第41話:その老王は一歩も退かない。~桜の丘のデッド・ライン~
【前回までのあらすじ】
マクマリスは月明かりの下、孤独な贖罪として死者たちを蘇らせ、戦力に加える。
一方、生者たちもまた、震える手で武器を取り、覚悟を決めていた。
ヘギルとゴンドラ王による砲台建設、恐怖を乗り越えるシルフとスーリンディアの魔力充填、そして亡き妹に誓う覇王アンドレア。
それぞれの祈りと決意を乗せ、人類の存亡をかけた運命の夜明けが訪れる。
それは、信じられないほど静かな朝だった。
かつてハーフリングたちが耕した肥沃な大地。収穫を控えた黄金色の麦が風に揺れ、鳥のさえずりが響く。
戦火とは無縁に見えるその平和な風景は、唐突な水音によって引き裂かれた。
ザパァァァァァッ!!
沿岸の水面が爆発したかのように盛り上がり、そこから「鋼鉄の捕食者」たちが勢いよく飛び出した。
陽光を反射してギラギラと輝く流線型のボディ。感情のない光の点滅。
彼らは何のためらいもなくハーフリング領へと上陸を開始した。
「て、敵襲ゥゥッ!!」
帝国の哨兵が魔導通信機に絶叫する。
「予想地点より上陸! 数は……計測不能! 水平線が銀色に埋め尽くされています!」
白亜の巨塔の東、小高い丘に設営された前線指揮所。
報告を受けた覇王アンドレアは、大地を塗り替えるように広がる銀色の波の光景を想像しつつ、遥か先を睨みつけた。
「来たか……。第一次防衛ライン、戦闘開始ッ!!」
◇
『撃てェェェェッ!!』
第一次防衛ライン、オウカ領「桜の丘」。
ここに設置された十基の新型魔導砲が、ゴンドラ王の裂帛の号令と共に火を吹いた。
ヒュン、カッ!!
砲口から放たれたのは、対機械生命体用に調整された極太の「雷属性」ビームだった。
青白い閃光が扇状に広がり、先頭集団の機械生命体を薙ぎ払う。数百、数千の個体が瞬時にショートし、爆発四散した。
「次弾装填! 急げ!」
「オウッ!」
ガガンを含むドワーフたちが、砲身から煙を上げる空のカートリッジを引き抜き、魔力が充満した新たなカートリッジをガシャンと叩き込む。ヘギルが考案したこのシステムにより、魔導砲はかつてない連射速度を実現していた。
『第二射、てぇッ!』
再び閃光が走る。敵の前衛が消し飛ぶ。
「やったか!?」
「効いてるぞ! 雷が弱点だ!」
兵士たちが歓声を上げる。作戦は完璧に機能しているように見えた。
だが、ゴンドラ王の表情だけは険しかった。
「……止まらん」
硝煙の向こうから現れたのは、破壊された同胞の残骸を無感情に踏み越えてくる、後続の銀色の波だった。
その密度は、先ほどよりも増している。
「敵の数が多すぎる……! 十万どころじゃないぞ、これは!」
『第三射!』『第四射準備!』
ドワーフたちの手元が狂い始めるほどの速さで敵が迫る。
「王よ! 冷却が追いつきません! これ以上は砲身が保たねえ!」
「構わん、撃て! ここで食い止めねば後ろが……!」
だが、その声を遮るように、機械生命体の先兵が丘の斜面を駆け上がってきた。
ブレードに変形した腕が、砲台の一つを操作員ごと両断する。
「ギャアアアッ!」
「くそっ、入り込まれた! 野郎ども、武器を取れェ!」
ガガンが戦斧を構えて叫ぶ。
指揮所のモニター越しに、ゴンドラ王の決死の声が響いた。
『覇王よ! 砲撃維持不能! これより近接戦闘に移行する!』
「ゴンドラ王! 撤退しろ!」
『退けぬ! 我らが少しでも時間を稼がねば……ぬんっ!』
金属音と怒号。そして、通信機から流れるノイズ。
プツン。
通信は、唐突に途絶えた。
◇
指揮所に重苦しい沈黙が落ちた。
第一次防衛ライン、突破。あまりにも早すぎる。
ゴンドラ王からの通信が途絶えた後のノイズだけが、無慈悲に響き続けていた。
その静寂を破ったのは、白亜の巨塔の最上階テラスにいるヘギルからの通信だった。
『……こちらヘギル。桜の丘を抜けてきた敵集団を視認』
声は震えていなかったが、どこか空虚だった。同胞たちの死を悼む暇さえ、今の彼には許されていない。
『これより、誘導砲撃を開始する!』
巨塔のテラスに設置された六門の砲塔が旋回し、丘を越えてきた銀色の波に向かって雷光を放った。
もはや敵を減らすための砲撃ではない。
「こっちだ、鉄屑ども! 餌はここにあるぞ!」
ヘギルは部下のドワーフたちと共に魔導砲を乱射し、派手な爆発を起こして敵の注意を塔へと引きつけた。
その狙いは功を奏した。機械生命体たちの大多数は、その光と熱源に誘われる虫のように進路を変えた。
標的は白亜の巨塔。その足元にある、広大な湖。
しかし――。
通信機からヘギルの焦った叫びが聞こえる。
『おい! 敵の一部が進路を変えずに、そのまま南へ……オウカの里に向かってるぞ!』
覇王の隣にいたマクマリスが、即座に反応した。通信機を掴み、オウカへ繋ぐ。
「暁月、聞こえるか。機械生命体の一部がそっちに向かっている」
一瞬のノイズの後、凛とした声が返ってきた。
『承知しました。これより迎撃戦の準備を進めます』
それを聞いた覇王アンドレアが、マクマリスに尋ねる。
「オウカに援軍を向かわせるか?」
マクマリスは首を横に振った。
「いや、敵の本隊はこっちに向かっている。ここが主戦場だ。陣形を崩すべきではない。……オウカには、私が作成したサムライのアンデッド兵団を配置してある。彼らが持ち堪えることを願おう」
【次回の予告】
「矢が弾かれる!? 絶望の『超・進化』。」
オウカの里での迎撃戦。しかし、サムライたちの必殺の矢も刃も、敵の新たな「水晶の装甲」に傷一つつけられず弾き返される。
弱点のコアさえも対策した敵の進化に、戦場は阿鼻叫喚の地獄と化す。
撤退を命じる覇王に対し、暁月は静かに魔王へ問う。
「源流様なら、どうしましたか?」
その問いに、マクマリスが返した残酷な「正解」とは――。
通信途絶。銀色の波に飲み込まれるオウカ、そして託された「死のデータ」。
水晶のベール。サムライたちの挽歌。
第42話は、明日の21時40分更新です!
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