第46話:その魔王は戦機を駆ける。~進化する悪夢~
【前回までのあらすじ】
湖での「雷の檻」作戦成功を受け、人類軍は反転攻勢に出る。
突撃の直前、サイロスとシルフは愛を誓い合い、マクマリスは老王アレフドリアに「魔王の必勝論理」を説いて背中を押した。
士気は最高潮。
それぞれの守りたいものを胸に、連合軍は銀色の津波へと突撃を開始した。
「全軍、突撃ッ!!」
覇王アンドレアの裂帛の号令が、戦場を震わせた。
その声を合図に、人類軍の総攻撃が開始される。
バハムートを駆るアンドレア、シャヴォンヌと一体化したロイ、そして四天王のドラゴンたちが、矢のように空へ飛び立った。
「翼ある鉄屑ども! この空は我らの領域だ! 目にもの見せてやる!」
カーラのワイバーンが旋回し、真空の刃を生み出して飛行型機械生命体を切り裂く。
「オラァッ!!」
ウルスヌスのリントヴルムは、鋼鉄のような巨体を生かした強烈な体当たりで、敵の隊列を粉砕する。
六頭のドラゴンの火力と機動力は圧倒的だった。水晶のように硬化したはずの装甲も、竜の爪と牙、そしてブレスの前には紙細工同然だった。瞬く間に敵の航空戦力は駆逐され、空は再び青さを取り戻していく。
後方からは、ガイアス王が座乗する『アルゴス』級三隻が続き、対空機関砲の弾幕を張り巡らせる。
「王よ、右舷より敵機接近!」
オペレーターの報告に、ガイアス王は冷静に指示した。
「撃ち落とす必要はない! とどめは竜たちが刺す! 牽制し続けろ! 彼らの狩場を荒らすな!」
「はっ!」
空の連携は完璧だった。
だが一方、地上では泥沼の乱戦が始まろうとしていた。
◇
白亜の巨塔の南側。
スーリンディア率いる紅葉の森のエルフ部隊と、元連邦の獣人部隊が、押し寄せる銀色の波を受け止めていた。
「左翼の陣形が乱れてるぞ! 前に出過ぎるな!」
スーリンディアが杖を掲げ、的確な指示を飛ばす。
「獣人部隊は敵の侵攻を抑え込むことに専念するんだ! トドメは我らが刺す!」
ワーウルフやケンタウロスの戦士たちが強靭な肉体で壁となり、近接戦しかできない機械生命体を押し留める。その隙を突き、後方のエルフたちが一斉に雷魔法を詠唱する。
「「「雷雨!!」」」
上空に発生した暗雲から、紫電の雨が降り注ぐ。
前線の敵集団が次々とショートし、火花を散らして崩れ落ちる。だが、動かなくなった鉄屑を乗り越えて、後方から次々と新たな機械生命体が湧き出してくる。
「キリがねえ! いったい、どんだけいやがるんだ!」
ワーウルフの兵士が爪を振るいながら悪態をつく。
スーリンディアが叫び返す。
「狼狽えるな! 自我を持たぬ鉄屑など、物の数ではない! ……雷鞭!!」
スーリンディアの杖から、無数の雷を纏った鞭が伸びた。
それは生き物のようにのたうち回り、数千の個体を瞬時に打ち据え、機能を停止させる。圧倒的な殲滅力。
その光景を見たケンタウロスの兵士が、槍を掲げて歓声を上げた。
「すげー!! 長老の魔法は別格だ! こりゃ勝てるぞ!!」
しかし――その歓喜は一瞬で凍りついた。
ドスッ。
鈍い音が響き、スーリンディアの体が大きく跳ねた。
獣人族がガードし、近距離に敵がいないはずの彼の胸を、鋭利な「何か」が貫通していた。
「っ!!」
スーリンディアが膝から崩れ落ちる。鮮血が大地を濡らす。
「長老!!」
エルフの兵士の一人が駆け寄り、抱き起こす。
「しっかりしてください!」
「私は……いい。ま、魔法の詠唱を……止めるな……」
スーリンディアは苦痛に顔を歪めながらも、指揮を続けようとする。
だが、悲劇は連鎖した。
「ギャアアッ!」
「うわあっ!」
周囲のエルフたちからも、次々と悲鳴が上がる。何もいない空間から攻撃を受けたかのように、兵士たちが切り裂かれていく。
「ど、どういう……ことだ……」
スーリンディアは驚愕に目を見開いた。
「敵の武器は……ブレードだけ……のはず……」
彼を支えるエルフの兵士が、奇妙なことに気づいた。
スーリンディアの傷口や、倒れている兵士たちの衣服が、ぐっしょりと濡れているのだ。
「これは……海水!?」
◇
白亜の巨塔の東側。
ここでは、マクマリス率いるアンデッド兵団と、アレフドリア十五世率いる帝国歩兵が連携していた。
アンデッドを盾にし、雷属性を纏った武器で歩兵が切りつける。水晶のように硬い装甲のため一刀両断とはいかないが、雷撃による蓄積ダメージで着実に敵を減らしていた。
戦況は優勢に見えた。だが、マクマリスの目は不審な点を見逃さなかった。
遠距離にいる兵士が、突如として体を切断されて倒れる現象が多発し始めたのだ。
「アレフドリア王! 伏せろ!」
マクマリスが叫び、アレフドリア十五世の前に魔法障壁を展開した。
直後、障壁に何かが激突し、激しい水飛沫が散った。
「なっ……!?」
アレフ騎士の生き残りたちに護衛されていたアレフドリア十五世が、目を見張る。
「敵は圧縮した水流を飛ばしてくる! 距離があるからと油断するな!」
マクマリスが叫ぶ。
「圧縮した水流だと?」
「そうだ! エスペル島から大陸へ海峡横断する際に体内に取り込んだ海水を超高圧に圧縮し、噴射しているようだ!」
マクマリスは、破壊された敵の残骸から大量の海水が溢れ出ていること、そして切断された兵士の傷口が濡れていることから、瞬時にそのカラクリを見抜いていた。
(あんな機能は、エスペル島で対峙した個体にはなかった……)
マクマリスは戦慄した。
(奴ら、装甲だけでなく、攻撃面でもアップデートしているのか。単なる学習ではない、環境適応による進化だ)
ザシュッ! ザシュッ!
見えない水刃が飛び交い、盾となるはずのアンデッドたちが次々と切断されていく。物理防御を無視する高圧水流の前には、アンデッドも無力だ。
「ぐわぁぁぁッ!」
生身の兵士たちにも被害が出始める。
「まずいな……」
戦況の悪化を見たマクマリスは、決断した。
「王よ! 私はここを一時離脱する! 全アンデッドをここに置いておく、なんとか戦線を持ち堪えろ!」
「いったいどこに行くというのだ! 指揮官が前線を離れては!」
アレフドリア十五世が叫び返す。
「上空はこっちが優勢だ! 覇王に地上の惨状を伝え、空からの援護を要請する! このままでは地上部隊は全滅する!」
マクマリスの真剣な眼差しに、老王は頷いた。
「わかった! 行け! ここはワシが死守する!」
マクマリスは転移魔法を発動し、後方の指揮所へと姿を消した。
【次回の予告】
「背中は預けた。だから、絶対に死ぬな。」
見えない水刃「ウォーターカッター」の脅威。
サイロスとシルフは互いの背中を合わせ、死角なき「愛の陣形」で死線を見切る。
一方、戦況を覆すべく再び雷撃を試みるガエサルとティアマト。
だが、敵は空の王者さえも引きずり下ろす、捨て身の「質量戦法」を用意していた。
巨塔から飛びかかる無数の機械虫。悲鳴を上げ、湖へと墜落する水竜。
最強の雷帝が、銀色の濁流に呑まれる!
背中合わせの恋人たち。雷帝、湖に墜つ。
第47話は、明日の21時40分更新です!
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