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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第55話:その魔王は死を予約する。~死の森での駆け引き~

【前回までのあらすじ】

 大陸に降り立った一行は、ハーフリングの村で束の間の休息を得る。

 ロイが畑で汗を流し未来への種を蒔くその裏で、マクマリスは密偵に冷徹な命令を下していた。


 次なる目的地は、死霊術師アルフィリオンが支配する「ネクロゴンド」。

「交渉が決裂した場合は、脳だけを回収せよ」

 非情な決断を胸に秘め、魔王とロイたちは死の森へと足を踏み入れる。

 ハーフリング領の黄金色の麦畑を背に、魔導飛行艇『アルゴス』は北東へと進路を取った。


 やがて眼下の緑は色あせ、枯れ木が目立つ荒野へと変わり、灰色の霧が立ち込める陰鬱な森――ダークエルフの自治領、ネクロゴンドへと入った。


 国境付近の街道を見下ろしていたシルフが、口元を押さえて小さく(うめ)いた。

「……酷い。あの兵士たちを見て……」


 街道を埋め尽くしていたのは、数千のアンデッド兵の大行進だった。

 生気のない土気色(つちけいろ)の肌、うつろな瞳。無言で足並みを揃えて歩く死者の群れ。足音すら響かないその行軍は、生者の領域を侵食する死の波のようだ。


「死してなお戦場へ駆り出されるなんて……」

 ロイもまた、痛ましげに顔を歪める。生命を尊ぶ正常な倫理観を持つ者であれば、当然の反応だ。


 だが、フードを目深に被ったマクマリスだけは、その光景を冷徹な計算高い目で評価していた。

(……見事だ。腐敗の進行を止め、筋肉の強度も維持されている。生前の戦闘技術を高度で維持するアルフィリオンのアンデッド兵は、機械生命体に対抗しうる貴重な戦力だ)


 彼は内心で舌なめずりをした。

(感情論で切り捨てるには惜しい。世界を救うには、エレノア共和国連邦の力が不可欠だ)


    ◇


 領主の館に通された一行を迎えたのは、ネクロゴンドの長、アルフィリオンだった。

 紫色の肌に銀色の髪。その瞳は深淵のように暗く、冷ややかな美貌に傲慢な笑みを浮かべている。


「遠路はるばるご苦労。生きた客人は珍しいゆえ、歓迎しよう」

 ロイたちにとっては、以前にも聞いた挨拶。だが、その響きに含まれる(あざけ)りは変わらない。


「歓迎だと? よくもぬけぬけと……! 死者を冒涜しておいて!」

 シルフが激昂(げっこう)して食ってかかろうとする。


 それを、マクマリスが片手で制し、前に進み出た。

「お初にお目にかかります、アルフィリオン殿。私は魔王軍より派遣された密使、マクにございます」

 マクマリスは、卑屈に見えない程度に(うやうや)しく一礼した。


「ここまで死霊術を高め、軍隊として運用されているとは……見事としか言いようがありません。私が仕える魔王マクマリス様も、魔界においては死霊術の第一人者ですが、貴殿の技術には感服しておられました」


「ほう、魔王がか」

 アルフィリオンは、満更でもない様子で鼻を鳴らし、ワイングラスを揺らした。


「そこで、ぜひお願いがございます。魔界にご招待しますので、魔王様にその『反魂の術』の基礎理論や制御術式を、ご教授いただけないでしょうか?」


 マクマリスの直球の提案に、アルフィリオンは眉をひそめ、首を横に振った。

「光栄な話だが、断る。この術は我が一族門外不出の秘儀。他種族、ましてや魔王になど教えるわけにはいかん」


(……やはり、口では落ちんか)

 フードの奥で、マクマリスの目の色が冷たく変わった。


 その殺気を敏感に感じ取ったのか、背後に控えていた魔族の密偵の一人が、衣擦(きぬず)れの音もさせずに懐の短剣に手をかけた。

『……マクマリス様。ここでやりますか?』

 微かな、風のような耳打ち。


 今ここでアルフィリオンを殺し、その脳を奪って逃走する。今のこちらの戦力なら不可能ではない。

 マクマリスは一瞬思考を巡らせた。

(いや、駄目だ。ここで事を起こせば、背後にいるディネルースと敵対関係になる。機械生命体が迫る今、連邦との全面戦争は避けるべきだ)


「……待て。生かしておこう」

 マクマリスは密偵の肩を叩いて制止した。

「機械生命体を片付けた後にこいつを殺し、ゆっくりと術式を引き出せばいい」


    ◇


 マクマリスは殺気を霧散(むさん)させ、再びアルフィリオンに向き直った。声色は、残念そうな商人のそれに変わっていた。

「左様ですか。それは残念です。……では、もう一つ。『アビス・ゴーレムのコア』についてはご教示いただけますかな?」


「なに?」

 アルフィリオンの表情が変わった。鋭い視線がマクマリスを射抜く。

「なぜ、貴様がコアのことを知っている?」


「魔王様は古代魔術の研究者ゆえ、知識だけは豊富でして。……いかがでしょう、実物を拝見させていただければ、魔王軍としても相応の対価をお支払いしますが」


 アルフィリオンは少し考え込んだが、やがてニヤリと笑った。自身の「芸術」を見せびらかしたい欲求が勝ったようだ。

「よかろう。言葉で説明するより、見る方が早い。ついて来い」


 案内されたのは、地下の大聖堂――前回、魔族の密偵の二人が潜入し、残骸を漁った場所だった。

 冷たい石畳とカビの臭い。その最奥の祭壇中央に、妖しく脈動する巨大な黒い結晶、「アビス・ゴーレムのコア」が鎮座していた。


「このコアは、単なる死霊術による蘇生とは違う」

 アルフィリオンが得意げに解説する。

「生前の肉体の強度と魔力を維持したまま、完全な殺戮兵器として再起動させるものだ。……見よ!」


 彼が魔力を注ぐと、床の魔法陣が輝き、巨大なゴーレムが召喚された。

 鋼鉄の皮膚を持つ巨体。

「グオオオオオオオッ!!」


 空間を震わせる雄叫び。ビリビリと肌が粟立つほどのプレッシャーに、ロイやガガンが思わず武器に手をかける。


「素晴らしい……!」

 マクマリスは感嘆の声を上げた。演技ではない。


 前回は「欠片」しか手に入らなかった。だが、目の前には「完全体」がある。これがあれば、ガングダードを完全な状態で復活させられる。

「これほどの力……ぜひ魔王軍にも導入したい」


「フン。これなら魔王に教えてやらんこともないが……」

 アルフィリオンは勿体ぶって言った。

「これの運用には、連邦議長ディネルース様の許可が必要だ。欲しければ、水の都へ行き、あの方に伺いを立てるんだな」


「……承知いたしました」

 マクマリスは深く頭を下げた。

 許可が必要とはいえ、門前払いではない。交渉の余地は残された。


(コアの欠片ではなく、コアそのものを得るルートが開けた。これだけでも大きな前進だ)


    ◇


 館を去る時、シルフはマクマリスを睨みつけていた。その瞳には軽蔑の色が浮かんでいた。

「……貴方、本気なの? あんな冒涜的な技術を、魔界に持ち込むつもり?」


 彼女の怒りはもっともだ。自然と共に生き、命の循環を尊ぶエルフにとって、死者の利用は最大のタブーであり、生理的な嫌悪の対象でしかない。


「気持ちは分かるがな、エルフの娘よ」

 ここはアルフィリオンの領地。どこかで見ているとも限らない。マクマリスは、あくまで「中間管理職の密偵」を演じながら、諭すように言った。


「魔界における魔王様の立場は微妙でな。アズモ派、ベルゼブ派という強力な後ろ盾があって政権が成り立っている。非常に不安定なのだよ」

 彼は肩をすくめた。


「自分の派閥だけでは政権を維持できない。何かがきっかけで強力な後ろ盾を失ったとき、圧倒的な力がなければ、明日には首が飛びかねない」


「だからって……死体を(もてあそ)ぶの?」

「魔界で確固たる地位を確立するためには、アルフィリオンの力が必要なのだ。綺麗事だけで国は守れん」


 マクマリスは、隣で複雑な表情をしているロイにも視線を向けた。

「ロイ王子。人間と魔族、そしてエルフとダークエルフ。そもそも価値観が違うのだ」

「価値観……」


「無理に理解する必要はない。ただ、『そのような世界がある』ということは受け入れろ。清濁(せいだく)併せ呑まねば、機械生命体という巨大な怪物は相手にできんぞ」


 ロイは唇を噛み締め、ネクロゴンドの霧に覆われた空を見上げた。

 正義とは何か。生き残るとはどういうことか。答えの出ない問いを飲み込み、小さく頷いた。

「……分かった。今は、戦争を止めることが最優先だ」


 一行を乗せ、『アルゴス』は再び空へ舞い上がる。

 次なる目的地は、因縁の地、オウカ。

 歴史の歯車は、マクマリスの思惑通りに、少しずつ、だが確実にズレ始めていた。

【次回の予告】

「今度は、見捨てはしない。」


 桜舞う国、オウカ。

 かつての激戦地を前に、悲劇の回避を誓うマクマリス。


 そんな彼が出会ったのは、前の世界で救えなかった女性・暁月あかつきだった。

 思わず漏れた魔王の本音。


 その珍しい反応に、ロイがニヤニヤと問いかける。

「マクマリスさん、もしかして惚れてます?」


 冷徹な魔王に芽生えたのは恋か、それとも――?


 桜の国と、魔王の初恋(勘違い)。 

 第56話は、明日の21時40分更新です!


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