第51話:その宿敵(とも)は背中を預ける。~人類最強と魔界最強~
【前回までのあらすじ】
白亜の巨塔では、ドワーフ王ヘギルが敵を巻き込み壮絶な自爆を遂げ、ガイアス王の乗る戦艦も撃墜された。
空に残った人類最強の覇王アンドレアさえも、圧倒的な数の暴力の前に翼を折られ、地上へと堕ちていく。
名だたる英雄たちが次々と散りゆく中、空にはただ一騎、ロイだけが取り残された。
「……くそォォォォォォッ!!」
覇王の絶叫が、虚空に木霊する。
無数の機械生命体に取り付かれ、翼を折られた最強の竜バハムートは、アンドレアを乗せたまま、きりもみ回転しながら地上へと落下していた。
視界がぐるぐると回り、銀色に埋め尽くされた地面が、恐ろしい速度で迫ってくる。
風圧が呼吸を奪い、重力が全身を押し潰す。
(ここまで、か……)
死の予感。
覇王の視界が暗転しかけた、その瞬間だった。
ヒュンッ!
世界が歪んだ。
激突のコンマ数秒前、アンドレアの体は紫色の閃光に包まれ、空間の狭間へと消えた。
ドサッ。
次の瞬間、アンドレアは硬い地面に膝をついていた。
「……ッ、はぁ、はぁ……!」
肺に空気が戻り、激しく咳き込む。
そこは戦場の後方。まだ敵の波が薄い、瓦礫の山の上だった。
アンドレアは剣を杖にして、ふらつく足取りで立ち上がった。
「転移魔法か……。マクマリス、貴様か」
視線の先には、一人の男が立っていた。
魔王マクマリス。
だが、その姿は壮絶だった。漆黒のマントはボロボロに引き裂かれ、全身がどす黒い液体――機械生命体の返り血――で濡れそぼっている。彼もまた、修羅場を潜り抜けてきたのだ。
マクマリスは空を指差した。
「見ろ、覇王」
アンドレアが見上げた空には、鉛色の雲の下、たった一騎、白竜シャヴォンヌだけが飛んでいた。
ロイだ。
彼は必死に剣を振るい、ブレスを放ち、数百の飛行型相手に孤軍奮闘していた。だが、その動きは明らかに鈍く、シャヴォンヌの美しい白い翼も、すでに鮮血で赤く染まっている。
「彼もじきに堕ちる。……限界だ」
マクマリスは静かに告げた。
そして視線を地上に戻す。地平線を埋め尽くす銀色の津波が、彼らのいる場所へもじわじわと迫っていた。
「歩行型の大群は、北側にいる魔法剣士部隊のところに雪崩れ込んだ。……あの部隊も、じきに終わる」
マクマリスは眼鏡の位置を直し、冷静に、しかし絶望的な事実を口にした。
「チェックメイトだ。……我々の、負けだ」
◇
その言葉を肯定するように、転移した彼らの周囲にも、機械生命体の群れが殺到し始めていた。
ガシャガシャと不快な駆動音を立て、無機質な殺意が包囲網を狭めてくる。
「負け、か」
アンドレアは口の中に溜まった血を吐き捨て、ニヤリと笑った。猛禽類のような瞳に、最期の炎が宿る。
「あいにくだが、俺は諦めが悪くてな。……おい魔王、最後まで付き合え」
マクマリスは深いため息をついた。
「やれやれ。沈むと分かっている泥船に最後まで乗るとは、合理性に欠けるが……」
口ではそう言いながらも、彼は懐からララノアがくれた最後の魔石を取り出し、残った魔力を練り上げた。
「付き合ってやろう。冥土の土産話くらいにはなる」
二人の王は、背中合わせに立った。
前には覇王アンドレア。後ろには魔王マクマリス。
人類最強と魔界最強。本来であれば争い合うはずの宿敵同士が、今は互いの背中を預け合う、最後の砦となっていた。
「来るぞッ!!」
アンドレアの号令と共に、機械の群れが一斉に襲いかかる。
「フンッ!!」
アンドレアの大剣が一閃する。
物理法則を無視した剛力が、空気を爆ぜさせ、迫りくる十数体の機械生命体をまとめて粉砕し、吹き飛ばす。
「空間破壊魔法!」
背後でマクマリスが指を弾く。
空間そのものがガラスのように砕け散り、殺到していた敵の集団を座標ごとねじ切って消滅させる。
だが、敵は恐怖を感じない。倒した残骸を踏み越え、次なる波が押し寄せる。
マクマリスが叫んだ。
「私が奴らの動きを止める! まとめて薙ぎ払え!」
「任せろ!!」
アンドレアが即応し、大剣を構える。
マクマリスが両手を広げ、禁断の詠唱を紡ぐ。
「時間停止魔法!」
キィィィン……。
世界の色が反転し、周囲一帯の時が凍りついた。
飛びかかろうとしていた数千の個体が、空中で、地面で、ピタリと停止する。
その静止した世界を、アンドレアだけが疾走した。
「オラオラオラオラァッ!!」
剛腕による連撃。雷を纏った大剣が、停止した敵の群れを次々と両断していく。
時が動き出した瞬間。
ズズズズズ……ドォォォォン!!
数千の機械生命体が、同時に爆発四散した。
一騎当千ならぬ、一騎当万。
二人の王の戦闘力は、まさに神の領域に達していた。彼らの足元には、瞬く間に鉄屑の山が築かれていく。
だが――敵は無限に湧いてくる。
一台壊せば、二台が乗り越えてくる。十台壊せば、二十台が湧いてくる。
無限の波状攻撃。
「ハァ……ハァ……!」
アンドレアの剣速が鈍り始める。
マクマリスの指先から血が滴る。魔力の酷使で血管が悲鳴を上げているのだ。
終わりの見えない消耗戦。
王たちの黄昏が、刻一刻と近づいていた。
【次回の予告】
「人類軍、全滅。それでも魔王は不敵に笑う。」
北の地でサイロスがシルフを庇って散る。
そして、人類最強の覇王アンドレアまでもが、無数の刃に倒れ伏す。
ついに戦場に立つのは、魔王マクマリスただ一人となった。
全滅。完全敗北。
しかし、迫りくる死の刃を前に、魔王は記録用魔導具を握りしめ、不敵に笑う。
「この教訓は、『次』に活かさせてもらう」
その言葉と共に、魔王の身体もまた銀色の刃に貫かれた。
人類の歴史はここで途絶えるのか。それとも――?
全滅のエンドロール。そして「次」へ。
第52話は、明日の21時40分更新です!
◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします! 次話執筆の励みになります!




