第23話:その覇王は宣言する。~戦禍のあとの誓い~
【前回までのあらすじ】
覇王アンドレアは、情報漏洩を逆手に取った起死回生の「三方面同時奇襲」を敢行する。
ネクロゴンドではロイがアルフィリオンを討ち、アンデッド軍団を沈黙させた。
オウカではアンドレアが源流との死闘を制し、水の都では四天王の結束がディネルースと水竜レヴィアタンを湖底へと葬った。
完璧なカウンターにより、三つの戦場すべてで帝国が完全勝利。長きにわたる大陸戦争は、ついに決着の時を迎えた。
水の都の崩壊、ネクロゴンドの壊滅、そしてオウカの陥落。
三つの拠点が同時に落ち、ディネルース議長をはじめとする連邦幹部が全滅したという悲報は、瞬く間にエレノア共和国連邦全土へと駆け巡った。
指導者を失い、勝ち目がないと悟った連邦兵たちの戦意は、氷が溶けるように消失していった。
各地で白旗が上がり、兵士たちは武器を置く。
長きに渡った、血で血を洗う大陸戦争。
その歴史的な一幕は、覇王アンドレアによる大陸統一という形で幕を下ろした。
◇
終戦から間もなく、覇王アンドレアは魔導通信網を使い、大陸中の国民に向けて演説を行った。
「戦いは終わった。多くの血が流れた。多くの命が失われた。連邦も帝国もない。我々は皆、この戦争の被害者だ。だが、今日この瞬間から、我々は『隣人』だ。憎しみの連鎖は断ち切る。今日より、我々は一つの民である」
覇王の声は力強く、しかしどこか安堵に満ちていた。彼は連邦と帝国の垣根を取り払い、共に復興へ歩み出すことを宣言した。
だが、その演説の中で、ロイたちがもたらした「宇宙より飛来する真の脅威」について触れることはなかった。
(今はまだ、その時ではない)
アンドレアは演説台の上で、心の中で呟いた。
荒廃した国土、傷ついた人々。目の前には復興という巨大な課題が山積している。この状況で、未知の恐怖を公表し、国民の不安を徒に煽るべきではないと判断したのだ。
今はただ、訪れた平和の安らぎを人々に与えることこそが、王の務めであると。
「今、この大陸に必要なのは、復興だ。畑を耕し、家を建て、家族と笑い合う日常を取り戻すことだ。共に力を合わせ、この平和の礎を固めようぞ!」
その演説は、力による支配を恐れていた旧連邦の民衆の心を、強く打った。
◇
その夜、帝都アンドレア城では、盛大な祝勝の宴が催された。
「ガハハ! 飲め、金歯のボス! お前の斧のおかげで、アンデッドどもをミンチにできたぜ! 俺たちの勝ちだ!」
「まったく、商売上がったりだが、命あっての物種だ」
ガガンとヘギルは、肩を組んで祝杯を交わしていた。同じドワーフとして互いの仕事を認め合うことで、二人の間に奇妙な友情を生んでいた。
「シルフ殿、あの一射、見事だったと聞いていますよ」
「貴方の魔法剣の教えがあったからよ、サイロス」
エルフのシルフとサイロスもまた、グラスを合わせ、戦場での活躍を讃え合いながら美酒に酔いしれていた。
そんな喧騒の中、ロイは懐かしい人物の姿を見つけた。
「タフリン王!」
「おお、ロイ王子。無事で何よりだ」
再会したハーフリングの王は、包帯だらけの痛々しい姿だった。
「その怪我……。争いが苦手だと言っていたのに、最前線で戦ってくれたんですね」
ロイが頭を下げると、タフリンは照れ臭そうに笑った。
「苦手だが、守るべきもののためなら鍬を剣に持ち替えるさ。……それにしてもロイ王子、少し見ない間に、随分と逞しい顔つきになられた」
タフリンの言葉に、ロイは自身の成長を実感し、胸を熱くした。
一方、宴の主役であるはずの覇王アンドレアは玉座に座らず、大広間を隅なく歩き回り、四天王や将校たちだけでなく、末端の兵士一人ひとりの肩を叩き、その労をねぎらうと、会場から姿を消した。
彼は煌びやかなホールを抜け出し、城下の中央病院へと足を運んでいたのだ。
「痛みはどうだ? もう少しの辛抱だぞ」
「あ、アンドレア様……!」
宴に参加できない重傷の兵士たち一人ひとりの手を取り、声をかけて回る覇王。名もなき末端の兵士にこそ、最大の感謝と労いを。それが覇王アンドレアの流儀だった。
「貴様の槍、見事だったぞ」
「家族は無事か? 報奨金が出たら、真っ先に顔を見せてやれ」
オークの兵士も、人間の兵士も、王直々の言葉に感涙にむせんでいた。
実力主義の帝国。その頂点に立つ王が、誰よりも兵士の痛みを知り、誰よりも彼らを愛している。
これぞ「王としての資質」。
◇
決戦から数日後。
アンドレアは、城の裏手にある静かな丘に立っていた。そこには、かつて平和を夢見た妹、エレノアの墓標がある。
「……終わったぞ、エレノア。お前の作った連邦は無くなったが、その魂は新しい時代に引き継がれる」
そこへ、カーラに案内されたロイが静かに歩み寄ってきた。
「……彼女が、エレノア様ですね」
「ああ」
ロイは墓前に膝をつき、シャヴォンヌの元・契約者である女性に、深々と頭を下げた。
「初めまして。貴女の愛したシャヴォンヌは、僕に力を貸してくれました。……誓います。この力は、決して私利私欲のためには使いません。貴女が望んだ平和と、正しい行いのためだけに使います」
その言葉を聞いたアンドレアは、満足げに頷いた。
「ロイ。大陸の復興には時間がかかるだろう。だが、それが終われば……」
アンドレアはロイに向き直り、力強い眼差しを向けた。
「必ず、我々帝国全軍がお前の元へ駆けつける。宇宙からの客人を、盛大に出迎えてやろう」
「はい。信じて待っています、アンドレア王」
二人の英雄は、固い握手を交わした。それは、国境も種族も越えた、未来への共闘の誓いだった。
◇
ネクロゴンドの地下大聖堂跡地。
ロイたちが帰還の準備を進めている裏で、崩落した瓦礫の下を二つの影が動いていた。
マクマリスの配下、魔族の密偵たちである。
「……ありました。これです」
一人が、焼け焦げた石板の破片を拾い上げる。そこには、アルフィリオンが門外不出としていた「反魂の術」の基礎理論が刻まれていた。
「こっちにはアビス・ゴーレムのコアの欠片がありますよ」
「これらを持ち帰れば、マクマリス様は必ずやお喜びになる」
「ええ。我らが魔王軍の技術力向上に役立つはずです」
「しかし、アルフィリオンは死んだ。惜しい才能を亡くしましたね」
「構いません。才能など、また『作れば』いいのですから」
二人は満足げに戦利品を懐にしまうと、ロイたちが待つ『アルゴス』へ戻るべく、闇に紛れてその場を後にした。
「急ぎましょう。出航に遅れれば、置いていかれますからね」
こうして、それぞれの想いと、密かな「お土産」を抱え、十三人の英雄たちは再び一つとなり、故郷のエスペル島への帰路につくのだった。
【次回の予告】
「死人は裏切らない。……これこそが、私の覇道の始まりだ」
大陸が平和の鐘に包まれる裏で、魔王マクマリスは一人、三百年前の記憶の扉を開きます。
そこは、暴力と恐怖が支配する「先代魔王ガングダード」の時代。
絶対的な力を持つ暴君が、なぜ人間ごときに敗れたのか?
「陰気な異端者」と蔑まれていた若き日のマクマリスが、瀕死の暴君から聞き出した「敗北の真実」。
それは皮肉にも、現在のマクマリスが執拗にこだわる「結束」の力の原点でした。
血の海と化した魔界で、冷徹な計算と共に産声を上げた「知将」の誕生秘話。
全ての戦略のルーツが、今明かされます!
魔王の起源。暴君ガングダードの咆哮。
第24話は、明日の21時40分更新です!
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