第27話:その魔王は手を結ぶ。~未来への投資と消えない結界~
【前回までのあらすじ】
長き旅を終え、英雄として故郷エスペル島へ凱旋したロイたち。
彼らが持ち帰った大陸の技術と結束の物語は、島の指導者たちを動かし、迫りくる「宇宙からの捕食者」への対抗策――島全体を覆う巨大防壁計画――を始動させる。
一方でマクマリスは、密偵を通じてネクロゴンドから「反魂の術」と「ゴーレムの核」を極秘裏に入手していた。
そして今、防壁建設に必要な資源と協力を求め、マクマリスやガイアス王を含む連合使節団は、再び覇王アンドレアの待つ大陸へと向かう。
エスペル島の要人で構成された連合使節団を乗せた『アルゴス』が、帝都アンドレアの仮設空港に静かに着陸した。
タラップから降り立ったのは、魔王マクマリス、ガイアス王、そして各国の指導者たち。
出迎えたのは、覇王アンドレアと四天王、そして一足先にシャヴォンヌと共に到着していたロイだった。
「ようこそ、エスペル島の王たちよ。そして、初めましてだな、魔王マクマリス」
「お初にお目にかかる、覇王アンドレア」
かつて敵対していた種族の長同士が、固い握手を交わした。
マクマリスは単刀直入に切り出した。
「我々は、貴国の復興にあらゆる支援を惜しまない。食料、人員、魔法技術。……その代わり、大陸の資源と、ドワーフやエルフの持つ技術を共有していただきたい」
「快諾しよう」
アンドレアは即答した。
「世界を守るためだ。それに、貴殿には感謝している。ロイという素晴らしい男を、この大陸に派遣してくれたことにな」
マクマリスは、傍らに控えるロイを一瞥し、肩をすくめた。
「感謝する相手が違うな、覇王。彼をこの大陸に寄越したのは私の合理的な判断だが、彼が貴殿のために命を賭けたのは、彼自身の意志だ。礼なら、そこの若造に言うがいい」
その言葉に、ロイは照れ臭そうに頭をかいた。
◇
次なる視察先は、ドワーフ鉄鋼共和国。
ヘギル自慢の自動化工場を目の当たりにしたガイアス王は、興奮を隠せなかった。
「素晴らしい……! 我が国の魔導技術と、貴国の生産ラインを組み合わせれば、とてつもないものが作れるぞ!」
「へっ、話が早くて助かるぜ。ウチとしても、ガイアスの精密加工技術は喉から手が出るほど欲しい」
ヘギルとガイアス王の間で、即座に技術提携が結ばれた。
一行が帰路につく際、工場のロビーに飾られている「鉄塊」に目が止まった。
飴細工のようにひしゃげ、焼け焦げた巨大な砲身。
「これは……話に聞く、アルゴスを一撃で沈めた魔導砲の試作品か?」
ガイアス王が尋ねると、ヘギルは葉巻を燻らせながら頷いた。
「ああ。俺がディネルースに踊らされ、あわやロイたちを殺しかけたっていう、忌まわしい過去の象徴だ。戒めのために飾ってある」
それをじっと見つめていたマクマリスが、ふいに口を開いた。
「ヘギル殿。私は現在、島全体を覆う巨大な『魔導防壁』を建設中だ」
「ほう、そいつはデカい事業だな」
「だが、守るだけでは足りん。……この魔導砲を複数機、その防壁に取り付けることは可能か? 迎撃システムとして」
ヘギルは金歯を見せてニヤリと笑った。
「この魔導砲は白亜の巨塔用に作ったものだ。だから他では使えない。だがな、金さえ弾んでくれりゃあ、いくらでも考えてやるよ。今度は味方を撃つためじゃなく、空からの客人を歓迎するためにな」
◇
続いて一行は、廃墟と化した水の都を訪れた。
湖面から突き出た白亜の巨塔の上層部は崩壊していたが、その周囲には未だに揺らめく光の壁――絶対防御の結界が張り巡らされていた。
魔族が盗んだ「紋章」がなければ、今もなお侵入は不可能だった。
「クリアの長老よ」
マクマリスは同行していたエルフの長老に尋ねた。
「この結界術、古代エルフの叡智と聞く。これを我々の島の防壁に応用することは可能か?」
長老は結界に手をかざし、眉をひそめた。
「……見事な術式じゃ。ワシも結界を張ったことはあるが、ここまで高度で、強固なものは初めて見る。国一つを守る規模ならまだしも、島全体を覆うとなると……今の我々の技術では不可能じゃろうな」
長老は、さらに不審な点を指摘した。
「それに、解せぬ。通常、術者が死ねば魔力の供給が絶たれ、結界は消滅するはず。ディネルースもララノアも死んだというのに、なぜこの結界は生きているんじゃ?」
「……術者の怨念か、それとも……」
マクマリスは、湖の底を見つめた。そこには何か、理屈では説明できない力が働いているようだった。
◇
水の都を後にした使節団一行は、南下してオウカの地を訪れていた。
先の大戦において、アンドレア帝国軍と源流率いるサムライたちが激戦を繰り広げた因縁の場所である。
しかし、居住区での戦闘を双方が避けたためか、里の風景に戦禍の爪痕は驚くほど少なかった。サムライの姿こそ見かけないが、復興へ向かう里民たちの活気は、ここが死地であったことを忘れさせるほどだ。
一行を案内するのは、現在オウカに駐留しているアンドレア軍の将軍だった。
「ほう……話には聞いておったが、圧巻の桜吹雪じゃな」
アレフドリア王が、空を覆うピンク色の天井を見上げて嘆声を漏らす。
「本当だな。ガイアスにも桜を植えられるか、帰ったら研究所に検討させてみるか」
ガイアス王もまた、舞い散る花弁を掌で受け止め、珍しそうに眺めている。
「ガイアス王国には行ったことはありませんが……恐らく植えるのは無理かと存じます」
将軍が申し訳無さそうに首を振った。
「それは何でだ?」
「オウカの地には微弱ながら特殊な魔力が満ちておりまして、それが桜の木々を活性化させているのだとか。この広い大陸でも、一年中桜を楽しめるのはこのオウカだけです」
魔術的な土壌か。マクマリスは興味なさげに説明を聞き流していたが、ふと、風に乗って「何か」が聞こえた気がした。
耳ではなく、脳の奥を直接叩くような、微かな波長。
(……私を呼んでいるのか?)
マクマリスは談笑する王たちの輪を離れ、一人、声のする方向へと足を向けた。
▼活動報告にて、水の都の消えない結界に関するマクマリスの考察レポートを掲載しました。
ぜひご覧ください。考察レポートはこちらから。
https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3575844/
【次回の予告】
「死者が語る真実。そして魔王は、禁断の扉を開く。」
オウカの丘で、マクマリスが出会った「声」の正体。
それは短刀に宿った藤堂の想いであり、復讐に燃える暁月の姫君たちを止めるためのSOSでした。
マクマリスが語った「残酷な真実」は、サムライたちの怒りを鎮め、源流の魂を本当の意味で救済へと導きます。
しかし、美しい救済の物語で終わらないのが魔王マクマリス。
その夜、彼が向かったのは華やかな宴ではなく、冷たい墓地。
天才死霊術師アルフィリオンの死体を前に、彼が唱えた禁断の呪文とは?
桜の下の真実。闇夜に蘇る頭脳。
第28話は、明日の21時40分更新です!
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