第67話:その調停者(フィクサー)は未来を配る。~マクマリスの円卓協定~
【前回までのあらすじ】
覇王の居城にて開催された、人類存亡をかけた円卓会議。
一触即発の覇王と女王を「未来の敗北映像」で黙らせたマクマリスは、ヘギルに命じて「未来の魔導兵器群」を提示させる。
毎分六百発の雷撃銃、高周波振動剣、そして魔導鎧。
圧倒的な火力を前に、人類は守りではなく「深海への先制攻撃」という決死の作戦へと舵を切った。
潜水艇開発の話が出たところで、ヘギルが一枚の図面をテーブルの中央に滑らせた。
「これだ、見てくれ。……深海の水圧に耐えうる素材をずっと探していたが、この鉱物なら理論上はイケる」
彼が指差したのは、図面の中で青白く発光するように描かれた特殊な鉱石だった。
マクマリスが身を乗り出す。
「この鉱物は、どこにある?」
「ガスピ湖だ。あそこの地下水脈には、こいつが大量に眠っているはずだ」
「ガスピ湖は駄目だ!」
即座に否定したのは、覇王アンドレアだった。
彼は眉間に深い皺を刻み、低い声で警告した。
「あそこは白竜シャヴォンヌの住処だぞ。下手に近づいて採掘など始めれば、誇り高き古竜の怒りを買うだけだ。鉱石を手に入れる前に全滅するぞ」
だが、ヘギルは物怖じせずに覇王を見返した。
「覇王が頼めば、どいてもらえるんじゃないのか? 俺たちだけでなく、ドラゴンにとってもピンチなんだぞ? 話くらい通じるだろ」
「……甘いな。あの竜は人間の都合など聞く耳を持たん。妹エレノア以外にはな」
議論が膠着しかけた時、マクマリスが口を挟んだ。
「ならば……あそこに座るロイを行かせる」
マクマリスは末席の少年を指差した。
「彼がシャヴォンヌと契約すれば、解決する話だ」
「契約だと?」
アンドレアが声を荒げ、椅子を蹴立てるように立ち上がった。
「馬鹿を言うな! 竜との契約は誰でもできるものじゃない! 生半可な覚悟で試練に挑めば、命を落とすぞ! それを、こんな子供に……」
「ロイは契約していた」
マクマリスは覇王の怒号を遮り、強い口調で言った。
「未来において……覇王、貴様の推薦でだ」
「なっ……?」
アンドレアが言葉を失う。
「あの時も、貴様と私が死ぬ少し前まで、ロイはシャヴォンヌと共にたった一騎で空の敵と戦い続けていた。……彼の契約は、我々にとって不可欠な戦力になる」
マクマリスの言葉には、確信と、未来で共に戦った戦友への信頼が滲んでいた。
アンドレアは言葉を飲み込み、ゆっくりと視線をロイに向けた。
若き王子は、突然の指名にも動じることなく、ただ真っ直ぐに覇王を見返していた。
その瞳には、未知の試練への恐怖ではなく、世界を背負おうとする強い決意の光が宿っていた。
(……妹と、同じ目をしている)
アンドレアの脳裏に、かつて平和を語っていたエレノアの姿が重なる。
彼は深く息を吐き、肩の力を抜いた。
「……カーラ」
アンドレアは短く命じた。
ハーフエルフの四天王が一歩進み出る。
「はっ」
「この休戦協定が締結されたらの話になるが……あのロイという奴を、"白"のところに連れて行け」
「御意」
アンドレアは再びマクマリスに向き直り、腕を組んだ。
「……いいだろう。賭けに乗ってやる。で、ガスピ湖の鉱物を採掘できたとして、どうする?」
◇
マクマリスは頷き、指揮棒を振るうように次々と指示を飛ばし始めた。
「まず、ヘギルにはエスペル島のガイアス王国と技術提携を結び、潜水艇の建造を全面的にサポートしてもらう。完成次第、母船の探索を開始する」
「おうよ、任せときな! 最高の船を作ってやるぜ!」
ヘギルが自身の胸をドンと叩く。
「並行して、鉄鋼共和国では先ほど話の出た武器や鎧の量産化を進めてもらう」
マクマリスはヘギルとララノアを交互に見た。
「二人は私の配下と協力して、魔導鎧の開発に専念しろ。時間との勝負だ」
「潜水艇に、魔導鎧……ああ、目が回りそうだぜ」
ヘギルが嬉しい悲鳴を上げる。
マクマリスは全体に向けて告げる。
「ガイアス王国では潜水艇の開発だけでなく、飛空艇『アルゴス』の二番艦から五番艦の建造も併せて行う。輸送と航空戦力が必要だ」
次に、マクマリスはサイロスの方を見た。
「先ほども話した通り、雷属性のエンチャントは有効だ。エスペル島のエルフたちにも知識を共有し、全軍の武器に対策を施せ」
サイロスは静かに、しかし力強く頷いた。
「承知しました。魔法剣士部隊の総力を挙げて取り組みます」
続いて、マクマリスは視線をネクロゴンドの長へと移した。
「アルフィリオン」
「なんだ」
不敵な笑みを浮かべるダークエルフに、マクマリスは重々しく告げた。
「万が一のために……『反魂の術』でアンデッド兵をできる限り数を揃えてほしい。今回は……頼りにしている」
「フン。死体さえ用意してもらえれば、いくらでも作ろう。私の芸術を見せてやる」
アルフィリオンが答えると、帝国四天王たちが「死体利用か……」と不快感を露わにし、ざわめきが起きた。騎士道精神に反するその外法は、やはり受け入れがたいものがある。
だが、アンドレアが片手を挙げてそれを制した。今は手段を選んでいられる状況ではないことを、誰もが理解していた。
マクマリスは最後に、ディネルースに鋭い視線を向けた。
「それと、アルフィリオンにアビス・ゴーレムのコアの知識の共有を頼みたい。……いいな、ディネルース」
「ええ、いいでしょう。で、私はどうするの?」
ディネルースが退屈そうに頬杖をつく。
「水の都に張っている結界だ」
マクマリスは地図上の海域を指でなぞった。
「あれを、敵の母船の周囲に張ることはできるか? 万が一、敵が目覚めた時、上陸をさせないために海底に閉じ込めたい」
ディネルースは少し考え込み、計算するように目を細めた。
「船がどの程度の大きさなのかにもよるわね。あまりにも大きいと、結界内部の水圧制御が難しくなるわ。……ただ、膨大な魔力を消費するのは間違いないわね」
「ならば、その日に向けて魔石に魔力を練り上げてストックを作っておけ」
「人使いが荒いわね。……分かったわ」
「ゴンドラ王国のドワーフには、未来のヘギルが作った特注の斧を複製するように伝えておく」
マクマリスが言うと、ヘギルが鼻の下を伸ばしてニヤけた。
「ガハハッ! そんなに俺を褒めるなよ! 照れるぜ」
マクマリスはヘギルを無視し、アンドレアに向き直った。
「作戦の第一段階としては、こんなところだ。母船を見つけないことには話は進まないが……」
マクマリスは、机上の中央に置かれた羊皮紙――休戦条約書を指し示した。
「覇王。条約署名の判断をしてほしい」
◇
アンドレアは、目の前の条約書と、対面に座るディネルースを交互に見た。
妹を奪われた憎しみは消えない。胸の奥で燻り続けている。
だが、それ以上に守るべきものがある。民の命、そして未来。
「……その侵略者どもを倒すまででいいんだな?」
アンドレアが低い声で確認する。
マクマリスは頷いた。
「もちろんだ。終わった後は好きにすればいい」
「……分かった」
アンドレアはペンを取り、サラサラと音を立てて力強く署名した。
「署名しよう。……未来を変えるためにな」
ペンが置かれると、今度はディネルースがそれを手に取った。
彼女もまた、迷いなく署名を行う。
アンドレア城にて、帝国と連邦、長きにわたる戦争の休戦条約が締結された。
人類、エルフ、ドワーフ、そして魔族。
かつての敵同士が、共通の脅威を前に手を取り合った瞬間。
後の歴史で『マクマリスの円卓協定』として語り継がれることになるこの日は、人類史にとって、破滅へのカウントダウンが止まり、希望への歯車が回り始めた運命の分岐点として、永遠に記録されることになるのだった。
【次回の予告】
「昨日まで殺し合っていた者たちの、胃の痛くなる祝賀パーティ開幕」
ついに結ばれた歴史的休戦協定。その夜開かれたレセプションは、笑顔の下で皮肉と本音が交差するカオスな空間だった!
カメラの前で(嫌々)握手する覇王と女王。そして敵国のトップであるディネルースを「一番美人」と評してカーラをガチギレさせるウルスヌスと、横でひたすらシャンパンをあおるララノア。
一方、喧騒を離れたテラスでは、マクマリスが最強の剣豪・源流に頭を下げていた。
すべては若き王子ロイを「本物」へと鍛え上げるため。
魔王自身すら理由の分からない「ロイへの不可解な期待と執着」が、頑ななサムライの心を動かす!
偽りの祝宴と、魔王の願い。
第68話は、明日の21時40分更新です!
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