第22話:その覇王は裏を画く。~崩れた「完璧な作戦」~
【前回までのあらすじ】
物語は現代の決戦へと戻る。
帝国四天王は、連邦の心臓部「白亜の巨塔」を急襲。崩壊する塔の中から現れたのは、あらゆる攻撃を無効化する伝説の水竜レヴィアタンと、女王ディネルースだった。
絶望的な「個」の力に対し、四天王は種族を超えた「結束」で対抗。ザルティムの看破と全員の一点突破攻撃により、ついに無敵の女王を湖の底へと沈めたのだった。
決戦の数日前、アンドレア城の作戦室。
覇王アンドレアは、玉座に集めた者たち――ロイ、四天王、そして裏切り者のヘギル――を見据えていた。
「朗報だ」
アンドレアは、ハーフリングのタフリン王から届いたばかりの密書を掲げた。
「我が盟友タフリンが、ワーウルフの領土の北東に、アルフィリオンのアンデッドらが潜伏し始めているのを発見した」
「……!」
その場にいた全員が息を呑んだ。
それは、ディネルースがオウカに誘い込んだアンドレア本隊の背後を突くための、決定的な「罠」だった。
「つまり」
アンドレアはニヤリと笑った。
「我々の最初の作戦――『オウカへの主力進軍』は、源流の拷問によって筒抜けだったわけだ」
ヘギルが冷や汗を流す。
「で、では、作戦を変更しなければ……」
「変更? なぜだ?」
覇王は心底愉快そうに言った。
「敵が『こちらの作戦を知っている』と確信していることこそが、我々の最大の勝機だ。……ディネルースが『勝利を確信した盤面』で踊る我らを、根底から覆してやる」
アンドレアは地図を広げ、駒を置き直した。
「これが、本当の作戦だ」
覇王が語る真の作戦。それは、ディネルースに「計画通り」と思わせるための三つの同時奇襲だった。
「ロイ、貴様とシャヴォンヌ、ガガン、シルフたちは、囮部隊には加わらん」
アンドレアは、ヘギルの国「ドワーフ鉄鋼共和国」を指した。
「ヘギル、貴様の領土は今やフリーパスだ。ロイたちはそこを低空で抜け、最短距離でネクロゴンドを奇襲。アルフィリオンの首を取れ。あれは挟撃部隊の『頭脳』だ。頭脳を潰せば、手足は腐る」
「俺の本隊は、予定通りオウカへ進軍する。源流とアンデッド第一軍団、そして潜伏した第二軍団の挟撃……上等だ。すべて受け止めてやる」
彼はタフリン王の領土を叩いた。
「タフリンには伝えてある。アルフィリオンが死に、第一軍団が停止した瞬間、彼らが背後から襲いかかる。源流が『挟撃した』と思った瞬間、彼が『挟撃される』のだ」
「そして、お前たち四天王」
アンドレアは水の都を指す。
「ヘギルが操縦する『アルゴス』が、予定通り魔導砲の初弾を受ける。その一瞬、都の全魔力が防御と反撃に集中する。……その一瞬こそが好機だ」
アンドレアは魔族が盗んだ「紋章」をテーブルに置いた。
「鉄鋼共和国から結界を抜け、塔に巣食う本体……ディネルースを叩け」
「「「「御意!」」」」
三つの刃が、ディネルースの心臓へと同時に突き立てられる。
決戦の火蓋は、こうして切られた。
◇
ネクロゴンド上空。
ヘギルが操る『アルゴス』が魔導砲の閃光に包まれた、まさにその瞬間。
ロイとシャヴォンヌ、そして仲間たちを乗せた一行は、ドワーフ鉄鋼共和国の煤煙に紛れてネクロゴンドの空域に侵入していた。
「あいつ、派手にやってるな!」
ガガンが遠くの閃光を見て言う。
「ヘギルが注意を引きつけてくれている間に、アルフィリオンの息の根を止める!」
シャヴォンヌの浄化のブレスが、工房の天井を吹き飛ばす。
眼下には、勝利を確信して追加のアンデッドを製造していたアルフィリオンの、驚愕に歪んだ顔があった。
「なぜだ!? なぜお前たちがここに!」
「アルフィリオン! お前の悪行もここまでだ!」
ガガンの衝撃波がゴーレムを砕き、シルフの炎の矢が核を射抜き、そしてシャヴォンヌと一体化したロイの剣が、ダークエルフの長を光の中へと両断した。
ロイは工房の魔力炉心を破壊し、大陸全土に散らばるアンデッドへの魔力供給が、完全に停止した。
◇
オウカの戦場。
「突撃ィ!」
アンドレアは、ディネルースに読まれていると知りながら、敢えてオウカの国境を突破した。
源流のサムライ部隊と、アンデッド第一軍団が、完璧な布陣でそれを迎え撃つ。
(そろそろか……)
アンドレアがそう思った時、ワーウルフ領方面に潜んでいたはずの第二軍団が動く気配がした。
だが、その直後。
源流の眼前で、そして第二軍団の潜伏地で、全てのアンデッドが「同時に」崩れ落ちた。
「なっ……!?」
源流が、生涯で初めて見せた動揺。
アンドレアはその隙を見逃さなかった。
「今だ! 全軍、押し返せ! タフリン王の部隊も、側面から突撃!」
緑の義勇軍が、崩壊したアンデッドの残骸を踏み越え、混乱するサムライ部隊の側面に襲いかかった。
勝敗は、決した。
漆黒のドラゴン、バハムートがオウカの本陣の丘に舞い降りる。
「見事な戦いぶりだった、サムライの長よ」
覇王アンドレアは、竜上から、ただ一人丘に残った源流を見下ろした。
二人の王の壮絶な決闘が始まり、一輪の桜が散った。
「……収容所の兵士たちを解放せよ!」
◇
水の都上空。
『アルゴス』が魔導砲に耐え、獣人部隊と乱戦を演じている頃。
四天王は、その影に隠れ、結界の死角へと到達していた。
「これより、王の敵を討滅する」
ガエサルが「紋章」を結界にかざす。
水面が揺らぎ、絶対防御の壁が、あっけなく四天王のために道を開けた。
「突入!」
カーラのワイバーンを先頭に、四頭の竜が螺旋を描きながら白亜の塔を駆け上がる。
「塔の最上階を包囲する! 奴らの指揮系統は全てそこにある!」
ガエサルが号令をかける。
ウルスヌスのリントヴルム、ザルティムのブリトラ、ガエサルのティアマト、カーラのワイバーンが、塔の最上階――展覧の間と管制室がある区画――を四方から完璧に包囲する。
「ディネルースもララノアも、まとめて吹き飛ばす! 全竜、最大出力のブレスだ! ……放て!!」
炎、毒、雷、風。
四つの属性が塔の中心でぶつかり、無敵を誇った白亜の巨塔は、内部から凄まじい爆発を起こした。
崩れ落ちる塔。
「まだよ! 下を見て!」
カーラの警告と同時に、湖から姿を現す超巨大な水竜、レヴィアタン。
「……まさか……ディネルース、お前もドラゴンライダーだったとは!」
ガエサルが戦慄しつつも全竜に号令をかける。
「我ら四天王の結束の前に、沈め!」
◇
三つの戦場は、ほぼ同時に終結した。
ディネルースが作り上げた「完璧な作戦」は、情報が漏れたことを利用したアンドレアの「完璧なカウンター」によって、粉々に打ち砕かれた。
オウカの丘に降り立ったアンドレアの元へ、シャヴォンヌに乗ったロイと、四天王が帰還する。
「覇王、ネクロゴンド、制圧しました」
「水の都、陥落。ディネルースはレヴィアタンと共に湖の底です」
「……そうか」
アンドレアは、血と泥に汚れた大陸を見渡し、静かに告げた。
「……長かった戦争は、終わった」
だが、ロイは空を見上げていた。
マクマリスが語った、本当の脅威。
「いいえ、覇王。戦いは、まだ終わっていません」
「ふん。分かっているさ。……祝勝会は、その『宇宙からの客』を追い返した後に、盛大にやるとしよう。……と言いたいところだが、今回だけは許せ。あいつらを存分に労ってやらないとな」
大陸の統一は、世界の終わりを阻止するための、第一歩に過ぎなかった。
【次回の予告】
「戦火は消えた。だが、魔王の『収穫』は静かに終わっていた。」
三つの戦場での完全勝利により、ついに大陸戦争は終結。
覇王アンドレアは国境を取り払った「真の統一」を宣言し、敵味方の垣根を超えて、傷ついた兵士たちと勝利の美酒を酌み交わします。
亡きエレノアの墓前で交わされる、ロイと覇王の新たな誓い。
感動の大団円……と思いきや、その裏ではマクマリスの密偵たちが、瓦礫の下から「禁断の技術(反魂の術)」を回収していました。
英雄たちが島へ帰還する時、その荷物には世界の命運を左右する、あまりにも危険な「お土産」が紛れ込んでいたのです。
凱旋。平和の裏で蠢く影。
第23話は、明日の21時40分更新です!
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