を捉えた。拙者の勝ちだ」

 源流が静かに宣告する。


「勝手に勝った気になってんじゃねーよ。俺はな、肉を切らせて骨を断つ……『食らうのも戦術』なんだよ。もう一回、本気で撃ってこい!」


 源流がアンドレアを見た。覇王は腕を組んだまま、静かに頷いている。


「……どうなっても知らんぞ」

 再び、精神統一に入る源流。

 そして放たれた、正真正銘の『無想(むそう)九頭龍(くずりゅう)』。

 今度は止めることなく、九つの斬撃が鋭い金属音を立ててウルスヌスの全身に叩き込まれた。


 ガキンッ! ギギギィッ!!


 火花が散る。

 しかし、ウルスヌスの体には傷一つ付いていなかった。刃が通っていないのだ。


「なっ……どういうことだ」

 源流が驚愕に目を見開く。


「俺にはな、『金剛体』という特殊能力がある」

 ウルスヌスがニィッと笑う。彼の分厚い筋肉が、鋼のように黒光りしていた。

 魔力を筋肉繊維の一本一本に練り込むことで、肉体の硬度をオリハルコン並みに引き上げる、常軌を逸した能力。


「要は、硬えのよ。機械生命体が水晶なみの装甲があるって言ってたよな? 俺はな、それよりずっと硬えぞ?」

 ウルスヌスは双撃鎚を構え直した。

「大人になった俺の体に傷をつけられたのは、後にも先にも覇王様だけよ」


 源流は驚きを収め、ふうっと息を吐いて胸を撫で下ろした。

「……つまり無敵ではないということだな? ならば、拙者が二人目だ」

「ほざいてろ」


 源流は視線を覇王に向けた。

「覇王。今から本気を出す。……切り落としてしまうかもしれんが、よろしいか?」


「命に別状がなければ、許可する」

 アンドレアが鷹揚(おうよう)に頷く。


「ウォォォォッ!!」

 ウルスヌスが巨躯を駆り、地響きを立てて源流に迫る。同時に左の鎚を横薙ぎに振るった。


 源流が後方に跳躍して避ける。

 足を止めず、ウルスヌスが必殺の右の鎚を頭上から振り下ろそうとモーションに入った、その瞬間。

 源流は後退するベクトルを瞬時に反転させ、逆にウルスヌスの懐へと低く飛び込んだ。

 そして、高く振り上げられた無防備な右腕に向かって、桜花を一閃した。


 ズパァッ!!


 ウルスヌスの動きが完全に止まった。


 ドサッ。


 鈍い音を立てて、彼の右腕が――肘から下が、巨大な鎚を握ったまま地面に落ちた。

【次回の予告】

「腕を落とされても笑う狂戦士! そして覇王が語る、自身と剣聖の因縁!」


 源流の放った究極の切断技『波紋断ち』が、ついにウルスヌスの右腕を斬り落とした!


 しかし、剛腕の熊は痛がるどころか歓喜の笑声を上げ、自身の血を浴びながら左腕の鎚を振り下ろそうとする――!


 噂に違わぬ狂戦士ぶりに観衆が戦慄する中、空を覆ったのは、見事に契約を果たして帰還したロイと白竜シャヴォンヌの巨大な翼だった。


 かつて最愛の妹が乗っていた竜を見上げ、厳格な覇王の瞳に浮かんだ一筋の涙。


 それを見た源流は、胸の奥でくすぶり続けていた最大の疑念――オウカの『常凪とこなぎの里』の虐殺の真実を覇王に突きつける。


 笑う狂熊と、覇王の涙。

 第73話は、明日の21時40分更新です!


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