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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第62話:その秘書官は計算(ロジック)を愛す。~完璧な修正案と珈琲の香り~

【前回までのあらすじ】

 水の都にて、マクマリスはディネルースに禁断の切り札――「未来の敗北」と「時間逆行」の事実を突きつける。


 プライド高き女王も、自身の死を知りついに陥落。


 「時間逆行の印」を報酬に協力を約束し、三百年前の「消えた英雄」の謎をはらみつつ、連邦は帝国との歴史的な休戦へ舵を切った。

 水の都、第一ポート。


 連邦の使者が帝国に送った戦争休止の提案は、覇王アンドレアによって受け入れられた。これより、アンドレア城にて歴史的な休戦協定の話し合いが行われる運びとなったのだ。


 港は、エスペル島の使節団と連邦の幹部たちを乗せて出航する『アルゴス』の準備で、戦場のような慌ただしさに包まれていた。


「そこ、ぼさっとしない!」

 ララノアの鋭い声が飛ぶ。

「アルゴスへの資材搬入作業、進行が予定よりも五分遅れているわ! 巻き返しなさい! 積み込み順序の再計算は済んでいるの!?」


「は、はい! 急ぎます!」

 注意された連邦兵たちが、弾かれたように駆け出す。


 ララノアは息つく暇もなく、横を通り過ぎようとした伝令兵を呼び止めた。

「貴方。アルフィリオン、源流、ヘギルが到着したら、私のところにすぐ来るよう伝えなさい。席順の最終確認をするわ」

「承知いたしました!」


 彼女は完璧だった。

 膨大なタスクを並列処理し、感情を挟まず、機械のように的確な指示を出し続ける。


 その横顔に、一人の男が近づいた。

「随分と(せわ)しないな」


 ララノアは手元のリストから目を離さずに答えた。

「これから敵地である帝国に行くのよ? (せわ)しなくて当然です」

「いつもそんな風にしているのか?」


 そこで初めて、ララノアは顔を上げ、話しかけてきた相手――マクマリスを見た。

「……『そんな』とは?」

「表情筋が死滅したかのように無表情だ、と言っている」


 ララノアの眉がピクリと動いた。

「……見て分かりません? 私は忙しいの。貴方の無駄話に付き合っている暇はないわ」

「だろうな。ここの行政を一手に引き受けているのだ。さぞかし、大変だろう」


 マクマリスは懐から、折りたたまれた数枚の羊皮紙(ようひし)を取り出し、ララノアに差し出した。

「ほら」


「何? ……私のサインでも欲しくなったのかしら?」

 ララノアは冷ややかにあしらい、受け取ろうとしない。


 マクマリスは紙を差し出したまま、ニヤリと笑った。

「ディネルースの浪費に、頭を抱えているのだろう? ……これは『裏帳簿の修正案』と『予算削減プラン』だ」


    ◇


「……は?」

 ララノアの動きが止まった。


 彼女は(いぶか)しげに紙をひったくり、目を通した。

「なんで貴方が、ディネルース様の浪費のことを知っているのよ? これは国家機密級の……」


「前の世界線で、貴様が教えてくれた」

 マクマリスは平然と嘘をついた。

「だから、力になろうと思っただけだ」


(実際には、地下研究室で押収したファイルの中に、貴様の日記のようなものが混ざっていて、そこから知っただけだがな……)

 マクマリスは内心で舌を出した。あの日記には、上司への愚痴と、予算繰りへの悲痛な叫びが赤裸々に綴られていたのだ。


「なぜ私が、貴方なんかに……」

 ララノアは不満げに呟きつつも、視線は書類に釘付けになっていた。

 そして、ページをめくる手が速くなる。


「っ!? これは……」

 彼女の目が驚愕に見開かれた。

「ここ、資材調達ルートを鉄鋼共和国経由に一本化することで、関税と輸送コストを三十%カット……。さらに、魔力循環システムの効率化による維持費の削減……」


 ララノアは震える声で言った。

「……完璧だわ」


「貴様の案もなかなか良かったが、私の案を採用すれば支出は更に抑えられる」

 マクマリスは腕を組んだ。

「ディネルースの浪費癖が今以上に悪化しない限りは、黒字を維持できるはずだ」


 ララノアは顔を上げ、悔しそうに、しかし尊敬の念を込めて言った。

「……やるわね」


「礼には及ばん。来世で秘書として雇う約束をした仲だ。これくらいはな」

「はっ、私はディネルース様の秘書官よ。貴方の秘書になるわけないでしょ」


 ララノアは鼻で笑ったが、その表情は先ほどよりもずっと柔らかくなっていた。


    ◇


 マクマリスは声を潜めた。

「それとな。ディネルースの命で貴様が進めている、洗脳や恐怖心の除去……そして『魔導義体化実験』だが」


 ララノアの肩が強張る。


「前の世界の貴様は、適合率の問題で行き詰まっていた」

「……そんなことまで話していたの!?」

 ララノアが青ざめる。


 マクマリスはもっともらしく頷いた。

「極秘の研究なのに、ディネルースに知られたら一大事だ。……しかし、当時の貴様は、私と一緒に研究を進めれば糸口が見つかるのではないかと考えていたようだ」


 ララノアは黙り込んだ。

 図星だったからだ。彼女自身、技術的な壁にぶつかり、誰か対等に話せる「知能」を欲していた。


 マクマリスは続けた。

「今、魔界でも魔導義体化については研究を進めている。貴様のように、人やエルフの肉体を完全に置換するのはだいぶ先の話になりそうだが……」


 彼は視線をアルゴスに向けた。

「帝国や連邦兵の『鎧』に、その技術を組み込むことはできるかもしれない」


「……鎧なら、神経接続の負担は少ない。出力強化はできるわね」

 ララノアが技術者の顔になる。


「そうだ。痛覚遮断は無理だがな。……貴様も研究に手伝え。ヘギルが開発する新しい装甲に、貴様の技術を融合させる」


 ララノアは首を振った。

「極秘の研究よ。ディネルース様が許すわけないわ。それに、この研究が外部に漏れていると知ったら、私は……」


「ディネルースはこっちで何とかする。私が上手く言いくるめてやる」

 マクマリスは力強く断言した。

「許可を取り付けたら、手伝え。……いいな?」


    ◇


「……勝手な人」

 ララノアは呆れたように息を吐いたが、拒絶はしなかった。


 マクマリスは踵を返した。が、数歩歩いて足を止め、改めてララノアに振り返る。

 そして懐から小袋を取り出し、放り投げた。

「受け取れ」


「きゃっ」

 慌ててキャッチしたララノアは、小袋の中身を見て目を丸くした。

「これ……」


 中に入っていたのは、焙煎されたばかりのコーヒー豆。

 それも、彼女の日記に「いつか飲んでみたい」と記されていた、希少な銘柄だった。


「好きなんだろ?」

 マクマリスはニヤリと笑った。

「味覚をONにして、飲む時間くらい作れ。休息も仕事の内だ」


 彼は諭すように言った。

「仕事ができる奴は、みんな休むことの大切さを知っている」


 ララノアはコーヒー豆の香りを吸い込み、少しだけ頬を染めた。

「……ありがとう」


 その声は、いつもの冷徹な響きではなく、年相応の女性のそれだった。

 マクマリスはそれ以上何も言わず、ひらりと手を振って立ち去った。


(……ララノアよ。今回の貴様はまだ死んでいないし、私を知らない)

 マクマリスは歩きながら、内心でほくそ笑んだ。


(だが、貴様がしたためていた日記を入手したことで、思考回路は手に取るように分かる。私は貴様にとって、『誰よりも自分を理解している男』に映るだろう)


 彼女の性格は把握済みだ。


(貴様は『効率的な仕事ができる男』に弱い。それだけで、貴様の信頼は勝ち取れる)

 マクマリスは、かつて彼女が自爆した未来を思い出し、拳を握った。

(……安心しろ。今回は、泥水のようなコーヒーを飲んで自爆などさせん)


(私の秘書として雇う約束だったな? ならば、まずはその有能さで……今回の戦いに勝つために協力してもらうぞ、ララノア)


 背後では、ララノアが連邦兵たちに再び指示を飛ばし始めていた。

 だがその声には、先ほどまでの刺々しさはなく、どこか張り合いのある響きが混じっていた。

【次回の予告】

「奴らは、勝ち戦ですら『進化』した。」


 円卓会議の直前、ヘギルが指摘した恐るべき矛盾。

 エスペル島で圧勝したはずの機械生命体が、なぜわざわざ武装を強化して大陸へ来たのか?


 それは「常に最適解を選び続ける」という、地獄のような学習能力の証明。

 追い詰めれば追い詰めるほど、奴らは強くなる。


 マクマリスの未来知識すら凌駕するかもしれない「進化の悪夢」を抱えたまま、人類存亡をかけた会議が間もなく、幕を開ける。


 魔王の算段、進化する絶望。

 第63話は、明日の21時40分更新です!


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