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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第56話:その魔王は春に誓う。~常春の桜での再会~

【前回までのあらすじ】

 死の森ネクロゴンドにて、死霊術師アルフィリオンと対峙した一行。


 マクマリスは密偵として振る舞いながらも、巧みな交渉術で最強兵器「アビス・ゴーレム」のコアへの手がかりを入手する。


 死者を兵器とすることに反発するシルフに対し、マクマリスは「清濁せいだく併せ呑まねば世界は守れない」と冷徹な現実を説くのだった。

 死の森ネクロゴンドを抜けた魔導飛行艇『アルゴス』の眼下には、季節外れの桃色の世界が広がっていた。

 常春の国、オウカ。

 空を舞い散る桜吹雪の中を、北から送られてきた物言わぬアンデッド兵たちが、長い列を成して南へと行軍していく。


「……美しい景色なのに、吐き気がするな」

 舷窓から外を覗いていたガイアス兵の一人が、眉をひそめて呟いた。


 爛漫と咲き誇る桜の「生」と、虚ろな目をした死者たちの「死」。その混在は、この国の歪さを象徴するようで、生理的な嫌悪感を催させるには十分だった。


 だが、マクマリスの視線は別の場所――城下の外れにある、今は何もない小高い丘へと注がれていた。

(あそこか……)

 マクマリスは、記憶の奥底にある光景を重ね合わせた。


 前の世界線。機械生命体の銀色の波を食い止めるため、ゴンドラ王やガガンたちドワーフが決死の防衛戦を行い、そして散っていった「桜の丘」。

 今はただの美しい風景だが、マクマリスにはそこが、同胞たちの血と鉄屑で赤黒く染まる未来が見えるようだった。


「今度は死なせはせんよ。……あのような無益な消耗戦ではな」

 マクマリスは誰にも聞こえない声で呟き、フードを深く被り直した。


    ◇


 一行を出迎えたのは、オウカを治めるサムライの長、源流だった。


 腰に二振りの刀を差し、質素だが仕立ての良い着物を纏っている。その立ち振る舞いには、張り詰めた糸のような隙のなさと、静謐(せいひつ)な水面のような静けさが同居していた。


(……こいつか)

 マクマリスは密偵のフリをしながら、鋭く観察した。


(さすがは覇王アンドレアと一騎打ちで互角に渡り合っただけのことはある。……そういえば、あの腰につけている短刀)

 源流の帯に差された、装飾の美しい短刀。


(前の世界で、私が残留思念を読み取ったものだ。……恩を返すと言っていたが、あの戦いでは特に何もなかったな。期待していたわけではないが……)


 源流の案内で、一行は領主の屋敷へと向かう。

 長い回廊を歩いている途中、前方から一人の女性が歩いてきた。

 美しい着物を着こなした、凛とした佇まいの女性。


「ようこそおいでくださいました」

 女性は一行に気づくと、立ち止まり、礼儀正しく深々と会釈をした。


 その顔を見た瞬間、マクマリスの足が止まった。

(……暁月(あかつき)か)


 かつて滅びた『常凪(とこなぎ)の里』の生き残りであり、源流が親代わりとなって育てた娘。

 そして、前の世界線で、マクマリスが最後に通信を交わした相手の一人。


『ありがとうございます。……どうか、世界をお救いください……』

 死を覚悟した彼女の、震える声が脳裏に蘇る。


 瓦礫の山となったオウカの里で、子供を守りながらアンデッドの源流と共に消えていった彼女の最期。

 その悲壮な記憶とは裏腹に、目の前の暁月は血色も良く、生き生きとしていた。


 マクマリスは、自分の胸の奥がふっと緩むのを感じた。

(……生きている。それだけで、これほど安堵するものか)


 暁月が頭を上げ、マクマリスの横を通り過ぎようとした時。

 マクマリスは無意識のうちに、声をかけていた。

「安心しろ。……今度は、見捨てはしない」


 暁月が驚いて足を止めた。

「え……? あの、今、なんと……」

 きょとんとした瞳が、フードの奥のマクマリスを見つめる。


 マクマリスはハッと我に返った。

 今の自分は、魔族の密偵「マク」に扮している。暁月は前の世界の記憶などないし、マクマリスと面識すらないのだ。


「……い、いや。すまない」

 マクマリスは慌てて咳払いをした。

「故郷に残してきた、知人に似ていたものでな。……失礼した」


「左様でございましたか」

 不審がることもなく、暁月はふわりと優しく微笑んだ。

「その方と、またお会いできると良いですね」


 彼女は一礼し、静かに去っていった。


 その背中を見送っていると、隣にいたロイが小声で耳打ちしてきた。

「どうしたんですか、マクマリスさん? 突然」


「……なんでもない。あの女とは、前の世界でいろいろとあってな」

 マクマリスも小声で返す。


 ロイがニヤニヤしながら聞いた。

「もしかして……あの女性が好きなんですか?」


「はあ? なぜそうなる」

 マクマリスは心底呆れた顔をした。

「人間と違い、魔族に『好き』というあやふやな感情はない。ただ……」


 彼は暁月が消えた角を見つめた。

「あの女は、前の世界で私が殺したようなものだ。……だから、気になっただけだ」


「そうなんですね……」

 ロイは真剣な表情になり、マクマリスを見上げた。

「今度は、必ず守りましょう!」


「……ああ」

 マクマリスは短く答えた。


 エスペル島で王たちに再会した時の熱い感情。ハーフリング領でガガンの食べっぷりに呆れつつ抱いた親近感。そして今回の暁月への安堵。

 以前の自分にはなかった「何か」が芽生えていることを、マクマリスは自覚し始めていた。

【次回の予告】

「綺麗事で、人は守れない」


 拷問施設での一触即発。

 ロイたちが正義感から剣を抜く中、現れた源流の一喝が場を制圧する。


 そして向けられる、魔王を見透かすような鋭い眼光。

「ただの密偵ではあるまい……」


 正体がバレかけたマクマリスは、冷や汗を流しながらも「中間管理職のマク」を演じ切る。


 去り際、魔王が密偵に下した新たなオーダー。

「奴が死んだら五体満足で回収しろ。最高のゴーレムにしてやる」

 最強の剣豪に対する、最大級の評価と残酷な予約とは?


 剣聖の眼力と、五体満足の予約。

 第57話は、明日の21時40分更新です!


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