第50話:その巨塔は沈黙する。~爆炎のボスと折れた黒翼~
【前回までのあらすじ】
見えない刃「ウォーターカッター」によりスーリンディアが倒れ、南側戦線は崩壊。
その絶望は空へも伝播し、ガエサルに続き、残る四天王たちも怒りの突撃の末に撃墜された。
地上では老王アレフドリアが、息子ロイに未来を託して敵の波に飲まれ、散った。
名だたる英雄たちが次々と倒れ、人類軍は壊滅寸前の危機に瀕している。
上空のアンドレアは、歯噛みする思いで眼下の惨状を見つめていた。
スーリンディアとアレフドリア十五世が散り、南側、東側の防衛ラインが決壊したことで、銀色の津波が雪崩のように北側のサイロス率いる魔法剣士部隊へ押し寄せている。
(地上部隊が崩れている……。何とかせねば、全滅する!)
アンドレアはバハムートの手綱を引き、降下を試みる。だが、彼の目の前には無数の飛行型機械生命体が壁となって立ちはだかっていた。
斬っても斬っても、次から次へと新たな敵が湧いてくる。
「くそっ、数が多すぎて動けん!」
彼は通信機に叫んだ。
「ロイ、そっちの状況はどうだ! 地上部隊を助けたいが、俺は動けそうにない!」
ノイズ混じりに、ロイの悲痛な声が返ってくる。
『こっちも動けません! 飛行型が多すぎて……あっ!!』
突然、ロイが絶叫した。
「どうした!?」
アンドレアの問いかけには答えず、ロイは通信機のチャンネルを切り替え、叫んだ。
『ヘギルッ!! 逃げろ!!』
その名を聞き、アンドレアはハッとして白亜の巨塔を振り返った。
そこには、信じがたい光景があった。
巨塔の中腹、魔導砲が設置されたテラスに、壁をよじ登ってきた機械生命体の群れが雪崩れ込んでいたのだ。
そこには、必死に魔導砲を撃ち続け、弾幕を張り続けていたヘギルと、鉄鋼共和国のドワーフたちの姿があった。
『うわああっ! こいつら、どこから湧いてきやがった!』
『ボス! もうダメです! 砲台が!』
通信機越しに、ドワーフたちの悲鳴と金属音が響く。
ヘギルは、迫りくる銀色の波を前に、葉巻を吐き捨ててニヤリと笑った声を聞かせた。
『へっ、ここまでかよ……! あばよ、ロイ! 覇王! ツケは地獄で払ってやるぜ!』
直後。
ドォォォォォン!!
テラスに備蓄されていた予備の弾薬が誘爆し、紅蓮の炎が吹き上がった。
ヘギルの姿も、魔導砲も、群がっていた敵ごと爆炎に飲み込まれ、塔の一部が崩落していく。
地上への貴重な援護射撃が、完全に止まった。
「なんてことだ……」
アンドレアは唇を噛み切り、血を流した。目の前の敵に手一杯で、共に戦った戦友を助けることすらできなかった己の不甲斐なさが、胸を焼き焦がす。
しかし、悲劇の連鎖は留まることを知らない。
さらにロイから、絶望的な報告が入る。
『嘘だ……。アルゴスまで……!』
アンドレアが後方を振り返ると、ガイアス王が座乗する『アルゴス級一番艦』が、黒煙を噴き上げていた。
特攻を仕掛けてきた大型の飛行型機械生命体が、エンジン部分に深々と突き刺さっていたのだ。
巨体が傾き、みるみる高度を下げていく。
『エンジン被弾! 制御不能! 繰り返す! エンジン被弾! 制御不能!』
ブリッジのパニックが通信機から漏れ聞こえる。
『王よ! 脱出を!』
『ならん! 私が逃げれば、誰がこの船を……ぐぁっ!』
『……墜落する! 総員、衝撃に備えろ! 王をお守りしろ!』
それが、アルゴス級一番艦からの最後の通信となった。
鋼鉄の巨船は、断末魔のような軋みを上げながら、戦場の彼方、敵の渦中へと墜落していった。
ズズズーン……。
巨大な土煙が上がり、ガイアスの科学の結晶が、地上に墓標を描いた。
◇
空を見上げれば、残っているのはアンドレアとロイの二騎のみ。
地上を見下ろせば、友軍は壊滅状態。
「負ける……のか……?」
不敗を誇った覇王アンドレアの心に、生涯で初めての「敗北」の予感がよぎった。
ほんの一瞬。
心が揺らいだその隙を、機械生命体は見逃さなかった。
ガキンッ!
背後からの衝撃。
「グオッ!?」
振り返る間もなく、特大の飛行型機械生命体が、弾丸のようにバハムートの背後から体当たりを仕掛けてきたのだ。
体勢を崩し、大きくよろめくバハムート。
その隙を突き、周囲を取り囲んでいた小型の敵が、一斉にバハムートの翼に取り付いた。
ガシャガシャガシャッ!
無数の爪が漆黒の鱗に食い込む。
「ええい、離れろ! 離れろぉッ!」
アンドレアは雷を纏った大剣を振り回し、群がる敵をなぎ払う。だが、払っても払っても、次から次へと新たな敵が張り付いてくる。多勢に無勢。
バキィッ!
嫌な音が響いた。
重さに耐えきれず、バハムートの漆黒の翼が、無残な角度に折れ曲がったのだ。
「ギャオオオオオッ!!」
最強の竜が、苦痛と屈辱の悲鳴を上げる。
『アンドレア王!!』
ロイが叫ぶ。助けに行こうとするが、彼の周りもまた、分厚い敵の壁に阻まれて身動きが取れない。
揚力を失ったバハムートは、きりもみ回転しながら落下を始めた。
迫りくる地面。渦巻く銀色の死の海。
「……くそォォォォォォッ!!」
覇王の無念の叫びが、虚空に木霊する。
最強の竜と最強の王は、絡み合う鉄屑の塊となって、地獄と化した地上へと吸い込まれていった。
人類最後の希望が、今、地に堕ちる。
【次回の予告】
「『チェックメイトだ』。それでも王は笑う。」
墜落寸前、覇王を救ったのは魔王マクマリスだった。
「我々の負けだ」と告げる魔王に、覇王は不敵に笑いかける。
「最後まで付き合え」
人類最強と魔界最強。本来であれば宿敵となる種族の二人が背中を預け合う、奇跡のタッグが結成される!
「時間停止」と「空間破壊」。
神の如き力が炸裂するも、止まらない銀色の津波。
終わりゆく世界で、二人の王が魅せる最後の輝き。
王たちの黄昏。最強と最強、背中合わせの共闘。
第51話は、明日の21時40分更新です!
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