第34話:その円卓は禁忌を解く。~死者の盾と人類の結束~
【前回までのあらすじ】
故郷を追われ、最後の砦であるアンドレア帝国へと辿り着いたマクマリスたち。
帝都では、かつて帝国と敵対していたオウカの民とも和解し、人類は種族や国境を越えて結束する。
しかし、緊急軍事会議で明かされたのは、海底に拠点を持ち無限に増殖する機械生命体の絶望的な生態だった。
残された猶予は一週間足らず。
凍りつく会議室で、覇王アンドレアだけが不敵な笑みと共に反撃の狼煙を上げるのだった。
アンドレアは地図上の防衛ラインを指し示した。
「奴らの母船を探して叩く猶予はない。だが、ある程度の個体数を減らせば、エネルギー切れか資源不足で母船に退く可能性がある。奴らはエスペル島から見て東、つまりこの大陸の西海岸から上陸する」
◇
【第一次防衛ライン:オウカ領】
「第一次防衛ラインを、ここ『オウカ』の高台に設定する」
アンドレアはヘギル、そしてタフリンを見た。
「ここに魔導砲を複数機展開し、上陸してくる敵を迎え撃つ。……タフリン王」
「は、はい」
「辛い決断だが、ハーフリング領は放棄する。奴らがタフリンの領土に上がったところを、オウカの高台から魔導砲で狙い撃ちにし、数を削ぐ」
「……分かりました。民の命には代えられません」
タフリンは唇を噛み締めながらも、力強く頷いた。丹精込めた大地が戦場になる無念を飲み込んで。
続いてアンドレアは、オウカ代表として参加していた暁月に視線を向けた。
「オウカの民たちも、ハーフリングの民らと共に東へ避難してもらうぞ」
だが、暁月は静かに、しかし断固として首を横に振った。
「いえ、私たちは里に残ります」
周囲がざわつく。
マクマリスが眉をひそめて言った。
「矜持のために里を放棄できないか? つまらんプライドなど捨てろ。次は死ぬぞ」
暁月はマクマリスを睨み返した。その瞳には、かつて復讐に燃えていた時とは違う、守る者としての強火が宿っていた。
「つまらないプライドですか……。死を恐れ、敵に背を向け、ここまで逃げてきた貴方たちに、私たちの矜持は理解できなくて当然です!」
その言葉に、ガガンが激昂してテーブルを叩いた。
「なんだと!? あんたは俺たちが命欲しさにここに逃げ込んできたと思ってるのか!」
「ガガン、やめろ!」
ロイが制止するが、ガガンは収まらない。
「誰一人、逃げられて良かったなんて安堵している奴はいねえ! 友も家族も家も! 全部失って、それでも勝つために泥水を啜って来たんだぞ!」
暁月は表情を変えずに返した。
「……私たちも、ディネルースに故郷を焼き払われた身。貴方たちの辛さは、誰よりも理解しているつもりです。だからこそ、二度と背を向けて逃げるわけにはいかないのです」
マクマリスは舌打ちしたくなった。
(こんな時に口論している場合だと思っているのか? 下等生物どもが……)
「みんな落ち着いてくれ」
覇王が低い声で割って入った。
「ここでいがみ合ってどうする。今は力を合わせなければならない時だ。……オウカの里については暁月の姫に一任する。我々の背中を守る盾となってくれ。魔王、異論はないな?」
「……好きにしろ」
マクマリスは吐き捨てた。
覇王はヘギルを見る。
「話を続ける。ヘギル。魔導砲の連射性能はどうだ?」
「ガイアスの技術を応用した最新型を設計済みだ。魔力充填済みの『カートリッジ式』にする。カートリッジを入れ替えれば、即座に次弾発射が可能だ。生産を急ぐぜ」
◇
【第二次防衛ライン:水の都跡地】
「よし、次だ。撃ち漏らした敵を迎え撃つ第二次防衛ラインは、ここ『水の都跡地』とする」
アンドレアの指が、湖の中央を指す。
「結界はなぜか消失したが、地形は使える。白亜の塔の上層階に魔導砲を設置し、奴らを塔へ誘引する。オウカの里に行く可能性もあるが、何としてでも湖に向かわせる」
彼は隻眼の将軍ガエサルを見た。
「機械ならば、雷が弱点のはずだ。奴らが湖に侵入し、水に浸かったところを、ガエサルのティアマトによる最大出力の雷ブレスで感電させ、一網打尽にする。『雷の檻』作戦といったところか」
「残った敵は、北・南・東の三方向から全軍で挟撃し、各個撃破だ」
「私たちも、挟撃には加わります」
暁月が申し出る。
「よろしく頼む」
◇
作戦の全体像が見えてきたところで、アレフドリア十五世が控えめに手を挙げた。
「話がまとまってきたところでなんだが……湖に誘って感電させるならば、そもそも上陸する前に、雷ブレスを海に放てば済む話ではないのか?」
素朴な疑問に、ヘギルが残念そうに首を振った。
「それはダメだな。爺さん、『電極面積』ってわかるか?」
アレフドリア十五世が首を傾げる。
「わからぬ。魔法には疎いものでな」
「いや……魔法の話ではないんだが……」
説明に窮するヘギルに代わり、マクマリスが助け舟を出した。
「ティアマトが雷ブレスを海の一点に放つとする。電流は周囲に広がっていくが、広がるごとに徐々に弱まっていく。大海原という広大な体積に対して、一点の雷撃では拡散しすぎて微弱電流にしかならん。それでは奴らは倒せん」
ヘギルが頷く。
「そう、それが言いたかった。海は広いからな。分かったか?」
「なるほど、範囲を限定した『湖』でなければ効果が薄いということか。……納得した。話を遮ってすまなかった」
アレフドリア十五世が謝罪すると、覇王は鷹揚に頷いた。
「いや、何か気になる点や、案があるのであれば、発言は大歓迎だ。他の者たちはどうだ? 些細なことでも、なんでもいい」
エルフの将軍サイロスが進み出る。
「我ら魔法剣士部隊は、全軍の武器に可能な限り『雷属性』を付与させます」
「私も協力するわ、サイロス」
シルフも立ち上がった。エルフたちの魔法支援があれば、通常兵器の効かない硬い装甲も貫けるはずだ。
それを聞いたヘギルが手を打った。
「だったらエルフの嬢ちゃんには、魔導砲のカートリッジに魔力を充填してもらいたい。雷属性のやつでな」
すると、スーリンディアが手を挙げた。
「であれば、我々紅葉の森のエルフもシルフと共に、やらせてもらおう」
「ああ、助かるぜ」
ヘギルがスーリンディアに目を向ける。スーリンディアも頷いた。
「上空の敵は、俺たちドラゴン部隊が引き受ける。ロイも加わってくれるな?」
覇王の問いに、ロイは力強く頷いた。
「もちろんです」
覇王はヘギルに視線を戻す。
「三隻のアルゴス級にも対空兵装を搭載しろ。ドラゴン部隊の援護を頼みたい」
「任せとけ! と言いたいところだが、俺は魔導砲の方で手いっぱいだ。ガイアス王!」
「なんだ?」
ヘギルはガイアス王に向き直った。
「アルゴスへの対空兵装の取り付けは、あんたに任せていいか? あんたの国の技術ならできるだろ」
「問題ない」
「我々、ゴンドラのドワーフにも仕事をくれんか?」
ゴンドラ王が身を乗り出す。
「なら、ロールアウトした新型魔導砲の設置を進めてもらいたい。力仕事になるぞ」
「望むところだ! 任されよ!」
役割分担が決まっていく。
「よし、四天王とロイはハーフリング領民の疎開を手伝ってやってくれ」
「かしこまりました」
カーラが指示を出す覇王に敬礼する。
◇
会議の終盤、マクマリスが静かに手を挙げた。
「……覇王。ディネルースの件もある。言いたいことはあるだろうが、今は猫の手も借りたい状況だ」
マクマリスの瞳に、冷徹な決意が宿る。
「この大陸の墓地に眠る、戦争の犠牲者たち……彼らの骸を借りるぞ。アンデッドとして蘇らせ、肉の壁とする」
場の空気が一瞬にして凍りついた。
死者の利用は、アンドレア帝国における最大のタブーの一つだ。
「あなた、正気なの!?」
カーラが声を荒げた。
「私も、それはどうかと思うわ。死者を戦わせるなんて……」
シルフも同調し、ロイも眉をひそめた。
「僕も、二人の意見に賛成です。それは人の道に反します」
三人を制したのは、意外にもアレフドリア十五世だった。
「ロイよ。エスペル島の民が脱出できたのは、魔王殿がアンデッドを使って敵の進軍を抑えてくれていたからだということを、忘れるでない」
ロイは言葉に詰まった。
「それは……」
「魔王殿は命の恩人だ。あの時、泥を被って我々を生かしてくれたのは誰だ?」
マクマリスは、ロイたちを見回して言った。
「アレフドリア王、助力に感謝するが、死霊術を強制するつもりはない。貴様らが決めろ。……ただ、エスペル島の戦いでアンデッドのストックは全て使い切った。何があっても、肉の壁で貴様らを守ることはできんぞ」
アンドレアは腕を組み、深く思案した後、重く頷いた。
「死霊術か。……大陸戦争の引き金になった力に頼らざるを得ないとはな」
覇王は、かつてアンデッドを嫌悪して戦争を始めた過去を噛み締めるように言った。
「……私の権限で許可しよう。死してなお故郷を守る盾となるなら、彼らも本望だろう。……いいな? ロイ、カーラ、シルフ」
覇王の覚悟に、反対していた三人も押し黙る。
「……覇王様がおっしゃるなら」
カーラが折れ、ロイとシルフも静かに頷いた。
マクマリスは短く頷いた。
「では、心置きなく使わせてもらう」
こうして、生者も死者も総動員した、人類総力戦の骨子が定まった。
【次回の予告】
「復讐の連鎖、ここに終結。そして人類は一つになる。」
誤解と憎しみで曇っていた過去が、真実の光で晴らされていく。
オウカの悲劇の真犯人、そしてその最期を語るマクマリス。
復讐の虚しさを知る魔王が、これから戦う若者たちへ贈った重みある「助言」とは?
そして、覇王アンドレアの演説が大陸全土に轟く。
昨日の敵は、今日の友。
種族の壁を越え、最強の「人類軍」がここに誕生する!
復讐の彼方へ。結成、人類連合軍。
第35話は、明日の21時40分更新です!
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