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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第59話:その魔王は未来(こたえ)を渡す。~予言された死と天才の設計図~

【前回までのあらすじ】

 桜の国オウカを後にした一行は、鉄と煤煙に覆われた「ドワーフ鉄鋼共和国」へ到着する。


 そこで待っていたのは、高級スーツを着こなす強欲な王・ヘギルだった。


 マクマリスは彼に巨額の報酬を提示して「潜水艇」の開発を依頼し、次なる一手――ヘギルを自爆させないための「未来の設計図」を渡す機会を窺う。

 その夜、ヘギル主催による「新型魔導砲試作品お披露目パーティー」が盛大に催された。

 シャンデリアが煌めく会場には、各国の要人や商人たちが集い、グラスを傾けている。

 その喧騒の中、ヘギルは水の都から来た幹部、ララノアを一行に紹介した。


「取引をしましょう」

 ララノアは、冷ややかだが美しい声で提案した。

「この試作品を水の都まで運んでくだされば、議長への謁見を取り計らいましょう」


 ロイがチラリと横を見ると、フードを被ったマクマリスが小さく、しかし力強く頷いている。

「分かりました。その取引、応じましょう」


 取引が成立した後、マクマリスはヘギルの耳元で囁いた。

「……ヘギル殿。商談の続きがあります」


 彼はヘギルを促し、会場の奥にある防音の施された貴賓室へと移動した。


 重厚な扉が閉まり、二人きりになった瞬間。

 マクマリスはフードをバサリと下ろし、その身に纏う禍々しい魔力を露わにした。

 空気の密度が一変する。


「なっ、あんた……ただの密偵じゃなかったのか!?」

 ヘギルが驚愕し、葉巻を取り落としてしまう。


 マクマリスは静かに、しかし絶対的な威厳を持って告げた。

「私は魔王マクマリス。……ヘギル、貴様に未来の予言を授けよう」


 マクマリスは懐から魔導具を取り出し、テーブルの上に置いた。

 水晶球が輝き、空中に鮮明な映像が投影される。

 そこに映し出されたのは――地獄だった。


 銀色の機械生命体の大群に埋め尽くされた大地。燃え盛るオウカの丘。

 そして、白亜の塔のテラスで、迫りくる敵の波を前に、最後まで魔導砲を撃ち続け、華々しく爆散するヘギルの最期。


「な、なんだこれは……俺が、死ぬのか?」

 ヘギルの顔から血の気が引く。あまりにもリアルな「自分の死」を突きつけられ、震えが止まらない。


「そうだ。だが……貴様はただでは死ななかった」

 マクマリスが映像を切り替える。

 そこには、戦場で雷撃を放ち、敵を薙ぎ払う新型魔導砲の勇姿が映っていた。


「未来の貴様は、あの試作品を改良し、エネルギー充填のロスを無くす『カートリッジ化』に成功していた。その兵器は多くの敵を葬り、人類最後の希望となった」


 マクマリスはさらに言葉を継ぐ。

「それだけではない。貴様の頭の中には、他にも多くの案があったはずだ」


 彼は、あらかじめ用意していた羊皮紙の束――未来のヘギルが完成させた設計図の写し――を、ドサリとテーブルに叩きつけた。


「これが、その設計図だ。……先ほど言った潜水艇の研究と並行して、すぐに開発、量産を始めろ」


 ヘギルは開いた口が塞がらない様子だったが、恐る恐る設計図に目を落とすと、その表情が一変した。

 恐怖は消え、職人の顔つきになる。


「……すげえ。魔力回路を独立させて、カートリッジごと交換する発想か……。これなら連射が可能になる。完璧な構造だ」

 彼の手が震えるように次の図面をめくる。

「こっちは魔導突撃銃に……高周波振動剣だと? おい、防具まであるぞ! 複合装甲服か、すげえ……」


 ヘギルは興奮に顔を紅潮させ、マクマリスを見上げた。

「なぁ、これ全部、本当に俺が考案したのか?」


 マクマリスは深く頷いた。

「そうだ。もっとも、カートリッジ式魔導砲以外は、時間的な猶予がなく、実用化はできていない。……だが、今なら間に合う」


 ヘギルはニカっと笑い、金歯を見せた。

「へっ、こんな代物を考え出した未来の俺は、やっぱ天才だな!」


 その能天気とも言える自画自賛に、マクマリスは呆れ顔で返した。

「ああ、そうだな。……だが、もっといい物を作ってくれても構わんぞ?」


 そしてマクマリスは指を鳴らした。

 空間が歪み、亜空間収納からひしゃげた金属の塊が吐き出され、ヘギルの足元に転がった。

 それは、破壊された機械生命体の残骸だった。


「うおっ!? なんだよ、これ!!」

 ヘギルが飛びのく。


「これが先ほど映像で見せた敵、機械生命体の実物だ。壊れていて動くことはないから安心しろ」

 マクマリスは冷徹に説明を続けた。


「恐るべきは、奴らは学習し、進化する機能があることだ。最初に戦った時は鋼鉄程度の硬さだったが、二回目にこの大陸で交戦した時は、水晶のような硬度を持つ装甲になっていた」


 ヘギルがおっかなびっくり、その装甲に触れる。

「……硬てぇ。これじゃ、通常の武器は通用しないな」


「雷属性を付与させた武器で何とか踏ん張ってはいたが……こいつの胸部を見てみろ」

 マクマリスが指差す。


 ヘギルが覗き込むと、胸の装甲が開閉式になっているのが分かった。

「ここから……何かを発射するのか?」


「その通りだ。海水を体内で圧縮し、高圧カッターとして噴出する遠距離攻撃機能を備えている。射程は目測で三百メートル。これも進化により追加された武装だ」


 ヘギルは残骸をまじまじと眺めると、懐からおもむろに葉巻を取り出した。

「……頭をすっきりさせたいときはな、これに限る」


 シュボッ。

 火をつけ、紫煙を深く吸い込む。


「なんでもいいが」

マクマリスは釘を刺した。

「未来の貴様が考えた設計図をもとに、この鉄屑に対抗できる武器、防具をアップデートさせてみろ。未来のヘギルができたのだ。今の貴様にできないことはないはずだ」


 だが、ヘギルはもうマクマリスの話を聞いていなかった。

 紫煙の向こうで、その目は完全に「開発者」の目になっていた。ブツブツと独り言を漏らす。

「……海水を噴射するってことは、真っ向から物理的に受け止める必要はねえな……装甲に傾斜をつけて、左右に『滑らせて』逸らせばいいんだろ……流体力学を応用して……」


 その没頭ぶりを見て、マクマリスは満足げに口元を緩めた。

 これなら大丈夫だ。この男は、死の恐怖よりも、難題を解く喜びに生きる人種だ。

 マクマリスはそれ以上何も言わず、静かに踵を返して部屋を出た。


    ◇


 試作機が入ったコンテナの積み込みが終わり、夜の帳が下りる頃。

 『アルゴス』はララノアを乗せて、重力から解き放たれるように夜空へと舞い上がった。


 冷たい夜風が吹く甲板で、ロイがマクマリスに近づいてきた。

「マクマリスさん。ヘギルさんとの個人的な話は、どうでしたか?」

「ああ。いい話し合いができたと思っている。未来への投資だ」


 マクマリスはロイを見た。

「パーティーは楽しめたか?」


 ロイは苦笑して首を振った。

「僕はああいうのが苦手で……。アレフではいつも逃げ回っていましたから。マクマリスさんは好きですか?」


「魔界にはパーティーなどない。だから興味もないな」

「ないんですか! それはちょっと羨ましいな……」

「フン、王子という身分も楽ではなさそうだな」


 マクマリスは船首の方角、暗闇に光る湖を見据えた。

「さて……次はいよいよ、水の都だ」


 ロイの表情が引き締まる。

「マクマリスさん。……これから会うディネルース議長って、どんな人なんですか?」


 マクマリスは、かつて殺し合った記憶を反芻(はんすう)しながら答えた。

「冷酷、非道。自分の利益と復讐のためなら、世界中を敵に回しても平気な女だ。……信用はするな」


「そんな人と、交渉できるんでしょうか」

 ロイが不安げに問う。


「この使節団のリーダーとして、交渉は君に任せる」

 マクマリスはロイの肩に手を置いた。

「だが、雲行きが怪しくなれば私が助太刀する。大船に乗ったつもりでいろ」


 その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。

 前回、魔界で対面した際は、彼女の復讐心を利用できずに決裂し、殺し合いになった。

 だが今回は違う。情報という最強のカードはこちらが握っている。


 『アルゴス』は結界を抜け、湖上に浮かぶ白亜の巨塔へと接近していく。

 いよいよ、連邦の最高権力者ディネルースとの、ロイにとっては二度目の、そしてマクマリスにとっては運命を変えるための対面が迫っていた。

【次回の予告】

「私だけが助かる計算に、狂いが生じている。」


 水の都に到着した一行。

 美しき連邦の女王・ディネルースは、ロイの和平交渉を一蹴し、甘い言葉で自身の支配下へと誘う。


 だが、その時――魔王が正体を現す。

「久しぶりだな、ディネルース。」

 マクマリスが突きつけたのは、未来予知ではなく、彼自身が体験した「敗北の記憶」。


 絶対防御を誇る白亜の塔が崩れ落ちる映像を前に、女王の完璧な計算が揺らぎ始める。


 連邦の女王と、崩壊のメモリー。

 第60話は、明日の21時40分更新です!


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