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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第48話:その秘書官は珈琲を淹れる。~泥水の味と来世の契約~

【前回までのあらすじ】

 地上部隊を襲う見えない刃「高圧水流ウォーターカッター」。

 サイロスとシルフは背中を預け合い死線を潜るが、戦況は悪化の一途をたどる。

 

 打開を図り、再度雷撃を試みたガエサルと海竜ティアマトだったが、敵は捨て身の「質量」で対抗。

 無数の機械に食らいつかれた空の王者は、悲鳴と共に銀色の湖面へと墜落した。

 白亜の巨塔東、前線指揮所。

 マクマリスは、通信機を片手に呆然と空を見上げていた。


 視線の先では、隻眼の将軍ガエサルと海竜ティアマトが、無数の敵に絡みつかれ、断末魔の咆哮と共に湖へと沈んでいくところだった。


(……私が地上への援護を要請したことが、裏目に出たか!?)


 マクマリスの拳が震える。

 地上の負担を減らすための決断が、結果として空の要である四天王の一角を失わせ、戦況を決定的に悪化させてしまった。


(くっ……なんて失策だ……!)


「ギャアアアッ!」

「こっちにも来たぞ! 守りきれん!」


 指揮所の周囲から、兵士たちの悲鳴が上がった。

 湖から溢れ出した機械生命体の別動隊が、指揮所を強襲し始めたのだ。


 マクマリスが外に飛び出すと、そこはすでに阿鼻叫喚(あびきょうかん)(ちまた)と化していた。帝国兵たちが必死に剣を振るうが、圧倒的な身体能力を持つ機械の群れに、次々と肉体を切り裂かれていく。


「ええい、下がれッ!」

 マクマリスが前線に躍り出る。


 両手を広げ、圧縮した魔力を解き放つ。

「重力破壊魔法、グラビティ・コラプス!」


 ズウンッ!!


 マクマリスを中心とした半径数十メートルに、致死的な重力場が形成された。

 範囲内にいた機械生命体たちが、見えざる巨人の手で押し潰されたようにペシャンコになり、火花を散らして機能停止する。


「はぁ……はぁ……ッ」

 マクマリスは膝をついた。

 額から脂汗が滴り落ちる。


(魔力が……尽きかけている。だが敵は減るどころか増える一方だ。戦況は悪くなるばかりか……)


 その時、彼の耳元のイヤーカフに、ノイズ混じりの秘匿通信が入った。

『……魔王。後ろの岩肌の隙間を見て。そこに退避なさい』

 冷静な、女の声だった。


 マクマリスは一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく、残った魔力を振り絞った。

転移(テレポート)!」


    ◇


 景色が反転する。

 マクマリスが飛び移った先は、崩落した岩盤によって偶然できた、小さな空洞だった。外の喧騒が遠くに聞こえる。


 そこには、一人の女性がいた。

 ディネルースの秘書官、ララノアだ。

 彼女は瓦礫に腰掛け、湯気の立つカップを優雅に傾けていた。


「……逃げていなかったのか」

 マクマリスが問うと、ララノアはカップを置き、薄く笑った。


「この状況で、逃げ場なんてあって?」

 彼女はポットからもう一つのカップに黒い液体を注ぎ、マクマリスに差し出した。

「どうぞ。淹れたてですわ」


「……」

 マクマリスはそれを受け取り、一口すすった。

「……いや、逃げ場などないな」


「戦況は、かなり悪いようね?」

「ああ。かなり苦戦している。敵がこちらの想定を超えて『進化』していたのは、完全な誤算だった」

 マクマリスは苦々しく吐き捨てた。


 ララノアは自身の義体化した右脚を撫でた。

「進化……ね。貴方、研究室で会った時に私に言ったわよね。『魔導義体は強度は高いけれど、メンテナンス性が悪い』って」

「……」


「でもね、機械は、生物よりも遥かに容易に、柔軟にアップデートを繰り返せるのよ」

 ララノアは自嘲気味に呟いた。

「生物であることを捨てない限り、機械の進化に勝てないなんて……皮肉なものね」


「……認めざるを得ないな」

 マクマリスはカップの中身を飲み干した。口の中に広がる、強烈な苦味と酸味。


 ララノアがふふっと笑う。

「それにしても意外ですわね。魔王ともあろうお方が、こんな泥水のようなコーヒーがお好きとは」


「……悪くない味だ」

 マクマリスは空になったカップを見つめた。

「貴様こそ……義体化して、味覚などの不要な機能は切っていると思っていたが」


「ええ、切っているわ。効率化のために」

 ララノアは自身の胸元――心臓部にある魔導炉の制御パネルに触れた。

「……でも、今日だけは『ON』にしたのよ」

「なぜだ?」


 ララノアは顔を上げ、マクマリスを真っ直ぐに見つめた。

 その瞳は、いつもの冷徹な秘書官のものではなく、一人の女性のものだった。

「最後くらい……『ハイエルフ』として死にたいなと思って……」


 彼女は初めて、凍りついたような鉄仮面を崩し、寂しげに、しかし美しく微笑んだ。

 その笑顔に、マクマリスは言葉を失った。


「魔王。貴方も研究者よね?」

 ララノアは懐かしむように言った。

「もっと早く出会っていれば……私が行なっていた研究の最適な計算式を、一緒に導き出せたかもしれないわね」


 マクマリスはフッと口元を緩めた。

「……かもな。来世があれば、私の秘書にでも雇ってやる。有能な助手が欲しかったところだ」


「ふふっ。給料は弾んでくださるんでしょうね?」

 ララノアは立ち上がり、懐から数個の輝く石を取り出した。高純度の魔石だ。

 それをマクマリスの手に握らせる。


「さあ、行きましょう。……貴方は研究室で、私を見逃してくれた。借りは返します」

 ララノアは岩陰の出口へと向かう。

「私が囮になる。貴方はその隙に、この魔石で魔力を回復させなさい」


「待て! ララノア!」

 マクマリスが呼び止める。


 だが、彼女は足を止めなかった。背中越しに、凛とした声が響く。

「必ず勝って、義体化が無用な長物であることを証明してみなさい! ……さようなら、私の『来世のパートナー』さん」


 ララノアは外へと飛び出した。

「こっちよ! 鉄屑ども!!」

 敵の注意が一斉に彼女に向く気配がした。

 数秒後。


 カッッッ!!!!

 視界を白く染める閃光。

 ズガアアアアアアアンッ!!


 大地を揺るがす爆発音が響き、熱風が岩陰のマクマリスの頬を撫でた。

 彼女は体内の魔導炉を暴走させ、群がる敵ごと自爆したのだ。

 静寂が戻る。


 マクマリスは唇を噛み締め、掌に残された温かい魔石を、割れるほど強く握りしめた。

「……馬鹿な女だ。給料の交渉もせずに逝くとは」

 その目には、怒りと、深い悲しみが宿っていた。


 彼は魔石から魔力を急速に吸収すると、再び戦場へと舞い戻るべく、転移の印を結んだ。

【次回の予告】

 「最強の四天王、全滅。そして老王は息子に微笑む。」

 

 紅葉の森の長老スーリンディア、逝く。

 指揮官を失った南側は壊滅。


 その絶望は空へも連鎖する。ガエサルの落日に理性を失った残る三人の四天王が、怒りのままに突撃し――銀色の波に引きずり下ろされた。


 地上の老王アレフドリア十五世。

 彼は撤退を拒み、空を舞う息子・ロイの姿を目に焼き付ける。


「生きろ、ロイ」

 父としての最後の言葉と共に、老王は銀色の津波へと消えていく。


 連鎖する崩壊。墜ちる星、散る王。

 第49話は、明日の21時40分更新です!


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