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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第40話:その戦士たちは刃を研ぐ。~鋼鉄の嵐と亡き妹への誓い~

【前回までのあらすじ】

 決戦を前に弱気になるアレフドリア十五世に対し、マクマリスは「敵は勇者ではない。故に魔王である私が負ける道理はない」と不敵な「悪役の論理」で勇気づける。


 しかしその夜、彼は一人、冷たい墓地で泥にまみれながら死霊術を行使していた。


 慢心により救えなかった多くの命。その罪を背負い、死してなお国を守ろうとする死者たちと共に、最期まで戦い抜くことを月下に誓うのだった。

 オウカ領、桜の丘。


 かつてサムライたちが散り、桜吹雪が舞ったこの風光明媚(ふうこうめいび)な丘は今、鉄と土埃にまみれた巨大な要塞建設現場へと変貌を遂げていた。


「おいコラ! そっちの水平が甘いぞ! 基礎をしっかり固めろ!」


 ヘギルの怒号が(とどろ)く中、鉄鋼共和国のドワーフたちと、ゴンドラから逃げ延びたドワーフたちが入り乱れ、つちやシャベルを振るっている。


 本来なら国も文化も違う彼らだが、今は「職人」という共通言語で繋がり、驚異的な速度で砲台を築き上げていた。


 その熱気の中に、一際懸命に鶴嘴つるはしを振るう小柄な老人の姿があった。

 ゴンドラ王である。

 王冠を脱ぎ、泥だらけの作業着を纏った彼は、老体とは思えぬ力強さで岩盤を砕いていた。


「王よ、少し休んでくだせえ! あとは俺たちが……」

 ガガンが心配そうに声をかけるが、王は汗とすすにまみれた顔を上げ、首を横に振った。


「いや、やらせてくれ。わしの国は燃えた。民も多くが死んだ。……ここで動かねば、わしは王として死ぬ時に彼らに顔向けができん!」


 その瞳には、悔し涙と、それ以上の不屈の闘志が宿っていた。

 その姿を遠目で見ていたヘギルは、無言で歩み寄ると、王に革製の水筒を放り投げた。


「飲みな。倒れられたら迷惑だ」


 ぶっきらぼうな言葉だが、その中には同族としての敬意が(にじ)んでいた。

 ヘギルは足場の上に立ち、部下たちに(げき)を飛ばした。


「聞いたか野郎ども! 王様がここまでやってんだ! 意地見せろッ! 日没までに全砲台を据え付けるぞ!」


「「「オウッ!!」」」

 ドワーフたちの雄叫びが、大地を震わせた。


    ◇


 戦場の後方、天幕で覆われた仮設の魔力充填所。

 ここでは静謐(せいひつ)な緊張感が張り詰めていた。


 車座になったエルフたちが、黙々と作業を続けている。ヘギルたちが作った魔導砲のカートリッジに、対機械生命体用の切り札となる「雷属性」の魔力を注ぎ込む、繊細かつ精神力を削る作業だ。


 その中心にいたシルフの手は、微かに震えていた。

 魔力を練り上げようとするたびに、脳裏に焼き付いた光景がフラッシュバックする。

 自分たちを逃がすために結界を張り、銀色の波に飲まれていったクリアの長老たちの最期。


(私が弱かったから……。私がもっと強ければ……)


 後悔と恐怖で魔力の波長が乱れそうになった、その時。

 そっと、彼女の細い肩に温かい手が置かれた。

 顔を上げると、そこにいたのは紅葉の森の長老、スーリンディアだった。


 彼は何も言わなかった。ただ、慈愛に満ちた瞳でシルフを見つめ、静かに自身の魔力をシルフのそれに同調させた。


 言葉はいらない。その体温と魔力の温かさだけで、シルフの強張った心が解きほぐされていく。

 シルフの頬を、一筋の涙が伝った。


 彼女は小さく頷き、涙を拭わずに杖を握り直した。乱れていた魔力が、再び力強く、澄んだ輝きを取り戻して安定する。


 二人のエルフの間で、雷鳴のごとき魔力が共鳴し始めた。


    ◇


 帝都の武器庫。

 そこは、青白い火花と金属音に支配されていた。


 サイロス率いる魔法剣士部隊が、全軍の武器一本一本に、雷のエンチャントを施しているのだ。

 剣、槍、斧。数万にも及ぶ武器に複雑な術式を刻み込む作業は、終わりの見えない苦行に等しい。


「隊長、少し休憩を。顔色が優れません」

 部下が気遣うが、サイロスは首を振った。


「いや、まだだ。一本でも多く仕上げる」

 彼の手は止まらない。額から汗が滴り落ちても、拭うことさえ惜しんで魔力を注ぎ続ける。


 サイロスは、研ぎ澄まされた剣の輝きの中に、ある女性の面影を見ていた。

(シルフ殿……)


 故郷を失い、それでも気丈に戦おうとしている彼女の姿。

(貴女は故郷を失い、それでも戦おうとしている。……僕が、命に代えても貴女を守ってみせる)


 彼のその想いは、魔力となって剣に宿り、激しいスパークを散らした。

 それは単なる武器ではない。愛する者を守るための、祈りの刃となっていた。


    ◇


 ハーフリング領。

 美しい田園風景が広がるこの地も、今は慌ただしい喧騒に包まれていた。


「さあ、急いで! 荷物は最小限に! 必ず戻ってこられるから!」


 ロイが声を張り上げ、四天王たちが操るドラゴンに、ハーフリングの子供や老人たちを乗せていく。

 ガスピ湖周辺への大規模疎開作戦だ。巨大な竜の背に、小さなハーフリングたちがしがみついている。


 その喧騒から少し離れた場所で、タフリン王は立ち尽くしていた。

 彼が見つめる先には、丹精込めて育てた麦畑が広がっている。黄金色の穂が、風に揺れている。もうすぐ収穫の時期だった。


「……悔しいですか、タフリン王」

 ロイが歩み寄ると、タフリンは寂しげに苦笑した。


「ああ。わが子を置いていく気分だ。……奴らに踏み荒らされると思うとな」

 彼は足元の土を愛おしそうに踏みしめた。


「勝ちましょう」

 ロイは力強く言った。

「勝って、必ずここに戻ってきましょう。また一緒に、種を蒔くために」


 タフリンは顔を上げ、ロイの真っ直ぐな瞳を見た。

 そして、大きく一つ頷いた。

「そうだな。ガスピ湖の土地も良いが、やはり故郷の土が一番だ」


 王は未練を断ち切るように背を向けた。

「……よし、行くぞロイ王子! 最後の別れじゃない、少しの留守番だ!」


    ◇


 帝国軍格納庫。


 『アルゴス』級の船体に、対空機関砲を取り付ける作業が行われていた。

 担当するのは、ガイアス王と、生き残ったガイアスの技術兵たち。

 彼らの作業スピードは異常だった。


「あそこの配線、直結しろ! 安全装置などいらん! 弾が出ればいい!」

「出力、限界まで上げろ! 砲身が焼き付いても構わん!」


 ガイアス王自らがスパナを握り、油にまみれて作業にあたっている。

 彼らの目には、暗い炎が燃えていた。


 目の前で機械の怪物に引き裂かれた赤子。踏み潰された老人。燃え落ちる近代都市。

 あの日見た地獄が、彼らを突き動かしていた。


「一体でも多く……一匹残らず叩き落としてやる……!」


 王の手が震えるほどにボルトを締め上げる。

 憎悪と悲しみを鋼鉄の翼へと変え、彼らは復讐の牙を研ぎ澄ませていた。


    ◇


 水の都、白亜の巨塔。

 修復された最上階テラスには、冷たい風が吹き抜けていた。


 設置された新型魔導砲の照準調整を行う兵士たちを激励した後、覇王アンドレアは一人、手すりに寄りかかり、西の彼方を見つめていた。


 水平線の向こう、沈みゆく夕日が海を赤く染めている。そのさらに向こうから、絶望の軍勢が迫っている。


「……エレノア」

 アンドレアは、かつてこの塔で平和を祈っていた妹の名を呼んだ。


「お前がここにいれば、どうしただろうな。言葉を持たぬ機械の悪魔にも、対話を試みただろうか」


 返事はない。ただ風が吹くだけだ。


 アンドレアは、腰の大剣に手をかけた。

「俺は王だ。守るためには、鬼にも修羅にもなる」


 彼は目を閉じ、そしてカッと見開いた。

「だが……国民を守るために、どうか力を貸してくれ。俺たちの『愛した世界』を守るために」


 覇王の瞳が、決意に研ぎ澄まされる。

「来るなら来い、鉄屑ども。ここが貴様らの墓場だ」


 人類の存亡をかけた、最後にして最大の戦い。

 その開始を告げる銅鑼(ドラ)が鳴るまで、あとわずか。

【次回の予告】

 「ついに始まった『銀色の悪夢』。新兵器の輝きさえも、絶望の数には勝てないのか?」


 平和な麦畑を切り裂き、海を埋め尽くす機械生命体が上陸する。

 ゴンドラ王の咆哮と共に火を吹く「雷撃魔導砲」。

 

 圧倒的な威力で敵を蒸発させるが、銀色の波は止まらない。

 過熱する砲身、迫る刃。


 そして、指揮所に響く無慈悲なノイズ――「通信途絶」。

 第一防衛ライン崩壊。


 溢れ出した敵の矛先は、暁月の守るオウカの里へ!


 銀色の波、上陸。第一防衛ラインの崩壊。

 第41話は、明日の21時40分更新です!


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