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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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番外編ショートストーリー:温もりが灯る魔法のスープ

 本日は33話を公開予定でしたが、予定を変更して……


 絶望的な撤退戦の直後だからこそ、ふとした日常の温かさが沁みる……そんなショートストーリーをご用意しました。


 故郷を追われ、不安に震える避難民たち。


 狭い船内での、魔王マクマリスの不器用な「優しさ(合理性)」を描いたエピソードをお楽しみください。

 エスペル島を脱出した飛行戦艦『アルゴス』の貨物室。

 そこには、着の身着のままで逃げ出した何百人もの避難民がひしめき合っていた。


 エンジンの重低音だけが響く薄暗い船内。大人たちは疲労で泥のように眠り、子供たちは故郷が燃える光景を思い出しては、声を殺して泣いていた。


「……腹、減ったなぁ」

 隅の方で、ドワーフのガガンが呟いた。


 彼の手には、ドワーフ軍の非常食である「黒パン」が握られている。保存性を高めるために極限まで乾燥させてあり、その硬さは石ブロックに匹敵する。


「おい、坊主。お前も食うか?」

 ガガンは隣で膝を抱えていた人間の少年に、黒パンを差し出した。

 少年は涙目で首を振る。


「……硬くて、噛めないよぉ」

「なんだと? ドワーフの歯ならバリボリいけるんだがな」

 ガガンは困ったように頭をかいた。


「シルフ、お前なんか持ってねえか?」

「矢と薬草しかないわよ。……それに、火も水も貴重だから、料理なんてできないわ」


 エルフのシルフも、疲れ切った顔で壁にもたれかかっていた。

 寒さと空腹、そして絶望。船内の空気は重く沈んでいた。

 その時、コツ、コツと硬質な足音が響いた。


 見回りに来たマクマリスだった。彼は避難民たちの悲壮な顔を見ても、眉一つ動かさない。


「……騒々しいな」

 マクマリスは、ガガンの前で足を止めた。


「泣き声と腹の虫の音がうるさくて、航行データの解析に集中できん」

「なんだと! みんな不安なんだよ! 魔王様にはこの気持ちは分からねえだろうがな!」


 ガガンが噛み付くが、マクマリスは無視して、ガガンの手にある「石のような黒パン」を取り上げた。

「貸せ」

「あ? おい、何する気だ」


 マクマリスは眼鏡の位置を直すと、(てのひら)に魔力を集中させた。

「物質構成の解析完了。……水分量含有率、極小。これでは消化効率が悪すぎる」


 彼が指を鳴らすと、空中に小さな魔法陣が展開された。

 それは攻撃魔法でも防御魔法でもない。生活魔法の応用――『分子振動加熱』と『加水分解』。

 空気中の水分を集め、パンを粉砕(ふんさい)し、熱を加える。


 ボゥッ……。


 一瞬で黒パンが崩れ、宙に浮いた水球の中で混ざり合い、湯気を立て始めた。

 あたりに、香ばしい麦の香りが漂う。


「……容器を出せ」

 マクマリスの言葉に、呆気に取られていたシルフが慌てて近くにあったカップを差し出す。


 注がれたのは、石のように硬かったパンがトロトロに煮込まれた、温かいポタージュスープだった。


「食え。……そして黙れ」

 マクマリスはカップを少年に押し付けた。


 少年は恐る恐る口をつける。

「……っ! 温かい……!」

 少年の顔に、久しぶりに生気が戻る。

「おいしい! お兄ちゃん、これおいしいよ!」


 その声を聞いて、周りの子供たちも顔を上げた。

「いいなぁ……」

「僕も……」


 マクマリスは露骨に嫌な顔をした。

「チッ……面倒な」


 彼はガガンの袋から残りの黒パンを全て奪い取ると、巨大な水球を作り出し、まとめてスープに変えてしまった。


「配給だ! 並べ! 一人一杯、効率的に摂取しろ!」


 マクマリスの号令に、沈んでいた船内がわっと活気づく。

 子供たちにスープが行き渡り、すする音が響く。その温かさは、凍えていた彼らの心まで溶かしていくようだった。


「……へっ、やるじゃねえか、魔王様」

 ガガンがニヤリと笑い、自分もスープをすする。


「素直に『(はげ)ましたかった』って言えばいいのに」

 ロイが苦笑しながら言うと、マクマリスは冷徹に鼻を鳴らした。


「勘違いするな。栄養不足による免疫力低下で、疫病でも流行られたら迷惑なだけだ。これはリスク管理の一環だ」

 そう言い捨てて、マクマリスは早足で操舵室(そうだしつ)へと戻っていった。


 その背中を見送りながら、シルフがふわりと微笑んだ。

「……リスク管理ね。おかげで、あの子たち、久しぶりに笑ったわ」


 貨物室の窓の外には、暗い夜の海が広がっている。

 だが、船の中には小さな温もりが灯っていた。


 魔王が作った「リスク管理」という名のスープが、明日への活力を繋いでいた。

 いかがでしたでしょうか?


 マクマリスは人助けをしたかったわけではなく、あくまで合理的(うるさいから黙らせたい、病気は困る)に行動した結果、思いがけず人助けをしてしまうという構成です。


 硬いパンが温かいスープに変わる描写に、「安らぎ」を感じていただけていれば幸いです。


 明日は本編再開です!


【次回の予告】

 「箱舟は着いた。だが、安息はない。」


 黒煙を上げながら帝都に滑り込む戦艦アルゴス。

 故郷を追われた人々を迎えたのは、かつて復讐に燃えていた女・暁月だった。


 マクマリスがもたらした「ある報告」が、彼女の呪縛を解き放つ。


 そして開かれる緊急軍事会議。

 明かされる機械生命体の正体と、海底の無限生産工場という絶望的な推測。


 残された猶予はあと一週間。

 凍りつく会議室で、覇王アンドレアだけが不敵な笑みを浮かべていた。


 帝都着陸。復讐の終わりと、開戦の狼煙。

 第33話は、明日の21時40分更新です!


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